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2015年 第17回ショパン国際ピアノコンクール情報

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〜関連書籍・CD〜


★2015年ショパンコンクール優勝者のライブ録音★
ピアノ:チョ・ソンジン


★月刊「ショパン」2015年12月号★
2015年第17回ショパンコンクール特集号


★第17回ショパン国際ピアノコンクール全記録 2015年 12月号 [雑誌]★

 
ショパンの本 DVD付
ピアノの詩人〜そのすべてを探る


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ドキュメント・ショパンコンクール


2010年第16回ショパンコンクール


ショパンの楽譜、どの版を選べばいいの?
エディションの違いで読み解くショパンの音楽

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〜2015年 第17回ショパン国際ピアノコンクール情報〜

管理人からのごあいさつ

当ページへのご訪問、誠にありがとうございます。

今回のショパンコンクールでは、コンクール開始から、各コンテスタントの演奏を真剣に聴き、 1人1人の演奏に対してコメントを書き、個人的にランク付けするということを初めて企画し実行しました。 たまたま僕自身が10月からオフの時間が増えた(その代わり日中は激務)ため、 睡魔に打ち勝つことさえできれば、物理的には出場者の演奏の7〜8割以上をリアルタイムで聴くことができる状況でした。 これは僕の現在の職業とこれまでの状況を考えると極めて異例のことであり幸運と言えます。 これも何かの巡りあわせだったのではないかとも思えてきます。 ショパンコンクール期間中は、前半は午後5時〜9時のうち後半からは必ず聴くことができ、 後半の0時〜4時の方は気合さえ入れれば全コンテスタントの演奏を聴くことが可能でしたが、最後の1人〜2人を残して就寝することが多かったです。 しかし、各コンテスタントの演奏へのコメントと評価はリアルタイムで付けることに意義があるため、 睡魔に襲われながらも可能な限り演奏を聴いて、すぐに評価とコメントを付けることを心がけました。

当初、このページへの訪問者は1日数十人程度でしたが、この熱心さと徹底度が効を奏したのか、 最終的に本選の頃にはこのページだけで1日当たりのアクセスが1000件以上となりました。 どこでどのように当サイトのこのページの存在が知れ渡ったのかは分かりませんが、口コミもあったのでしょうか。 中には、ショパンコンクール・コンテスタントの演奏の感想や、管理人宛の応援メッセージをメールで個別に 送って下さった方々もいらっしゃいました。その中には日本人参加者の母親の友人の方もいらっしゃいました。 訪問者の中には、一般のファンだけでなく、おそらく関係者の方もいらっしゃったのだと思いますし、 このページでの僕自身のコメントが審査結果に影響を持つ可能性も考えたほどで、 僕自身、1人で大いに盛り上がっていました。 前回までのショパンコンクールでは、ネット配信を1人で受け身で聴いて、孤独に楽しむというスタンスでしたが、 今回、このような企画を実行することで、僕の発信するコメントが非常にたくさんの方々に読まれ、 影響を与えていることを想像すると、それまでと違っていやがうえにもテンションが上がってしまいました。 また、ショパンコンクールの演奏や審査結果、優勝予想についてリアルタイムに語り合える相手ができたのも、 今回のショパンコンクールが初めてで、大いに楽しむことができました。

当初はここまで徹底するつもりはなかったのですが、一度やり始めるととことんやらないと気が済まないという 僕自身の性格が災い(いや「幸い」でしょうか)して、最終的には見ての通り、 とんでもないボリュームになってしまいました。 分かりやすさ(ユーザビリティ)を考慮して、1次予選、2次予選、3次予選、本選、最終結果の全てを この1ページに盛り込んだため、異常なほどのボリュームになってしまいました。 試しにこのページの本文をワードに貼り付けると、恐るべきことに89枚に達します。 僕自身はそういう実感はないのですが、終わってみれば相当なボリュームで、 「素人ショパンコンクール視聴記・観戦記」として1冊の本にできそうなくらいになっています。 今回のショパンコンクールについては、誰にもないユニークな視点での観戦記が書けるネタを持っているという自負があります。

当ページをブックマークして下さっていた皆様、そしてメールを送って下さった皆様には、 改めてこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。

次回のショパンコンクールは2020年に開催されます。その時、僕はどのような状況に置かれているのか分かりませんが、 状況が許せばまた同じようなことを企画したいと思います。 その時には、またよろしくお願いします。

当ページのご感想

2015年第17回ショパンコンクール関連商品

ここでは、今回のショパンコンクールの関連グッズを紹介していきます。
ショパンコンクールについて何でも知りたい皆さんが買いそびれて、後になって「欲しかったのに」と後悔することがないように、 最新情報に注意してその都度、更新していきます。 2015年11月1日現在、今回のショパンコンクールの関連グッズは以下の3点です。 他にもこういうものがある、という情報をお持ちの方は、管理人までメールでお知らせいただけると大変嬉しいです。

@優勝者チョ・ソンジンのライブ録音CD


★2015年ショパンコンクール優勝者のライブ録音★
ピアノ:チョ・ソンジン

クラシック音楽レーベルで世界で最も高い権威と伝統を誇るドイツ・グラモフォンが企画したもので、 今回のショパンコンクールで優勝したピアニストの、コンクール中のライブ録音をCD化したものです。 優勝者が誰になるか分からないというコンクール開始前の時点で既に決まっていた企画という点もユニークです。

A月刊「ショパン」12月号:ショパンコンクール特集号


★月刊「ショパン」2015年12月号★
2015年第17回ショパンコンクール特集号

ショパンコンクール直後の月刊「ショパン」の12月号では、これまで例外なくショパンコンクール特集が組まれており、 今回も12月号で今回のショパンコンクールの特集が企画されているようです。 今回のショパンコンクールを熱心に観戦・視聴していた皆さん、そして時間の関係でそれが難しかった皆さん、 その他、ショパンコンクールについて興味のある全ての皆さんにとって、知りたい内容が盛りだくさんであること間違いなしと思います。 買って損することは絶対にないと思いますし、僕は迷わず買います。 買わずに(買えずに)後悔することは避けたいですね。

B第17回ショパン国際ピアノコンクール全記録 2015年 12月号 [雑誌]


★第17回ショパン国際ピアノコンクール全記録 2015年 12月号 [雑誌]★

今回の第17回ショパン国際ピアノコンクールの特集号のようです。僕はこの雑誌のことは何も知らないのですが、 このような雑誌が存在すると知れば、迷わず購入です。ショパンコンクールについて何でも知りたい熱心な皆さんも、 こういう雑誌があると知れば、「即購入」ではないでしょうか?

C月間「MOSTLY CLASSIC」2016年1月号:第17回ショパン国際ピアノコンクールリポート・ピアノ協奏曲の魅力


★月間「MOSTLY CLASSIC」2016年1月号
第17回ショパンコンクールリポート★

ショパンコンクールの記事は短いですが、一応こういうものもあります。


以下、ショパンコンクールの結果とコメント

2015年第17回ショパン国際ピアノコンクールの結果
2015年第17回ショパン国際ピアノコンクールの最終結果が、日本時間10月21日午前7時50分頃から発表されました。
結果は下記の通りです。

1位:Seong-Jin Cho (South Korea)
2位:Charles Richard-Hamelin (Canada)
3位:Kate Liu (United States)
4位:Eric Lu (United States)
5位:Yike (Tony) Yang (Canada)
6位:Dmitry Shishkin (Russia)

マズルカ賞:Kate Liu (United States)
ポロネーズ賞:Seong-Jin Cho (South Korea)
コンチェルト賞:該当者なし
最優秀ソナタ演奏賞:Charles Richard-Hamelin (Canada)

優勝は、韓国のチョ・ソンジン、21歳に決定しました。
僕は昨日、帰宅してから数時間ほど寝だめして、0時半過ぎに起き出して1時から本選の演奏を全て聴いて、そのまま寝ずに 結果発表を待っていたのですが、なかなか発表されず、出勤の準備をしながら結果を待ちました。 そして出勤直前の午前7時50分に、You Tubeの放送画面がワルシャワフィルハーモニーのロビーに切り替わり、 審査員たちが2階から階段を降りて1階ロビーに姿を現し、おもむろに結果発表が開始されました。 まず6位からの発表でした。この発表の瞬間は本当に心拍数が上がっているのが自分でも分かりました。 この時の僕に心電図でも付けようものなら、発作性上室性頻拍とでも診断されてしまいそうなくらいでした。 シシュキン、ヤングと続いて、4位、エリック・ルと呼ばれ、こんなに評価が低いんだ、と大いに落胆しました。 3位・ケイト・リウ、2位・チャールズ・リチャード・アムランと聞いて、ああ、アムランはこの位置か、とこれも残念でした。 そして栄えある優勝・金メダルは、チョ・ソンジン!!
彼の優勝に対しては皆さん、色々思うところはあるかと思いますが、まずはその栄誉を称えたいと思います。 当ページでも既に述べたことですが、彼は1次予選から本選まで、全てのステージにおいて安定した力をいかんなく発揮していましたし、 高度な演奏技巧、自然な音楽性と豊かな表現力、ミスタッチの少なさなど、全てにおいて平均をはるかに上回る優れたパフォーマンスを示しており、 これ以上、具体的に何を求めるのかと聞かれると即座には答えにくいほどの、隙のない演奏を聴かせてくれました。 彼の演奏は明らかに失点が極めて少ないと思われ、この点が今回の優勝に直結したのではないかと単純に考えました。

僕はファイナリスト10人の中で最も好きなピアニストはEric Luでしたが、彼の演奏の本当の良さを理解できるほどの非常に繊細な耳を持つ人は少ないと思われ、 また3次予選で曲目が少なく省エネで通過してしまった(このため点数は稼げていないと予想しました)ため、 Eric Luの優勝の可能性は低いとは考えていました。しかし自分の好みは変わらず、この人が自分の中では不動のトップでした。 現実的な最終結果という点で考えれば、優勝の可能性が最も高いのはCharles Richard-Hamelin、次がSeong-Jin Choで、この2人が二大巨頭と考えていました。 本選進出者10人を選ぶ際にこの2人を「本選進出確実」としたのも、僕自身の優勝予想からでした。 従って、Seong-Jin Choの優勝と聴いても、それほど驚かなかったのですが、 僕自身の優勝第1希望はEric Lu、第2希望はHamelinだったため、「どちらもダメだったか」という残念な思いが先行してしまいました。 Seong-Jin Choも抜群に上手いのですが、1次予選から聴いてきて、何故か惹かれるものが少なかったんです。 だから積極的に誰かの上に立つ理由はないと考え、Charles Richard-HamelinとEric Luに上位を譲り、3位か4位が妥当と考えていました。 そこに、昨日、Dmitry Shishkinのピアノ協奏曲が思いのほか素晴らしかったので、僕の中でこの人の株が自分の中で3位の位置まで急上昇するに及んで、 僕の中でのSeong-Jin Choの位置づけが4位に下がったという経緯があります。

