昨夜の酔客

 夜の巷に灯されている白や赤のちょうちん。よく眺めると ろくでもない字体が多い。ちょうちんはすでに字が書き込まれていて、そこに店名を書きそえてくれるのだが、書き手が優れていないと 字も 当然そのようになる。

では、婆娑羅はどうかと言えば、よく字体を眺めていただきたい。何々体と分類できる字体ではない。“婆娑羅”という言葉の意味を、がっしり掴み取って解釈した上で、デザインされているのである。

 コピー機を使って写し出すことは出来るが、これを一筆書きでまねる事は至難である。字の中に情念が閉じ込められていると、常々俺は思っている。
だから、この字は俺にとって生涯の宝物なのである。その宝物の贈り主が 昨夜 酒を呑みにやって来た。

 1960年代の黒沢明の映画制作の現場で 若き日を修行した。撮影スタジオでは 巨大な背景を一気呵成に仕上げる。世界の黒沢である。その要求は理不尽極まりないものでも、不眠不休で作り上げなければならぬ。

 映画制作の世界ばかりではなく、書のワザも一流であった。
 そのワザがどれほどのものか、俺の眼識など当てにならないが。
 かって、佐藤栄作という総理大臣がいた。沖縄返還を実現し、ノーベル平和賞を手にし、功罪織りまぜて 歴史に残る総理大臣であるには相違ない人だろう。このような事に 俺ごときが意をはさむなど無礼な事だが、その総理の国葬が武道館で行なわれた際、入口の上部に 巨大な文字で “佐藤栄作”の名が現れる。国家によって執り行われる行事に、その人の 巨大な字が しばしば武道館に現れるのである。
 これは ほんの一つのエピソードだが、俺にはその人の力とワザが飲み込めた。

 齢70、人間 少しは衰えて当たり前だが、闊達な口調は少しの衰えもない。ばかりか、年のせいか周囲への気遣いが足りない分、余計に闊達になった。それでよろしい。うまい酒はうんと飲めとばかりに、「もういい」と言うまで飲ませた。少しの我儘、少しの気遣いをされ、少しの嫌味を浴びながら、周りの人から少し疎んじられても、尚、々活躍されることを念じて、店の外に追いやった。

 秋、店一番のヒットは 手造りソーセージ 1本 180円也。 安い! 旨い!

ソーセージ

カナダからの松タケ



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