On the heating night

 友、四人での酒盛りは 夜の10時頃に 終った。 自転車で ふらっきながら ゆっくりと家にむかった。 途中 よく行きなれた 成蹊大学の欅の並木道に さしかかった。 うっそうと 葉が茂り 暗かった。 いきなり 前方に 白いパラソルをさした 赤いワンピースの女がひとり あるいている。 雨もない 蒸し暑いばかりの 暗い夜中に 白いパラソルは 異様だった。 
 それよりも 激しく 俺の目を ひきつけたのは 女の白く 美しい 細い うなじだった。 自転車は その妖艶な うなじに 吸い寄せられるように 進んだ。
 その瞬間、 自転車の前輪が 歩道のえん石に 乗りあがり、 大きくはねあがった。 自転車は 右側の茂みに つっこみ 俺の体はふぁーと浮いた。 そして 左顔面 肩から ドサットばかりに コンクリートの歩道に たたきつけられた。

 やばいことになった という想いと 激痛が全身を走った。 どの位の時間 地面に伏していたか 解からないが、 痛みとともに意識も よみがえり 立ち上がった。 メガネは飛び散り、そこかしこから 血がにじみ でている。 左ヒザも やられているから 立ち上がるのにも 難儀した。 
 とにかく 家に 着こう。 酔った頭で そのことばかりを 思った。

 だが、その時 すでに 白いパラソルの 赤いワンピースの女は 消えていた。 一体 女は 人だったのか。 はたまた 酒の酔いが 引っ張りこんだ 夢 まぼろしだったのか。 あの 妖艶な 白い うなじ ばかりが 頭から はなれない。 エロスの あぶない悪戯に いとひねりされた 呪われた夜 であった。 
  
   八月の末日


 秋刀魚の 炭火焼きに あけくれる 秋が またやって 来ました。

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