大腸ポリープ

 8月の4日は大腸の内視鏡検査の日だ。
水に溶かした下剤を2ℓ 用意して、ゆっくりゆっくり時間をかけて飲み込んで行く。 2ℓ の水を飲むなんてことは楽ではない。 うまく味がついているわけではないから、途中何度もゲップをくり返し、休み休みの難行だ。 味の悪いスポーツドリンクとしか言いようがない。 30分程でなんとか半分をやっつけた。 「あと半分だなあ」 と自分を励ましていると、いきなり下腹部が痛み出し突発的便意がおそって来た。

 「えっ、早くねぇか!」 「下剤半分も残っているぞ!」 そこからは5回6回と連続してトイレにかけこむ。 下剤の袋に記された説明書と全く同じ事態が俺の肉体の内で展開され、だんだんと無色になって行く自分の体液をながめながら 「うむ、こういうことにあいなるのか。」 と奇妙な安心をいだいているのでした。 礼儀正しい肉体というのか正直で純情な肉体というのか、ただ薬にのみ込まれやすい浅はかな肉体ということかな。

 さて、前半のなすべき事は終了した。 なにも入ってない空の腹をなでながら少しの休憩を、少しの不安を、「どうか何事もありませんように」 の祈りをひとり呻きながら雨のそぼふる中病院へむかうのでありました。 数日前から東日本から北にかけて線状降水帯の中につつみ込まれ、日本中のそこかしこで洪水の危険にさらされている。 「よりによって大切な検査の当日に大雨を降らさなくてもよさそうなのに、と全く無関係、支離滅裂な想念にもて遊ばれている。 何にをおびえてる! 小心者の極みだ。

 午後の1時半、ベットの上に横向きで寝かされる。 先生の声は低く、俺の心を安心させてくれる。 言葉に無駄がないがいい。 「ハイ、では始めます。」 の一声でカメラが穴に挿入された。 沈着に、とりたてる程の苦痛もなくガマンと理性の間を行きつつ、俺は理想的患者とはどのようなふるまいをするものか考えた。 泣いたり、わめいたりというのはダメだ。 あっ、痛てぇ! くらいは許されるだろう。

 カメラが角をまがっているようにアングルを変えていた。 大きな鈍痛が来た。 思わずうめき声がもれた。 「ありましたねぇ」 と先生の声がつぶやいたような気がした。 しかし、カメラは再びいつものコースを行くようにさりげなく地味に進行していく。 立ちはだかる難題を暗示する影。 多分、そんなものはないと、ああ祈るしかない。 ところが帰路に着いたと思っていたカメラが曲りくねった角で停止して線種があるとおっしゃる。
 「たいしたものじゃないので、とっておきましょう。」 モニターにその線種が映った。 切除するシーンまで映った。 同時に痛みにこらえきれず、自分のうめき声まで聞こえた。
 所要時間20分位、もう済んでしまったの、というくらいあっけなかったのであります。

 しかし、次なる試練をうっかり予定に入れていなかった。 それは3年前の検査の時、線種切除ということは行われず、したがってその日の夕方には酒をいただき、うまい、消化のよい食事をたいらげ喜色満面にあったことを思い出した。

 8月4日、下剤をたっぷり2ℓ 近くも飲み、腹の中を空白状態にし、ポリープ切除の為、当分の間、ほぼ8日間はゆるゆるの粥三昧の日々。 残酷でキケンな灼熱のこの夏をのりきる体力があやうい。 本当に体力がなくなった。 やせた。 又始めよう。


  大腸ポリープ
  → 管状線種(良性腫瘍)と記されたメモを、その先生から
    いただききました。

  8月18日以降、再びの肉体改造に挑むゾ!


                      2022.8.20
                       大澤 伸雄

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