優勝はCharles Richard-HamelinかSeong-Jin Choだろうという思いが占める中、それでも審査員の先生方は確かな耳を持った方ばかりだから、 Eric Luの音色の素晴らしさ、音楽の圧倒的な素晴らしさとファイナリストの誰よりも洗練された高度なテクニックを 誰よりも高く評価して1位をつけてくれるのではないかという淡い期待もあり、僕の胸にそのような思いが渦巻く中、 固唾をのんで審査結果を待っていたわけです。 だから正直に言えば、この審査結果には残念な思いが非常に強いです。Eric Luの本当の良さは誰にも評価されなかった、という残念な思いです。 誰が何と言おうと、Eric Luは今回の参加者で随一の天才であることは間違いなく、 僕はこの人の演奏会に行ったりCDを買ったりしたいとは思いますが、今のところ、Seong-Jin Choに対してはそのような気持ちにはなれません。 審査結果というのはあくまで審査結果であって、多くの先生方が1回聴いただけで直感で判断したものを集計し、 合計点を算出して機械的に上から並べたものだということです。

皆さんも自分のお気に入りのピアニストの評価が思いのほか低くて苛立っているかもしれませんが、 全員が納得できるような審査結果にはならないわけで、難しさを感じます。

もう1つ意外だったのは、Kate Liuが3位と意外に好成績だったことです。 僕は本選1日目を一度実況で聴いた後、翌日聴き返してみたのですが、当初は小林愛実さんと互角と思っていたこの演奏が、 実はもっと素晴らしいものであったことが分かり、急遽自己判定を変更するという異例の事態となりました。 上位4人は突出している印象があり、小林愛実さんを希望的観測でも何でも強引に入賞させようとすると、その前にKate Liuを 入れなければならず、そうなると必然的に5位:Kate Liu、6位:小林愛実さんとなります。 個人的な好みで言えば、小林愛実さんよりも、Yike(Tony)Yangの方が音色と音楽性が好きで、当初は6位に入れたくなりましたが、 彼は第3楽章でやや目立ったミスタッチの連続があり崩れかかったため、大幅な減点となりそうな気がしたことと、 同じ日本人として小林愛実さんに何とか6位に滑り込んでほしいという願いから、このような序列を付けました。

以上のように、僕がつけた順位は、僕自身の好みと希望的観測が入り混じった曖昧なものになってしまいましたが、 最終的に希望的観測を入れなければ、上位6人は順不同ではありますが言い当てたことにはなります。

小林愛実さんは最後まで応援していましたが、残念ながら選外となってしまいました。 しかし1次予選から本選まで、本当によく健闘したと思います。

選外のファイナリストについては、およそ審査結果と一致したと思います。 Osokinsの演奏は聴いていませんが、やはりあまりにも個性派で完成度の低い演奏はショパンコンクールの授賞には相応しくないと考えましたし、 Jurinicの演奏はミスタッチが多く準備不足の感が否めず、これも選外確定と考えました。 Nehringの演奏は部分的には惹かれるところはあったのですが、技術的な完成度が低くバランスにもやや欠けていて入賞には相応しくないと考えました。 迷ったのは小林愛実さんとYike(Tony)Yangで、僕にはYangの演奏の方が圧倒的に魅力的に響いたのですが、 第3楽章のミスタッチの多さ、同じ日本人として小林愛実さんを応援したいという気持ちが働いて、 泣く泣くYangの方を選外に選んだという経緯があります。もっと自分の好みに素直にならなければ、と思いました。

以上、ファイナリスト10人のうち好みの上位6人がそのまま入選したことは確かな事実なのですが、順位がかなり違っていたのは驚きでした。 僕は最終的にはほとんどピアノ協奏曲の演奏の好みだけで序列を付けてしまいましたが、蓋を開けてみればコンチェルト賞はなかったため、 これは取りも直さず、コンチェルトで突出して素晴らしい演奏がなく、 最終的な順位は、それまで3次予選までの審査結果を濃厚に反映したものだったという予想ができます。 そうなると全てのステージで安定して力を発揮したSeong-Jin ChoとCharles Richard-Hamelinが大優勢なのも頷けます。 この2人のうち、何故Charles Richard-HamelinではなくSeong-Jin Choに軍配が上がったのかは不明な点も多いですが、 機械的に割り出した点数がごくわずかでもSeong-Jin Choの方が高かったのではないかというのが推測です。 大昔のネタで恐縮ですが、1955年第5回ショパンコンクールで1位:ハラシェヴィッチと2位:アシュケナージの点差はわずかに0.1ポイントだった ということが「ものがたりショパンコンクール」に書かれており、これを初めて読んだとき(1992年頃)、 こんな誤差程度の点差でも1位と2位の優劣を付けてしまうんだという事実に衝撃を受けたことを覚えています。 ちなみに当時審査員をしていたミケランジェリは1位:アシュケナージ、2位:田中希代子(最終的な順位は10位)を断固として主張し、 最終的な審査結果にサインしなかったとも言われています。審査員の好みによって順位はこれほど大きく変わるわけです。 それを思えば、今回の結果も驚くにはあたらず、1位から4位辺りまでは誰にでも優勝できるチャンスがあるほどの微差だった可能性は十分考えられ、 あとは好みの問題だったとも言えそうです。

それから、Dmitry Shishkinは素晴らしいピアニストで、本選のピアノ協奏曲第1番は素晴らしい演奏だったと思いましたが、 思いの他、評価が低いことにも驚きました。シャープな音色と鋭敏な感覚、冷徹な演奏は確かにショパンらしさとは一線を画すもので、 その点がショパンコンクールで評価されにくい要因になったのではないかと思います。 この人はショパン以外の超絶技巧系、パワー系の作品で本領を発揮しそうな印象があります。 そのような路線で活躍すれば、きっと活路が見出されるのではないかと期待しています。

今回のショパンコンクールではコンチェルト賞が出なかったのは返す返すも残念ですが、 その原因の一端はピアノ演奏だけではなくバックにもあったような気がして仕方ないです。 アンサンブルはやや甘かったと思いますし、第1番、第2番ともに第1楽章の管弦楽の序奏のテンポが遅く、 途中恣意的に止まりそうなくらい「タメ」を入れたりして、流れが滞っている印象で、これがピアニストの演奏にも悪影響を及ぼした可能性は 否定できないと考えます。皆さんはどう考えているか分かりませんが、これらの作品に対して僕自身が持っている体内テンポより かなり遅かったことは確かです。このテンポだとかえって弾きにくそうです。

まだ書きたいことは山ほどありますが、今日はここで一旦終了としたいと思います。
寝不足の日が続いていますので、今日はしっかり寝て明日に備えたいと思います。
ちなみに今日は普通に朝8時30分に出勤して日常業務をこなしてきて、帰宅後も今の今(23時過ぎ)まで一睡もしませんでした。
ご心配下さる方もいらっしゃいますが、もともと睡眠時間が短くても持つ方なので、大丈夫です。
また明日、楽しみにしていて下さい。

今回のショパンコンクールの総括の記事もいずれ別に章立てして書きたいと思います。

昨日の続き
ショパンコンクール結果発表から一夜明け、落ち着きを取り戻した方も多いと思います。
ショパンコンクールには副賞があり、マズルカ賞、ポロネーズ賞、コンチェルト賞の他、最優秀ソナタ演奏賞もあります。 今日はこれらの副賞について僕自身が考えていることを書きたいと思います。

マズルカ賞は、Op.56の3つのマズルカを演奏したKate Liuが受賞しました。 確かにKate Liuが3次予選で弾いたマズルカを思い返してみると、Op.56-1の最後の6度和音の連続する部分で 和音のバランスやテンポに細かいニュアンスを含ませ、細かい味付けを施していて、ここはこんなに素晴らしい表現があるのかと しばし呆然としたことが強く記憶に残っています。ややノーマークでしたが、確かに言われてみれば、これは素晴らしい演奏ではあって、 僕自身の3次予選のコメントでもこの部分に言及していました。ともかく、過去のマズルカ賞受賞ピアニストとその選曲を見ると、 Op.56を弾いたピアニストが多いですね。

次はポロネーズ賞、これはSeong-Jin Choが受賞しました。 これは英雄ポロネーズの演奏に対する賞のはずですが、残念ながら僕は彼の英雄ポロネーズはあまり印象に残っていませんでした。 最も印象に残っているポロネーズ演奏は、Charles Richard-Hamelinのポロネーズ第5番Op.44と、Eric Luのアンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズでした。 特にHamelinのポロネーズ第5番は忘れられない素晴らしい名演で受賞に相応しいと思うのですが、Seong-Jin Choの英雄ポロネーズは それを凌駕するほど素晴らしい演奏だったのでしょうか。もう一度聴き返す必要がありそうです。

最優秀ソナタ演奏賞は、ピアノソナタ第3番Op.58を演奏したCharles Richard-Hamelinに輝きました。 確かにこの人の演奏は、今回3次予選でのピアノソナタ第3番では最優秀演奏だったことは間違いないと思います。 一方、僕の中ではピアノソナタ第2番Op.35の最優秀演奏は誰が何と言おうとMarek Kozakなのですが、 どういうわけか通過しなかったため、比較対象にはならなさそうです。 というわけで、最優秀ソナタ演奏賞は、僕自身全く異論がなく、Charles Richard-Hamelinの受賞に大賛成です。

そしてコンチェルト賞ですが、少なくとも今回のショパンコンクール本選の演奏のレベルは決して低くはなかったと思います。 演奏を聴く限り、今回の本選のコンチェルトで上位の演奏をしたと思われるのは、 Seong-Jin Cho、Eric Lu、Charles Richard-Hamelin、Dmitry Shishkinの4人で、 それに続いて、Kate Liu、Yike (Tony) Yangという印象でした。 小林愛実さんは微妙ですが、Osokins(演奏は聴いていませんがこの人の演奏スタイルからして)、Jurinic、Nehringは 入賞は難しいだろうという確信に近いものがありました。 つまり、上位4人は突出していて、彼らの誰にでもコンチェルト賞受賞の資格はあったと僕は思います。 しかし最終的にコンチェルト賞が出なかったということは、上位の数人(おそらくこの4人だと思います)の点数が 非常に接近していて、突出した点数を挙げた人がいなかったという単純な理由によるのではないかと思います。 僕はEric Luの演奏がダントツだと思ったのですが、この人の圧倒的な音色美と控えめな抒情表現と高度に洗練されたきめの細かいテクニックは、 それを正しく評価するにはあまりにも繊細すぎて、聴き手に高度な耳と繊細で研ぎ澄まされた感性を必要としすぎたことに問題があったのだと個人的には考えています。 いずれにしても、コンチェルトで上位陣はほとんど点差がつかず、 結果的に上位陣は3次予選通過時点での累計点がそのまま最終結果につながったと 僕は考えています。 Eric Luが3次予選で他のコンテスタントよりも演奏時間の短いシンプルなプログラミングで勝負したことで加点のチャンスを逃し、 それが最終結果に響いたのであれば、これは何とも惜しい限りです。

