鈍色の空が泣いている。
雨音は絶え間なく、何かを歌い続けた。
嘆きの声か。それとも呪詛か。
身を切るように冷たい雫。
――天からの恵みさえ私を呪うのか。


ようやく探し当てた女性は雨の中に立ち尽くしていた。
いつもより小さく見える甲冑の後姿。
「風邪を引きますよ?」
クリスは振り向かない。
目の前の暗く濡れた石を見つめている。
傘を差し掛けることを拒む後姿に、パーシヴァルは黙って自分の傘を閉じた。

「・・・昔、聞いたことがあるんだ。
 その死を悼んで泣いてくれる人がいれば、死者の罪は涙で洗い流される。
 だから思い切り泣いていいんだと。」

降りしきる雨。
もの言わぬ石の下には、もの言わぬ抜け殻が眠っている。
クリスの声は呟くように微かで、乾いていた。

「自己満足だろう?
 泣きたいから泣く。
 それは相手のためじゃない、残された自分が哀れなだけだ。」

雨音が一段と強まる。
パーシヴァルは乙女の後ろに佇んだまま動こうとはしなかった。
静かな声で答える。

「残された思いが強すぎると、死者は安らぎを得ることができないとも言います。
 生者の涙に濡れていつまでも重い衣を引きずるのだと。」
「どちらが幸せなのだろうな。忘れられてしまうのと。」
「それは判りません。
 ただ。
 縛られるのも解放されるのも、生きている側の人間だと思いますよ。」

石に刻まれた名。
その名をかつて持っていた抜け殻。
もの言わぬ石。

「・・・でも、私の涙で救われたかもしれない。
 ほんの一瞬でも。
 それが最期だったんだから。」

クリスの肩が小さく震えた。
零れた言葉も震えていた。

「泣けなかったんだ。
 呼ぶことも、手を、差し伸べることも。」

パーシヴァルはクリスの肩に後ろから触れた。
冷たい甲冑はそのまま冷え切った体のようだった。

「泣いてもいいんです。呼んでも、手を伸ばしても。
 自己満足のどこがいけないんです?
 貴女が縛られることなど、ここに眠る方も決して望みません。」

死者の想いは生者が解き放つしかない。
そして、残された者の心も死者にしか救えないのだ。
その場に頽れかけたクリスを、パーシヴァルは抱きとめた。

「・・・言いたかったんだ。
 許しなど・・・答えはずっと決まっていたのに。」

クリスの凍えた頬を、温かい雫が伝った。



「・・・おとう、さま・・・・・・。」

戻。
残す者と残されるもの。より心が残るのはどちらなのでしょう?
生きているからこそ凍える体。
生きているから温めあうこともできる。