風になびく、長い、髪。
ねぇ、と声をかけると振り向いて、笑った。
…、顔が、ぼやけて、ハッキリと見えない。
だけど、なんとなく、可愛い、そう思った。
“よしひろくん”
俺の名前を呼ぶ。かわいい声だなぁ。
手がのびてきて、引き寄せられる。
ああ顔、ハッキリ顔を見たい…。
“と・き・わ・くぅーんv”
…!?
さっきとはうって変わって重低音。
え、こわい、いやな、すごいいやな予感がする。
近づく、近づいてくる、顔。
「ときわくぅーん!!」
「ギャアアアアアアア!!! い、稲荷ーッ!」
「キャア!」
ハモる声。バッと見開いた目であたりを視認する。
「ゆ…め、」
暗い部屋、聞こえるのは時計の音。
背中にいやーな汗をかいている。
「う…ん?」
…ハモる、声? ハモる? なんでだ?
いやだって、ここは、俺の部屋。俺一人の…、
やな予感がする。たぶん、これは、夢ではなく。
ちょっとだけ、ほんの少しだけ、足をずらすと、明らかに、自分以外のぬくもり。
認めたくない事実、ソプラノの正体。
バッ、ふとんをめくる。
「はぁい♪」
「…!!」
しなやかな下肢、控えめな光で暗闇に浮かび上がる白い素肌。
…す・は・だ!!
床に落ちている、パジャマが確認できた。
「馨、オマエ、なにやって…!!」
「やだ、お兄ちゃん、昨夜のこと、酔ってたからなんて言い訳、通用しないんだからね」
…!!
自然と、涙がこぼれました。
常葉義弘(17)、健全に、日々を過ごしたい普通の男子高校生。
モテたいとか、彼女欲しいとか、そんなワガママは言わない。
ああ決して、言ったりしないから!
、俺のまわりから、変人全てを取っ払ってください…!!
「お兄ちゃん、泣いてるの? ヨシヨーシ」
「お前のせいだよ…!」
よしくんは潔白です。