No.31
ダダイスト散木(さんぼく)
流謫
(るたく)のあらまし




津 田 幸 男


津田 幸男
TSUDA, Sachio

 1952年武生第一中学校卒業。同年武生高等学校に入学するも途中で自主退学。以来、画家の道、詩人の道を歩む。庭師を生業としながら数多くの卓越した詩や絵画で世人を魅了。ただその特異な表現から、理解されないことも。しかし作者は無頓着。更なる高みに向け作詩・作画に挑戦中の由。(福井県鯖江市在住)  (文責:編集部)



 

[編集部注]  津田幸男氏が2015年10月、詩誌「青魚」No.83(鯖江詩の会 発行)に発表されたこの詩と絵画は、自らの全生涯を振り返り纏め上げられた作品です。氏は武生高校に一時期在籍された私たちの同期の仲間。今回、廣田 昭氏の紹介により、本人と上記発行元の認可を得てここに掲載します。津田氏の詩は、初めての方には理解の外かも知れませんが、廣田氏によれば、私たちの棲むこの広大な時空を対象に、これほど真摯に向き合い、考え貫いている人は居ないと思うとの感想です。詩や絵画の掲載には、B5版・白黒・2段組・横書きという本文集の形態はそぐいませんが、どうぞご了承ください。

 なお、このCD版でも、1段組横書きのため詩の掲載には困難な面があります。ご理解下さい。なお、原文にあるルビはここではその語の直後に括弧つきで表示しました。また、ブラウザが取り扱えない難しい漢字がありましたので、ここでは
●■で表記しました。これらの漢字は次のものに該当します。

  ●駝師 →      





     「るすと言え
      此處には誰も居らんと言え
      五億年経ったら帰ってくる」(高橋新吉・るす)


     「生命は断たれている 
      横にミイラがねていた
       ………………
      彼女はミイラと接吻した
      ゆるやかなナイル河の流れが唾液と一しょに
      石の柱が揺れうごいた
      ミイラは立って……歩き出した
      蝙蝠は群がってミイラのあとを追った……」(詩集『雀』エジプトのミイラ)


ダダイスト新吉を訪ねたのはまだ孤り住いの五十そこそこ 
小学五年から習い始めた油絵を中三の私は夏休を川や森へ 
油絵を五枚仕上げて 遥々北陸の田舎町から機関車で十五時間
自ら上野の美術館で枠に張りつけ額に入れ込み自由美術協会展
搬入のため上京の日程・手つづきを終え 沼袋の江古田へダダ
イスト新吉を訪ねた ガタビシの戸は開けずらく着物姿の三尺(フンドシ)
の前を長々と垂らしたダダイストと北陸の少年の初対面

今年でかれこれ六十年
七月三十日生まれの私のためか 次女欅(けやき)が手作りの
誕生祝いの三尺(フンドシ)五本! 
めっきりヒザ足腰の弱った79才 耋(おいなみ)の身に穿きこなし締めこな
せるか? 灼(あらた)かなる越中フンドシ!

灼(あらた)かな三尺を皺尻に七十九歳!
今また新幹線を乘りつぎ怪物都市(ビヒモスシティり)の庭木を登る
次女欅制作の新たな越中フンドシを窓に干し 怪物都市(ビヒモスシティ)の夕風(かぜ)に
眺める 一日二合の米を研ぎ 一人住いのアパートにも鐘司君
(大家さん)がビールを届ける 卵焼きに蜂蜜漬けの梅干をまぜ 
孤り蔵出しの酒に嗜む 「濁り酒濁れるままにしばし慰さむ」
されど
     「生命は断たれている
      横にミイラがねていた
      彼女はミイラと接吻した……」!!
コレゾ 極上の詩法と思い
今でも コレコソ頑に詩の絶品と思いながらも
かたや 油絵に励み 魚影を追い 手掴みのウロコにしびれ!
膜翅目の蜂や蟻の生態に一人ぞっこん! 父や馬越祐二(まごっさん)の呑み
友達 岩田久二雄博士のせいもあってか 我が少年期の夏休み
の忙しいことと言ったら! 
夕暮れの町の森影! 
その天空に飛ぶ蝙蝠のくろぐろと ?(はばた)く! 
大屋根に張る鬼蜘蛛の巣の壮大な夕べのひと刻(とき)! 
壮大な無言(しじま)の壮観に 佇む悠久!

