窓からは青白い光が差し込んでいる。
中天に睡みの月。
雲に隠れがちのそれは、どこかぼんやり霞んで眠りを誘う。
歪な白い円、数日中には完全に満ちるだろう。

カーテンは全開で、月光が窓辺の一角を四角く切り取っている。
その中に置かれた大き目のベッド。
窓枠の影が、乱れた毛布の上に歪んだ格子を黒々と描く。
室内は、先程までの熱が嘘のように静かだった。

パーシヴァルはベッドに上体を起こしていた。
素肌を外気に晒したまま、ぼんやりと月を眺める。

以前はなんの感慨も持たなかったその光、今はただ一人の愛しい人を思わせる。
傍らで安らかな寝息を立てる女性。
無防備な首筋や肩が、月光に雪花石膏の如く浮かび上がっていた。
銀糸の髪はシーツの上に乱れたまま。
それはまるで、月の光を結晶化したような儚さと美しさ。
そっと触れてみれば確かな温もりと存在感がある。
肩に毛布を引き上げてやると僅かに身じろぎした。

時折、不安になる。
いつかふっと消えてしまうのではないか。
目の前からいなくなってしまうのではないかと。
だから触れる。
温もりを感じればほっとする。
吐息を重ねれば不安など吹き飛ぶ。
消えたりしない。
自分に言い聞かせるように、パーシヴァルは銀の髪を撫でた。


そっと触れた手に温もりが重なる。
無意識に繋がれる手。
すがるように頬を寄せる仕草。
思わずその手を強く握り返した。
莫迦みたいにこみ上げる愛しさ。


この腕の中でだけは安らかであるように。
寝顔に口付けて誓う。
どんな悪夢にも渡しはしない。
この人だけは。


「クリス・・・」
呟くは聖なる名。
月に類えるが、その芯は自ら光輝く恒星。
その光なしに生きられぬ自分こそ、月の領分なのだと思う。

大丈夫だ。消えたりしない。
触れる素肌が何よりの証。
ずっとこの手を繋いでいる。
それだけでいい。


←back