話が横道にそれましたが、そのような訳で、コンチェルト賞該当者なしというのはコンチェルトの演奏のレベルが低いということではなく、 横一線で何人かが並んでしまい、1人に絞りきれなかったというのが真相ではないかと僕は見ています。

各審査員が今回のコンテスタントに付けた評価の詳細が公開されました。

10月23日に、ショパンコンクールの公式サイトを見に行って気付いたのですが、 各ステージごとに各審査員がコンテスタントに付けた評価の詳細が公開されていました。 1次予選〜3次予選もあるのですが、ここでは本選の結果をまず示したいと思います。
(参考:公式サイト

これを見ると、Seong-Jin Choが多くの審査員からほぼ満遍なく非常に高い評価を得ていたことが分かりますし、結果だけ見れば圧勝、文句なしの優勝です。 Charles Richard-Hamelinも素晴らしい演奏をしましたが、少なくとも審査員からの評価はSeong-Jin Choの方が有意に高く、 そこには誤差を超える明らかな「優劣」が存在しているように見えてしまいます。

一方で皆さんは、最終結果をどのように予想したでしょうか。 僕の耳が確かならば、Charles Richard-Hamelinの演奏よりもSeong-Jin Choの演奏の方が明らかに優れている、または魅力がある と断言するだけの確かな根拠、差異を見出すことはできず、 より正直に言えば、むしろCharles Richard-Hamelinの演奏により強く惹かれますし、 Charles Richard-Hamelinの優勝を予想していました(Eric Luの方がさらに好きですが、予想はHamelin優勝です)。 今回のショパンコンクールの最終結果に対して他の皆さんがどのように感じているのかどうかは分かりませんが、 今回の当サイトでのショパンコンクール企画をきっかけに メールでやり取りするようになった仲間との話では、Seong-Jin Choはやや不人気で、Charles Richard-Hamelinの人気が圧倒しています。 プロの審査員と我々素人とでは、聴き方が違うのではないか、 だから我々の感覚とプロの審査員の下した判断に大きなギャップが生まれるのではないかという反論もあろうかと思いますが、 この審査結果を見る限り、審査員の間でも各コンテスタントに対する評価と順位付けは非常に大きくばらけており、 審査員の好みのタイプも千差万別であることが分かりますし、中には僕の評価に非常に近い審査員もいれば、大きく異なる審査員もいます。 その点はプロの審査員は我々素人と全く同様と言うことができます。 そのような様々なタイプの多種多様なキャリアを持つ17人の審査員がいたにもかかわらず、 彼らはSeong-Jin Choの演奏に、ほぼ一様に9点以上の非常に高い点数を付けているわけです。 これは非常に不思議で不自然な現象ではないでしょうか。

一方で、Seong-Jin Choの演奏に最低点の1点を付けた審査員がいます。フランスのピアニスト、フィリップ・アントルモン氏です。 アントルモンは2次予選、3次予選でも、Seong-Jin Choに対してほぼ最低の評価を付け(1次予選は妥協したのか、Yesを付けています)、 次のステージに進ませたいかどうかに対して、一貫して「No」を付けています。 これはあまりにも徹底していて、ここにも不自然さを感じます。 Seong-Jin Choの演奏スタイルは、技術、音楽性ともに非常に優れていてミスタッチの少ない優等生中の優等生の演奏スタイルであるため、 皆の期待を大きく裏切ることのない非常に素晴らしく安定した演奏を聴かせてくれますし、 少なくとも大きく嫌われる演奏は絶対にしない人であることは、皆さんもご存知の通りです。 そのような彼の演奏に対して、アントルモンは一貫して最低評価を付けて「No」を付け続け、本選の演奏でも最低点「1」を付けたわけです。 この結果だけを見れば、アントルモンがSeong-Jin Choに対して個人的な恨みがあるのではないかという想像もできますが、 僕は恐らくそうではないと思っています。 Seong-Jin Choの演奏に対して、アントルモン以外のほとんどの審査員が不自然なほど高く評価し、 一方、アントルモンは明らかに何かを主張すべく最低点を付け続けたわけです。 アントルモンは少なくともHamelinの演奏を高く評価しているわけですから、癖のない完成度の高い演奏は好みのはずで、 純粋に演奏内容だけを取ればSeong-Jin Choもそれなりに高く評価するはずですが、 それにもかかわらず、Seong-Jin Choに不当に低い評価、というより最低評価を付け続けたわけです。 この背景には僕たちがあずかり知らない謎の真相が隠されている可能性があります。

もう一点、初めから絶対に予選通過はないと思っていたOsokinsがあれよあれよという間に本選進出を果たしてしまいましたが、 3次予選の演奏を聴いて、この人が本選に進出すると予想できた人は果たしてどれだけいたでしょうか。 ましてや本選進出を確信できた人はどれだけいたでしょうか。 3次予選の審査結果を見ると分かると思いますが、何と17人中14人の審査員が「Yes」を付けています。 これはあまりにも不自然です。「No」を付けた審査員はわずかに3人というのも驚きですが、 そのメンバーの1人が、フィリップ・アントルモンでした。 ここにも何事にも動じないアントルモン氏の潔癖な姿勢を垣間見ることができ、胸を打たれます。

あとは皆さん各自で想像して下さい。
ともかくも、次回以降、ショパンコンクールの権威が保たれることを切に願います。

ちなみに、フィリップ・アントルモンの本選の審査結果は僕自身の好みで付けた順位と非常に似ています。 純粋にピアノ演奏だけで評価すれば、アントルモン氏の付けた点数が本来の最終結果に最も近いような気がします。 Eric LuとCharles Richard-Hamelinに最も高い8点を付け、次点はDmitry Shishkinの7点と続いているところが、まさに僕の好み通りです。

アントルモン氏がご存命で、次回のショパンコンクールでも審査員として活躍してくれることを個人的には願っています。


以下、本選の過去記事

現在、2015年第17回ショパン国際ピアノコンクール開催中です。
10月19日午前1時(ポーランド現地時間10月18日午後6時)から、最終ステージである本選が始まります。

管理人からのコメント
ショパンコンクールもいよいよ本選を残すのみとなりました。
10月18日から20日まで本選で出場者が管弦楽団(ワルシャワフィルハーモニー交響楽団)とピアノ協奏曲を演奏し最終的な順位を競い合います。
本業をしながらのため、全員の演奏を聴くのはなかなか難しいですが、可能な限り時間を作って1人1人の演奏を聴いて、 自分なりの評価とコメントを付けています。連日ものすごいアクセス数で、ショパンコンクールを楽しんでいる方が大勢いらっしゃるのが分かりますし、 中にはメールでご感想を送って下さる方もいらっしゃって嬉しい限りです。
皆さん1人1人の力で、ショパンコンクールを大いに盛り上げていきましょう。

当ページの感想についてメールで送りたい方は、下記ページから遠慮なく送って下さい。
多忙のため、すぐに返信できない場合もありますが、できるだけ返信するようにします。

当ページのご感想

下の動画で実況中継が見られます。

2015年第17回ショパン国際ピアノコンクール実況生中継

本選1日目:10月18日
本選2日目:10月19日
本選3日目:10月20日

実況中継のアドレスはその都度、変更されています。ホームページの更新が追い付かない場合もあると思いますが、 その場合には、下のリンクをクリックしてYOU TUBEのchopin instituteに行ってみてください。

chopin institute(YOU TUBE)

本選の日程・演奏者:バック:ワルシャワフィルハーモニー交響楽団、指揮:ヤツェク・カスプチェック

10月19日(月)午前1時〜4時10分(ポーランド現地時間:10月18日午後6時〜9時10分)
Mr Seong-Jin Cho (South Korea):ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
Mr Aljosa Jurinic (Croatia):ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
Ms Aimi Kobayashi (Japan):ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
Ms Kate Liu (United States):ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11

10月20日(火)午前1時〜3時30分(ポーランド現地時間:10月19日午後6時〜8時30分)
Mr Eric Lu (United States):ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
Mr Szymon Nehring (Poland):ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
Mr Georgijs Osokins (Latvia):ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11

10月21日(水)午前1時〜3時30分(ポーランド現地時間:10月20日午後6時〜8時30分)
Mr Charles Richard-Hamelin (Canada):ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 Op.21
Mr Dmitry Shishkin (Russia):ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
Mr Yike (Tony) Yang (Canada):ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11

審査委員長
カタジーナ・ポポヴァ・ズィドロン
審査員(肩書)
マルタ・アルゲリッチ(1965年第7回ショパンコンクール優勝)
ダン・タイ・ソン(1980年第10回ショパンコンクール優勝)
海老彰子(1980年第10回ショパンコンクール第5位)
フィリップ・アントルモン
ネルソン・ゲルネル
アダム・ハラシェヴィッチ(1955年第5回ショパンコンクール優勝)
アンジェイ・ヤシンスキ
ギャリック・オールソン(1970年第8回ショパンコンクール優勝)
ヤヌシュ・オレイニチャク(1970年第8回ショパンコンクール第6位)
ピョートル・パレチニ(1970年第8回ショパンコンクール第3位)
エヴァ・ポブウォツカ(1980年第10回ショパンコンクール第5位)
ユンディ・リ(2000年第14回ショパンコンクール優勝)
ヴォイチェフ・シフィタワ
ディーナ・ヨッフェ(1975年第9回ショパンコンクール第2位)
ドミトリー・アレクセーエフ
ジョン・リンク

第3次予選の個人的感想・評価

自分なりに各出場者を演奏レベルでA〜Eでランク付けしました。
A:非常に素晴らしい
B:良い演奏
C:普通
D:今一つ
E:大いに疑問
?:演奏を聴いていない
自分で付けた暫定順位を名前の右側に付けました。第1奏者には必然的に「@」がつき、それを超える演奏者が現れない場合、「@」が残りますが、 それを超える演奏者が現れた場合、その奏者に順位が移る方式です。

10月19日(月)午前1時〜4時10分(ポーランド現地時間:10月18日午後6時〜9時10分)
A〜B Seong-Jin Cho (South Korea) @
D Aljosa Jurinic (Croatia) C
B Aimi Kobayashi (Japan) A B
B Kate Liu (United States) B A

Seong-Jin Cho (South Korea)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11
第1楽章はオーケストラの入り方のテンポが遅く楽想の変わり目でテンポを落とすなど、あれ?と思うような出だしで、 ピアノの登場が待ち遠しく感じましたが、ピアノが始まってからは普通のテンポでした。 ミスタッチしやすいピアノの出だしもバッチリ決まり、芯のしっかりしたシャープな美音、優れたテクニック、筋の良い音楽性で、 第1主題、第2主題の旋律のフレージングは見事でしたし、難所もあっさりと弾いていました。 本選第1奏者なのに、この落着きようはさすがと言う他ありません。 技術的に難しい展開部やコーダも完璧に弾けており、ミスタッチも最後の最後以外、ほとんどありませんでした。 第2楽章も美しい音色でごく標準的なテンポでロマンティックな旋律が自然な息遣いで、センス良く適度な抑揚をつけて再現されていて見事でした。 非常に流麗で美しい演奏でした。 第3楽章も常識的なテンポで軽快に弾いており、難しいパッセージも余裕を持って処理していました。非常にミスが少なく完成度の高い演奏でした。

