イージー・ライダーがやって来た

 Internetは世界を縮めた。 いや、時間と空間という本来あるべき世界の有様をぶっとばしてしまった。 謎や秘密、容易に行くことができない憧れの辺境も、そこにある世界として認識できるようになってしまった。 
 行かなくても行った気になれる。 行くとなれば そこには沢山の情報が用意されているから、思いがけない出来事に「未知なる遭遇」感動がうすい。

 Internetは遠く離れた、まったく縁もゆかりもない客を呼ぶ。 フィンランドのトランペット奏者も来た。 フランス人の技術者も来た。 九州のビジネスマンも来た。 そして娘が三鷹に学生生活の居を構えたという福島 浜通りのお父さんも来た。
 その方々は一応に婆娑羅という店の有様を心得ていた。 通いなれたる贔屓の店、てなもんだ。

 いにしえ、俺達は街を徘徊する。 その店と目星をつけても、店の前を何回も行ったり来たりする。 そして深呼吸で心をととのえる。 ようやくの体で決断をする。 店に入ると、借りてきた猫のようにじっと目をこらして、あたりを見まわす。 店側と俺との静かなる格闘がはじまるのだ。 酒をたのむ。 緊張で盃を持つ手がふるえる。 さとられないように、無難な料理を注文する。 やがて、一合徳利が空になったころ、「ああ、この店を選んで俺は正しい選択をしたな。」ということになる。
 緊張から解放され、安堵して正しき俺の判断力を自画自賛して、酒の酔いと高揚感が混然一体となり、しこたま酔っぱらうということになる。

 先日、店の前に大型のハーレー・ダビットソンが止まった。 男女の二人乗りだ。 揃ってヘルメットにサングラス。 男はピーター・フォンダだ。 だったら女はキャサリン・ロスだろ!

 ピーターとキャサリンはヘルメットを取って愛嬌たっぷりに
 「二人 空いてますか?」ときた。
 「ここ飲み屋だけど ハーレーで来て大丈夫なの?」

 すると ピーターとキャサリンは
 「酒、飲みませんから。」と いとも簡単に、すらりとのたまわった。

 それから二人は、お茶を飲みながら飲み屋料理をバクバク喰いまくり、大満足と言って口元をふいた。

 「因みに、どちらからハーレーをぶっとばして来たんですか。」と聞いた。

 ピーターとキャサリンは口をそろえて
 「埼玉県の大宮から」と。

 恐るべき若者たち、なんら戸惑うことなくハーレーをぶっ飛ばして、飲み屋に来て、酒の料理を喰いまくり、情報のスーパーハイウェイに乗っかって、また、大宮まで帰るということなのだ。

 これが新しい人間の生き方だぜ。

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