略奪された ひとりの……






「あのポスター、すっごい騒がれているんだよって……今更私が言うまでもないけど」


元宮 あかねは、目の前にいる、今巷で騒がれている二人の内、
目の前にいる一人に向かって実に楽しそうに言ってのける。


「あかねちゃ〜んっっっ」


だが、言われた方は居た堪れないし、身の置き所にも困る(笑)。

多分そうなるだろうとは覚悟していたが、いざそれが本当になると余計その気持ちは強くなる。

しかも困った事に、相手に悪気はまるっきり無いのだ。

そして、又こんな発言などをしてくれる。


「でも花梨ちゃん綺麗だし、翡翠さん素敵だし、当然と言えば当然か」

「ひ〜〜んっっっ」


妙な悲鳴を上げている方、つまり今巷で騒がれている少女・高倉 花梨。

彼女を一言で言うのなら、『灰被り少女』。

因みに英訳すると『シンデレラガール』である(素直にそう言おうよ)。

今回の○○のイメージモデルに抜擢された事では、確かにそうなのだ。

だが彼女はあかねの母親の桐生 笙子同様、舞台女優で。

大御所と言われる大女優・黛 しのぶの秘蔵っ子で。

TVには出てないので、知名度はアイドルよりは落ちるかも知れないが、それでも彼女の立つ舞台は通路すらなくなってしまうと評判が高い。

しかし、今回、何の因果か、○○のイメージガールに抜擢されてしまった。


だが、当人にしてみれば、姦計に嵌ったとしか思えない。


それも橘 翡翠の所為で(大笑)。


そりゃあ、撮影などで水着を着てポーズを取った事はあるが、それとこれとは違う筈だと思う(爆)。


彼女の後見でもある黛 しのぶの、たっての頼みだから、引き受けたもので。

集団の、それもエキストラと言う代物で、なのだ。


何でこんな事になったのか、未だに謎に包まれている。


それもこれも、翡翠の所為で(←ここ重要/大爆)。













「で? 花梨ちゃん。一つ聞きたいんだけど」

「うん、何? あかねちゃん」

「『あの』翡翠さんの左手は何処?」


何時の間にか、あかねの目が据わっている。


「あかねちゃんっっっ」


当然、花梨は焦ってしまう。


「事と次第に寄っては……真剣に話し合わなくっちゃね。翡翠さんと」

「ええ〜!?」

「いくら翡翠さんでも、花梨ちゃんに不埒な真似なんかしたら……」





「おやおや」


不意に、背後から楽しげな声が聞こえてきた。


「翡翠さんっっ」


そう件の人物である。

どこか油断のならない雰囲気を身に纏わせて、にやりと口許を歪めている。

手強い男が、そこにいる。


「こちらのお嬢さん達、実に楽しそうな事を話している様だね」

「こんにちは、翡翠さん」


あかねはにーっこりと笑いながら、それでも視線は鋭く相手を睨み付けて
いる。


「久し振りだね、あかね。暫く会わない間綺麗になったね。その所為かな? 面白い事しているそうじゃないか」


だが、それを頓着しないで、彼は堂々と着席をする。

それも、花梨の隣に、だ。

あかねの表情が変わったのは言うまでもあるまい(笑)。


「お褒めの言葉をありがとうございます……まあ色々とありましたし」

「本業はどうしたの? もうお許しが出たんだろう? 桐生先生から」

「勿論……無理しない様にしていますよ、そうしないと又怒られちゃいますからね」


あかねは、一時期の母方の祖父の様相を思い出して、溜め息をついた。


「なるほど、ね」


翡翠はくすくす笑うと、知己でもある老人を思い浮かべる。




「ところで翡翠さん?」

「何かな? 花梨」

「どうしてここに?」


自分があかねと会う事など、彼に言った覚えは無い花梨であった。


「それは……」


「勿論、私が教えてあげたのだよ」


四人目の人物の登場である。


「友雅さん」


花梨の声に、あかねはぎょっとした。

何で、この人物が、ここにいるのだろう?

実の所、彼女は今日、この人物にだけには会いたくなかったりするのだった。

翡翠とそっくりな顔立ちをしながら、彼とは全然違う雰囲気を醸し出しているこの男には。

そう、本来、あかねの本日約束の相手は友雅だったのだが、花梨との時間をひねり出す為に、数日前に、日にちをずらしてもらったと言う、過去(?)が、
二人の前に立ちはだかっていたりする。



「やあ……姫君達」


だが、そのささやかな願いを叶えてくれる存在は、どこにもいなかったらしい(……)。



「じゃあ、行こうか? 花梨」


問いかけの形態を取っているくせに、すでに翡翠は彼女を立たせている。


「え? ええ?」


いきなりな展開に、既に花梨はついて行けていない。

その間に、翡翠は花梨を連れて、既にその場を離れている。


「ひ、翡翠さん……」

「今回は私を優先させてくれないかな?」


普段の彼からは想像もつかないその表情に、花梨は呆然としてしまう。


しかし、


「ちょっ……と、ま」


あかねは当然、止めようとしたのだが、


「あかね」


それを止めたのは、当然。


「友雅さん、何でっっっ?」


呼ばれた相手は、苦く笑いながら、こう言った。


「何でって……あかね。君は、馬に蹴られたい? 豆腐の角に頭ぶつけたい?