※最初にこのような素晴らしい演奏をされてしまうと、後に登場するコンテスタントはこれを意識してしまいそうです。 自分より前に登場したコンテスタントの出来によって自分の演奏の方針・作戦を微調整できるという意味でも、後に登場する奏者の方が若干有利と言えそうですが、 下手に意識すると普段の実力が発揮できないリスクもあります。いずれにしても1位を狙う奏者は、これを超える演奏が絶対的に求められるわけですが、 そのために作戦を立て直す(例えば第3楽章をもっと速いテンポで弾く、もっと大胆に表情を付ける、賭けに出るなど)という選択の余地が残されている分、 若干有利ではあります。この後、第2奏者以降、どのような展開になっていくのか、楽しみです。

Aljosa Jurinic (Croatia)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11
この辺から、You Tubeの視聴者数が増えだしたのか、配信状態が不安定になり、断続的にしか見られなくなりました。 従って、以下は全て連続で聴いた上でのコメントではありません。 この人は第3次予選を通過しないと思っていた人の1人です。 第1楽章のオーケストラの出だしは、やはり同じようなテンポ配分でした。これは奏者によって変えているというよりは指揮者の個性のようです。 ピアノの出だしはバッチリ決まりました。スケールのパッセージでレッジェーロをかけるとか、速い部分にややリテヌートをかけるなど、 工夫が感じられました。基本は硬質の音色で、緩徐部は歌えていましたが、美しさは前出のSeong-Jin Choの方が1枚も2枚も上手でした。 第2主題が終わった後の急速部はやや遅めのテンポでややうるさく感じられ左手の音量のコントロールが今一つでした。やや流れが悪い印象です。 展開部は遅めのテンポで1つ1つの音をマルカートで丁寧に弾いていましたが、個人的にはもっと速いテンポで飛ばす演奏が好きです。 緩徐部も流れがやや滞っていました。コーダはミスタッチがやや目立ってしまいました。 この遅めのテンポはこの人の考えがあってのことだと思いますが、全体的にもう少しテンポが速い方が個人的には好みです。 第2楽章はやや強めのタッチで1音1音はっきりと出した「発音の良い」演奏ですが、もう少し夢見心地の中間的なニュアンスが欲しい気がしましたし、 個人的にはもう少し「流れの良さ」が欲しかったです。 第3楽章は一応歯切れよく弾いていますが、テンポが遅くて音が固いので、どうしても重い印象を払拭できませんでした。 全体に第1次予選から、この人は「守りの演奏」という印象で、その印象は最後まで変わりませんでしたし、 Seong-Jin Choに比べるとテクニックの精度が粗く、ミスタッチが多く、彼を超える要素は皆無という印象で、 改めてSeong-Jin Choの演奏がいかに素晴らしかったかを再認識しました。 この後のコンテスタントの演奏次第ですが、この人は入賞は難しそうです。

Aimi Kobayashi (Japan)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11
第1楽章のオーケストラの序奏は同じようなテンポ配分ですが幾分速く感じられました。このテンポに慣れたからかもしれません。 ピアノの出だしはバッチリ決まり、第1主題は遅めのテンポで抑揚を付け極めて表情豊かに弾いていましたし、美しい音色が出ていました。 第1主題と第2主題のつなぎの部分や展開部直前、展開部などの難所も技術的に余裕をもって弾けていましたしミスも極めて少なく、 自然で高度な音楽性が光る完成度の高い演奏でした。唯一足りない点を指摘するとすれば、ダイナミクスでしょうけど、これは仕方がないと思います。 第2楽章は自然で流麗な流れが美しく、素晴らしい演奏でした。 第3楽章は軽快に弾けていましたが、速いパッセージの音の粒立ちがややはっきりせず、この点、 この楽章に関しては、Seong-Jin Choの方が一枚上手のようでした。 この人らしくないミスタッチも散見され、音色の美しさや音の粒立ちの良さ、流れの良さなどの点で、 僕の中ではSeong-Jin Choに及ばず残念ながら次点となってしまいますが、 全体を通して、十分に素晴らしい演奏でした。経験値のなせる業でしょうか。 この人の演奏は全てのステージを聴いてきましたが、この本選のコンチェルトが最も良かったのではないかと思います。 調子を上げて最後にベストの演奏をしてフィニッシュするところなど、この人は大舞台、ここぞというところで最も大きな力が 発揮できるようで、ピアノ弾きとしての才能もさることながら、その精神的なタフさ、心臓の強さ、強運などピアニストとして必要な資質が 備わっているように感じられました。力は出し切ったと思いますから、後は結果を待つのみです。 十分に入賞を狙える演奏だと思いましたし、上位陣の演奏の出来次第では、その一角に食い込めるチャンスは十分ありと見ました。

Kate Liu (United States)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11
第1楽章のピアノの出だしは気づきにくいミスタッチがありましたが概ね良い出だしでした。 第1主題の哀愁漂うパッセージも極めて美しい光沢をもつ粒立ちの良い音色で弾いていました。 抑揚も自然で流麗でした。この人は基礎技術がかなりあることが予選の演奏でよく分かっていて、 難易度が高ければ高いほど冴える傾向があり、そうした持ち味はこのピアノ協奏曲で最大限に発揮されていると感じられました。 難所の速いパッセージでも音の冴えが失われず輝きを増していました。 展開部、コーダ(ペダリングが少し変でしたが)も技術的には素晴らしく見事な演奏でした。 もったいないミスタッチが多発していたのが惜しまれます。 第2楽章は光沢のあるはっきりとした美しい音色で細かいパッセージに至るまで1つ1つの音が表情を持って響いてきて、 胸を打つようでした。 第3楽章は軽快に弾きながらも、ところどころにこの人ならではの細かい味付けが施されている上に、 細かいパッセージでも音がしっかりと光沢をもって鳴り響くため、オーケストラにかき消されることはありませんでした。 細い身体、細い指なのに不思議です。力の無駄が全くなく完全脱力で正しい奏法ができている何よりの証拠だと思います。 ところどころもったいないミスタッチがありますが、総じて素晴らしい演奏でした。

本選初日を聴き終えて
※本選初日は総じてレベルが高かったと思います。Seong-Jin Choがトップではありそうですが、小林愛実さんも十分に素晴らしい演奏で、 個人的には暫定2位です。Kate Liuの演奏はミスタッチが多いのが惜しまれますが、小林愛実さんとの優劣は実のところはっきりしない印象です。 2日目以降は本日の1位のSeong-Jin Choを超える演奏が現れるか、1位と2位グループ(小林愛実さんとKate Liu)の間に割り込む人が何人出てくるかが気になります。

10月19日午後追記
翌日改めて聴き直してみると、小林愛実さんよりも、Kate Liuの方がこの曲に相応しいはっきりとした輝かしい音が出ていて音の粒立ちが美しく、 技術的にも筋がよく素直な音楽性がそのままストレートに伝わってくる、明らかに優れた演奏をしていることが分かりました。 僕は日本人ということもあって、小林愛実さんに1つでも良い賞をと思って好意的に演奏を聴いていたことと、夜間から明け方の時間帯に 眠い目をこすりながら(目にマッチ棒を立てて)聴いていたこともあり、 判断力が鈍っていて客観的で正確なは判断ができなかったようでした。言い訳をするようで申し訳ありませんが、正確には小林さんはSeong-Jin ChoとKate Liuに次いで暫定3位に なりますので、修正させていただきました。

1人演奏が終わるごとに順位付けするのは結構労力がかかる上に後の修正の余地を狭めてしまうため、 今まで通りA〜Eのランク付けのみを行うこととし、後でまとめて順位づけしたいと思います。

10月20日(火)午前1時〜3時30分(ポーランド現地時間:10月19日午後6時〜8時30分)
A Eric Lu (United States)
C Szymon Nehring (Poland)
? Georgijs Osokins (Latvia)

Eric Lu (United States)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11
今日はヤマハではなくスタインウェイを使用していたため、音色の印象はそれまでと違いますが、やはり本格派の筆頭とも言える素晴らしい演奏でした。 第1楽章はピアノの入り方は完璧。第1主題はいたずらにテンポを動かさず自然な抑揚を付けてセンス良く歌っていて僕自身の感覚に最も近い演奏でした。 第2主題は遅めのテンポでしたが作為のない自然に湧き出るかのような旋律が心に響きました。 展開部直前、展開部、コーダなどの難所も技術的に完璧で、極めて粒立ちの良い音色で華やかさにも事欠かない演奏でした。 ところどころ惜しいミスタッチやオケと会わない部分もありましたが、これは明らかに減点対象外でしょう。 第2楽章は自然で清らかで瑞々しい情感をいっぱいにたたえた歌が心に真っ直ぐに届く素晴らしい演奏でした。 オーケストラと合わせるという制約があるため、独奏の時のような彼の独特のルバート、持ち味が聴く人に伝わりにくい部分もあったかと 思いますが、今までの中で最も素晴らしい第2楽章でした。 第3楽章は常識的なテンポで軽快な演奏でした。難所も完璧でした。最後の難所も音の粒立ちが素晴らしく、完成度の極めて高い演奏だったと思います。 この人の演奏はSeong-jin Choと比較されそうですが、ショパンらしい音色や1つ1つの音の粒立ち、難所になっても1つ1つの音が しっかりと輝きを放っているところなど、この人はかなり洗練された上質なテクニック(ツィメルマンやブレハッチにも通じる)を持っているという点で、 個人的にはSeong-jin Choの演奏よりも好きです。 惜しいミスタッチがありましたが、音色、ショパンらしい自然な節回し、テクニックのレベルを考えると 僕自身の中で、この人が暫定トップとなりました。もちろん好みは人それぞれだと思いますが、 この曲に精通している人は、この演奏を最も好む人が多いのではないかと思います。 目立ちにくいですが、ピアノを聴く専門的で高度な耳を持った人であれば、この人が技術的にも音楽的にも他と全く異なる異次元の才能を 持った紛れもない逸材であることが分かると思います。 この人は見た目が頼りないため損をしていますが、 実は天性の音楽性と、かなりしっかりした自分の音楽と、全く癖のない高度な演奏技巧を備えた稀に見る逸材です。 この後、これに匹敵する演奏が現れなかった場合、この人に優勝を、というのが個人的な希望です。

