彼の叫び
2003年4月21日
私の中でよく誰かが叫んでいる。
何と言っているのかはわからない。英語なのか。日本語なのか・・・。
もし日本語だとしても私には理解できない言葉であった。しかし、彼の叫んでいる内容はだいたい分かる。
自嘲と嘆き、蔑み、そして自分への殺意。
彼は自分の事を消してしまいたいようだ。しかし、彼には実行出来ない。
それだけ彼は弱い。叫ぶしかもう道の無い人なのだ。
私は彼の声をよく暗闇に入った時に耳にする。泣いているのか怒り狂っているのか。さっぱりわからないが、この叫びが安易に消せる物ではない事は分かっている。
彼は私が油断した時にでてくるようだ。特に寝る直前は確率が高い。
高いというかその時にしか現れてこない。
私は彼が何者かをもう知っているつもりなので、別に止めようとはしない。
心を落ち着かせて、彼の心も少しずつ落ち着かせるといつのまにか聞こえなくなっている。別に彼が黙ったからというわけではない。彼は叫び続けているのだ。何度も何度も奇声を上げる。 しかし、音が大きすぎるとそれ自体が無音になる。変化があるから音と認識されるのだ。しかも彼の声は本当は存在しない。私の中だけの声なので叫び続けさせるとその声が頂点に達した時に真っ白な無に変化する。これは私にしかわからないであろう。
昔は恐かった。誰かわからなかった。誰が私の中で叫んでいるのだろう。誰か止めて欲しい。そう思いながら、他人には聞こえない声という事だけは理解していた。
しかし、分かってはいても毎日叫ばれた時は、恐怖のあまり「やめて!」と叫んだ事もある。叫んでも意味はなかった。私以上の大声で彼は叫び続けていた。
恐くて恐くて、布団の中で包って、いっそのこと耳が聞こえなければとも思った。今考えると意識の中の声なので、耳が聞こえない方がよりクリアになるのではないだろうかとも思う。
私は今、彼と脳の中で同居している形になる。彼はいつもうずくまっている。暗い世界で孤独にさいなまれている。別に見たことはないがそんな感じがする。
彼はもうひとりの私。私の産んだ人間。なぜ、いつ、出来てしまったのかはわからないが知らない内に私の中に入っていた。
子供の頃「あばあさんの声が聞こえる」と泣いて親を困らせた経験がある。誰かの声を聞いて振り向くと、誰もいないという事がある。うとうとと寝ている時に父の叫び声で起き、父が旅行中だった事を思い出す時もある。その声は私の中だけで生まれた物であると気付くには結構時間がいった。
彼は今日も私の中で叫んでいる。しかし私は恐くない。誰だって叫びたい時があるのだ。私だって彼に代行してもらって叫ばなくてすんでいるだけなのだ。
私のこの脳の中の彼を誰かに話すのは恐かった。誰から見ても異常だと感じると思ったからだ。良くて精神病者である。
しかし、最近話してみたい人に出会い、話してみた。その人は最後まで聞いてくれた。私はその話でその人が私にどんな目を向けてくれても構わないと思った。恐かったが話したかったのだ。そして、その人なら、分かってくれるような気がしていた。
その人は理解はしなかっただろうけど、真面目に聞いてくれた。そして彼の事を少しの間話して、それで終わった。その後のその人の私に対する態度は少しも変わらなかった。
嬉しかった。