CAPの理念

エンパワメント

エンパワメント(empowerment)とは「内なる力を引き出すこと」、さらには人と人とのそのような関係性も含めて使われる概念です。人が本来持っている力を発揮するには、「自分のありかたを肯定的に受け入れること(自己肯定感=self-esteem)」や「実際にその行動を起こすことができるという自信を持つこと(自己効力感=self-efficacy)」が大変重要です。CAPのプログラムの根底にはこのエンパワメントの考え方があります。

子どもができることを中心に教える

従来、子どもに対する暴力防止教育は、「知らない人について行ってはいけない」、「暗い道を歩いてはいけない」等、「してはいけないこと」を中心に行われてきました。こうした教育は必要ですが、問題も少なからずあります。

  • 予防には有効だが、実際に危険がせまった場合には役に立たない。
  • 「してはいけない」という言いつけを守らなかった子どもは、被害にあうと「言いつけを守らなかった自分が悪い」と自分の方を責めてしまう。
  • 何より、「子どもは何もできない」という前提に基づいているため、子どもは自然と、自分を何もできない無力な存在であると思い込んでしまう。

「してはいけないこと」を強調しすぎると、子どもの「内なる力」を封じ込めてしまうことにつながります。子どもができることを具体的に教えることで、子どもは知識と自信を持ち(エンパワされた状態)、万一危険な状況に出会っても、独力で適切な対応をとることが可能となるのです。

子どもの能力を信じる

子どもが暴力に対する知識や自信を持っているかどうかは、暴力から身を守る上で大変重要です。危ない状況に遭遇した時、おとながいなければ何もできないと子ども自身が思い込んでいれば、何もしないまま被害にあってしまうでしょう。子どもの能力を信じ、家庭や学校で暴力防止のスキルを繰り返し教え、再確認していく必要があります。この過程の中で子どもは「おとなから信頼されている」「自分にもできる」と感じるようになるのです。


人権意識

人は誰でも幸福な人生を送るために、生命の危険にさらされず、自由を享有する権利(基本的人権)を持っています。基本的人権は、誰かによって与えられたり契約によって効力が生じたりするような性質の権利ではなく、子どももおとなも等しく生まれながらに持っている特別な権利です。CAPでは「暴力は基本的人権が奪われること」であるととらえています。

安心・自信・自由の権利

子どもたちには、まず、子どもも基本的人権(「安心・自信・自由」の権利と表現します)を持っていることを教え、いじめや暴力などはこれらの権利を奪う行為だと説明します。暴力行為を受けた被害者は「恐怖と不安」をいだき、「無力感」に陥り、「行動の選択肢が何もない」と感じます。これは「安心・自信・自由」の権利が侵されていることにほかなりません。

No,Go,Tell

では、自分が持っている「安心・自信・自由」の権利が損なわれると感じた場合、どうすればよいでしょうか。CAPでは暴力的な手段を用いずに権利を守る基本的方法を「No」(いやだ、やめてと言う)、「Go」(その場を離れる)、「Tell」(誰かに話す)の3つにまとめています。CAPのプログラムの中で、ロールプレイ(寸劇)を使いながら、他人の権利を尊重しながらも問題解決を図る具体的な方法を、子どもたちと考えます。

加害者にならないために

暴力を「安心・自信・自由」の権利を奪う行為ととらえることで、ある行為が暴力なのか否かの判断を下すことができます。例えば、行った側は単なる遊びであったとしても、あるいは相手のためになると思っての行動であったとしても、受け手がその行為によって「安心・自信・自由」がなくなると感じるなら、その行為をすることは許されないのだということを子どもに教えます。CAPのプログラムを学ぶことで、他人からのいじめや暴力から身を守る方法がわかるだけではなく、自分が(意図的であるなしに係わらず)他人の権利を奪う加害者となることが防げます。


コミュニティー

コミュニティーとは、「自立し信頼感で結ばれたメンバーで構成される、地域性や目標を共有するオープンな集団」のことです。地域や学校、ボランティア、習い事など様々な事柄を共通基盤としたコミュニティーが存在し、そのコミュニティーが人と人を結びつけ、その結びつきの中で一人一人が「安心・自信・自由」を感じ、「内なる力を発揮」していく。CAPは子どもたちにプログラムを提供するだけでは十分ではなく、子どもたちを取り巻くコミュニティーが機能してこそ、目的が達成されると考えています。

おとなのための学習会

暴力による被害を受けた子どもの大多数は、そのことを誰にも話さないという実態があります。 正しい知識を教えてもらっていないために、どうしていいかわからない、子どもの話を真摯に聴いてくれるおとなが周囲にいない(あるいは、いないと子どもが思っている)ことが大きな原因です。
おとなが子どもを援助するようなコミュニティーを確立することが子どもを救います。CAPは子ども向けのプログラムのほかに、養育者、教師、地域のおとなに対しても学習会を実施し、子どもを支える基盤作りをしています。

ひとりひとりが尊重される社会を目指して

毎年多くの子ども達が暴力の被害にあっています。暴力の対象となるのは、子どもが弱い存在であるからです。しかし、子どもを弱い存在にしたまま放置していたのは、ほかならぬ私たちおとな自身ではなかったでしょうか。子どもは無力な存在、劣った存在だと考え、それゆえ子どもに十分な知識や力を与えずにいた結果、子どもを弱者に追いやっていたのです。
子どもが自分の持つ内なる力に気づき、自分もおとなと同様「安心・自信・自由」の権利を持つ人間であることを知る時、子どもは自分が大切な存在であることがわかり、力を発揮していくのです。そして、自分同様他人も大切な存在であり、尊重しなければならないことに気づいていきます。
子ども達の周辺に存在するさまざまなコミュニティーの中で、おとな一人一人がこのことを認識し実践していく必要があります。誰もが尊重される社会を作っていくこと、それが暴力をなくしていくことにつながると、私たちは信じています。