くじかのち 麕の血

くじかのち(麕の血)

日本では見ることまれだと言われているけものの血で、この血を混ぜた刺青[いれずみ]をほどこされると、くじかの霊力で、刀を見たダケで体がびくびくがたがた震えちゃう臆病者になってしまうんだトカ。

☆ 莱莉垣桜文 附註
『けいせい魔術冠』(1766)というお芝居に登場しているおまじないの一ッで、父親に「あんな短気な乱暴者にはアブナっかしくて嫁にやれん」とクギをうたれた鵜の羽が、恋人の品川四郎にこれをほどこして刀恐怖症な「臆病やまい」にしていた、という展開に使われています。(結局、刺青の箇所を戦いの相手に斬られる事によってこのまじないは解けます)

並木正三『けいせい魔術冠』曰
四郎「すりゃ、今までの臆病は、刺青[いれずみ]の業[わざ]であったか。おのれ。 有常「くじかは高麗[こま]の海中[かいちう]に住んで、未だ日本へ渡る事稀[まれ]なり。刺青の因縁[いんえん]、とんと聞き届けた。女房が功に依って、今こそ勘当[かんどう]赦[ゆる]したぞ。

「くじか」こと「きん」(麕)は、『三才図会』などで「人食其心肝者便即小胆若素懦者」と記されていて、その肝などをたべると臆病者になっちまう、と言われていました。(麕が水に映った自分の姿にびくびくするという俗説から出たもの)この血のおまじないは、それを下に敷いて脚色したもの。

和漢百魅缶│2011.03.06
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