あかねはその言葉に溜め息を付いた。

まあ、彼がここに来た時から、大体こんな事になるのではと思っていたのだ。

それでも、花梨と会うのは久し振りだったので、少しでもおしゃべりしたり、近場にでも遊びに行くつもりでいたのだが。


「……」

「あ、あかねちゃ……」


花梨は、あかねが自分との時間をとる為に頑張ったか、良〜く解かっているので、どうにかしようとしたのだが、


「花梨ちゃん、また空いている日、教えてね。今度は無粋な人がいない時に『ゆっくり』会おうね


にっこりと笑って、あかねは言った。

何気に嫌味に響くのは、気の所為ではないだろう(笑)。


「あかねちゃんっっ」

「……友雅さんの叔父さん(!)のお願いだし、今回は引き下がりますよ、私」

「あかね」


事実ではあるが、あまり公になっていない事をさらっと口にすると、あかねは翡翠に視線を向ける。


「……ちょっと、ひっかかりをおぼえなくもないが」

翡翠は苦笑しつつ、

「それじゃ、花梨は戴いていくよ」

「あ、あかねちゃん、ごめんね〜。後で絶対埋め合わせするから……」

目も覚める様なスピードで、翡翠は花梨を連れてこの場を去っていたのである。






その竜巻の様な状況の。


後に残されたのは、当然。





「行っちゃいましたね……」

「そうだねぇ。私達も出ようか? あかね」

「そうですね……これ以上目立つの嫌ですし」


何を今更だが、ここは一応『公衆の面前(核爆)』なのだ。


「だろうね……」

「行きましょう? 友雅さん」











さて。


では説明しようっっ(戦隊物のナレーション風にお願いします←コラ待て)。

翡翠と友雅は年齢は一緒なのだが、血統上はれっきとした伯父と甥なのである。

早い話、友雅の祖父にして翡翠の父親が、見かけ同様中身も若かったという事だろう(……)。

先妻(友雅の父親を産んだ女性)が亡くなってから暫く独り身でいたのだが、ある日いきなり自分の子供と言っても差し支えの無い若い娘を後添いに迎えた。

それが翡翠の母親である。


まあその辺りは色々な確執があったらしいが、今は一応は沈静化の方向にある。



だが、これからどうなるかは解からない(笑)。


不確定因子など何処にでも転がっているのだ。














「翡翠さんは今度は何処へ出かけるの? 友雅さん」


因みに、二人が今いるのは、友雅の工房にあるテラスである。

友雅のデザインした物は大体ここで形になるのだ。

その後、別の工房にいくものもあれば、そうならないものとに分かれて、橘 友雅の作品は市場に流れていくのだ。



「さあ、詳しい事は聞いてないけどね……ただ少し長くなるらしい」

「なるほど、道理で何時に無く強引だった訳ですか」


あかねは、その理由に漸くの納得をみせる。


「まあ、気持ちは解からなくはないからね」


そうで無ければ、日頃それ程付き合いの無い叔父(……)の頼みなどきかなかっただろう。



「う〜ん……花梨ちゃんに聞きたい事あったんだけど、次に会った時にでも聞いてみようっと」

あかねの言葉に、友雅は当然ながら反応する。

「聞きたい事?」

「うん……にーさんが

要が?


おや? と言う表情を、彼は隠す事はしない。


妙に花梨ちゃんの事を聞いてくるの

……

それも真剣な表情で


自分が言った言葉に、あかねまでその通りの表情を浮かべてしまう。


「そう……」



この時、二人の心の中に、同じ懸念(?)が過ぎった。









そして、数ヵ月後、それは、見事なまでに的中する。


当事者ばかりではなく、それ以外のものも巻き込んでの大騒ぎに発展したのは言うまでもあるまい。



それが花梨にとって、良い事なのかそうでないのか。





未だ誰も判断はつかない。










 The End.









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…というわけで、当サイトの一周年記念イラストを攫ってくださった、
杜 沙耶子さまのサイト
『The Faraway Borderland』さまからの
文字通りの略奪品でございます(嬉)。
(お話の冒頭に出てくる「あのポスター」がこちらです/照れ)


杜さまの書かれるお話は、とても綺麗で繊細で…そのくせ楽しくて
いつも本当に憧れておりました。
いつかイラストとか…描いてみたいなぁ、と思いつつも、
あの世界を壊してしまうかと思うとずーーっと二の足を踏み踏みしておりました。
が、この度…杜さまの方から恐れ多くも、
わたしのイラストが元というお話を書いてくださいまして…(感涙)。
…内心、『棚ボタ』とか『飛んで火に入る…』とかいう言葉が、
ぐーるぐーるしてたのは、内緒です(鬼畜)。

杜さま、わがままを許してくださいまして本当にありがとうございました。


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