風車や水車が11世紀以降の西欧で動力源として使われ、製粉や排水に広範に利用された。16世紀にはゼンマイ仕掛けの時計が発明され、日本でも江戸時代にはゼンマイバネを用いたからくり人形が作られた。これらの古典的な機械はいずれも純粋に機械的な装置であって、動力を歯車やカムなどの「機構」で伝達し、別の動きへと変換しているだけに過ぎなかった。
その後、18世紀後半のワットの蒸気機関の発明を契機に「自動調節」の概念が生まれ、さらに20世紀になってその理論が幅広く展開され「自動制御」の技術として確立された。この自動制御が仲人となって、それまでは異質に発展してきた電気工学と機械工学とが緊密な親戚付合いを始めるようになり、電気的な機械装置が作られるようになった。複雑な動きを作るために複雑な機構を用いるよりも、機構は簡単にしてこれを電気的に制御することで複雑な動きを実現するようになったのである。その後さらに電子技術(計算機や半導体技術など)が進展し、1970年代にはこの境界分野の重要性が広く認識されるようになり、メカニクスとエレクトロニクスの合成語としてメカトロニクスという言葉が出来上がった。これは日本で作られた言葉として世界に定着し、最近では電子技術、制御技術、情報技術、機械技術を融合した電子制御情報機械(電子的に制御されて情報を取扱う機械)一般を指すようになった。
メカトロニクスの代表的製品は、最初の頃は工業用ロボット程度であったが、今ではファクシミリ、プリンタ、磁気ディスク装置、光ディスク装置、自動現金取引装置、自動発券機、自動改札機などがこの範疇に入る製品として認識されるようになった。これらの製品にほぼ共通して言えることは、その中のかなりのものが紙、シート、ディスクなどを扱う装置であるという点である。薄くて弱い対象物の取扱いは機械にとって苦手であり、電子装置による高度な制御なしでは実現が困難であったという背景があるのであろう。もう一つの共通点は、何らかの意味で情報を取り扱っている点である。送られてきた大量の情報を正確に記憶したり、文字や絵として再現したり、読み取った情報をもとに分類するなど、電子装置(計算機など)との情報の密接なやり取りが背景にあるのである。このようにメカトロニクスの誕生と発展の底流には、機械工学だけでも電気・電子工学だけでも実現できないという必然性があったわけである。
このような電子的な制御技術の発展は、今までの伝統的な機械にも大きな改革を促し、今では純粋に機械的な機械は皆無となっている。純粋に機械的と言えるものは、せいぜいスパナとかペンチのような工具の類だけと言っても過言ではないようである。
現在実存する製品がどの程度まで電子的であるか、どの程度まで機械的であるかという差を理解する単純な方法として、使用されている電子部品の数と機械部品の数の比を考えて見る。例えばワークステーションやパーソナル計算機のような電子的な装置でも多少の機構部品は使われているので、比は約10〜50程度のようである。例えばガスタービンや自動車のような機械的な装置でも、最近は電子的な制御が主流となって、その比は約0.02〜0.1程度となっているようである。これに対していわゆるメカトロニクス製品は、この電子部品と機械部品の数がほぼ拮抗し、その比は約0.5〜2程度になっている。例えば工業用ロボットでは0.8〜1.2程度、銀行の現金自動取引装置では0.5〜1程度と考えられる。
電子部品の数は半導体の高集積化とともにますます少なくなる方向なので、この部品数比が必ずしも電子化の尺度とはならないが、機械部品の小型化よりは電子部品の小型化の方が一般論としては易しいし、付加価値も付けやすいから、メカトロニクス製品といえども次第にエレクトロニクスの方へと比重が移っていくことになるのであろう。
ところでこのようなメカトロニクス製品の価格は、それぞれに千差万別ではあるものの、実は価格を製品の重量で割って1グラムあたりの値段を計算して見ると、思ったほどばらつくものでもないようである。たとえば工業用ロボットは1グラム当り60円、現金自動取引装置は40円、プリンタは大型のレーザプリンタも小型のインクジェットプリンタも20円程度と考えて良いようである。メカトロニクス製品よりはもっと機械的なガスタービンは、1グラム当り25円、自動車は2円程度ではなかろうか。もっと電子的なワークステーションは200円、パーソナル計算機では10円程度なのである。もちろん、歴史の古い製品ほど、また世の中に数多く出回るほど、グラムあたりの単価が安くなる傾向は歴然のようである。
このように見てくると、メカトロニクス製品だけに限らず、今までに人間が造りだした工業製品は皆、単位重量当りの値段でみるとどうやら「米」の値段と「金」の値段の間に分布するようである。大きな原子力発電所や超並列計算機システムも、あるいはジャンボ航空機や新幹線車両も、さらには小さな携帯端末や腕時計も、グラム当り1円から1000円の範囲にあるようだ。すなわち人間の工業活動では、貴金属製品、芸術品、骨董的稀少価値製品などを除けば、グラム当りで金以上の価値を生み出すことは困難だったようである。
ところが最近は、ソフトウェアや情報にも正当な価値を認める社会となり、コンテンツビジネスやサービス業が増えて第3次産業の比重が増してきた。このインフォメカトロニクスとでも言うべき時代では、グラムあたりの値段だけではもはや比較すら出来ない製品が増え、ビット当り、秒当りの価値も併せて考慮する必要性が大きくなっているのである。