資源の乏しい我が国が、世界に伍して繁栄していく数少ない方策の一つとして、生産技術の高度化があった。原材料を他国に依存しながらも、生産技術で頂点を極め、他国にはないような信頼性の高い製品を実現し、これを輸出して生計をつないできたのが今までの我が国の姿と言えよう。いわば「生産技術」とその結果としての「信頼性」で勝負をしてきたわけである。
今後も、資源は減りこそすれ増えることはないので、科学技術による立国を通じて世界に類のない省資源型の高付加価値製品を創造し、それをより高度な生産技術で実現することで繁栄を目指す以外に、あまりいい方法はないようである。とくに資源の乏しい我が国では、資源と呼べる可能性があるのは、唯一「人」であろう。従来以上に人々の英知を基盤として繁栄を築き、世界へ貢献していくことが重要となる。ただし、過去の一時期のような一見華々しい繁栄はもういい。浮かれた繁栄でなく、持続可能な節度ある繁栄でいいのではないか。
しかしこれも、最近の若者の技術離れ、製造業離れや、フリーターと自称する安易な生活態度の若者の台頭により、資源とはなり得ない人々がますます増加しているように思え、「節度ある繁栄」でさえ心配になってくる。我が国としてはどうしても、国民の総意として科学技術を大事にする心を養い、高度な教育を身に付けた実践的かつ洗練された技術者集団を作り、先端的な技術の開拓とその革新的な伝承とを計っていくことが不可欠であるように思う。とくに生産技術では、過去の効率一辺倒の考え方から脱却し、新たな考え方での高度化が必要になって来る。
従来、生産技術と言えば、一般に製品の「製造工程」の自動化・省力化を中心としたものであった。その中核が各種の自動加工機械、組立機械、検査機械であり、そこにロボットが加わった。またこれらの機械の幾つかには、視覚を初めとする各種のセンサーが付属され、従来よりもはるかに精度のいい仕事ができるように改良されたし、また、お互いの機能が複合化された多能な機械としても実現された。さらにこれらの機械は、計算機技術の進展でネットワークにつながれ、計算機の管理のもとでそれぞれが協調して仕事をするようにもなり、全体として最適な生産プロセスが構成できるようになった。最近ではさらにCIMやCALSなどの概念が浸透し、単に製造だけでなく、製品の受注から販売にいたる全企業活動を計算機でうまく処理しようとの考え方が発生し、進展を見せている。そこでは、需要データ、受注データ、設計データなどが共有され、企業全体として円滑な生産が目指されている。
このように計算機を主軸とした企業活動のシステム化においては、単に製造工程での諸技術だけにとどまらせず、その前段階の製品の企画や、その実現の工程での諸技術も含めて生産技術と呼ぼうとする気運も生じている。すなわち、新製品の模索工程、模索された製品企画案の実現工程、実現された製品の製造工程のそれぞれを計算機技術で知的に支援することが、新しい生産技術というわけである。
とくに製品の模索工程では、通常、企画者のひらめきから出発して、綿密な市場調査結果を加味しつつ、今までに企業内に蓄積された技術力、その時点で利用可能な技術や部品、足らない技術とその実現可能性など、多くの背景知識のもとで企画を進めていく。このような産みの苦しみの工程を計算機で支援する技術は、難題ではあるがいずれは必要となる。
次いで製品の実現工程では、企画案から最適な製品へと仕上げるためのクイックプロトタイピングの技術が重要となる。またこのプロトタイピングを極力減らすための機能・性能に関わる計算機シミュレーションがますます重要となり、生産技術での一つの中核的な技術として完成していくはずである。さらに製品の製造工程では、計算機による知的な生産制御の実現が期待されている。そこでは、センサーを適切に配備してその出力をフュージョンする的確な判断技術、仕掛りの個々の中間製品を逐次追跡して物の流れと情報の流れを同期化する制御技術、不良の可能性を事前検知してフィードフォワードで修正を加え、結果として不良を皆無とする適応技術、などが重要と思われる。このように生産技術は、企画から設計、試作、製造にいたる活動のすべてを包含する技術として将来体系化されるべきものであろう。
ところで製造業を取り巻く状勢は、今大きく変化しようとしている。とくに資源リサイクルに向けて製品設計段階から十分に配慮するとともに、製造される製品の環境適応性をあらゆる角度から検討することが期待されている。すなわち、開発される製品のもたらす利便性だけに目を向けるのではなく、逆に、それがもたらすマイナス影響も考慮するよう、製造者と利用者の両方に価値観の変更を求めている。
そのため、ライフサイクルアセスメント(LCA)のような考え方がいずれは深く浸透して、すべての製品の優劣が、その環境に対する優しさの尺度で表現されるようになろう。使う材料や部品についても然りである。従来の機能本位、性能本位の開発競争から、環境を重視した優しさ本位の開発競争へと移行し、この優しさが数値としてカタログにも製品にも明示される時代がいずれはやってくるのではなかろうか。人々は性能・機能を多少我慢してでも、優しさをより優先する時代となる筈である。したがって生産技術も大きく変わらざるを得ず、とくにエネルギーミニマム、熱排出ミニマム、有害物質排出ミニマムなど、新たな目標指標による最適化が必須となると思われる。生産技術にも新しい思考が求められているのである。