八十代3人の男衆A
「いばりんぼう」

 小さな店のなかで飲屋稼業に埋もれていると、人間が小さくなってしまう。
 世界の経済がどうなっているのか、世界政治の状況はいかなる方向に流れて行くのか、なんてこととは無縁のさびしい毛虫のような自分を覚える。

 だからと言って、ここから飛びたってイスラム国の志願兵になって、“我は神の導きに従ってジハードにおもむく者ぞ” とたけり狂うには もう分別があって、身体も追いつかない。 そこで、ある思案が湧いた。 酔って勇ましく立派に変身する人々の姿の中に色々な国家の指導者が出没するのである。 ある者は怒り、ある者はにらみ、ある女はねっとりとなり、ある者は冷酷になる。 もっとも平凡な変身は怒りである。

 酔って高かまれば誰だって怒るか、うたいだすかのどちらかだ。 「アイツはいいやつなんだ。 だけどなぁ、俺にタテつくというのはどういうことナンダァー」 から、おこりんぼうが始まる。

 おこりんぼうは、すぐに いばりんぼうに転化する。 なんていったって、いばりんぼう国家のナンバー1は北朝鮮だ。 「ヤツラはまちがっている。 俺たちこそが正義中の正義だ。」 となって、おこりんぼうは近隣国の迷惑など気にもとめず猛進するばかりだ。 若いキム君は向かい側に座っているプーチン君の眼先など知ったことかという具合だ。 静かなふりして、そのクセいつも眼をキョロっとさせている。 明らかに人間を見下している。 あのタヌキ目は人を信じていない。 ぬけめのない功利男だ。 そのくらいの男でなければ大国ロシアを引っ張って行くことなどできない。 いばりんぼうキム君などは、プーチン君がいばりんぼうに変身したら、たちまちにピョンヤンへだ。

 バサラのいばりんぼう会議にはもう一人登場願う方がいらっしゃる。 そう 超大国人民共和国なる共産主義国からの近平君だ。 彼はいばらない、おこらない。 だまって おだやかを演じる。 二重人格を生きるなどアサメシまえだ。 いばりんぼうの本音はいつも子分の報道官に託す。 子分であるからには従順一直線だ。 いつも、口をとがらせて早口に海洋進出の正しき行動をのたまわっている。 近平君はワレかんせずである。 これら いばりんぼうの決まり文句は「その正しきはバンジャクである」 で終わる。

 バサラにおける いばりんぼう会議はいつも未決で時間切れとなるが、そこにおん年85才におなりの方が気仙沼から届いたホヤのさしみをアテにゆったりと酒をのんでいる。

 「大沢君、僕の個人見解だけどネェ。 若いから元気でいいんだけど、何だかネェー。 みんな相手の話しを聞かないネェー。 あんなに心がこわばっていちゃ仲良くなれないなぁ。 世界平和は遠いいな。
 僕は若い頃 ワシントンの支局にとばされちゃって、心細かったなぁ。 だから、とにかく人の話を聞くんだよ。 ケネディ大統領が殺された あの時代、その時だったんだ。 僕は一生懸命人の話を聞いたよ。 自分のことなんかねぇ、喋ってるヒマがなかったねぇ。 だから この年になっても自分のことを喋るのが苦手でねぇ、終わりの頃に少しだけ感想を言うんだよ。 少ししか言わないもんだから 皆んな逆によく聞いてくれるんだ。
 何だねぇ、酒の注文とサカナだけはずっと自分で言いつづけたいねぇ」

 このお方、著名な人、故に名はふせることにしました。 

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