監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:アーネスト・レーマン
撮影:ロバート・バークス
音楽:バーナード・ハーマン

出演:ケイリー・グラント
    エバ・マリー・セイント
    ジェームズ・メイソン
1959年 アメリカ 上映時間:2時間17分
今回から4回連続で往年の名作を紹介する。「北北西に進路をとれ」「ひまわり」「カサブランカ」「ワイルドバンチ」の4本を予定している。このような作品をスクリーンで鑑賞するという貴重な機会を与えて下さった金沢グランド劇場様に心より感謝したい。
53作にのぼるヒッチコック作品の中で「めまい」や「サイコ」をベストワンにあげる人は多いが、「北北西に進路をとれ」をあげる人は意外に少ない。サスペンス的な要素がやや弱めでミステリアスさに欠けるという点には他の作品に軍配が上がろうが、ストーリーのテンポのよ良さと見るものを引き付ける力は間違えなくトップクラスだ。なにしろ本作はヒッチコック作品中、最長の上映時間でありながら全くその長さを感じさせない。それは現在見ても同じ印象を受けるのだから大したものだ。ストーリーは「勘違いされて追いかけられる」というヒッチコックお得意の展開。そしてヒッチコック独特のユーモアもしっかり生かされている。主人公ロジャー・ソーンヒルがスパイ組織と警察に追われて必死に逃げているにもかかわらず、列車の中ではしっかりと女性を口説くのはかなり笑ってしまう。ユーモアと言えば本作のタイトルも面白い・・。そもそもこの日本語タイトルは正確ではない。「北北西」を日本語で言うとNorthwest by north である。映画の中にノースウェスト航空が出てくるが、私は最初「ノースウェスト航空で北へ」という意味だと思った。実際多くの人がそう思った事であろう。しかしヒッチコック本人によればこのタイトルは主人公の混沌とした精神状態を現したものなのだそうだ。当時の日本語タイトルをつけた映画会社はずいぶん苦労した事だろう・・・・実際、私はこの邦題を見て最初は船乗りの映画だと思ったほどだ。もっとも今なら「ノース・バイ・ノースウェスト」となるであろうが・・・。
本作でヒッチコックの手腕が最も発揮されているシーンはやはりなんといっても、中盤、主人公が麦畑で飛行機に襲われるシーンだ。非常に緊迫したシーンであるにもかかわらず、バックに音楽も何も挿入されておらず、聞こえるのはただただ飛行機の爆音だけ・・・。それが見るものの緊迫感を更に高めるのに、抜群の効果をもたらしている。このようなシーンはスクリーンでこそ生かされる。この映画の主演はケイリー・グラント・・・サスペンスとロマンスとスパイが出てきて主演がケイリー・グラントというのはヒッチコックの得意パターンのオンパレードだ。本作の主人公は今風に言えば少々マザコンの気があるキャラクターだ。そんな主人公が事もあろうにスパイと殺人犯に間違えられるのだから、そのギャップは実におかしい。ケイリー・グラント自体、私はあまり感情移入できないのだが、こと本作に関しては見事ハマっている。まさにキャスティングの勝利である。先に述べたようにとにかくテンポが抜群に良い作品なのでヒッチコックを知らない人でも十分楽しめること受けあいだ。
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