磐州白河郡の小田川村に出たというもの。むかし、村の近くのななまがりと呼ばれる坂道に「鬼が出る」と大騒ぎ。あるひとは「あれは鬼なんかじゃない」あるひとは「あれは鬼ではなくてわしの徳が高いからあらわれた瑞獣だ」など言うなどいろいろと取り沙汰されたり怖がられたりしたそうですが、猟師が鉄砲でズドンと撃ってそのかたちをじっくり確かめたところ、一頭のくらしこ(かもしか)だったソウナ。
☆ 莱莉垣桜文 附註
松平定信『関の秋風』曰
「七まがりといふ坂に鬼出づといひ出でたり。我も人も打ちつれて見に行きけり。見きといふもあり。又は見ざりきといふもありけり。見きといふにも心々にてかはりたるにや形も一定ならず聞えしかばいよいよ鬼なめりとてみなみな西へ後みせぬはなくこの事いはぬ人もなし。よく見たる人のかたりしには 鬼にてはあらざりけり。獣なり といふ。我はがほにかまへて高くしたる人は 我が徳にて名に負ふけものの出でしにや と思ひたるもありけらし。その後狩人銃丸にて打ち留めたるわ見れば羚羊[れいやう]なりけり。ここらにては くらしこ といふ。」
和漢百魅缶│2014.01.09
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