Szymon Nehring (Poland)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11
第1楽章の入り方は完璧。第1主題は自然な抑揚を付けて歌っていて本物の上質な「歌」があり、この人の音楽性が本物であることを示していました。 第2主題も標準的なテンポで作為のない自然なルバートを付けてセンス良く歌っていました。 展開部にも自然な華やかさはあり聴かせてくれるのですが、音の粒立ち、コントロールがやや甘くなる点が非常に惜しいです。 しかしコーダは速めのテンポで爽快に弾いており、かなりのテクニックも持ち合わせていることが分かります。 第2楽章はこの人の優れた音楽性が堪能できる素晴らしい演奏でした。この人は予選の時から素晴らしい音楽性を持っていることで注目はしていたものの、 技術的な傷やミスタッチが多いのが残念な印象がありましたが、今日は比較的調子が良さそうで、この楽章の1つの模範となりうる演奏だったと思います。 第3楽章は軽快に演奏していて技術的にも一応弾けていましたが、音の粒揃いが悪くミスタッチが多く、最後の難しいユニゾンは技術的にいっぱいいっぱいで、 僕にとって今一つの演奏でした。第3楽章が今一つだったのはこの楽章が技術的に特に難易度が高いことに加え、準備不足だったのかもしれないとも思います。 この人は人気がありそうで、地元ポーランドの期待を一身に集めていそうですが、格の面ではEric Lu、Seong-jin Choに一歩も二歩も譲る感があります。 今のところ、Eric Lu、Seong-jin Cho、Kate Liu、小林愛実さんに次いで暫定5位といったところでしょうか。 このままいくと入賞は難しそうですが、ポーランド人ということで、ひいきがあるのでしょうか。 未完の大器ではあっても、今回この演奏が評価されることは少し考えにくそうです。

Georgijs Osokins (Latvia)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11

今日の更新はここまでにします。Osokinsさんの演奏も興味はありますが、予選の演奏は全て僕自身の好みではなかったので、 この演奏を聴いたとしても僕の中では順位がつかない可能性が高いので、申し訳ありませんが、今回も選考対象外としました。

今日のEric Luの演奏は、予想以上にしっかりしていて素晴らしかったです。 やや線の細い感じがして、この演奏が会場でどう響いていたのかは分からず気になる点ではありますが、 僕の中では十分に優勝に値する演奏でした。

10月21日(水)午前1時〜3時30分(ポーランド現地時間:10月20日午後6時〜8時30分)
A Charles Richard-Hamelin (Canada)
A Dmitry Shishkin (Russia)
B Yike (Tony) Yang (Canada)

Charles Richard-Hamelin (Canada)
ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21
第1番同様、提示部の管弦楽はテンポがかなり遅めで、この指揮者は基本的な体内テンポがかなり遅いようで、ピアノの登場が待ち遠しく感じられました。 第1楽章はミスタッチしやすい出だしも完璧で、憂鬱で美しいヘ短調の第1主題、夢見心地の変イ長調の第2主題と各主題の雰囲気の違いを繊細に弾き分けていて、 ショパンの音楽の規範に従いながらも細かいところに独自の味付けを施していて素晴らしい演奏でした。 展開部の難所も安易に弾き飛ばす箇所は1か所たりともなく、全てがこの人のコントロールの元に進んでいく、まさしく王者の演奏でした。 この第1楽章は、第1番の第1楽章と比べて解釈の自由度が高いですが、 歌うべきところは歌い、陶酔するような詩情を奏でながらも、散漫な印象を与えることなく上手くまとめていて、その手腕の確かさも素晴らしかったと思います。 他の出場者と比べてこの人の経験値、年輪といったものが、このような抜群にバランスの良い演奏を可能にしているのではないかとも思いましたが、 もちろんこの人が本来備え持っている卓越したバランス感覚によるものが大きいと思います。 第2楽章は優しい美音でこの儚い夢のような美しくロマンティックな詩情を、ショパンの心の襞を映し出す鏡のように繊細な抒情性で格調高く歌い上げていて素晴らしかったです。 この楽章の最も素晴らしい演奏の1つでした。 第3楽章は速めのテンポで軽快な演奏でした。1つ1つの音がしっかりとした輝きをもって鳴り響いていて、技術的にも最高水準の演奏でしたが、 途中から、特にヘ長調のコーダは弾き飛ばしすぎかもしれないとも思いました。 全体として素晴らしい演奏でした。 優勝に値する演奏ではあると思いますが、年齢・将来性、作品の難易度で規格化するとEric Luに軍配が上がるでしょうか。

Dmitry Shishkin (Russia)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11
第1楽章のピアノの出だしは迫力のある鋭い和音で壮大、大柄に弾き始め、このコンチェルトのスケールの大きさを示す素晴らしいスタートでした。 第1主題、第2主題、そのつなぎともやや遅めのテンポで控えめでクールに弾いていましたが、それが終わり提示部後半の急速部に入ると、 速めのテンポで爽快かつダイナミックで迫力のある演奏に変わりました。この辺りの緩急の振幅の大きさもこの人の持ち味だと思います。 展開部、コーダは常識的なテンポで弾いていましたが、1つ1つの音にただならぬ迫力があり、思わず聴き入ってしまう演奏でした。 技術的にも完成度の高い演奏でした。 第2楽章は硬質の美音で、いたずらにテンポを動かさずに淡々と弾きながらも、そのクールさがこの魅力的な旋律の本来の美しさを引き出しているようで、 美しい演奏でした。 第3楽章は常識的なテンポですが、やはり1つ1つの音がクールで磨き抜かれている上にただならぬ迫力をもって聴く人に迫ってくるような演奏で、 最後の最後まで破綻する箇所は一か所としてなく、この人の技術が並外れて優れていることをはっきりと示す素晴らしい演奏でした。 音楽性については、他のコンテスタントと比べるのが難しいような独特の感覚を持っていますが、 ショパンの音楽の素晴らしさは十分聴く人に伝わる優れた感性を持っていることは確かです。 この人の演奏は1次予選で格の違いを見せつける演奏をしたときから注目していて、 どのステージでも「この人は確実に次のステージに進むだろう」という確信に近いものがありました。 どのステージを聴いても「落ちる気がしない」と思えたのは、この人とSeong-jin ChoとCharles Richard-HamelinとEric Luの4人のみでした。 僕の中では、この人の本選の演奏は、Charles Richard-HamelinとEric Luと並んでトップ3です。 この人の今までのステージの中で最も素晴らしい演奏だったと思います。優勝もありうるでしょうか。

今日のコンチェルトはレベルが高いです。次のYike(Tony) Yangの演奏も期待しましょう。

Yike (Tony) Yang (Canada)
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11
第1楽章はこの人の伸びやかな美音で第1主題、第2主題ともに標準的なテンポで、いささかのけれんみのない音楽をストレートに表出していて、 それがショパンの旋律の美しさを自然に引き出していました。展開部、コーダも標準的なテンポで自然に演奏していましたが、 左手の音量がもう少し大きくて音の粒立ちがはっきりしている方が僕の好みです。華やかさには少し欠けますが、 奇をてらったところの全くない若々しく美しい音楽が非常に魅力的な演奏でした。 そうした彼の持ち味は第2楽章で最大限に発揮されているように聴こえました。 この楽章の「春の宵」といった雰囲気の美しい詩情がそのままの形で聴く人にストレートに伝わってくる素晴らしい演奏で、 伸びやかな美音はこの楽章の雰囲気に非常によくマッチしていました。 第3楽章は出だしの方でやや大きい失敗があり、またやや不自然なテンポの揺れもありました。 譜読み違い(音違い)もあり、それまでと違ってミスタッチも多く、こなれていない感じで、準備不足の感が否めませんでした。 第3楽章が何とももったいないですが、全体として良い演奏でした。 この人の伸びやかな美音は得難い魅力ですし、まだ16歳という若さでここまで素晴らしい演奏ができること自体驚異的ですし、 この後、どのようにでも成長できる無限の伸びしろがありそうに感じました。 5年後に出場していれば優勝できたかもしれず時期尚早の感はありますが、僕たちファン側とすれば、 今回出場してくれたおかげで、素晴らしい才能を発掘できました。

個人的な順位
本選が終了しました。個人的な順位を以下のように付けました。 これは結果の予想ではなく、完全な個人的な順位です。

1位:Eric Lu (United States)
2位:Charles Richard-Hamelin(Canada)
3位:Dmitry Shishkin (Russia)
4位:Seong-Jin Cho (South Korea)
5位:Kate Liu (United States)
6位:Aimi Kobayashi (Japan)

Eric Luの1位を予想している人は非常に少なそうで残念ですが、個人的な好みで順位づけすれば、やはりこの人です。 ピアノ界でも数少ない、まさにダイヤモンドの原石とも言える逸材、天才と思います。 ミスタッチはそれほど多くはなかったものの、目立つところでミスしてしまったのが今一つの印象となったのかもしれません。 しかしこの人の音色はどこまでも純粋で神々しく、この人の奏でるショパンの音楽は本物で、心の底から感動できたのはこの人の演奏だけでした。 ミスタッチは緊張のためだったと思いますし、演奏技巧は他の出場者よりもはるかに素晴らしいものを持っていることがはっきりと分かりました。 例えば第1楽章の提示部の最後の方の右手と左手が異なる動きをする細かい16分音符を、これほど軽やかなタッチで 全ての音をコントロールできていた奏者は今回の出場者の中には他にいませんでした。 また第3楽章のロンドの嬰ハ短調で始まる右手の難しいパッセージをこれほどはっきりとした粒立ちで軽やかかつ上品に演奏していたコンテスタントは 僕の耳で聴く限り他にいませんでした。ブレハッチやツィメルマンにも通じる、ショパンの音楽と結びついた本物の演奏技巧です。 このコントロール力は曲の随所に活かされていて、粒立ちの良さと相まって、何とも軽やかで上品な音楽を生み出していました。 これは他の出場者には全くない他を引き離す得難い魅力で、 この演奏が弱冠17歳のものであるという点も考えると、誰が何と言おうと僕の中での優勝はこの人に決定です。 ショパンらしい繊細さ、音色の魅力、音楽的才能、全く癖のない上品で洗練された演奏技巧と、 ショパンを演奏する上で必要とされる特性を併せ持った稀に見る逸材で、僕の中では紛れもないダイヤモンドの原石です。 この人の地味でありながらも本物の才能を審査員の先生方が高く評価してくれることを願ってやみません。 彼が優勝できなかったとしても、今回のショパンコンクール出場者の中で演奏会に行きたい、CDを買いたいと一番強く思う人はこの人でした。

Charles Richard-Hamelinは、素晴らしいピアニストでした。本選でこの人だけが第2番を弾きましたが、 これは素晴らしい演奏でした。他の出場者の弾く第1番の演奏がその他の出場者の演奏と比較されるのに対して、 この人の弾く第2番は他に弾く人がいないため、歴史的名演(例えばツィメルマン)と比較される点が非常に不利に働き、 僕の中ではツィメルマンの演奏には遠く及ばないのですが、それでも優勝に値する十分に素晴らしい演奏でした。 その他のステージでもこの人の演奏は、突出して素晴らしかったですし、 ポロネーズOp.44、舟歌Op.60、ピアノソナタ3番Op.58は、他の出場者のどの演奏よりも素晴らしく、 ロンドOp.16の素晴らしさは僕の中でホロヴィッツをはるかに超えていました。 全てのステージの演奏をCDに収録してそのまま売れそうなくらい完成度の高い素晴らしい演奏でした。 その意味で、この人も優勝に十分値すると思うのですが、この人の年齢、今後の伸びしろを考えると、 1位はEric Luに譲ってもよいのではないかというのが個人的な意見です。 というより、これは純粋に好き嫌いの問題ですが。

