めにゅー和漢百魅缶│白い黄粉坊│

氷厘亭氷泉



  夢紫樓にいさんが絵の一部分をゆびさして「これ、くずもちたんのリアルバージョンなのッ?」と、尋問してきので「そうです」と答えたら「どこが葛餅なんだーーーー!!」と抱きしめられながら呶鳴られた。

  その時ゆびさされたのが、「黄粉坊」と大体おんなじデザインをしてる、この、真っ白い色のコ。

白い黄粉坊くずもちたんのモトはこんな顔だい

  そんなイチャモンつけられても、そもそも「黄粉坊」自体、モトモトの絵は「どこがどんな風にきなこなんですか」って具合なんだから呶鳴られ損のよーな気もするのですが、ま、そこはどうでもイイや。



  『嬉遊笑覧』に、狩野の絵巻は形から名前つけたという妖怪が大半と出てるように、「おとろし」だとか「さかがみ」だとか、大部分がデザインされた形が主で、名前は単に呼び分けるための符牒――添え物に過ぎないようで、名前なんかはたびたび違う。

   たとえば、「わうわう」っていう、ざんばら髪の中に大口あけた顔がのぞいてる妖怪さんは、「わらわら」だったり「うわんうわん」だったり「おどろし」だったり、果ては鳥山石燕には「苧うに」なんて名前つけられたりしてて、描かれるたンびに名前がクルクルランド。

わうわうわうわう

  絵手本として色んなひとの間を経て描かれるにしたがって、勘違いとかお漏らしが起きて、その結果ばらばらになったんだと思うケド、

  「あーー、このおばけの名前わかんないでござるよ!」ってときは、気分でつけてたのかネ。テストの答えがワカンナイときに、無理矢理になんか答えらしき文字ヒネクリ出して空欄を埋めちゃうみたいに。



  で、この、白い「黄粉坊」ですが、蕪雪(ぶせつ)という明治時代のひとが描いたものにある絵で、リチャード・ゴードン・スミス(Richard Gordon Smaith)というヨーロッパの殿様道楽みたいなことをやってた御仁が、日本の昔話を集めた本を作ったとき、その下知によって描かせた一枚であります。

  (荒俣宏センセイの翻訳で角川書店から出た『ゴードン・スミスの日本怪談集』の表紙の絵にもなってるので、実物をじっくり観たいひとはごチェックあれ)

  はじめからトートーパァパァと、白い「黄粉坊」と言っていますが、蕪雪の絵は妖怪をドバッと一画面にすしづめに並べ立ててる構成なのでで、ひとつひとつに名前を書きしるして描いてはいないから、正しく「黄粉坊」なのかは不明。

黄粉坊のアレは鼻?触覚?黄粉坊

  だけれど、口の開き具合や並んだキバ、その上にある鼻の穴だか触角だかの線対称な曲線といった明らかなる特徴部位は、ほぼ一致してるので、おなじ妖怪の画がモトになってるんだろうナって事は、見くらべてくれれば、わかるはづ……。――ここらへん、なんだか生物の授業みたいだネ。



  でも、いまのところ「黄粉坊」が「黄粉坊」の名前で確認されてるのが松井文庫に収められている『百鬼夜行絵巻』だけなので、

もしかしたら、もともと狩野の絵巻物に描かれてたのは、コッチの白いほうだったかも知れないネ……という妄想が浮ぶ種子にも、なると言えばなります。ハイ。……ヨクワカンナイネ、やっぱり。



up 2010.06.19

つつぎ → かすくらいvs黄粉坊(『大佐用』vol.31)