片や父の友人(阪大の医師仲間)北陸の秋の野山に犬をつれ 
射止めた鴨や野ウサギを狩猟(かり)の土産に 
少年はメスと小振りなデバを手に肉と内臓を大皿に分け 
七輪の炭火の起(い)こる匂いにわくわくと団欒の至福の大鍋 
祖父吉三郎が料亭をしていたせいか従妹の滋子も料理大好き

ツグミの羽毛で羽根クッションまで中一の悪童の手作り 
山の溜め池のカイツブリ! 梢のヒヨドリ! 寒雀! 
空気銃を肩に四季の豊饒を一人貪る朝な夕な
弟武俊とあまた野鳥の剥製製作に大童 亜砒酸にかぶれた弟と
砒素中毒をまぬがれた私  馬越(まごし)さんにフクロウの剥製を頼まれ 
馬越さんは絵にしたろうか
片や油絵の夏期の傍ら「留守と言え 此處には誰も居らんと言
え 五億年経ったら帰って来る」といっぱし(いっぱしら)ダダイスト気取りで 
あからさまな<人間学>アントロポロギーの嫌悪を募らせ 
あまりにも<世俗化した現実>=ゲーゲンバルトに首を傾げる
夕まぐれ 大屋根に張る鬼蜘蛛のおおどかな意志決定を 
飽かず佇み!
かねてからか <人間学=アントロポロギー>嫌悪の少年 
ダダイスト樗檪散木(ちょれきさんぼく)の流謫(るたく)(島流し)の<旅>立ち 折りも折り 
悪童ランボーの呟きに 「旅のお布施か 医学もあれば哲学もあ
る たかが万効薬に形ばかりの俗謡さ」
  浅ましくもあからさまな<人間学(アントロポロギ)><人間尺度(ホモ・メンスラ>の勇ましく
  <世俗化した現実(ゲーゲンヴァルト)>の埠頭の銅鑼(ドラ)の音! 
  目には見えない『永遠』の手招く彼方の澪標(みおつくし)! 
  幼いダダイスト散木の目ざす潮路のあるやなしや
目にも見えず 喉を潤すこともない
『永遠』など 話題にすることもなく!
躍起になった少年は孤り画布(キャンバス)の空にあなぐる

夕まぐれ 永遠への澪標(みおつくし)は時にはとだえ時には現われ 
さればとて 少年とてがんじ搦めの<世俗化した現実(ゲーゲンバルト)>の乘り
組員 しばし画布の筆を折り三枚(こはぜ)の地下タビを履く
北陸の田舎町から九十九里の
●駝師(たくだし)に弟子の強要   
当時六十歳の斉藤勝雄先生 世間知らずの返答に「医学博士の
子息ごときが務まる仕事でない……」と
かまわず東京の下宿を決め斉藤先生もしぶしぶ承諾 両親にも
馬越先生(まごしさん)にも相談せず六十年つづけた
●駝師(にわし)のスタート…… 
兄弟みなさきだったあと 早八十の孤島の耋(おいなみ)
  かねてからのソクラテスの「流謫(るたく)(島流し)の旅路」 
  かねてからも朝な夕なの町なかの「島流しの旅」の錯綜 
絡み合う日常<流謫(るたく)>の感覚に三足の草鞐(わらじ)をかつがつも 
庭作りに 絵画の空に 
時々は腹立ち紛れの詩作の息切れ

八十年 思エバ戦中戦後の従兄弟達27人
叔父繁(しげる)(全盲の)の息子達 福井空爆で二児を奪われ一女は病死? 
戦後の二児のめでたくも 庭作りのアルバイトの恵三君 
青山学院牧師課程でまたしても病死の葬送 二度目のウィルス
性肺炎とか 一子マナなる娘はいかにおわすか?
武生の庭の防空壕から 
フクイの夜空は赤黒く炎え!!