Dmitry Shishkinは、全てのステージにおいて、他の出場者と全くタイプが異なる突出した素晴らしい演奏をしていました。 ロンドOp.1がこんなにも素晴らしい曲だったのかと再発見させてくれたのが強く印象に残っていますが、 最後の最後、ピアノ協奏曲第1番でそれまでのどのステージよりも素晴らしい演奏を聴かせてくれたのがやはり強烈な印象を残しました。 伝統的な「ショパンらしさ」という点では若干趣が異なりますが、このような鋭利な刃物が突き刺ささってくるような 緊張感にみなぎった独特の非常にユニークなショパン演奏は、これはこれで非常に大きな魅力だと思います。 その意味で順位づけするのが難しいのですが、この人はもしかしたら、ショパン以外、例えばリストやラフマニノフなどの方が、 その持ち味を発揮できるピアニストかもしれません。いずれにしても、この機会にこの人を発掘できたことは僕の中で1つの収穫となりました。

Seong-Jin Choは、全てのステージにおいて安定した力を示していました。 高度に完成された演奏技巧、筋の良い優れた音楽性、ショパンらしい音色、ミスタッチの少なさなど、 全てにおいて平均をはるかに上回っていました。ピアニストとして最高クラスの能力を備えた完成度の高いピアニストと言えます。 本選のピアノ協奏曲第1番も素晴らしい演奏で、最初に聴いた時はこれを超える演奏は現れないのではないかと思えるほどでした。 それでも後に素晴らしい演奏が現れ、もう一度演奏を比較すると、どうしてもこの人の存在が霞んでしまうのが否めませんでした。 非常に素晴らしい演奏なのですが、決め手に欠けるというか、自分の中でこの人を他のピアニストの上に置きたいという 積極的な理由が不思議なことに見当たらないわけです。そのような訳で、この人は僕にとってこの位置が妥当という結論です。

小林愛実さんの演奏は上位4人に比べて若干遜色がある印象ですが、希望的観測も含めて小林愛実さんも入賞してほしいです。 Kate Liuの上に立ってほしいと思っていますが、僕の耳で聴く限り、どうきいてもKate Liuが上回っています。

繰り返しますが、以上は結果の予想ではなく、僕自身の中での個人的な順位です。 今回はそれぞれ異なるタイプのコンテスタントが素晴らしい演奏を繰り広げていて、最終的には好みの問題と言ってもいいくらいなので、 おそらく当たらないのではないかと思いますし、当てようという気持ちは全くありません。

それでは最終結果を楽しみに待ちましょう!


以下、第3次予選の過去記事

第3次予選:10月14日前半
第3次予選:10月14日後半
第3次予選:10月15日前半
第3次予選:10月15日後半
第3次予選:10月16日前半
第3次予選:10月16日後半

第3次予選の日程・演奏者

10月14日
前半:10時〜14時(日本時間:10月14日(水)午後5時〜9時)
Galina Chistiakova (Russia)
Seong-Jin Cho (South Korea)
Chi Ho Han (South Korea)
Aljosa Jurinic (Croatia)

後半:17時〜21時(日本時間:10月15日(木)午前0時〜4時)
Su Yeon Kim (South Korea)
Dinara Klinton (Ukraine)
Aimi Kobayashi (Japan)

10月15日
前半:10時〜14時(日本時間:10月15日(木)午後5時〜9時)
Marek Kozak (Czech Republic)
Lukasz Krupinski (Poland)
Krzysztof Ksiazek (Poland)
Kate Liu (United States)

後半:17時〜21時(日本時間:10月16日(金)午前0時〜4時)
Eric Lu (United States)
Szymon Nehring (Poland)
Georgijs Osokins (Latvia)

10月16日
前半:10時〜14時(日本時間:10月16日(金)午後5時〜9時)
Charles Richard-Hamelin (Canada)
Dmitry Shishkin (Russia)
Alexei Tartakovsky (United States)
Zi Xu (China)

後半:17時〜21時(日本時間:10月17日(土)午前0時〜4時)
Yike (Tony) Yang (Canada)
Luigi Carroccia (Italy)

審査委員長
カタジーナ・ポポヴァ・ズィドロン
審査員(肩書)
マルタ・アルゲリッチ(1965年第7回ショパンコンクール優勝)
ダン・タイ・ソン(1980年第10回ショパンコンクール優勝)
海老彰子(1980年第10回ショパンコンクール第5位)
フィリップ・アントルモン
ネルソン・ゲルネル
アダム・ハラシェヴィッチ(1955年第5回ショパンコンクール優勝)
アンジェイ・ヤシンスキ
ギャリック・オールソン(1970年第8回ショパンコンクール優勝)
ヤヌシュ・オレイニチャク(1970年第8回ショパンコンクール第6位)
ピョートル・パレチニ(1970年第8回ショパンコンクール第3位)
エヴァ・ポブウォツカ(1980年第10回ショパンコンクール第5位)
ユンディ・リ(2000年第14回ショパンコンクール優勝)
ヴォイチェフ・シフィタワ
ディーナ・ヨッフェ(1975年第9回ショパンコンクール第2位)
ドミトリー・アレクセーエフ
ジョン・リンク

第3次予選の個人的感想・評価

自分なりに各出場者を演奏レベルでA〜Eでランク付けしました。
A:非常に素晴らしい・通過確実
B:まあ通過するのではないか
C:当落線上ギリギリ
D:予選落ちか
E:予選落ち確実
?:演奏を聴いていない

10月14日前半
? Galina Chistiakova (Russia)
B Seong-Jin Cho (South Korea)
D Chi Ho Han (South Korea)
C Aljosa Jurinic (Croatia)

Galina Chistiakova (Russia)
マズルカOp.59-1〜3、バラードOp.23、バラードOp.47、ピアノソナタOp.35

Seong-Jin Cho (South Korea)
マズルカOp.33-1〜4、24の前奏曲Op.28全曲、スケルツォOp.31
マズルカOp.33は僕自身がこう弾いてほしいと思うことをほとんど全てやってくれる演奏ですが、それでいて「何かが足りない」という印象が 否めない演奏でした。音色の魅力や変化が今一つ物足りないのと、Op.33の4曲はショパンコンクールに向かないのではないかという 全く個人的な意見によるものです。 24の前奏曲Op.28はショパンがこの作品たちに盛り込んだ詩情をその細かい感情のひだに至るまで感じ取っているのが分かる 優れた演奏でした。技術的にもレベルが高くミスタッチも究極的に少ない完成度の高い演奏で、この作品の1つの理想像とも言える演奏でした。 音色の魅力にやや乏しい点がマイナスですが、ここまでやられたら、全く文句のつけようがありません。 スケルツォOp.31は華やかさと優雅な詩情、激情がそのまま理想の形で表現された素晴らしい演奏で、満点を付けようと思っていました。 と過去形で書いてしまったのには訳があります。というのは、最後の最後の音、両手で乖離跳躍してパッと決めなければならないところで、 何と音がほとんど鳴らなかったからです。「ああ〜、やっちゃった〜」と大声を上げた(僕が)のは言うまでもありません。 しかしこの人はミスタッチが究極に少ないですし、技術的にも音楽的にも高度なものを持った人です。 音色の魅力や陰影に若干乏しいため、満点は付けられませんが、最後のミスタッチは僕の中では減点対象にはなりません。 本選で、この人の完成されたコンチェルトを是非聴きたいと思います。

Chi Ho Han (South Korea)
マズルカOp.59-1〜3、ポロネーズOp.53、24の前奏曲Op.28
この人は2次予選では音楽的には良い演奏でしたがミスタッチが多くその点が評価の分かれ目となって落ちる可能性が高いと見ていた人です。 この人が通過したということはミスタッチがあってもそれを補って余りある良さがあると評価されたのだと思います。 マズルカは作品番号別に見ると、個人的には僕自身が最も好きな作品59を選択。 マズルカのリズムよりも詩情に重きを置いた美しい演奏で好感が持てましたが、ところどころなんでもないところでミスタッチがあるのが気になり、 演奏に集中するのが妨げられました。 ポロネーズOp.53は力強く華麗な演奏でしたが、やはりミスタッチが多かったです。 24の前奏曲Op.28はショパンがこの曲に込めた思いを敏感に感じ取って音にしている点は好感が持てましたが、 ミスタッチの数・頻度が許容限度をはるかに超えていました。 最後の24番ではハ長調の音階が途中で「脱線」してG音までしか届かないという事故が起こりましたし、 それ以外の部分も荒っぽく数秒に1回の割合でミスタッチが頻発して最後は荒れてしまいました。 僕は例え速いパッセージであってもミスタッチは1音たりとも聴き漏らさない耳を持ってはいますが、ミスタッチそのものには比較的寛容です。 それでもこの人のミスタッチの多さは許容限度を超えていました。せっかく音楽的に良いものを持った人なのに残念ですが、 この人はここまでで終わるのではないかと思います。

Aljosa Jurinic (Croatia)
マズルカOp.17-1〜4、ピアノソナタOp.58、エチュードOp.10-11,エチュードOp.25-2, Op.25-7, Op.25-11, Op.25-12
この人は硬質のくっきりした音色を出して1音1音マルカートで弾くという傾向を持つことが1次予選で分かり、 それがこの人の持ち味だと思っていましたが、2次予選では必ずしもそれが良い方向に作用したとは限らないと思っていました (既にコメントしたように、2次予選のOp.55-2のノクターンや幻想ポロネーズでさえ、夢想や幻想を感じず、極めて現実的な音楽でした)。 しかしこうして3次予選まで勝ち進みました。マズルカは適切なアゴーギクとデュナーミクで音楽的に弾いていましたが、 音色が硬質で生真面目な演奏だからか、ショパンがこれらのマズルカに込めた、楽譜に書ききれなかった細かいニュアンスまでは出ていないように聴こえました。 ピアノソナタOp.58は技術的なレベルが非常に高く音楽的な解釈も妥当で完成度も高かったのですが、やはり硬質な音色でニュアンスや陰影に乏しいからか、 一本調子に聴こえてしまったのが惜しまれます。マイクとスピーカーを通しての音なので会場では実際にどう聴こえていたのかは分かりませんが、 もしかしたら硬質の美音が会場いっぱいに響き渡っていたのでしょうか?どうもイメージできないのですが・・・ エチュードはこの人の硬質な音色が比較的マッチするタイプの曲が多く、1次予選ではエチュードが素晴らしかったと以前僕がコメントした通りで、 おそらくエチュードを並べたのもこの人の長所を最大限に発揮するための戦術だと思いますが、 Op.10-11やOp.25-7など詩情や深い陰影が求められる作品になるとやや物足りなさを感じました。 最後のOp.25-11やOp.25-12は技術的にやや乱れており、集中力が切れてきたように感じられました。 全体として演奏水準は及第点には達していると思いますが、音色の魅力や音楽的な感興にはやや乏しく、 本選進出はやや難しいのではないかと感じられました。あとはこの後の演奏者の演奏内容次第だと思います。

