あの日 こぼれた



こいつ、性格悪そうだ。
それが第一印象なんて、怖いから言わない。言えない。
笑い方が意地悪だった。ふと笑う顔に隙がない。底が見えない。
世の女性には受けるかもしれない。
まとう雰囲気は(表面的には)穏やかだし、態度も言葉遣いも(普段は)紳士的。
綺麗な顔で、綺麗な笑顔。
少し皮肉っぽく唇を曲げる癖。
でも、相手を飲むような、どこか見下しているような。
なまじ顔立ちが整っているから、なんだか怖いくらい。
なんとなく、信用できない。そう思った。
あの頃の自分の心情も影響しているのかもしれない。
莫迦にされまい、見下されまいと必死だった。
そんな時に出会ったから。
実際に、その評価は間違っていなかったわけだ。
優しいけれど、やっぱり意地悪だと思う。
別の意味でいい性格。
これも怖いから言わないけど。



あれはまだ仕官学校にいた頃。
親しかったわけでもないのに、奴と口喧嘩をした。
喧嘩とは言わないかもしれない。私が一方的につっかかったのだ。
きっかけは忘れたが、些細なことだったに違いない。
確か、あの日は苛々していた。 性質の悪い上級生にからまれて。
女のくせに。父親が騎士だからといって。当時聞き飽きていたことをぐだぐだと。
殴りかからなかったのは、経験と努力とぎりぎりの自制心の賜物。
その場はなんとか乗り切ったのに、それから奴に会った。
奴のなんでもない言葉、たぶんいつもの軽口で、その時は頭に血が上った。
押し込めていた鬱憤が一気に爆発した。
『女だからと莫迦にするな!!』
確か、最後にそう叫んだと思う。思い切り何かをまくし立てた後で。
周囲の空気が固まっていた。
痛いくらいの視線の中。
それまで面食らったように黙っていた奴、パーシヴァルは言ったのだ。
『女性だという理由で、君を莫迦にしたことは一度もない。』
真顔だった。
『君は優れている。だから嫉妬を買う。愚劣な輩のために、誇るべき属性を否定するの愚かだ。』
沸き立っていた感情が、潮の引くように収まっていくのを感じた。
真っ直ぐな言葉だった。

たぶん間の抜けた顔で呆けてしまった私と、凍りついたままの周囲。
その中で、奴は急に顔を俯け、肩を震わせた。
そして笑い出した。
いつもの口元だけの笑みではなく、声を出した大笑い。
呆気に取られたままの私の前で、奴はおかしそうに言った。
『・・・君でも、そんな風に、怒鳴るんだな。いつか、爆発するんじゃ、ないかと、思ってたけど。』
不自然に言葉が途切れるのは、尚も笑い続けているからだ。
『すごい迫力だった。』
流石に私も我に返った。
思い切り怒鳴ってしまった。おそらく、ものすごい顔で。
顔が急に火照った。そう、火が出るんじゃないかと思った。
真っ赤になった私の顔を見て、奴は余計に笑った。
凍りついた空気はいつの間にか跡形もなく溶け去っていた。

『そこまで、笑わなくても、いいじゃないか。』
『すまない、でもさっきの・・・いつもみたいに取り澄ましているよりずっといい。』
『取り澄ましてなんか・・・!』
『訂正しよう、肩肘を張っているよりは、だな。眉間にしわを寄せているよりずっと似合う。』
『あ、う、と、取り澄ましているのは、お前のほうじゃないか。』 
『生憎とこっちは地でね。君はそうやって発散させるべきだな。』
『・・・やっぱり莫迦にしてる。』
『おや、魅力的だと褒めているつもりだけど・・・・・・』



まともに話をしたのは、たぶんあの時が最初だ。
本当に笑った顔を見たのもあの時。
あれから何年経ったか。
思ってもみなかった、多くの時を共に過ごして。
奴は今でも私の傍にいる。
皮肉っぽくも見える笑い方は変わらない。
変わらないけど少しだけ違う。
ふと笑う顔、前より柔らかくなった。
傍にいるから判るのかな。
気のせいかもしれないから、誰にも言わない。


その方が好きだなんて、付け上がるから絶対に言わない。









戻。


片や女性として、片や平民出身として、単純ならぬ立場にいた二人。 出会う前からそれぞれの噂を聞いて、多少の関心を持っていた。知り合ってからもそれを表に出さないパーシヴァルは、時々からかうような軽口を叩く。 クリスは頑なに他者に壁を作り、あくまで年長者に対する礼儀を失わない程度に反応する。 そんな関係が崩れたきっかけの出来事・・・のつもり。
一応、どちらも士官学校の出で、六騎士になる以前は親しいというほどの仲でもなく、お互いに対等な喋り方という設定です。私の中では。 ・・・このあたりの設定は自分の中で曖昧なので、そのうちぼろが出ると思いますが大目にみてやって下さい・・・。
『君は優れている・・・』云々の台詞は、半ばパーシィさんが自分に向けて言った言葉ですね。
2004.6.3