ぶっきらぼう な そばや

 三鷹駅を 北に 10分程 歩いたところに 店の名が ただの 「そばや」とだけ書かれた そば屋がある。 店に ぶっきらぼうな 名を つけてしまうのだから 店主も さぞ ぶっきらぼう だろうと 思っていたら まったく そのとうりであった。

 たいがいは 二軒目に 行くものだから いつも 嫌味を 言われる。
「また 酔っ払って 来やがったな」
「こんな 時間まで 素面で いられるか 」
「ならば 一軒目で 来い。」  そのとうりだから 切り返せない。
 乱暴な やりとりが おさまると
「んでー 何が 食いてぇんだ 」
「焼いた 魚 」
 俺も 相当に ひどい 酔っ払いだ。 そば屋に 来て いきなり 焼き魚を注文とは 
「鮎が 一本 残っているぞ」 おくの方から 声がかえってきた。

 やがて 鮎の塩焼きが でて来た。 タデ酢も 添えてある。 注いであった酒を ぐいっとばかりに 飲み干して 箸を 鮎のまんなかに さし ほぐした。 すると 背後から ぶっきらぼうな 声が つぶやいた。
 「鮎の 食い方 しらねえな。」  しまった と 思ったが だまった。
 「箸 なんぞ 使うな。 頭としっぽを 持って かぶりつけ」
 「そして たで酢を つければ いいんだ。」 と たたみかけるように 言われてしまった。
 そのとおりだから 静かに うなずいた。

 頭と 中骨を 残して 食べ尽くした。 そして 言い訳がましく 
「次は 箸を 使わないからな。」 と 控えめに 言ったら ニンマリ笑って 奥にさがった。

 この そば屋は 料理の 技と冴えを 教示してくれる たいせつな ところである。

追記
この店主 誰彼に ぶっきらぼうに ふるまうのではないから だいじょうぶである。

今日の 仕入れ

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