10月14日後半
C Su Yeon Kim (South Korea)
C Dinara Klinton (Ukraine)
C Aimi Kobayashi (Japan)

Su Yeon Kim (South Korea)
ノクターンOp.48-1、舟歌Op.60、マズルカOp.24-1〜4、ピアノソナタOp.58
ノクターンOp.48-1の出だしはいたずらにテンポを動かさず、旋律の本来の良さが出ていて好感が持てましたし、 後半の和音連続の部分は力強く情熱的で、良い演奏だったと思います。 舟歌Op.60は各部分は細部を見れば十分美しく、音楽として成立しているように聴こえるのですが、 不思議なことに全体として散漫な印象となってしまっているのが惜しまれました。 この作品は作曲者自身が8分の12拍子を指示した通り、旋律や楽想を歌う息の長さが求められ、 微視的な細かいニュアンスや陰影を出しつつ、それを巧みにつなぎ合わせて1つの大きな流れとして聴こえるように奏さなければならない (より巨視的な捉え方も必要とされる) という音楽的な難しさがあることを、この演奏を聴いて改めて痛感しました。 マズルカOp.24は舟歌とは違ってそのような特徴があまり気にならないためか、ある程度満足して聴くことができました。 ピアノソナタOp.58の第1楽章でも1つ1つの部分はそれなりに美しく聴こえるのに全体としての統一感が希薄に感じました。 第2楽章は細かいパッセージのミスタッチが音抜けが目立ちましたし、中間部はテンポを動かしすぎて聴いているこちらがドライブされるようで疲れました。 これは第3楽章でも感じられたことで、言ってみればこの人の癖なのかもしれないと思いました。 この人はそれなりに上手いのに全体の印象が散漫に聴こえて統一感や構成感が欠如しているように聴こえてしまうことで損をしていると感じました。 もっと曲を大きくとらえる力やバランス感覚が備わると、一回り大きなスケールの、より説得力のある演奏になるように感じました。 これは好みの問題でしょうか。演奏内容だけを取れば、「No」を付ける審査員が多いような気がしますし、僕自身もどちらかというと「No」です。

Dinara Klinton (Ukraine)
マズルカOp.30-1〜4、ピアノソナタOp.35、エチュードOp.25-7〜12
マズルカはリズミカルで1つ1つのパッセージは相当極端にテンポと音量を動かしていますが、方向性は全て正しいので、 絶妙なバランスが保たれているように聴こえました。スケールの大きい立派なマズルカ演奏だと思います。 ピアノソナタOp.35は第1楽章、第2楽章の急速部は劇的でダイナミックで華麗で、聴き手を圧倒する凄まじい迫力がありますし、 それだからこそロマンティックな旋律の美しさが一層際立ちます。女流ピアニストでここまでパワフルでスケールの大きい演奏ができるピアニストは 少ないのではないでしょうか。しかもこの人は1次予選で弾いたエチュードOp.10-2がとてつもなく素晴らしい演奏だったのが強く印象に残っています。 この人は2次予選でエチュードOp.25-1〜6を弾いており、この3次予選でエチュードOp.25-7〜12を弾いて、作品25の全12曲を網羅したことになります。 エチュードOp.25-8やOp.25-10, 11, 12では多くのミスタッチがあり、技術的にも粗く完成度の低さが気になりましたが、 この人に対して完成度を求めるのは見当違いなのかもしれません。 技術的な精度はやや粗く時々音が汚くなるところが僕自身の好みとは少しかけ離れていますが、 細かいミスや技術的な粗さなどなんのその、ピアノから生み出す表現のスケールは桁違いです。 この人がコンチェルトを弾くとどのような演奏になるのかという興味はあります。 本選にはこのようなピアニストがいても面白いかもしれませんが、 何よりもショパンの音楽の理解を問われる「ショパンコンクール」ですから、このような演奏は評価しないというスタンスをとる審査員が多いような気もします。 これも、これ以後の出場者の演奏内容・レベル次第という気がしますが、個人的には「No」です。

Aimi Kobayashi (Japan)
ロンドOp.16、ピアノソナタOp.35、マズルカOp.17-1〜4、スケルツォOp.20
3次予選トップバッターのイタリア人コンテスタントが何らかの事情によりラストに回ったため、全員繰り上げとなり、 小林愛実さんは2日目の最初から1日目の最後に繰り上げとなりました。心の準備ができているかが心配されました。 序奏とロンドOp.16は音色とニュアンスが入念にコントロールされ、技術的にも完成度の高い見事な演奏でした。 ピアノソナタOp.35は第1楽章の展開部、第2楽章の主部などが意外にダイナミックで迫力があり、 やや雑な響きになる部分も散見されたのがこの人らしくないところでした。直前のDinara Klintonも ピアノソナタOp.35を演奏しており、パワー負けしないことを意識した結果でしょうか。 そうだとしたら本末転倒です。Dinaraさんとはパワー勝負では勝ち目がないのは明らかです。 繊細なテクニックと緻密なコントロール力では小林愛実さんの方が上なのだから、 そこを売りにして差別化を図る演奏をすればよかったのにと惜しまれます。 それでもピアノソナタOp.35の魅力の1つであるダイナミズムを十分に引き出していて、しかも過度な虚飾を施すことなく作品に真正面から向き合った演奏で、 個人的には好感が持てました。 マズルカOp.17-1〜4は、かなりテンポを動かし溌刺としたリズムで弾いていて、自己主張を強く意識した演奏に聴こえました。 それは必ずしも成功したとは言えないかもしれませんが、他の日本人が弾く平坦なマズルカとは一線を画する面白さが感じられる演奏でした。 スケルツォOp.20は主部とコーダでは優れたテクニックを活かして細かいパッセージの粒がきれいに揃っている上に軽快で歯切れもよく、 中間部の旋律も十分歌えていて好感が持てました。最後のコーダは最後の力を振り絞ってか、極めてダイナミックで この曲の終結に相応しい幕切れで、最後は好印象を残すことができました。 最後まで集中力が途切れることなく持続し、改めてこの人の演奏能力の高さ、集中力、ここぞというところで力を発揮する精神的なタフさに感嘆しました。 日本人代表として本選進出に期待しています。

3次予選第1日目
本日の7人のコンテスタントの中では、Seong-Jin Choが頭ひとつ抜き出ていて、後はダンゴ状態という印象でした。 あとは何を優先するかで順位が変わってきますが、Seong-Jin Cho以外で本選のコンチェルトを最も聴きたいと思ったのは、実はDinara Klintonでした。 小林愛実さんも大きな破綻なく実力を出し切った印象がありますし、このレベルであれば本選進出は大いに期待できそうです。 明日、明後日とどのような素晴らしい演奏が現れるか、楽しみです。

10月15日
前半:10時〜14時(日本時間:10月15日(木)午後5時〜9時)
B Marek Kozak (Czech Republic)
D Lukasz Krupinski (Poland)
B Krzysztof Ksiazek (Poland)
B〜C Kate Liu (United States)

Marek Kozak (Czech Republic)
ポロネーズOp.61、マズルカOp.30-1〜4、ピアノソナタOp.35、スケルツォOp.54
ポロネーズOp.61は美しいソノリティ―とバランス感覚で、知的で洗練の極致とも言える演奏でした。 マズルカも癖のないオーソドックスで美しい演奏でしたが、Op.30-3の中間部入口のトリルの音が違っているのと(こういう版があるのでしょうか)、 Op.30-4の最後の方の同じ音型の繰り返し回数が1つ足りないという間違い(ミスタッチではなく読譜)がありました。 しかしそれを除けば総じて素晴らしい演奏でした。 ピアノソナタOp.35はシャープでよく伸びる硬質の美音で、一点一画ゆるがせにしない精緻な演奏でした。 和音のバランスも素晴らしく強奏でも音が濁らず澄んだフォルティッシモが素晴らしく、 旋律部の節回しも綿密に練り上げられており、非常に美しく知的で洗練された完成度の非常に高い上質な演奏でした。 このショパンコンクールで聴いたピアノソナタ第2番の中では、この人の演奏が僕の中では暫定トップです。 第3楽章の葬送行進曲の付点リズムの音価が正しくないのが唯一惜しまれるところでした。 スケルツォOp.54もシャープな美音を活かして、この曲の細かいパッセージをくっきりと完璧に再現しており、 胸のすくような爽快な演奏でした。しかしスケルツォ最後でオクターブの連続でミスタッチを連発し、 最後のユニゾンの音階は途中で脱線してE音まで届きませんでした。最後の最後でこれが印象を悪くしてしまいました。 新たな発見に出会えるユニークさはありませんが、このキレの良さとシャープな美音と洗練された音楽性、高度なテクニックは ショパンの作品を聴き映えのする素晴らしい作品に蘇らせるのに必要な理想的な資質と考えています。 この人のピアノコンチェルトはきっと映えるに違いないと確信していますし、この人が落選する理由は全くないはずです。 スケルツォ4番の最後の大ミスによる失点がどの程度かにもよりますが、この人の演奏の知的な洗練度と完成度は群を抜いているため、 ミスなど関係なく余裕で通過すると思います。通過に1票です。

Lukasz Krupinski (Poland)
ピアノソナタOp.35、エチュードOp.25-7、マズルカOp.59-1〜3、ポロネーズOp.61
ピアノソナタOp.35は基本的な解釈は普遍性を重視しながらも、各部分にはギリギリまで表現の振幅を取り、 ダイナミックでスケールの大きな演奏を実現しています。音色の美しさや緻密なコントロール、洗練度、完成度は前出のMarek Kozakの圧勝ですが、 この人にそれを求めるのは酷のような気がします。第4楽章は技術的に粗くテンポをドライブしすぎで、「墓地に吹きすさぶ風」という趣は感じられませんでした。 エチュードOp.25-7は、テンポの動きを控えめにして静かに憂鬱な雰囲気を出してほしかったです。僕の好みの演奏ではありませんでした。 マズルカOp.59-1〜3は作品番号別に見ると僕の最も好きなマズルカですが、かなりテンポを動かして聴く人をも強くドライブするような不自然な流れの演奏で、 音色も美しくなく、聴いていて非常に疲れましたし飽きてしまいました。 ポロネーズOp.61はそれに比べると幾分大人しく、標準的な演奏に聴こえましたが、それでもやはりこの人の「我」が強く前面に出る部分も多く、 やはり聴いていて疲れてしまいました。 この人は個人的にはもうこれ以上は聴かなくても・・・と思いました。

