ナショナル7/Nationale Sept
 
監督:ジャン=ピエール・シナピ
脚本:ジャン=ピエール・シナピ
撮影:ジャン=ポール・ムリス
 
出演:ナディア・カッチ
    オリヴィエ・グルメ
    サイード・タグマウイ
    ジェラルド・トマサン
 
2000年/フランス/1時間30分
 
                                           
                         
                                           
      差別という行為はあらゆる人間が持つ至極普通の感情である。差別心があるからこそ人間は競争し向上するのだ。しかし、最も危険な感情でもある事も確かだ。過去の歴史を振り返っても差別が元で大衆は煽動され忌まわしい事件が数多く起こってきた。そして、現代社会においても依然として忌まわしき差別はなくなってはいない。障害者に対する差別心もまた然りである。TVや街で八ディキャップを持った人を見て「あの人たちを思えば、私達は五体満足で幸せだ。感謝しなければ・・・」という人がいる。私はそうゆう事をゆう人間は信用しない。「健常者=幸せ」「障害者=不幸」などと勝手に決め付けている事自体すでに差別なのだ。障害をもった人たちにも、日々充実して幸せな人たちはたくさんいる。要は見た目だけで判断し、中身を何も理解していないので、そのような無責任な発言をするのだ。日本人に多い「見て見ぬ振り」である。この映画の主要テーマである「障害者の性」についても多くの人が見て見ぬ振りをする問題の一つだ。健常者も障害者も人間である以上、性欲がある事は誰にでも理解できるのだが、それは一種のタブーとして取り扱われている。本作「ナショナル7」はこういった多くの人が直視しない問題を真っ向から扱った会心作である。  
                                           
      南フランスのトゥーロン・・・・国道7号線(ナショナル7)のそばにある障害者施設がこの映画の舞台である。施設で暮らすルネは筋ジストロフィーを患い介護を必要とした車椅子の生活を送っている。ルネの部屋にはぎっしりと並んだポルノビデオに壁一面には所狭しとヌードポスターが貼られている。そんなルネは実は施設でも、かなりの厄介者。介護士を汚い言葉で罵倒し、無理難題を吹っかけて困らせていた。そんな時に新人介護士ジュリが新たにルネの介護に当たることになった。ある日、ルネを連れて買い物に出かけたジュリは車のキーを失くす。仕方なくルネの乗った車椅子を押しながら、私道を通って施設に帰ることにしたが、その途中、私道沿いに住む主婦に「ここを通すわけにはいかない!」と言われ、怒ったルネはその主婦に対して「ババァ!」と罵倒する。この事が施設で問題になる。そんな折、糖尿病が悪化したルネはダイエットを強要され、それを不満に思った彼はハンストを決行。担当のジュリはルネに何とか食べさせようとワッフルを部屋まで運ぶが、その時、ルネはジュリに自分の心の中を打ち明ける・・・・「SEXがしたい・・・」と。ジュリはそんなルネの願いを叶えてあげようと、国道沿いの娼婦に掛け合うのだが・・・・。  
                                           
      この映画で描かれているのは何も性の問題だけではない。宗教や人種問題についても触れられている。つまり障害者にとっても、抱える問題は同じだという事だ。そして重要なのはこの映画がコメディ映画である点だ。障害者が主人公だからといって徒に重くしようとはしていない。このことが、逆に説得力を持った作品になっている要因だ。かつて私もある障害者施設に働く介護士にインタビューをした事がある。彼女によれば社会的にタブー視されている問題はたとえ介護のプロの間でも避けられる事が多いそうだ。映画の中でジュリがルネのセックス願望について他の介護士たちと話し合うシーンを見て、その事を思い出した。  
                                           
      本作は全編、小型デジタルカメラで撮影されている。映像的にはフィルムと比べて遠く及ばないが、それが却ってドキュメンタリー調になっていて現実感を増すのに成功している。この映画に登場する障害者や介護士は本当に一生懸命に生きている。(もちろん全て俳優が演じているわけだが・・・)こんな映画を見ていると、ダラダラと甘えて生きている自分が恥ずかしくなってしまう。きれい事に聞こえるかもしれないが、それが率直な感想だ。なかなか良いアイデアのラストシーンは必見だ。  
                                           
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