複数のマネジメントに振り回されない



ISO9001 −品質マネジメントシステム− を導入すると、これまでのマネジメントとぶつかり合って上手くマネジメントが機能しない。とか、マネジメントが複雑になり、やるべきことが増えて困る。という声を聞くことがある。
ISO9001 −品質マネジメントシステム− を随分誤解しているようだ。
その一つに目標の管理がある。


目標管理という制度はご存知のことと思う。
成果主義、能力主義に基づく人事考課制度の導入が言われて久しいが、社員ひとり一人の成果や能力を把握するツールとして目標管理制度を導入した企業が多くある。
多くの会社では、年明け前後に来年度の経営計画を立て始めるのではないだろうか。
次年度の経営計画をどの程度の精度で策定するのかについては企業の規模によって随分異なることと思うが、次年度についての計画立案はどの企業でも行うことだろう。
組織の経営計画が決まると、それを社員ひとり一人の目標に落とし込んでいくのが目標管理制度である。
この目標管理制度と人事考課制度を結び付けることによって成果や能力を把握するという評価制度が社員のやりがいや、業績向上につながっているかは大いに疑問がある。
このことについては別の機会に論じることにしたい。

ISOには、トップマネジメントは「品質方針を策定する」、「品質目標が設定されることを確実にするという要求事項がある。
ISOを導入すると、この要求事項を実現するために、新たに品質方針を策定し部門及び各階層毎に品質目標を設定している組織がある。
建設会社の工事部門やメーカーの製造部門であれば、品質方針や品質目標が経営上の目標と多くの部分で結びつくかもしれない。
しかし、営業部門や事務部門においては混乱の原因になっているようである。
わが社もこれまでの経営方針及び経営目標と品質方針及び品質目標の二本立てで混乱を生じた経験がある。

わが社も、年が明けると社長方針が発表され、経営企画部が来期の経営目標の策定準備を開始する。
3月上旬には経営目標も各課のレベルにまで落とし込まれ「目標実行計画書」が作成される。
そして、3月下旬には社員ひとり一人の目標に落とし込みがされて「目標管理シート」が完成する。
ISOの方はというと、3月上旬に品質目標が部門長から発表され、下旬までに部門及び各階層毎に落とし込まれ「品質目標実行計画書」が作成される。
品質目標は、個人までは落とし込みはしていない。
目標管理は、この「目標実行計画書」と「品質目標実行計画書」そして、「目標管理シート」によって行われる。

「目標実行計画書」は、会社の業績に直結する“売上”や“利益”、“新規開拓”、“新商品の開拓”などに関する目標が記されている。
個人の「目標管理シート」にはそれらのほかに、自己啓発目標や商品知識の向上、業務の効率化などに関わるものが追加される。
しかし、“売上”や“利益”以外の目標は、十分な管理が行なわれなていないのが常である。
間接部門はどうかというと、人事考課の時期にあわてて机から引っ張り出して後付けで目標管理をしているのが現実である。
他社も似たり寄ったりではないだろうか。

ISOの「品質目標実行計画書」の方はもっと悲惨であった。
ISO規格要求事項8.2.3項に「プロセスの監視及び測定」という項目がある。
「組織は、品質マネジメントシステムのプロセスを適切な方法で監視し、適用可能な場合には測定すること」
「プロセスが計画どおりの結果を達成する能力があることを実証するものであること」
そして、「計画どおりの結果が達成できない場合には、適宜、修正及び是正処置をとること」
と定められている。
審査を受けると最初にこの部分を聞かれることになる。
経営目標に追われている直接部門や目標を立てたまま半年間机にしまい込んでいる間接部門において、品質目標が規格要求どおりに運用管理されるわけがない。(言い過ぎでしょうか?)

この二本立ての混乱をほぐしていくと結構明確な目標管理制度になる。
まず、経営目標と品質目標を分けないで一本に纏めるのである。
経営目標と品質目標は同じではない、という社員もいるだろう。
しかし、昔から言うように「二兎追うものは一兎も得ず」である。
共倒れを考えれば、多少の問題には目をつぶるべきであろう。
そして、ひとつにまとめた「目標実行計画書」と「目標管理シート」をISOの手順で管理していくのである。

ISOの規格要求事項5.4.1項には、「品質目標」という項目がある。
そこには、「トップマネジメントは、組織内のそれぞれの部門及び階層で品質目標が設定されていることを確実にすること」
「品質目標は、その達成度が判定可能で、品質方針との整合性がとれていること」と記されている。
特に「その達成度が判定可能で」という部分は重要であろう。
現在の目標を見て欲しい。
目標のゴールが不明なものが含まれているのではないだろうか。
ゴールが不明なものについては、途中での進捗管理はもちろん、達成度の評価もままならない。
そして、ISOには、上記に記したように、「プロセスが計画どおりの結果を達成する能力があることを実証するものであること」
「計画どおりの結果が達成できない場合には、適宜、修正及び是正処置をとること」というように、未達成の原因追求と再発防止まで含まれている

所期計画が、数ヶ月のうちに狂い始めるといった組織においては次のことを点検していただきたい。
複数の目標を管理するマネジメントが存在していないかどうか。
そして、そのことでどちらも疎かになっていないかどうか。
複数のマネジメントを管理することはなかなかできないことである。
できないことはやらないことが、是正である。
ISOのマネジメントプロセスを活用し、真の意味でISOを組織に定着させることが重要であろう。

(2004.01.28 boar)