Let’s Dig!〜詩人 あずま菜ずなの世界〜


結 い 目

道草も 途中下車もゆるされない
若い 未熟な信徒は
いちずにそう思いつめていた

「嫁に行くのは
ままごと遊びとはちがう」
ご飯を炊いたこともないわたくし諌める
母の涙を蹴って
はね駒は 北陸トンネルを越えた

明治生まれの夫の両親と同居の新婚生活
サルマタと ズローズは洗濯機へ入れずに
別々の ブリキのバケツで洗う
正座してテレビをみる 舅 姑
わたくしはミニスカートで 長い廊下を走る

日常をたゆたう 沈黙の葛藤が
はらわたに潜む罪の根っこを
朝に 晩にゆさぶる

横なぐりの吹雪に
いくども傘をとられながら
『弁当も忘れても 傘忘れるな』と
長靴の底でふんばる

鉛色のふきげんな空をにらみ
湿っているおしめを石油ストーブで乾かす
「おしめで顔をふいていた」と話してくれた
郷里の母は遠い

赤ん坊の 負ぶい紐の疲労
寂しさが口ずさむ賛美歌のメロディ
バイブルのなかの牧者を
こころの王座にむかえ
かたくなな結ぶ目を 解き

緑の牧の羊になって草をはむ
信仰のやさしい晴れ間が広がっていく

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