「わたし、お父さんみたいに強くなるの!」

夕食後の団欒の場、幼い娘が無邪気に言った。
父親は思わず苦笑する。
金髪に蒼い瞳の小さな娘。
愛らしい外見とは裏腹に、随分元気のいい子になってしまった。
つい先日も、近所の少年と大立ち回りを繰り広げ、見事勝利した話が城内で評判になっている。
おてんばを通り越して腕白の域だ。

「それでね、守備隊に入ってお城に来る悪者をやっつけるんだ。」
「セシルはこの城が好きか?」
「うん、大好き!お父さんとみんなで守ってるんだもん。私も一緒に守る!」

そのために毎日くんれんしてるんだから、と胸を張る。
まだ真似事の域だが、剣や槍の扱いを教えてみると、案外筋がいい。
半ば本気で、騎士にもなれるかもしれないと思うあたり、父親はかなりの親ばかだ。
可愛い娘が自分の仕事をこうも慕ってくれるのだから、嬉しくないわけがない。

対して、母親はあからさまに眉をひそめている。
その視線の先にあるのは、娘ではなく、夫の姿。
諸悪の根源は、物心つく前から娘を守備隊に出入りさせた父親だと思っている。

「・・・もう。あなたが訓練に連れて行ったりするからよ。」
「いいじゃないか、セシルがやりたいと言っているんだから。」
「セシルは女の子なのよ?」
「・・まあ、なあ。でも、ほら・・・な、セシル。」

父親は困ったように娘の頭を撫でた。
両親のやり取りを見上げていたセシルは、母親をじっと見つめる。
まん丸な瞳に浮かんでいるのは、少し困ったような色だ。
「お母さんは、守備隊が嫌いなの?」
「そうじゃないの。お父さんの仕事には、お母さんも誇りを持ってるのよ。」
「じゃあ、セシルも入っていいでしょう?」

母親が答えないので、娘はしょんぼりと肩を落とした。

「だめなの?」

反抗されるより何より、そんな悲しい顔をされると痛い。
母親は小さな娘の体を抱きしめた。

「だめとは言わないわ。ただね、お母さんは心配なの。
 セシルが怪我をしたりしないか、辛い思いをしやしないかと・・・
 できるなら危ないことはしてほしくないのよ。セシルはお母さんの一番のたからものだもの。」
「だいじょうぶだよ、お母さん。」
母親に抱きつきながら、セシルは元気に答えた。
「セシルが強くなるまで、お父さんが守ってくれるもん!」

両親は顔を見合わせた。
その後、どちらからともなく微笑を浮かべる。
確信に満ちた言葉。
小さな体いっぱいに、揺ぎ無い信頼感が満ちている。

セシルは母親の袖をつかんだまま、父の方に向き直った。
「お父さん、私も強くなれるかな。守備隊に入れる?」
「ああ、入れるさ。」
父はその頭をくしゃくしゃと撫でる。
「セシルなら守備隊長になれるぞ。」
「ほんと!? わたしがんばるね!」
輝くような娘の笑顔。
母親も苦笑するしかない。

「危ないことはしないでね?」
「だいじょうぶ! ね、お父さん。」
「ああ、セシルのことは、お父さんが絶対に守るからな。」
「うん!」





地方の城の守備隊長と妻、娘。
平凡で温かな家庭。
だがその数年後、両親は娘の成長を待たず、他界する。
残された娘を引き取ろうという親戚もあったが、セシルは頑として城を離れようとはしなかった。


今日もビュッデヒュッケ城の門には、甲冑を着込んだ少女が元気に立っている。
羽飾りのついた大仰な冑に、古びた鎧、盾、槍の一揃い。
チェックのプリーツスカートを揺らして、訪れる人ごとに笑顔で答えるのだ。
「お城の警備は万全です!」と。

彼女はここの守備隊長。
父の遺志を継いで、みんなのお城を立派に守っている。






戻。  2004,3,25
それが彼女の存在の証明。

(以前書いた『祈り』を加筆・修正しました。)