世の中には自分に似た人が三人いるなんて申しますが、こと狛犬の世界に限っては、あちこちに双子や従兄弟がいっぱい!皆様からいただいた狛犬の中から、そんなそっくりさんたちを少し考察してみたいと思います。
というわけで、今回のお題は 「兄弟と従兄弟たち」 
写真の左側の列を「兄弟」、右側の列を「従兄弟」と分類してみました
筥崎宮(福岡市箱崎・狛太郎)         警固神社(福岡市天神・EZMさん)
まずこの二頭から始めましょう。この二頭はそっくりではありませんが、どことなく似た感じです。パーツの形は異なるものの、それぞれの配置がよく対応していると思いませんか?警固神社の方が、体の引き締まり具合や髪の表現などに、高度化と洗練が見受けられます。その分、様式化が進み、「味わい」の点では筥崎宮の方に分があるように思われます。
護国神社(福岡市中央区・めんそ〜れさん)   小国神社(熊本県小国町・へのさん)
それぞれ上下同士が同型です。護国神社のウンの頭頂に一角があることをご注目下さい。狛犬(ウン)は本来、一角獣なのです。またこのタイプは全体が三角形をなす造形で、逞しさと安定感が身上です。これに対し、小国神社のものはブロンズで、精悍さが強調されています。
箱根神社(神奈川県箱根町・あまさん)   東照宮(東京都台東区・てんもりさん)
やはり上下同士がそっくりですが、左右にも相通ずる印象があります。箱根神社のものは、このタイプにはそっくりさんがいる、ということを気付かせてくれた貴重な原点となりました。東照宮のものには江戸系の意匠が施されていますが、前肢のとげのような飾り毛など、「従兄弟」系列に間違いないのです。
大宰府天満宮(福岡県太宰府市・狛太郎) 護国神社(福岡市中央区・めんそ〜れさん)  
「兄弟」の系列は首回りの鎧のような飾り毛と、太く逞しい脚が特徴です。左はそれを忠実に踏襲しています。護国神社のものは「従兄弟」の系列としては四肢が短く、体つきも丸っこく造られています。この左右はフォルムが似ており、「年の離れた兄弟」くらいの相似性があります。
香椎宮(福岡市東区・へのさん) 代々木八幡(東京都渋谷区・あまさん)
香椎宮のものは前肢の太さが極限まで強調され、頭部は逆に小さく表現されています。「兄弟」の特徴を最大限に押し出した一品です。一方代々木八幡のものは、「従兄弟」系列の中では最も脚の逞しさが強調されていて、左右の類似性が強くなっています。ただ、「従兄弟」系列のものはどれも顔をまっすぐ前方に向けており、アウンが互いに向き合う体勢に特徴があります。
これが「兄弟」「従兄弟」の原型!
この写真は丹後海陸交通株式会社の高杉様のご好意によるものです。
写真が入手できず、同社にご相談したところ、高杉様が個人的に提供して下さったのです。有り難うございました。このように使わせて頂いております。
籠(この)神社(京都府宮津市字大垣30)

籠(この)神社は名勝天橋立に近い宮津市にあります。「元伊勢」と称し、伊勢神宮外宮の発祥地とも言われる古社です。この狛犬は鎌倉時代作と伝えられ、日本最古の石造狛犬として重要文化財にも指定されています。
ヒヒ退治で有名な岩見重太郎に切られたという刀傷が、アの前脚に残っています。それはともかく、見れば見るほど「兄弟」系そのものです。そして鎌倉彫刻の雄渾なタッチを彷彿させるものがあります。どうでしょう、「兄弟」系はこのモデルの忠実な踏襲で、「従兄弟」系はそれを更に様式化した発展形と位置付けられないでしょうか。なお、アウンが微妙に造り分けられていることにご注目下さい。やはりアとウンは別の動物であることを、ご理解頂けるでしょう。

さらに言いますと、鋳物(キャスト)製品がモデルだった可能性を、尾の形に見ることができます。当初から石造として構想されたのであれば、欠けやすい材質を考慮して、このような危険な造形は忌避されたでしょう。事実、江戸時代に石造狛犬が一般化する過程では、決してこのような耐久性無視のサンプルはありません。

狛太郎のこれまでの観察によりますと、石造製品の耐久性は砂岩で100年、佐賀で一般的な安山岩では300年です。籠神社の狛犬が鎌倉時代作とすれば、何と700年ほど前のものということになります。ノミ跡も鮮やかに保存されているこの狛犬が、室内用でなく参道用であったことを考慮すると、ただちにそのまま納得することは出来ず、より精密な考証を要するものとの疑念を禁じ得ません。しかし、ともあれこれが「兄弟」系の原点であることには異論の余地はなさそうに思われます。

こうした考察ができるのも、投稿して下さった皆様のお陰です。ご協力有り難うございます。拙稿で幾らか楽しんでいただけたとすれば、狛太郎のささやかな恩返しです。これからも、よろしくお願い申しあげます。
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