うへーんうへーん
 こわいよこわいよーぉ





 馨、5歳の夏休み。
 おばあちゃんの家に行ったとき、大きな栗の木が珍しくて、ワクワクしながら登った。
 節々に足をかけ、ようやくやっと上り終えて。
 しっかしとした一本の太い枝に腰を下ろすと、なんていい眺めだろう。
 海の近くだったから、海が見えたらいいなと思ってたけど、ここは高台、そしてこの木の高さも手伝って、町並みも一望できた。
 ひとしきり感動し終えた後、おなかも鳴ったから、お母さんにおやつをせがもうと、木を降りるため地面までの距離を確かめた。





 …あーら?





 上るときは夢中であまり気にならなかったのだけれど、なんか予想外なほどの高い位置に。
 はじめてそこで、自分が今どういう状況なのかを把握した。
 これは、降りられない…!
 …ていうか、



 どうしよう、コワイ…!!



















 母親といっしょにおばあちゃんの作った牛乳ようかんを食べているとふと、あれ、馨がいないなと気付いた。
 となりで話し込む母親に聞いても、どっかで遊んでるんじゃないの、一人遊びが上手な子だからと適当に返された。
 おばあちゃんと母親のおしゃべりはとめどなく続き、しかも子供が聞いてもつまらない。
 しかたがないから馨を探そうと外に出たときだった。



 うへーんうへーん
 こわいよこわいよおにいちゃぁーん



 声が聞こえてきたほうを見ると、庭の大きな木に登って、泣いている馨。


「馨!」
「おにいちゃぁん! おにいちゃん、こわい、こわいよー、助けてー」
「降りられなくなったのか?」
 馨はしっかりと木にしがみついてわんわん泣いて、とてもじゃないがひとりで降りてくることはできないだろう。


 さて。
 大人たちはたぶん子供の話になど耳は傾けてくれないだろう。


 木登りは得意なほうだし、きっと大丈夫だろうと木に足をかける。
 すぐに馨のいる枝までたどり着くと、馨がさらにわんわん泣きながら抱きついてきた。



「おにいちゃん、こわかった、こわかったよー」
「もー、何やってんだよこんなおっきな木に…」
「うへーんうへーん」
「ほら、もう大丈夫だから、泣かないで」



 それでも泣き止まない馨に困って、そういえばと以前テレビで見た光景を思い出した。
 そう、確かこんな風に泣き止まない子供に、母親がやさしくおでこにキスを        





「…え」
「ほら、もう大丈夫だろ?」
「うん…」
「じゃ、ゆっくり降りるぞ、しっかりつかまって」
「うん」



 なんだかわからないけど、すごい、ドキドキした。
 木の高さにドキドキしたのではなくて、たぶん、これは…。
 馨はしっかり義弘にしがみつきながら、ずっと考えた。



 そうして馨をおぶったまま、義弘は無事に木を降り終えた。
「よいしょ、と」
「…おにいちゃん」
「うん?」
「…ありがとう」
「うん、わかったらもうこんな危ないことは…」



 わからないけど、なんていうか、そのときの馨は。
 もじもじしながら、何か言いたげな顔をしていた。
 なに、と聞いても、顔を真っ赤にするばかりで、何も言わなかった。
 じゃあ戻ろう、おやつあるからと言って手を伸ばすと、しっかり両手で握り締めてきて、決して離そうとしなかった。






















「以上、馨の初恋の瞬間でした。キャー、赤裸々、恥ずかしい! もー何言わせんのよお兄ちゃんて、ば!」
「あーあ…、こんなことになるならあのとき泣き声聞いても無視し続けてればよかったなぁ…(遠い目)」










昔は好きって言うこともできなかったのよって。
初めての告白とか書きたいね。
重たい口をやっとのことで開いて、伝えられたひとこと。

なーんてやってしまったら今後カルく書けないわ。激しいまでのブラコンに目覚めるまでの過程は、でもおさえたい。
今後彼女にハズせないのは性教育ネタかしらね…。やっぱ。