月空讃歌
月の歌が聞こえる。
水が囁いている。
いつでも、密やかに流れる優しい声。
今まで気づかなかった。
この温かい微睡みを知るまで。
ここは温かい。
お前がいるから。
私はこうしていよう。
お前の胸に身体をあずけ、心ごと抱かれていよう。
何が真実で、何が虚構なのか。
それは、さして重要ではないことに気づく。
自分を傷つけることで、安らぎを見出そうとしていた頃もあった。
この身が苛まれる痛みに贖罪を求めた。
進み続ける自分。
絡みつき皮膚を切り裂く棘は、いっそ痛快なほどで。
仮の自分を演じることに、なんの呵責も感じなくなった。
人の目を見られなくなった。
心は麻痺し、崩れていく。
それでも。
泣きたかった。
壊れるてしまいたかった。
それが救いなのだと信じていた。
「どうかしましたか?」
「 ・ ・ ・なんでもない。」
差し伸べられていた手。
気がつけばそこにあった。
傍にいてくれた。温めてくれた。
祈りは届く、願いは叶うと信じさせてくれた。
闇に怯える夜。
震える唇が呼ぶのは、いつしか唯一つの名になった。
閉じた瞼の向こうにも、必ず光があることを教えてくれた。
砕けた夢のかけら、拾い集めて未来に還してくれた。
「昔のことを考えていたの。」
「その中に俺はいましたか?」
「さあ、どうかしらね。」
髪を撫でてくれる手。
身も心も委ねてしまうことが、こんなに心地よいなんて。
お前が教えてくれた、たくさんのこと。
「聞かずとも判りますよ。貴女の過去も未来も全部俺のもの。」
「独占欲が強い男は嫌われるわよ。」
「貴女以外の誰に嫌われようと構いません。」
「 ・ ・ ・なにがおかしいんです?」
「いや、相変わらずだと思って。」
「貴女への想いが変わるわけはないでしょう、クリス?」
悪戯な口調も、優しい口付けも、ずっと変わらない。
星の数ほど囁かれる甘い言葉、これからも言い続けて。
全部見透かして、全部受け入れて欲しい。
どんなに醜い私も、お前なら受け入れてくれる筈。
心を満たす温かいもの。
「クリス、愛してる。」
遥かな過去も未来も、ともに過ごす時間を忘れたくないと思った。
繰り返し繰り返し考えた。
その気持ちがなんなのか、今は判る。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・私も。」
お前がくれた。
お前が満たしてくれたんだ。
アイシテル。
月の歌が聞こえる。
水が囁く声がする。
風はどこまでも澄明に。
お前はどこまでも温かく。
私はここにいよう。
ここは温かいから。
お前がいるから。
2003.2.25
すごく書きやすかった ・ ・ ・これが真骨頂なのか。
こんな甘さ、どうでしょう?(笑)