おにはんせん 鬼飯銭

おにはんせん(鬼飯銭)

阿州の慈光寺というお寺に、むかし悪い僧侶がふたりいて、お酒や美食、女色にふけっていました。ある夜、いつものごとく大層よっぱらって帰ってきたこの僧侶たちが、のどがかわいたので井戸の水をくんでいると、その中に一匹の蛙[かえる]のようなものが入っていて、「これはなんだ」思った矢先にそれがむくむくと巨大な鬼に変化して、「悪行つみし愚か者ども、始終の飯銭[はんせん]を出せ、出せ」と大音声でわめき散らしだし、その「飯銭、飯銭」の声がいつまでたっても止まぬので、ついに悪い僧侶ふたりは寺から逃げ出して消えてしまったんだトカ。

☆ 莱莉垣桜文 附註
このはなしから、飯銭寮[はんせんりょう]という学寮がこのお寺にはありました。ただし、鬼ではなく、婆が井戸から出て来る別の話も伝わっています。「飯銭」は、漢語でいわゆる「食費」のこと。

和漢百魅缶│2012.08.14
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