「わたしとしては、ちょっと不満なのよね。」
「何がです?」
「あんたみたいな男と付き合うの。クリスにはもっと誠実そうな奴が似合うわ。」
「おや、心外なことを。」

目の前に座るパーシヴァルを、リリィは不機嫌そうに見据えた。
二人の間にはボトルの林立したテーブル。
酒を酌み交わすには珍しい組み合わせである。
ここにお互いの親友なり相棒なりが加わればいつものメンバー。
残りの二人は、それぞれの所用で一時席を外している。
男の涼しい顔に比べ、向かい合う大統領令嬢の目にはいささか酒気がこもっていた。

「あんたが今まで何人泣かせたか知らないけど、クリスにはばれないようにしなさいよね。」
「言わずもがなですよ。」

言ってから、パーシヴァルは眉をしかめた。

「・・・リリィ嬢は随分な目で私を見ていらっしゃるんですね。」
「日頃の行いの賜物じゃないの?」
「私の心はたった一人のためもの。誠実極まりないと思いますが。」

リリィの繊手がグラスを傾ける。
グラスに半分以上残っていた琥珀色の液体は、残らず紅の唇に流し込まれた。
空になったグラスに、パーシヴァルはさりげなく新たな液体を注ぎ足す。
その余裕綽々ぶりが気に入らないのよね。
そんな表情を浮かべながらも、リリィは当然のようにグラスを再び手に取った。

「一応言っておくけど。クリスを泣かせたら承知しないわよ?」
「もちろん。」

飄々とした男が突然真顔になる。
図らずも、リリィの手が止まった。
整った顔立ちに甘い声。
世の女性の評価も当然といえば当然なのかも知れない。
リリィは溜め息をついて、椅子の背もたれに思い切り寄りかかった。

「あーあ。クリスに先を越されるとは思わなかったわ。」
「それが本音ですか。」

グラス片手に、パーシヴァルの目が悪戯っぽく光る。

「でも、貴女の意中の方も、まんざらではない様子ですよ。」

唐突に矛先を向けられても、大統領令嬢は動揺しなかった。
否定も肯定もせず、やんわりとグラスを置く。
これが相方の方であれば大慌て大騒ぎになるところだ。

「我が親友殿のことですし。喜んで応援しますよ。」
「・・・あの子と同じこと言うのね。二人で何の話をしてるのかしら。」
「お似合いの二人だとたいへんお喜びで。」
「あんたの入れ知恵でしょ。クリス独占の魂胆が見え見え。」

パーシヴァルは悪びれもせず笑った。

「裏があった方が信用できるのでしょう、私のような男は?」
「自覚はあるんじゃない。」

嫣然と微笑む令嬢に、パーシヴァルはグラスを差し出した。
冗談めかして気取った仕草に、リリィも合わせてグラスをかち合わせる。
澄んだ水晶の響きが、グラスの中の液体を震わせた。
そこに重なる、ドアのきしむ音。
「お待たせ。」
席を外していた二人が戻ってきたのだ。
途端にぱっと変わる場の空気。
銀色と金色をそれぞれにまとった男女は、空のボトルと漂う酒気に半ば呆れたような顔をした。
「遅くなってすまなかった・・・って、退屈していた様子でもなさそうね。」
「なんだ、随分減ってるな。」
ボルスがしかめ面で空瓶を持ち上げた。
すました顔でリリィが言う。
「話が弾めばお酒も進むのよ。」
「パーシヴァルと?なんの話をしてたんだ。」
「妬きもちか、ボルス?」
「だ、誰が!」
判りやすい友人をよそに、パーシヴァルは素早くクリスの椅子引いている。
リリイは開けたばかりのワインを差し出して見せた。
「クリス、これ美味しいわよ。・・・あんたも突っ立ってないで座ったら?」
後半は噂の騎士殿に向けられて。
クリスは勧められるまま、ワインレッドに唇をつけた。
ボルスもぶつぶつ言いながら席に着く。

「もともとこれは俺の酒だぞ。」
「細かいことは気にするな、飲め飲め。」
「ボルスのワインの趣味は確かだからな。うん、美味しい。」
「よし、こっちも開けるわよ。乾杯しましょ!」
「おい、ちょっと待て、それは俺のコレクションの中でも・・・」
「いいじゃないの、ねえクリス。」
「うん、いいじゃないかボルス。」
「いいじゃないかボルス。」
「お前まで繰り返すな、パーシヴァル。」


・・・弾けた笑い声に続く、乾杯の声。
ささやかな酒宴の夜は、賑やかに更けていく。










戻。

なんだか自然に出てきたパーシィとリリィの会話。私の中ではこの四人の組み合わせがけっこう基本なんですよ。
それにしても変なタイトル・・・「酒飲みの無駄話」みたいな意味です。たぶん。
2004.10.27