薄紅一片
     うすべにひとひら

花言葉は、優れた美人。心の美、純潔。
まさにぴったりですねと言ったら、莫迦と一蹴された。
風が吹くと一斉に花びらが舞う、文字通りの桜吹雪。
その中に立って、無邪気に歓声を上げている。
甲冑姿なのがひどく不釣合いだ。勤務中の寄り道なので仕方ないのだが。
結い上げていなければ、長い銀糸も風に舞ったことだろう。
かきあげる仕草が、桜に負けず艶っぽく。
そんな不埒な視線を気にも留めずに、散りゆく花に見惚れている。
優れた美人。心の美。純潔(辞書的意味なら一番目の方)。
やはりぴったりですよ、クリス様。
視線に気づいてか、怪訝そうに振り返る。
澄まして笑顔を返すと、軽く肩をすくめて、またくるりと後ろを向いた。

「今日中に殆ど散ってしまうかな。」
「名残惜しいですね。」
「うん。折角咲いたのに。散るのはあっという間だ。」

手を伸ばして、散る花びらを掬おうとする。
花びらはその指をするりと抜けて踊った。
愛しむように目を細める。

「では、散ってしまう前に。」

言って、一番近い桜の木に歩み寄った。
枝に手を伸ばし、残っていた散りかけの花を一つ取る。
その手を軽く握って、彼女の前に差し出した。

「散りゆく花の色を消えない結晶にして。」

そっと開いた手の平には、花の代わりに、小さな桜色の塊。
あっと目を見開いた反応に満足する。

「どうぞ。」

摘み上げて、彼女の手に乗せた。
花にはない重みと、硬くて冷たい質感。

「・・・石?」
「紅水晶ですよ。」
「よく見つけてくるな。こういうものを、次から次へと。」
「貴女の喜ぶ顔が見たい一心ですから。」
「失くしてしまいそうだ。」
「構いませんよ。また差し上げます。」
「・・・ねちねち怒るくせに。」
「それは、貴女のためにという心、ないがしろにされれば不機嫌にも。」

こういうモノは失くしやすいのに・・・とかなんとか、口の中で呟いている。
前科があるのだ。構わないと言う割りに、ついねちねち苛めて遊んでしまった。
複雑そうに小さな贈り物を見つめる、その表情に笑ってしまう。
その頭をぽんぽん、と撫でた。

「でも、本心ですよ。貴女が喜んでくれたらそれで十分。
 物はモノ、それを見て今日を思い出して、また一緒に見に来ようと思って頂ければ。」

少し大げさに言うなら、記念の。
思い出すきっかけに。
だからやっぱり、これは桜の結晶なのだ。
疑わしそうにこちらを見つつも、素直に頷く貴女。
気を取り直したように紅水晶を摘み上げる。
白と薄紅、透明と不透明の混ざった結晶。
日にかざせば透かした光が中で踊る。
その向こうで儚く舞い踊る桜。

「きれい。ありがとう。」

ようやく、素直に笑ってくれた。
紅水晶を手の中に包み込む。

「また見に来よう。来年も。その次も。」

跳ねるように歩き始めた後姿に、桜吹雪が重なる。
訂正。花言葉では表しきれない。
微笑む貴女は花よりも。









パーシヴァルがすっかりクリス莫迦(笑)。
100題に珍しくタイトルをつけてみました。お題とはこじ付けですね。季節モノが書きたかっただけなんですが。
クリスはうっかり失くし物・忘れ物が意外に多いような気がします。パーシィは記念日や誕生日でなくてもまめに贈り物をしそうなイメージ。 しかも何をいつあげたかちゃんと覚えていて、忘れて頃にさりげなく思い出させたりするんです。 必死に探すクリスの姿を影で楽しむパーシィちゃん(笑)。当の失くし物の場所を把握していたり。

失くしてはいけないものを探している時。あの焦燥感・絶望感は消耗しますよね。本当につらい。失くし物名人談。