「はい、できあがり。」
リリィが満足げに顔を上げる。
やっと自由になったクリスの手。
爪にほんのり桜色がのっている。
「ありがと。」
指先がむずむずする。気持ちもなんだかくすぐったい。
クリスが軽くつついてみようとすると、製作者が勢いよく制止に入った。
「まだ触っちゃだめ!乾いてないんだから。」
クリスは慌てて手を引っ込める。
気を紛らわせようと、冷めてしまったカップに手を伸ばした。
そこでまたリリィが声を上げる。
「だめ!」
「え、どうして。」
「あんた絶対に擦るもの。私が良いって言うまでじっとしてなさい。」
そう言って自分は紅茶をすするリリィ。
クリスは頬を膨らませてソファに身を沈めた。
早く乾けと言わんばかりに両手をぱたぱた動かす。
「ところで、どういう風の吹き回しなの?」
「何が?」
「今までは、私がやってあげるって言っても嫌がってたくせに。」
「・・・なんとなく。たまには良いかと思って。」
いつでも放ったらかしのクリスの手に、リリィが見かねて忠告したことは何度もあったのだ。
手袋の下とはいえ、少しくらい女性らしく気を遣ったほうが良いと。
その度にクリスは、面倒だからいい、騎士なんだから必要ない、と断った。
今日、断るどころかむしろ乗り気で手入れを頼んできたクリスに、リリィは内心にやりとした。
これは絶好の機会。
いつ切り出してやろうかと思っていた話題を、出来る限りさりげない態度で振る。
「恋人ができたらさすがに気になるってわけね。」
案の定、一瞬固まったクリスの顔は、意味を理解した途端に見る見る赤くなっていった。
リリィは澄まし顔の裏で得意満面。
クリスは真っ赤な顔のままで口をぱくぱくさせている。
「な、な、な!」
「なんで知ってるかって言いたいわけ?親友のことなんてお見通しなのよ。」
本人は隠している様子。
けれども自分で思うより態度に出ているクリス、周りが見ていて気づかぬわけがない。
しかも相手の方は密かに二人の仲を見せ付けようとしているのだから、とはリリィも言わないでおいた。
「それにしても、なんの報告もないのは寂しかったんですけど。」
「・・・・・・ごめん。恥ずかしくて。」
俯いて、指先をもじもじさせようとした。
と、リリィの鋭い視線に気づいて慌てて離す。
指の先にほんのり咲いた桜色。
たぶん彼女の心の色。
「話してくれる気は、あったのよね?」
「うん・・・リリィには、いつか。」
一応、リリィはその答えに満足する。
女同士の協定。
リリィはお茶請けのクッキーを一枚とって、クリスの口に差し出した。
それをクリスはぱくっとくわえる。
にっこり笑顔を向けると、クリスもやっと笑みを返した。
さて。何から聞き出してやろうかな。
