時代の進展とともに新しい技術が提唱され、研究が始まり、その幾つかは実用化へと進み、幾つかは実用されないまま消えていく。消えたものはまた後世に再度復活し、新たな視点での研究が繰り返される。社会的に受け入れられなかった技術も、いずれ必要とされるものでさえあれば、研究者の辛抱強い情熱が消えない限り、また再び登場することもありうる。
研究にも流行がある。70年代以降だけを見ても幾つかの大きな流行があり、研究ブームが発生した。研究ブームとは、研究者が自分の研究テーマをシフトし、我も我もとそのテーマに参入することである。これらには過去に人工知能、ニューラルネット、高温超電導の例や、現在のインタネット、マルチメディア、電子マネーなどの例がある。いずれも時代を先導するものであるのは確かだが、すべてが成功するとは限らない。しかしそこで得た知見が、その後の社会の構成や発展に大きな影響を与えていくのは確実である。
インタネットにしてもマルチメディアにしても、これらの技術用語は、最初はほとんど例外なく研究者の議論の中で造られ、次第にその概念が形成されていくものである。しかしいったん言葉が出来ると、今度はジャーナリズムが取上げ、評論家が解説し、事業家が夢を描く。そしてブームが始まり、研究に火がつき、今度は研究者自身が慌てる事態も発生する。もっとじっくり研究したいと思っていた研究者らも、言葉だけが先行する時代の荒波に揉まれ、見学者の対応に追われて沈着さを失ったりすることもあり得る。高温超電導ブームのときが、私の記憶では最も激しいもののようであった。
一般に、技術が新たに産み出される背景には、第一に研究者の知的な好奇心がある。知的好奇心が知的興奮へと昇華したとき大きな発明が生まれる可能性が高い。しかしこれだけでは、まだ有用な技術へとはつながらない。真の技術として有効になるには、更に、社会や人間生活をより高度な方向へと改革したいという、研究者の限りない欲求もまた重要なのである。
さて、現在のこのような技術開発の状況を横並びに見ると、そこには幾つかの潮流が読み取れる。一つは「超」の付く技術への挑戦である。今までとは違う構造、材料、機構、性能、機能を持った機械への挑戦である。超高温、超精密、超高真空、超高解像度、超高速など、技術としての本流の改良研究である。これらは産業の基盤技術に関連するものであり、他の技術への波及効果も大きく、とくに製造業全体の技術力の底上げに大きく貢献するものとなる。
二つ目は、複合化の潮流である。二つ以上の技術分野をうまく融合することで、境界領域での新たな技術を産み出そうとするものである。メカトロニクスはその代表である。これは基本的にはメカニクス(機械技術)とエレクトロニクス(電子技術)の融合であるが、その融合のための接着剤が制御技術である。もともと異質なものの融合には、このような接着剤が必要とされるのである。このメカトロニクスの範疇に入る製品例としては、磁気ディスク装置、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)装置、ロボット、プリンタ、自動現金取引装置、自動発券機、自動改札機などがある。最近ではバイオ関連や環境関連などで新たな技術の複合化の動きが感じられるし、同じ半導体産業の中でも、別々に展開されてきた論理回路プロセスとメモリ回路プロセスとを融合して様々なシステムLSIへとつなげていこうとする動きがある。
三つ目は小型化への潮流である。計算機システムがダウンサイジングの波で分散型へと移行してきたし、デスクトップからラップトップ、さらにはパームトップへと進んで各種の携帯端末機器が出現してきた。その背景には、使われる電子部品そのものの小型化・高性能化・省電力化が大きく寄与しているのも事実である。一方、この電子産業での成功を利用して機械部品などの小型化も研究が始まり、マイクロマシンという新たな研究分野を産み出した。問題は山積だが、新たな革新が期待される分野である。
四つ目は、環境との整合に向けた潮流である。あらゆる製品が環境との調和なしには成り立たない時代を迎えつつある。環境に重くのしかかる製品では、いずれ生産者責任として問題視されることになる。そのため各企業では、環境に優しい技術の開発が急がれている。例えば分解し易い設計、再利用し易い部品や材料の採用、などである。とくに最近の冷蔵庫では、オゾン層破壊の元凶であるCFC12やHCFC22というフロンが完全にHFC134aに置き変わった。とは言え、この新しい冷媒材料もまだ地球の温暖化への影響が残るので、近い将来、さらに新しい材料へと変更すべく、研究開発が世界規模で進展しているのである。
五つ目は、知的な機械の実現に向けた潮流である。どんな製品も最終的なユーザーは人間であるので、人間にとって使いやすいものである必要がある。使いやすいということは迷わなくてよいということであり、機械と人間とのインタフェースをきちんとしようということである。人間が扱う情報形態としては視覚情報がとくに優れているので、画像を中心としたマルチメディア情報が、機械としてもきちんと取り扱えることが必須となる。また操作ボタンも少なくし、たとえば洗濯機のように「これっきりボタン」一個で、あとの判断はすべてファジー論理やニューロ演算などで機械側がやってくれるようなものが望ましいことになる。
これら五つの潮流は、今後の技術開発の大きな潮流として当分継続しそうな感じがする。その結果として、低コスト、高機能、高性能で、かつ有意義な製品が次々と産み出されることが期待される。