Let’s Dig!〜詩人 あずま菜ずなの世界〜


枇杷の実ひとつ

笹舟を
小川の流れにゆだねるように
さよならを告げた
ふたごの丘のひとつに

ひまわり 野ぎく 雪わりそう
さくらへと
季節はいくたび まばたき

わたしくしは
乳首を吸うちからのない赤ん坊だった

いつも母のひっつき虫で
どこへ行くにもあとを追い
枇杷の実ひとつ
かってもらった

清貧な
母の 背なかのむくもり

かさかさのあら布をまとい
着ぶくれた胸もとの荒地
さんびと 祈りの木を植え耕そう

秋の雨
春のあめ
天の窓はわたくしに二度開き
焼けあとに 潤い

たましいをはだかにする
芽吹きの雨

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