旋律



「綺麗な曲だな・・・・・・。」
銀の女神が呟く。
彼女の手のひらのには華奢な小箱が乗っており、その中からは愛らしい音色がこぼれていく。

街で見つけたアンティークのオルゴール。
そのデザインと音色に惹かれ、また店の主人の口上にも乗せられて、つい購入してしまった。
早速恋人に捧げにいくと、彼女はちょうど自室で休憩中。
紅茶のカップを傾けている前に、その小箱を置いた。
首を傾げて蓋を開ける仕草に、思わず口元が緩んでしまう。
無意識の、あどけない表情。
剣を掲げ戦場を駆る女神とは思えない。
なんて罪つくりな愛らしさ。

「曲名は判りませんが、どこか懐かしい感じがしていいでしょう?」
彼女は静かに耳を傾けている。
その顔が、僅かに翳っていることに気づいた。
「・・・・・・お気に召しませんでしたか?」
「え、いや、そんなことはない。とても綺麗な曲だ…」
彼女は、そこで俯いた。




   ノスタルジックな旋律。
   小箱から紡がれる音色は繊細で、少しおぼつかない。
   綺麗で、優しくて。
   今にもとまってしまいそうに儚くて。 

    帰ってこなかった父。目覚めなくなった母。
   寂しくなると手に取っていた、居間の隅の小箱。
   埋まることのない椅子に座って、一人で聞いた音色。

   そんな自分がひどく弱い人間であるような気がして、目をやることも避けるようなったのはいつの頃だろうか。
   ・・・・・・あれと同じ音。



「・・・・・・でも、少し切ない。」

細い、消え入るような声。
俯いた彼女の肩を、そっと抱き寄せる。
耳元に囁いた。

「俺は、いなくなりませんよ。」

クリスは驚いたように顔を上げた。
菫の瞳に微笑みかける。
凛とした強さの中に、硝子の脆さを垣間見せる。
その涙もため息も、全て拭い去ってしまいたい。
この女性をどんなに愛しく想うことか。

オルゴールの旋律が途切れがちになり、やがて完全に止まった。
沈黙した小箱の蓋を閉じて、そのまま手のひらを重ねる。

「未来永劫、貴女の傍に。いやだと言っても離れませんからね。」
「・・・・・・パーシヴァル。」

菫色の瞳は閉じられた。
その頬に優しく触れて。
そっと唇を重ねた。





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2003.2.9