拝啓 アオキ カツシ 様

 晴れて定年を迎えられ、艱難辛苦を乗り越えて無事 退職されましたことを心からお祝い申し上げます。 思えば、30年以上のお付き合いでありました。 あなた様もこの私も、若く意気揚々と血気盛んでありました。

 お客さんとして いつも婆娑羅の酒と料理をおいしそうにニコニコしながら楽しんでくれました。 生意気、無礼者を絵に描いたような若輩の店主野郎に、あたたかいエールを送っていただきました。 なればこそ、酒場稼業を続けることができました。 アオキさんは会社の先鋒として中国に渡り、現地に生産工場をつくり大活躍されました。 その口にできない程の労苦を抱えながらも、帰国されるといの一番に婆娑羅に来てくれました。 「ホタルイカある!」この開口一番の笑顔が俺は大好きです。 きっとホタルイカはアオキさんの心の中で 日本への、望郷の象徴なのでしょう。 「ホタルイカある!」真冬に帰る時も、真夏に帰る時も、その言葉は我々の共通シグナルでした。

 そして 先月の末日、たくさんの花束を抱えて、「ホタルイカある!」と言って、店に帰ってきてくれました。 退職のお祝いの席から そのまま直行でした。 しかもその後ろには奥様まで伴っていました。

 思えば あなた様から沢山のことを学び、教えられました。 ことに、忍ぶということ、耐えるということ、協調ということ、そして優しさということ。 教えられ学びましたが、どれも自分のものになっていないことは重々承知しております。 これからの私の人生の教訓として 実践できればなあと思っております。

 そして、アオキさんの第二の人生が益々充実した豊かで輝けるものであることを祈念しております。 草々


<追記>
 俺なんぞ人間が弱くできているから、粋がったり、突っ張りがったり、どうにも不安定しきりだけど、人間は血筋と性分という、避けて通れぬ性を背負っている。
 いい奴もいりゃぁ 悪い奴もいる。
 実に不公平なのだ。

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