敗戦まもなく
何故か「リンゴ可愛や……」の歌が流れて
戦後俄(にわか)泰平のゴクラクトンボの大集合か!!
外来の雑草ならぬ珍らか(ハイカラ)な哲学やら音楽(ミュウジック)に袂振り振り 
脳天(おつむ)は酔い痴れ 我れもまた知らず知らずに俄か戦後の泰平に 
うつつをぬかす極楽トンボになり躁(はしゃ)ぎ 
つい忘れがちなフクイ空爆
  泥沼に西瓜頭に腫れあがった従弟(いとこ)をはじめ
  千六百余人トカ!
  昭和23年のフクイ震災の三千人!
大平の世に 忘れがちな人災天災病死の屍(しかばね )……
町には何故か「リンゴ可愛いや」の歌が流れて
歌は世につれ世は歌につれとか<世俗化した現実(ゲーゲンバルト)>の 
鳥舎(とや)のくたかけ!! 
■(めかくしされたブタ)の歓声!

我れとても
■(めかくしされたブタ)の仲間にかぶれたか
世に諂(へつら)いの猫っかぶりの旅暮らし 島流しの旅路の果てに 
「ハジキ出された」自分に気が付き 皺首巡らし 
「一枚幕をへだてた」<私>でさ迷う

一昨年(おととし)だったか?
渋滞する怪物都市(ビヒモスシティ)の環七近辺
仮りの旅路(やどり)の6月20日 仮りの住(アパート))の階段を下(くだ)り登りの朝な夕な
階下の住人の物音がいつからか止み 折りからの初夏の熱気に 
窓もあけず訪ねる友なく七月も十日になって異臭はげしく
人体の腐れはじめた臭いがスル!

四・五月頃の銭湯では鏡をのぞく肩巾も広く
色黒ながら肉付きもよく寡黙な60の働き盛り
ハジキ出された出来心か入れ墨(くりからもんもん)もくすみはじめた腕も太く 
突如 鈴木某の「野垂れ死に」かと!
  電話では妹も「関わり合いたくない」とかで警察処分……
世にも広く財もしこたまの老女作家の
然(さ)る朝刊に『野垂れ死にのすすめ』なる本のタイトル 
耋(おいなみ)で地獄星(おむかえさん)の共にあるとも愚頭脳(しゃなづき)丸出しの言葉の選択!

仮初めにも 詩人を名乘る我らとて
<言葉>の選択には気をつけあそばせ!
我れもまたニンゲンの絆に絡み 
見渡せば抒情詩的歌(リリカルソング)のおしゃぶりを口々に咥えた皺首
愁いや泣言 元からか馬鹿(カラ)元気の馬鹿頭脳(しゃなづき)丸出し! 
押しなべて地獄星(しみそばかす)の面々の「人間学(アントロポロギ)」の鳥小屋(とや)の絶叫(クライ))か?
「人間の尺度(Homo mensura(アグデラ・プロタゴラス))」遙かなる進化と伝承……
―― 一つの民族(アン・フォルク)
―― 一つの国家(アイン・ライッヒ)
かねてからも「賢(さか)し立ちさいらきゐたる」(紫式部日記) 
<工作人間(ホモ ファーベル)><遊戯人間(ホモ ルーデンス)>!! 
■(めかくしされたブタ)の健気な好日にも 
獅子の鬣(たてがみ)<睾丸指令物質(テストステロン)>マスマス健在!
  資源の確保 農業収奪 好戦的<人間(ヒト)>の尺度の結末に 
獅子奮迅(ししふんじん)→ドジ奮迅 
天物暴殄(てんぶつぼうてん)の楽車(だんじり)囃子賑やかに
あとは野となれ廃墟となるとも
『野垂れ死にのすすめ』勇ましく
ダダイスト樗檪散木(ちょれきさんぼく)の知ったことかい

                            (以上、原文のまま)