|
木漏れ日
「君が、クラヴィスだね」 「はい、そうですけど」 「そう」
その人はそれだけ言うと僕の頭にぽんと手を置いて行ってしまった。 そのまま外で遊んでいてもなんだか胸がざわざわとして、僕は母さんの下へ走っていった。
「闇の守護聖……発露が認められ……ただちに聖地へ……」
そっと扉を開けて聞こえてきた言葉たちの意味は、わからなかった。 ただ母さんの瞳に何かが光っているのだけが見えた。
「母さん……どうしたの?」
でも答えた時の母さんは、何にもないように笑っていた。
「あのねクラヴィス。あなたはこれから少し遠いところに行くの」 「僕一人で? 母さんや父さんは?」 「私たちは行けないの。でも大丈夫。クラヴィスならちゃんとできるわ」 「……やだよ。そんな、知らないところに一人で行くのは嫌だ!」 「クラヴィス……」
母さんは少し困ったような顔をした。そこにいる男の人も目を伏せたまま黙っている。
「クラヴィス。人はね、いつか必ず親しい人の下を離れるのよ。それがいつになるかはそれぞれだけれど、必ず離れなくちゃいけないの。でも怖れることは何もないわ。あなたが行くところ全てに、必ず新しい道が開けているの。そこにはきっと嬉しいことが待ってるわ。そりゃ悲しいこともあるだろうけど、嬉しいことの方がずっと多いわ」 「……ほんと?」 「ほんとよ。お母さんはあなたよりずっと長く生きている。その私が言うんだからほんとよ……」
「……ヴィス様……クラヴィス様!」 「……そなたか」 「そなたかじゃありません! そんなところでうたた寝してると風邪を引きますよ」
いつのまにか眠ってしまったらしく、黄金色に波打つ髪を持つ少女が私の顔を覗き込んでいる。 柔らかな曲線を描く髪から同じように黄金色の光が零れて、それがあの時の木漏れ日とよく似ていた。
「どうなさったんですか? いつまでもぼんやりして」 「ぼんやり?
それはいつもの私と変わらぬということだな」 「もう、誰もそんなこと言ってないじゃないですか!」 ふざけたように手を上げる少女を見ながら私は母の言葉を思い出す。
―― そこにはきっと嬉しいことが待ってるわ。
「確かに嬉しいことが待っていたな」 「はい?」 「……いや。独り言だ」
そして私はあの時の木漏れ日とよく似た風景の中で、私に光を与えてくれた少女に向かい右手を差し伸べた――。
|