書類に目を落としていたクリスは、徐に目を閉じて大きく伸びをした。
そのまま肩を大きく回し、ついでに首もぐるりとする。
一度大きく深呼吸をしすると、何事もなかったかのようにまた机に向かった。
傍らのサロメが頬を緩める。
「一息いれましょうか。」
「うん?まだ大丈夫だ。きりのいいところまで。」
言いながら、書類の束を手に取って、ぱらぱらと気のない素振りでめくった。
それをまた重ねて、つまらなそうに目をこする。
子どものような仕草。サロメは苦笑する。

「一日書類整理というのも疲れるな。」
「体を動かしている方が楽ですか。」
「机に向かうより性に合ってる。よく毎日こんなことをしていられると感心するよ。」
「私にはそちらの方が性にあっていますから。」
「私が普段動いていられるのもそのおかげだ。本当に助かる。」

サロメは手元の書類をとん、とまとめ、目を通した方の山に積み重ねた。
その高さはゆうにクリスの倍はある。
クリスの事務処理能力が低いわけでは、決してない。
内容の違いはあるものの、その手際の良さにクリスは感心するばかりだ。
「いつもすまないな。本来私がやるべき仕事まで。」
「いいえ。クリス様はこれ以上、余計なことにお手を煩わせる必要はありません。」
「仕事だけじゃない。私はいつもお前に甘えてばかりだ。」
「それも含めて、私は自分の役目に誇りを持っておりますよ。」
「・・・ありがとう、サロメ。」

繰り返される会話。
そのたびにもらされる、くすぐったい本音。
これを誇りと言わずしてなんと言おう。
最後の一言は、安堵の溜め息のように呟かれた。
サロメにとって最高の謝辞。

一度書類に向かったクリスは、すぐに悪戯っぽく目を上げた。
「わがままついでにいい?」
「なんですか?」
「お茶が飲みたい。サロメの淹れてくれる紅茶。」

その表情は、子どもが信頼しきった大人に向けるもののようで。
サロメは微笑む。
誇らしくもどかしく、少し切ないその距離に。

「では、これが片付いたらお茶に致しましょうか。」
「やった。よし、さっさと片付けてしまおう。」

クリスは再び机に向かう。
その姿を見守りながら、サロメはとっておきの紅茶のレシピを反芻した。
戻。
初サロクリ。サロメはやっぱりお母さん。
クリスにとっての距離は、むしろルイスに近いようなイメージです。母(笑)と弟。
幸か不幸かは本人次第でしょうか。