チムニィ(えんとつ)

 年長の、大人の、分別くさい、嫌味な年寄りの、誰もが年取ると、やがては言ってしまう、
「近頃の若けぇ奴らは」「最近の若者は」という枕詞。
 それを言っちゃおしまいよ
と思うがいつの間にか口を突いて出てしまう言葉だ。

 ひるがえって、俺だってその昔は「近頃の若けぇもんは」だったのである。
 そして、その「若けぇもん」はたいがいは否定形として表現されているから、態度が悪いの、行儀がなってねぇの、言葉が乱れてるてぇ、全否定されてしまう。 
じゃあ、昔の「若けぇもん」はどうかって言うと、「昔はよかった」「昔の若けぇもんは義理人情に厚かった」「昔の若者は礼儀正しかった」などなどだ。
何をや言ってやがるである。

 そもそも昔だって、今だって、良い奴もいれば、半端野郎も同じ確率でいるのだ。 語りかけても「ハイ」「ワカリマシタ」としか言えない若者もいれば、語ろうとする際から、ガンガンに響いてくる奴もいる。
今は昔ではない。 唯々、個人の問題なのだ。

 俺が全く聴かない音楽ジャンルにラップがある。 強烈なリズムに言葉をのせて喋りまくるアレである。

 「みんなぁゲンキかい!」
 「僕は花ちゃんに片想いだ」
 「この想いをつたえたい」

 なんていうような青春讃歌みてぇな、安っぽい明るさがどうにも好きになれない。 いくら巧みに早口ワザで攻撃されても聴く気にならない。 もとよりラップは黒人社会の痛烈な反抗メッセージだ。 だから反抗的情念のないラップなどいらない。

 だが、ユーテツといういまどきの若者のラップは違った。 すげぇーの一言だ。 面白ぇの何のってぇ詩情があり、暴力性があり、滑稽があり、泣きがあり、これでもか、これでもかと、叩き込むように聴かせる。 そして愉快になる。

 近頃の若けぇもんたいしたもんだぜぇ。 年よりをうならせるラップを創りだした。 ラッパーに偏見を抱いていた年よりに感動をもたらした。 ちなみにこのユーテツという若者、酒も相当にいける。 近頃の「若けぇもん」にはめずらしくアナーキーに酒を飲む。

   アルバムタイトル 「チムニィ」

 立川談志の黄金期、たて板に水を流すの如く、ユーテツのラップもまた、たて板に水を流してあばれている。

 勇気ある年寄りの方々、ぜひご試聴あれ。 

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