No.21
傘寿の春に

― 木の芽川のほとりに暮して ―



杉 本 智冶子


杉本 智冶子(武高30会会員)
SUGIMOTO, Chiyako

 旧姓戞山。1952年南越中学校、1955年武生高等学校、1959年福井大学を卒業。敦賀市内の小学校に4年間勤務。その後は子育てなどで、のほほんと過す。友人に誘われて短歌が楽しみとなり、現在はかな文字で色紙に書くなどして楽しんでいる。「つるが短歌会」に所属し、月1回の会合に参加。(福井県敦賀市在住)



 

 優れたる短歌でなくていいんだよ
                      庭の草花詠みしわれなり

 母の作品です。私もこんな母にならって、日頃の生活や自然を詠んで楽しんでいます。

 平成10年に友と「つるが短歌会」を始めました。月1回の歌会をもう15年続け、現在二百回を迎えています。百回の年には記念の文集も出版し、今、二百回記念の出版を話し合っているところです。年1回の吟行会や、時々の食事会など、会員の出入りはありましたが現在15名ほどで楽しんでいます。

 敦賀には原発もありますが、その近くには日本一小さいハッチョウトンボも飛んでおり、腰をかがめて観察したり、小さなチゴユリなども見ることができます。また気比神宮の大鳥居の前に8基の山車が並ぶ「つるが祭り」は美しい景観を呈します。もう少し元気でこの幸せが続きますようにと願っています。

 なお今回、編集の方からの強い薦めもあり、お恥ずかしいのですがここに幾つか短歌を紹介させていただきます。

 ただ日記のつもりで作り続けていますので、作品としては不十分だと思います。ご笑覧いただければ幸いに存じます。

 

秋空の広がりて元気もらいたり
     そばの花咲く道をただ行く
 
朝まだき蝉の声のかまびすし
     今日もわれにはただならぬ夏
 
夾竹桃きわまりて咲く暑き夏
     戦争のけはい近づきてくる
 
古里の友の店にてはす染めの
     マフラーを買う似合うと言われて
 
塾講師のバイトすると言う孫に
     背広を買いてつれだち帰る
 
とりえなき大根の葉も炒めれば
     家族には馳走帰り来るを待つ
 
痛き背をかばいゆっくり立ち上がる
     家じゅうぶらりと歩くもおかし
 
大般若経転読の声ひびく
     寺にわれ座す傘寿の春に
 
少年の庭にて友と話す声
     すでにわたしの知らぬ世界か
 
水鳥の一羽また二羽木の芽川の
     葦の葉叢に急ぎかくれる
 
峠越え渺々広き敦賀湾      
     雲間よりもる陽にて煌めく
 
都忘れの花をかざりて展示する
     師の遺作を君は撫でいる
 
コンビニに今日発売のピュアケーキ
     子は買いきたり母の日の夜
 
クラス会友みな老いしも勢は
     デートの気分それもまたよし
 
山吹の花咲く日だまりの山の道
     ここよりは萌黄色の広がり
  
古典なる狂言を見たりそのしぐさに
     笑いもおきて今に新し
 
朝どりと大きな袋にとりどりの
     野菜持ちくるわれに友あり
   
われ作る手箱の色よし飴入れて
     心淋しきときを慰む
   
磯釣りに行く子のありて庭に出づ
     夏立つ今朝の風はすがしも
   
ホームスティの少年幼く嬉々として
     買い来し木刀ふりかざしたり
   
久しくに訪ひ来る友待ち日だまりに
     出てきておりぬ少し前より
   
友みなの夫への不満聞きてわれ
     一人もいいかと帰りてきたり
   
菖蒲池に少しすぎたる花もよし
     梅雨の晴れ間を八つ橋わたる
   
雪の下になべて倒れし水仙も
     朝よりの陽に少しずつ勢う
   
憤りいずこに棄てんこんな夜は
     心の中にて亡き夫さがす
   
つれだちて娘と来たる博物院
     翠玉白菜息ひそめ見る
   
車窓より泰山木の白き花
     咲きさかる見ゆ旅のはじまり
   
長火鉢はさみ話し合う父母のいる
     里のこいしも傘寿のわれは
    

― 以上 ―