昨夜の客

かって財界の偉い人に土光さんという方がいました。沢山の業績を成し遂げ、多くの人から尊敬された人です。その方のある日の朝食の様子がテレビに映し出されたことがありました。さぞや豪勢な食卓なのだろうと思いきや、それは、それは質素なものでした。数少ないオカズの中で毎朝必ず食べるのがイワシの丸干しでした。頭から尻尾まですべて食べつくしているのです。老人にしては何んとも見事な咀嚼力でした。
 婆娑羅でも千葉県の大原からのイワシの丸干しを出しています。
昨夜、40代の夫婦のお客さんがありました。イワシ丸干しの注文があり、丸々太ったやつを焼きアミの上にのせ、ゆっくりと焼き上げて出しました。二人は静に無言で丸干しを食べ、しばらくして店を出て行きました。皿には小さなイワシの頭と中骨とハラワタが残され手いました。上品な食べ方と言えばその通りですが、丸干しは頭からがぶりと食べ奥歯で噛み砕きながら、いさぎよく食べるものなのです。ハシの先でほぐしながら食べるものではない。 食べ方とその所作は代々受け継がれその家、家族の伝統となるのです。それ故、ないがしろできない事なのです。
 なんでも、かんでも上品であれば良いという事ではない。

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