この手を離したらどうなるか。
人の波に紛れながらそんなことを考えた。
気が付けば、後ろ姿は人ごみの中に見えなくなっている。
歩く気が失せて、広場の噴水の前に座った。
振り向いたら驚くだろうな。
後悔と、少しの愉悦。
人の波は絶え間なく行き過ぎる。
ただ通り過ぎていくだけの人々、それはまるで魚の群れ。
無表情、無感情、無個性。
それも悪くないものですよ、と彼は言う。
自分が透明になったようで心地いいんです。疲れていると辟易しますけどね。
冗談めかして笑うパーシヴァル。
いつだって飄々としている。悔しいくらいに。
その気持ちは判らなくもない。
でも、私は嫌なんだ。
「忙しい時にすみません。でもどうしても会いたくて。」
私だって会いたかった。そんな言い方、まるで私が無理しているみたいじゃないか。
「たまにはそちらからも電話して下さいよ。」
怖いんだ。答えがないと余計に寂しくなるから。
「少し顔色が悪いですね。」
お互い様。お前も忙しくて寝てないんだろう?
「今晩は何が食べたいですか?久しぶりに腕を振るいますよ。」
私にはそんな労わり方もできない。
優しい態度が癪にさわる時だってある。
自分が優しくなれない時。
自己嫌悪。
お互いに忙しくてすれ違い続き、やっと二人きりで会えたというのに。
・・・・・・こんなの最低だ。
いつしか目の前に歩み寄ってくる人影。
気づいたが顔を上げない。
「探しましたよ。」
降ってくる声には微量の不機嫌が混ざっている。
少し弾んだ息に、必死に探した様子が浮かぶ。
パーシヴァルだって疲れている筈なのに。
莫迦なことをしたのは判っている。
黙ってそっぽを向いた。
そうしたら、いきなりその腕に包み込まれた。
「・・・・・・見つかって良かった。」
ぎゅっと抱きしめられる。力いっぱい。
途端に湧き上がってくる後悔。
「一人にしてごめん。」
一日一度は必ずかかってくる電話。
出られないこともしばしば、かけなおすのを忘れても笑って許してくれる。
答えがない寂しさは知っているのに。
涙が出そうになる。
何も言えなかった。
体を離した彼は、そんな私の目を見てにっこり笑う。
「さあ、帰りましょう。」
小さく頷いて、差し出された手をとった。
温かかった。
優しさが癪にさわることもある。
それは結局甘えているってこと。
手を離しても、必ず見つけてくれると信じているから。

現代版。サラリーマンとOLな感じで。
ちゃんと設定しなかったためにこうなりいましたが、考えてみれば同じ会社の上司と部下ですよね。
・・・そう読めないこともないかしら。何しろ抽象的だから。(苦笑)
ささくれ立ってくると理不尽なわがままを言うのは私です。
クリスはこんなことしないような気もするし、パーシィにならするかもしれません。
ちょっとおまけ。
「パーシヴァル。」
「なんですか?」
「・・・ごめんなさい。」
「かまいませんよ。これで貴女の気が済むなら安いものです。」
「うん。反省してる。」
「その代わり予定変更です。今夜は気が済むまで付き合って下さいね。」
「え?」
「明日も早いとか言いっこなしですよ。どうせなら有休とるっていうのはどうです?うん、それがいい。」
「え、いや、あの、」
「どうせたくさん余ってるんですし、この辺りで多少使っても文句は言われませんよ。」
「あの、反省はしてるけど・・・」
「帰ったら早速会社に電話しましょう。たまには休まないとね。」
「・・・・・・休ませる気なんかないくせに。」
「流石、判っていらっしゃる♪」
クリス様大後悔。お約束でしょう(笑)