No.41
余暇を家庭菜園で楽しむ

― 自然農薬と旬にこだわりつつ ―



松 谷 善 雄


松谷 善雄(武高30会会員)
MATSUTANI, Yoshio

 1952年武生第二中学校、1955年武生高等学校、1959年福井大学工学部を卒業。同年倉敷紡績(クラボウ)株式会社に入社。1994年同社を退社しクラボウ工事サービス株式会社に入社。2003年同社を退社して完全フリーになり、現在に至る。(大阪府茨木市在住)




はじめに

 平成15年(2003年)6月、44年間のサラリーマン生活に終止符を打ってから早や12年が過ぎた。後期高齢者と言われ、自分では認めたくないが、気力・体力共に減衰を覚える。自動車の免許証もぼちぼち自主返納しようかとも考えている。認知症も他人事ではない。ロスタイムに入ってから、まとまった文章を書くこともなかったので、今回の企画には縁がないものと思っていたが、編集長から、最後の督促のハガキが届いた。NHKのTV番組「認知症革命」を観ていると、認知症の人が文章を書き、自分の意志を表わしていた。私にも少しは余力が残っているかと、他人様には何の参考にもならないが、今一番楽しんでやっていることを思いつくままに書き始めた。自分の日記みたいなものだ。


畑作りに入門

 定年になって、これからは連日ゴールデンウィーク、何でも好きに出来ると思ったのは数日間だけだった。働いて忙しい日々の中にあってこそ、休暇が価値あるものだ。逆に、続く休みの中で動く目的を見出すことが必要になった。4〜5年過ぎた頃、近くに貸し農園を借りることが出来た。1キロ程の距離で近く、広さ15坪ぐらいの丁度手ごろな広さで、畑の側には1メートル幅のきれいな水が流れている小川があり、昼の間だけポンプで地下水を汲み上げて流している。畑作りに必要な水が容易に使える恵まれた条件だった。

 これまで農業の経験はなく初めてであるが、余裕の時間はたっぷりあって、その消化に最適と家庭菜園をスタートした。最低限の農具を求め、参考書を読み、畑作り入門をした。

 鍬で畑を耕し、畑に水やり、これが素人には結構こたえ、要領を会得するまでに、整形外科の世話にもなった。自分が作る農作物でとくに気をつけていること、それは「無農薬」である。薬は野菜の内に蓄積されて口に入る。食べ物による害が無いように、科学的に合成された農薬は絶対に使わない。天然の原料を元につくる病害虫の予防薬「自然農薬」を知り、試みるが効果はそれ程でもない。


苦い経験を積重ねて

 薬を使わないので苦い経験がある。最初に苺を育てた時、実が赤くなって来て、もうしばらくおいた方がおいしくなるだろうと収穫を待った際に、ナメクジに全部やられた。口惜しいことこの上なし。これで苺が私のリストの中から消えた。小松菜、白菜、キャベツは虫に喰われて穴だらけになる。それでも無農薬は続ける。従って、これらは苦手な作物だ。道の駅などで時折り虫喰いの菜を見ることがあるが、かえって農薬がかかってないので安心でさえある。

 鳥害も受ける。豆類の種を蒔き、発芽前に食われてしまう。また、発芽した若芽を鳥が全部食べて全滅になった。狭い土地なので数羽飛来しても被害は大きい。「スイカ」「ウリ」「トマト」なども収穫の頃に鳥の標的になる。これはネット掛けをして防御しなければいけない。一つ一つ経験を積重ねて学習している。


畑作りの基本と楽しみ

 畑の基本は「土づくり」からと言われている。最初は土も硬かった。耕す時、毎回土を出来るだけ深く掘り、堆肥など充分に与え、化学肥料は避け、有機肥料を使うよう心掛けている。畑に生える雑草も、その都度刈り取り、土に埋め戻す。こまめに手入れをすると土も答えて柔らかくなり、作物も良くなっている気がする。春先、土の中に手を入れてみると暖かく、一足先に地中から春を感じた。季節の移り変わりを五感で感知し自然と接している。何をどれだけ作り、どれだけ収穫しなければならないという責任は皆無で、負担のかからない、自分に合った自由なやり方が出来るのがいい。

 雨の日を除いて、ほぼ毎日畑に出向いている。土の乾きを見て水ヤリは欠かせない。作物の生育状態を見ながら、雑草刈り、間引き、土寄せ、施肥、支柱立て等々、作業はいくらでもあり運動になる。実の成熟を見て、旬の時期に収穫をする。木で完熟して、日を置かず食べる。自分が作った新鮮な野菜は殊の外おいしい。空調の利いたハウスでなく自然まかせの家庭菜園は、旬の期間は短く一度に収穫されるので食べ切れない事がある。その時は隣近所に分配し消化して頂くのだが、隣人とのお付合いの一助になっているのだろう。旬が過ぎると仕舞いにする。

 近年野焼きはダイオキシンの問題もあり禁止されていて、全て家庭ゴミとして処分する。本当は燃やして灰を畑に戻したいがそれは許されない。取り除いた後、深く土を掘り返し、堆肥、有機肥料などを混ぜて新たな畝を作り上げる。次は何を植えようか、適期なものは、連作にはならないか、何時植えるのがいいのか、思案しながら参考書を見る。これがまた楽しい。


おわりに

 貸し農園は、同じように畑作りを楽しむ人の集りでもある。毎日のように顔を合わせ、天候のこと、作物の出来具合のこと、世間話など会話がはずむ。出来た作物を分け合うことも。

 人と話が出来る機会があるのは大変良い事である。野菜は作るより買った方が安いだろうと人は言うが、農園は健康を維持する絶好の場所で、特に後期高齢者には最適のリクリエーションともなり、金銭では計り知れない効果がある。これからも、体の動く限り自由奔放に楽しみたいと思っている。