<Valentine's present?>
あっと思ったら、目の前は彼の胸だった。
何日も前から悩んで、今朝はそわそわと落ち着かなくて。
今日来てもらえるように文を出していたけど、
いざ当人を前にすると言葉が出ない。
やっと勇気を出して声をかけたら、すぐに胸の中だなんてっ。
心臓に悪いよぉ。
文を貰って君を訪ねてみれば、なんだか落ち着きがないね?
その手にもっているのは、私への贈り物かな?
ふふっ、嬉しいね。
今日がどういう日かは覚えているよ。
君に教えて貰った事を私が忘れるとでも?
恥じらう姿も愛らしいけれど、どうせなら私の腕の中で見たいものだよ。
そう、共寝の朝にね。
◇◆◇
「きゃぁっ」
いきなり手を引かれて花梨が悲鳴を上げる。はだけられた胸に顔が触れる
と、ふわりとよく知った香りが彼女を包んだ。
「ひっ翡翠さんっ」
「おや?お気に召さなかったかな?」
「急に引っ張るなんてびっくりする……っ」
顔を真っ赤にしながら花梨が顔を上げると心臓が大きく高鳴る。
見下ろしてくる翡翠の眼差しが、何を望んでいるかわかってしまったから。
「ふふっ、今日の誘いは何かあるのだろう?」
「そっそれは……」
「この手に持っている物は誰への贈り物だい?」
掴んでいる手の甲へと押しつけられる柔らかいものに、花梨が強く瞼を閉じる。
「ねえ、白菊?教えてはくれまいか……?」
「うゃぁっ」
今度は細い手首をぺろりと舐める感覚に、驚いて花梨の目が開いてしまう。
「ねえ?花梨?」
見つめてくる瞳は悪戯っぽく笑っているが、ちらちらと見え隠れする光が花梨を絡め取って離さない。
「……意地悪っ」
「心外だね。焦らされているのは私の方だよ?」
こんなに待ちこがれているのに…と、揺れる耳朶に彼が戯れに甘噛みする
と、途端に赤くなった首筋が翡翠の男を刺激する。
(まったく、意識していないでこれだからねぇ……)
あまりの可愛らしさに、翡翠は目の前の項に唇を押しつけた。
「……きゃぅっ……」
「教えておくれ?」
ねぇ、白菊?と耳元で囁かれ、張りつめていた花梨の意地が挫けた。
力が抜けた体を預け、安心できる温もりに擦り寄っていく。
「翡翠さんに渡したくて……」
「うん?」
「……好き……」
小さな告白は翡翠に届いた。
途端にぎゅうぅぅと抱きしめられて、幸せな気持ちで花梨はうっとりと頬を寄せる。
すると、急に顎を持ち上がられて強引に口づけられ、顔中に唇が触れてくる。
「翡翠さん……」
「ふふっ、可愛い事を言うのはこの口だね?」
額に、瞼に、鼻に、頬に。
絶え間なく続く囁きと濡れた感覚は、唇へ届くと一変した。
戯れていた唇が執拗になり、華奢な腰を抱きしめる腕が強く絡んでくる。
「でもねぇ、花梨?それだけなのかな?」
「え?」
からかうような声音に花梨が訝しげな顔をする。
精一杯の告白をしたのに、それだけとはなんだろう?
じっと端正な顔を覗き込んだ次の瞬間、耳に甘い毒が注ぎ込まれる。
「申し出の返事はいただけないのかな?」
「あっ……」
『一緒に伊予へ行こう』という誘いに、もうひと月も返事を延ばしていた。
その答えが欲しいと彼は言っているのだ。
「花梨?」
衣掴んで離さない花梨に翡翠が誘うように名前を呼ぶ。
その声の甘さに、花梨の中でふっと甦ったものがある。
共に海を見ようと言ってくれたあの時に、予感めいたものを感じ取ったのだ。
---------いつかは翡翠と海にゆくのだと。
どんなに抑えても不安は離れない。大人の彼にはわからない事も多い。
でも、翡翠から離れる事を思うだけで、心が凍えてしまうような気がする。
もう、この人の傍でしか笑う事は出来ない。
翡翠の衣を掴む手に力が入り、髪を揺らす吐息に肩が震える。
彼を見上げていた顔が伏せられて、瞼が閉じられた。
やがて、こくん…と首が縦に振られると、彼の胸に小さな顔が押しつけられる。
言葉に出さない肯定を貰い、翡翠が頬を薄く染めて微笑むと、大きな手がさらりと柔らかな髪を撫でつけた。
次の瞬間、花梨の体は逞しい腕に抱き上げられてしまっていた。
「あっ!」
浮遊感に驚く花梨の目の前に上機嫌な翡翠の顔がある。
「では、姫君の気が変わらないうちに」
「翡翠さんっ!」
「船に乗るよ」
「そんなっ!紫姫に何も言っていないのにっ」
「後から文を書けばいい」
「みんなにも言っていないですよっ!」
歩き出す翡翠に抗議する花梨に、彼は事もなげに言い切った。
「ダメだよ。もう答えは頂いたのだからね。いまさら反故は聞かないね」
「翡翠さぁんっ!!」
「覚悟しなさい」
にやりと笑みを浮かべる翡翠は、まさしく海賊で。
これは少々早まったかも…と、早くも後悔する花梨だった。
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当サイトの2003年バレンタイン・フリーイラストを攫ってくださった、
『綾草紙』の管理人・篠宮瑞希さまが、『綾草紙』さまへイラストを飾って
くださる際に、こんなに素敵でドキドキvvなお話をつけてくださっておられまして。
拝読させていただいて即、もう恥も外聞もなく、くださいっっ!! っとお願いして
しまいました(汗)。
篠宮さま、礼儀知らずにも唐突で強引なお願いをしてしまいまして、
申し訳ございませんでした。
そして、一方的なわがままにも関わらず、ご快諾くださいまして…
本当にありがとうございました(感涙)。
篠宮翡翠さんは、ウチの翡翠さんでは足元に寄れないくらい、
優しくて強引で素敵な翡翠さんですよねvv
花梨ちゃんも、愛らしくて健気なカンジが…もう、たまらないです(笑)。
こんなにかわいい花梨ちゃんなら、翡翠さんならずとも速攻拉致って、
誰にも見せずにこっそり大切にしまっておきます(←犯罪だってば)。
花梨ちゃんが「石原の里」の渡しで、もしも始めにわたしに出会っていたら、
「遙か・2」の物語は始まる前に確実に終わっていたでしょう(笑)。
拙いわたしのイラストから、あんなに幸せなふたりを描き出していただきまして、
嬉しくて嬉しくて『歓喜の舞』を舞い中です(笑)。
篠宮さま、本当にありがとうございました。
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