10月20日 対 南アフリカ戦

 ”再び抗争 激化のきざし” ニュースの見出しから、これはラグビーの話かと早合点してしまった。 広域暴力団のナンバー2の親分が府中刑ム所から出所するという話だった。
 右手で杖を突き、沢山の親分、子分がみまもる中を黒塗りの高級車に乗り込むところだ。 塀の中の長い生活で足腰が弱ってしまったのか足もとがおぼつかないんだなと見ていたら、その方は右眼を失っていた。 ずいぶんあぶない思いをして極道社会を生き抜いてきたその証明のようにその右目はつぶれていた。

 “再び、激しい戦いの始まり” のもう一つはラグビー・ワールドカップ日本大会、そしてベスト8の決勝トーナメント始まりだ。 日本対南アフリカだ。
 どこやらのオバサンが大男のおしくらまんじゅうだね!と のべていたが、その大運動会が国と国との戦いになるほど大盛りあがりのでかいスポーツイベントになった。 日本桜の戦士チームは世界の8強にまでのし上がり、いまや国をあげてのおおさわぎだ。 素朴で純情男がはりきり過ぎて、日の丸のハチマキに日の丸のでっかいハタを横にたてにとふりまわしている者もいるが、とてもはずかしくてそんな気にはなれない。 本当の戦争ではないのだからそこは寛容に。 チケットを入手できない我等は、バサラの小さな画面をみながらささやかに応援だ。

 6:00 キックオフ とうとう戦いがはじまった。 高鳴る、ふるえる、喉のかわき、無言、ところがどうしたのか右眼が痛い、涙がにじむ、かゆみ、テレビジョンの画面がゆがむ、「なんだよう、肝心な時にこんなことアリかよう!」 俺は無口になる。 一緒に見ている人達も静かだ。 それはゲームの動向がかんばしくないせいだった。 作戦、すぐれた英知、戦略、日本の底力、応援、気合、などなど。

 南アフリカは太くたくましい腕力、圧倒的にデッカイ肉体、津波のようにおしてくる岩のような軍団、そこにくらいついて次から次へと突進をはかる。

 桜の戦士の波状攻撃はこれでもか、これでもかと続く。 突破ができない。 いつか、どっかに穴があくはずだ。 戦いをあきらめていなかった。 どしどし突進だ。

         以下、試合は省略

 俺は心地よい興奮を胸にいっぱい抱きかかえながら夜道を歩いた。 うれしさが涙になってこぼれた。 「ニホンよ、よく戦ってくれた」
 だいぶ、てれくさいが夜道には俺ひとりだ。

 又、右眼が痛みだした。 こわい痛みだ。
 明日は早起きして杏林大学のアイセンターに行こう。 このボロボロの右眼に少しでも光がよみがえるなら、どうか助けてくださいと祈ろう。 わずかでも可能性があるのなら、そこにしがみつこう。
 「あきらめずに、勝つことにだけを考え、この4年間をすごしていました。 そしてきたえあげて来ました。 だから、この戦績はキセキではありません。 僕達のチカラです。」 これは桜の戦士 田村 優くんの言葉です

 この言葉を心の内に深くきざみつけて、片目を復活させ、再びの両眼をカクトクだゾ! そうさ ただでさえ、かたよりがちなものの考え、ものの見方、やっぱり両目をあけて ちゃんともの事を見なさいよ!
やっぱり両眼が欲しい。
 
                      2019.10.31
                  杏林大学アイセンターにて
                       大澤 伸雄

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