手を伸ばしたら、届く気がしていた。
それは子どもの頃見た夢に似ている。
いつかは叶うと根拠もなく信じていた。
届かないから綺麗な空。
届く気がして悲しい空。
なんとなく気づいたのはあの頃だ。
会いたい人はその向こうに行ってしまったと、聞かされるでもなく悟った時。
  





白い紙にきっちり折り目をつけた。
文書になる筈だった紙は真白いまま、三角形に折り畳まれていく。
書類としてはもう使い物にはならない。
折って、開いて、また折って。
考えなくても手が覚えている。
最初に父から教わった。それから夢中になって工夫を凝らした。
試行錯誤の果ての形。
手の中で、紙は白い翼に姿を変える。
  





得られなかったものは多くても。
手を伸ばしていた頃の輝きは褪せてしまっても。
全てが叶わなかったわけじゃない。
選んだのは自分。
飛んでいけるとしても、きっとどこにも行けない。行かない。
義務と、それ以上の矜持を掲げてここに立つ。
伸ばした指の先に広がる、測り知れない距離。
届く気がして悲しいけれど、届かないから綺麗なのだと知っている。
  






初めて見た時の鮮烈な印象を覚えている。
果てない青を切り裂く白。
迷いなく飛ぶ翼。
子どもの頃から、何度繰り返しただろう。
翼に乗せて飛ばした。
駆け出したい衝動。抑えきれない思い。
やるせなさ。もどかしさ。迷いや怒りも。
今託すとしたら、なんだろう。
滑らかな弧を思い描いて、空へ放つ。





青い空を横切った白いライン。
瞼の裏に焼きつく鮮やかな無彩色。
そして。

「あ。」   






白の軌跡を逆に辿った木の上。
見上げたそこに。   
思わぬところから聞こえた声。
見下ろしたそこに。
  







「パーシヴァル。そんなところにいたのか。」
「貴女こそ。」

同じ庭の、片や木の上、片や木蔭。
言葉をつなぐでもなく、意外なほど近くにいた相手を見つめる。
交わした視線は、間もなく悪戯っぽい笑みに変わった。
どちらからともなく、翼の飛んだ先を確かめる。
何処かに落ちたか、飛んで行ったか、白い紙飛行機は見えなくなっていた。
ただ一面に、過去と未来をつなぐ青が広がっている。
眩しい白の残像は、記憶の地平を心地良く凪いだ。



「飛んだ、な。」


  





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