郵政省が「21世紀の郵便自動化」を考える委員会を設置したのは平成4年のことである。私もその技術委員として、議論に参画した一人であった。当時の郵便の取扱量は年間240億通で、電子メールや携帯電話の普及などで減少するだろうとの大方の予測に反し、年間3%程度で伸びていた。とくにダイレクトメールと年賀状の伸びが際立ち、このままではその取扱いが限界に達し、仕分けや配達のための人の確保が大問題に発展することが予測されていた。
そのため、従来にない抜本的な自動化方策が必要とされた。従来の郵便番号は、市町村にほぼ対応する形で3〜5桁の数値が割り当てられていて、旧来の郵便区分機は、この数値を読むことで、「差し立て」と呼ばれている局から局への区分の自動化を可能としたものであった。これによって郵便物の局間の仕分けや移送作業は効率化されてきたが、最大の難関は集まった郵便物の家庭への配達であり、その自動化方策が中心的な検討課題となった。
そのためこの技術委員会では、大学と企業の研究者・技術者が協力し、新しい自動化方策の模索と、その技術的可能性についての検討が行われた。同時にその上部委員会では、各種の民間団体などの責任者も含め、利用者の立場での幅広い議論が行われた。
この新しい自動化を可能とする唯一の解決策は、郵便番号の桁数を増やし、市町村単位よりもさらに小さな町域名にまで番号を割り当てることであった。これができれば、局から家庭へと配るときの自動化にも可能性が出てくることになる。すなわち、配達の際のいつもの道順に沿うように、あらかじめ郵便物を自動的に並べ替えることが出来るのである。この並べ替え作業は「道順組立」と呼ばれ、従来は配達前に、配達する人自身が自らの手で行っていた煩雑な作業であった。
議論の初期段階では、桁数増加を最小限にとどめるために、当時の郵便番号を一旦リセットしてでも新たな番号を整理して付け直そう、という案も出された。しかしこれは、利用者への負担をあまりにも強いるというので、従来番号に追加する形で改革していく方向が決定された。そのため例えば岐阜市のように、町域名が数百個もあるような都市に対応するためには、将来への余裕も含めてどうしても7桁の郵便番号が必須となった。欧米の例とも比較した結果、決して多過ぎるというわけでもないので、利用者である国民の同意と協力も得られるのではないか、との結論に達した。このように、平成10年2月から施行された郵便番号7桁化は、事実上このときの会議で決定されたものである。
委員会での議論の結果、新しく開発すべき新型の郵便区分機としては、郵便番号に加え、手書きや活字で書かれた住所や、必要に応じて氏名までも自動的に読み取り、その結果を組み合わせてインクジェットプリンタを用いて郵便物の上にバーコードで印字し、以後の取扱いはすべてこのバーコードで行おうとする方式に落ち着いた。どうしても読めない郵便物については仮の番号をバーコードで印字し、その宛名画像を蓄積記憶して、専用のワークステーションに送って人間が読むようにし、読んだ結果を再度その郵便物に印字する方式となった。
このように町域名までがコード化されると、郵便番号認識結果に、さらに住所認識から抽出される〇丁目〇番〇号という数値と、必要に応じてアパートなどの〇棟〇号という記号数値をハイフンで区切って加えるだけで、原理的に住所コードが完成する。このようにして完成した住所コードは、最大20桁の数値として表現されるが、これをできるだけ小さい面積で郵便物に印字する必要がある。そのため、長いバー、中間のバー2種、短いバーの計4種のバーのうちの3本を用いて一つの数値を表す「4ステート3バー方式」のバーコードが採用されることとなった。配達局に集まった郵便は、このバーコードを再び自動的に読み取って、配達人の歩く道順通りに自動的に並べ替えることになる。
このバーコードを印字するインクとしては、郵便物の表面を汚さないよう、人には見えにくい特殊インクが望ましい。そのため当初、水性のステルスインクが提案されたが、さらにビニール系の封筒にも印字できるよう、のちにアルコール系の蛍光インクへと転換された。
開発当初は、手書きと活字の混在する郵便物に対して、認識率(20桁の完全読み取り率)は60%程度もあれば実用化可能と算定されていたが、最近では実力が80%程度に上昇した。今後もさらに改良され続けていくことになろう。ただ気になるのは郵便物を出す側の問題で、とくに日本の郵便物では、宛名の表書きがあまりに自由奔放過ぎることである。なかには本当に届けて欲しいのかどうか疑いたくなるようなものもある。とくにダイレクトメールでは広告が幅を利かせ、それに埋もれたように宛名がひっそりと書かれている例も多く、どこが宛名かを判定するのにかなりの処理コストが掛かる。もう少し表書きの書き方に節度があれば、装置を作る側も楽になり、その分、認識率の更なる向上へとつながって行く筈である。
この郵便番号7桁化に対して、東京都のある市では、国の押し付けだとこれを拒否する記事が新聞に載ったことがあった。テレビでも、ひと頃7桁化に対する批判が相次ぎ、その積極的な意味が完全には理解されていなかったようである。その昔、蒸気機関車の通行を嫌ったために迂回して鉄道が敷設され、結果としてその町の発展が阻害されたという歴史を思い出す。情報化の新しい波には、避けるのではなく真正面から付き合った方が、長い目で見て必ず効果が出てくるものと思う。制度導入からちょうど2年が経ち、幸い私たちの日常生活にも定着してきたように思われるし、新型区分機の配備もかなり進み、21世紀に向けた郵便自動化の基盤が出来上がりつつあるようで、改革に関与した技術者の一人として感慨深いものがある。