行方知らずのボブ・ディラン

 何を今更 ボケたことを言ってやがる。
と、叱られてしまうが、美空ひばりさんがお亡くなりになられて?年たつ。

 「ひばりの佐渡情話」 「みだれ髪」 「悲しい酒」、いづれも耳にしているから知っていた。 知っていたけれど 味わい深くかみしめていないから その凄みをキャッチしていなかった。

 そればかりか、心にゆとりがない俺は自分の欲するものばかり気が行ってしまい、演歌を好む人の心中を察することが出来ないでいた。 ひばりさんの歌は恋が成就完結しないで悶々とさびしい気持ちを北国のきびしい寒さの景色になげつける歌だ。 その投げ方もひかえめでやさしい。 投げるというより ほうる。 だが、相手にはとどかない。 願いが叶わないから歌が生まれる。 万葉・神代の時からその習わしは変わらない。

 でも 今時は 叶わないと、追っかけて行って 言うことをきかねぇと むごたらしい事をしてしまったり、好きになったら、相手の心かまわずハイテクの通信機器を全開にして、メールなどを送ることが出来るから歌が生まれるよゆうがない。

 「あなた 今 何にしてるの?」
 「会社で仕事してる。 本当だよ。 浮気なんかしてないよ!」
 「だったら、その場所の写真を送ってみせてよ。」

 もう これで一巻の終わりである。
 美空ひばりは 好きでも添えないあの人を思い 一人ぼっちで酒を飲む。 叶わぬ想い、泣いてうらんで 夜が更けると歌う。 好きだ 好きだと熱い心があっても、あの人はどこにいるか知れぬのだ。 攻撃をかけて追走したくてもなせない。 切ない、ひとりぼっちを歌にして耐えてしのぶ。

   「島の娘は なじょして 泣いた
    恋は つらいと いうて泣いた」
   (佐渡情話の一説)

 いいなあと思うけど、こんな女に会えたら身を引いてしまいそうだ。 どうにも可愛らしい女というのが苦手で 語るすべがない。 男が勝手気ままにこしらえた、かくあってくれたらなあと夢想して でっち上げた偶像ではないか。 それを美空ひばりさんは、本当にいたら とても執念深く、あきらめの悪い女の本性を気高く美しく歌い上げることで、祈りのレベルまで持ち上げたのである。


 じゃあ!
 我等が、スウェーデン・アカデミーから無礼で傲慢な野郎と烙印をおされてしまったボブ・ディランの歌はどうなんだろう。 たくさんの女を知り、たくさんのラブソングを歌っているのに心にしみない。 その沢山の中から
 「アイ・ウォント・ユー」 という曲は実に軽快なリズムにのせて "I want you" を繰り返すのでいい気分にさせてくれるのだが、語りの部分のディランの歌い方はむずかしい詩にあふれていて とてもじゃないが愛の美しい祈りの曲ではない。

 CDの中におさめられている詩の対訳を読みながら楽曲を聴く。 ああこの曲はこんなこと、あんなことを言いながら歌っているのか。と 難解をそのままほったらかしにして俺はディランの音楽を楽しんでいる。 それで満たされる程に歌い上げる多彩なメロディー、仏頂面で不機嫌にステージに立ち、亡霊のようなしゃがれ声で歌う姿。 ボブ・ディランというお方は その立ち振る舞いでよいのです。

 美空ひばりも好き。 ボブ・ディランも好き。 俺は二人の神に酔いしれて行ったり来たりなのです。

 

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