Krzysztof Ksiazek (Poland)
前奏曲Op.45、ロンドOp.16、マズルカOp.50-1〜3、ピアノソナタOp.58
個性派の中で僕が支持している数少ないコンテスタントの1人です。 前奏曲Op.45は輝かしく芯のある音色で静謐で神秘的な雰囲気を出していました。テンポ・ルバートは非常に適切で控えめにセンス良く行われて、 理屈抜きに惹き込まれていく超絶的に美しい演奏でした。 ロンドOp.16も意外にオーソドックスな演奏で、シャープな音色で小気味の良いリズムで随所に素晴らしいセンスが光る優れた演奏でした。 ダイナミックスがやや物足りない印象ですが、この人は個性が強いながらもセンスが良いので嫌味を与えずに聴く人を惹きつける魅力を持っているように感じます。 マズルカOp.50-1はリズム感の素晴らしさが光る控えめな演奏と思いました。最後の2つの和音を余韻を残す弱音ではなく、完全なフォルティッシモで終わるところはこの人の個性です。 Op.50-2はマズルカリズムと美しい詩情が光る名演奏。 Op.50-3は静寂な雰囲気を大切にしながら美しい音を丁寧に紡ぎだす部分と感興豊かにスケールの大きな音楽を奏でる部分とものの見事に描き分けており、 素晴らしい演奏でした。これがポーランド本場のマズルカなのかは分かりませんが、彼のマズルカは是非全集として聴きたいと正直思いました。 ピアノソナタOp.58は第1楽章は技術的にしっかりとした演奏で細部の表情も実に繊細でありながら全体としてのスケールは大きく、 個性豊かな演奏でした。第3楽章は流れがやや停滞し間延びしてしまい、第4楽章は技術的な粗が出てしまったのが惜しまれますが、 これは集中力が持続していないからではなく、第4楽章の技術的な難易度が突出しているからと考えられます。 この人は今回参加した多数のポーランド勢の中で技術が一番しっかりしていて 自分の持っている音楽を臆することなく僕たち聴き手にストレートに伝えてくれる貴重な存在として第1次予選から注目していました。 今回はややオードソックスな演奏で「勝ち」に来た印象がありますが、やはりこの人の音楽は素晴らしいと思います。 特に前半の前奏曲Op.45とロンドOp.16は僕の中でいつまでも繰り返し聴きたいほどの忘れられない名演奏となりました。 この人も本選に進出して、コンチェルトを聴きたいと強く思う1人です。

Kate Liu (United States)
ポロネーズOp.61、即興曲Op.51、マズルカOp.56-1〜3、ピアノソナタOp.58
ポロネーズOp.61は各部分は十分に表情豊かに弾きながら、全体のバランスが優れていて完成度の高い演奏で、言葉の最高の意味において優等生の演奏でした。 即興曲Op.51は速めのテンポで爽やかな詩情に惹かれる演奏。中間部はかなり情熱的に盛り上げ、終わり方は弱音で終わるという工夫も見せてくれました。 マズルカOp.56-1は感興豊かで詩情豊かな名演奏でした。特に最後の終結部の右手の6度和音の連続する部分は細かい表情付けが美しく響きました。 Op.56-2はメリハリがよく優れたリズム感が前面に立った演奏でした。Op.56-3は一転して幻想的な楽想を感興豊かに奏していて、 表情豊かな演奏でした。 ピアノソナタOp.58は優れた技術を生かして表情豊かに弾いていて好感が持てましたが第3楽章が間延びして退屈な音楽になってしまったのが惜しまれました。 第4楽章はこの人の技術が活きそうでしたが、やや雑になってしまったのがいかにも惜しい演奏でした。 この人は難曲になればなるほど冴える人で、2次予選ではそれが全て良い方向に作用して素晴らしい名演奏になりましたが、 この3次予選では必ずしも成功したとは言えないのが残念なところです。とはいうものの、この人のきめ細やかなテクニックで どのようなピアノ協奏曲を弾いてくれるのか、興味があるため、個人的には本選進出に1票です。

10月15日後半:17時〜21時(日本時間:10月16日(金)午前0時〜4時)
A〜B Eric Lu (United States)
B Szymon Nehring (Poland)
? Georgijs Osokins (Latvia)

Eric Lu (United States)
マズルカOp.59-1〜3、24の前奏曲Op.28
他のコンテスタントと比べて演奏時間が短いのと、3次予選をピアノソナタではなく24の前奏曲で勝負するというのがユニークです。 マズルカはこの人本来の神々しい美音で1つ1つの音を慈しみ、かみしめるように弾き進めていく全く別次元の演奏でした。 24の前奏曲も同様のスタンスで、特に長調の穏やかな作品で聴かせてくれる爽やかで時に哀愁漂う詩情は他のピアニストからは得られない貴重なもので、 この人ならではの音の世界でした。短調の難易度の高い作品、例えば8番、16番、24番などはテンポも標準的で十分に力強く華麗で雄渾であり、 決して迫力不足、パワー不足になっていません。意外なことに難曲になると技巧も冴えるタイプのようです。 ただ全体としてテンポが遅めの傾向にあり、特に15番などはもう少し速くてもよかったかもしれません。 しかし究極の美音のため、決して退屈させることないのはさすがでした。 僕が聴く限り、全コンテスタントの中で、ショパンの音を大切にしようという気持ちが一番伝わってくるのがこの人の演奏でした。 同じ24の前奏曲を弾いても、Seong-Jin Choの方が作品全体を見渡すバランス感覚や完成度は高いですが、それでもなお 僕はEric Luの演奏の方に強く惹かれますし、伸びしろが伸びた先に見えるピアニストとしての魅力は圧倒的にこの人の方が上だと僕は確信しています。 基本的にあまり華やかな演奏ではないため、ショパンコンクール優勝の資格は不足していると評価されるかもしれませんし、 そもそもこの3次予選のプログラミング自体がシンプルすぎる点がマイナスポイントになる可能性はあり得ますが、 それらを差し引いたとしても、やはりこの人の演奏は別格だと思います。 この人の美しすぎるコンチェルトは絶対に聴きたいです。色々不安要素はあるものの演奏内容は他の奏者から得られない本物の感動があり 別格なので、通過させないという選択肢はないと思います。

Szymon Nehring (Poland)
エチュードOp.25-1,2,3,5,6,8,9,10,12、マズルカOp.33-1〜4、ピアノソナタOp.35
この人は音楽的には非常に素晴らしいものを持っていることは1次予選、2次予選を聴いてよく知っているのですが、2次予選でポロネーズOp.44で比較的目立つ事故を起こしてしまい、 加えて技術的な精度が粗いので落ちる可能性が高いと考えていた人です。 審査員の先生方は事故やミス、技術的な粗には意外に寛大なのが分かりましたし、 逆に言えば、審査員の先生方から見て、この人の音楽生が高く評価されていることが分かります。 エチュードOp.25の中から1次予選で弾いた4番、7番、11番を除く9曲を弾くという意欲的なプログラミングです(これでエチュードOp.25全曲を網羅しました)。 この人の奏でる音楽はなかなか魅力的で、美音と卓越した音楽性を持っている点が非常に捨てがたいと思いますが、 Op.25-2の最後の下降音階で1オクターブ上げるというようなアレンジをしてしまうとか、Op.25-6やOp.25-8の技術的完成度が甘いなど、 技術的には粗い部分がありそこが決め手に欠ける部分で惜しいです。 既に3次予選でハイレベルな競争となっているため、こうしたわずかな欠点が命取りとなる可能性が結構あります。 マズルカはさすがに美しく音楽的な演奏でした。ポーランド人の強みでしょうか。 ピアノソナタOp.35は、第1楽章は迫力満点、みなぎる表現意欲でそのまま前へ前へという推進力のある演奏ですが、 全体から見た完成度も保たれており、素晴らしい演奏でした。一方、第2楽章は荒っぽさが出てしまい小さな目立ちにくい弾き直しがありましたが、迫力は凄まじいです。 第3楽章は主部の和音の迫力もさることながら、中間部の祈りの旋律が美の極致でした。 第4楽章のユニゾンは粗さがありましたが、これだけのヘビーな曲目をこのレベルで弾ききるのは見事と言う他ありません。 他のコンテスタントよりもはるかに体力を消耗するヘビープログラムを組んだ意欲を買ってあげてほしいという気持ちもあります。 この人の本選進出にかける熱い思いが伝わってきます。何とか通過させてあげたいと思ってしまうのが人情です。 希望的観測も込めて「B」としました。

Georgijs Osokins (Latvia)
子守歌Op.57、マズルカOp.59-1〜3、即興曲Op.51、ピアノソナタOp.58、ワルツOp.18、ワルツOp.42

10月16日前半
A Charles Richard-Hamelin (Canada)
B Dmitry Shishkin (Russia)
D Alexei Tartakovsky (United States)
D Zi Xu (China)

Charles Richard-Hamelin (Canada)
前奏曲Op.45、舟歌Op.60、マズルカOp.33-1〜4、ノクターンOp.62-2、ピアノソナタOp.58
前奏曲Op.45はこの曲の最も理想的な演奏の1つと思いました。深みのある優しい美音と控えめでセンスの良いテンポルバートで この作品の静寂と神秘の魅力を存分に引き出して余りある、深い味わいのある素晴らしい演奏でした。 舟歌Op.60は音色、和音のバランスが完璧にコントロールされており、息の長いフレーズは控えめなテンポルバートで センス良く歌われていて、深い陰影と豊かな音楽性が素晴らしい演奏でした。 今回のショパンコンクールでは、舟歌は人気でしたが、本当に満足できる演奏は皆無に等しい状況でした。 しかしこの人の舟歌は久々に心の底から素晴らしいと思いましたし、感嘆を禁じ得ませんでした。 この人はどんな強奏でも和音が少しも濁らずに 完璧に鳴り響かせる天性の耳の良さとバランス感覚を持っているようで、 僕の耳で聴く限り、今回の出場者の中では群を抜いて完成度の高い、不世出のピアニストです。 マズルカOp.33-1,2は必要以上にテンポを動かさずセンス良くまとめていました。Op.33-3はところどころに思い切った表現が聴かれ、楽しめる演奏でした。 Op.33-4はマズルカの中でも屈指の名曲ですが、この素晴らしい作品を詩情豊かでスケールの大きく深い音楽として聴かせてくれました。この作品の理想の演奏の1つでした。 ノクターンOp.62-2は音楽的にまとめるのがさりげなく難しいノクターンですが、それを当たり前のようにさらりと苦もなくやってのけるような演奏でした。 安心して聴ける美しいノクターン演奏でした。 ピアノソナタOp.58は第1楽章は詩情豊かで技術的にも申し分のない完璧な演奏、第2楽章は速いパッセージの粒が完璧に揃っていて気持ちよく聴ける演奏、 第3楽章は適度なルバートで音楽性豊かな演奏、第4楽章は技術的に難しい楽章で、今回のショパンコンクールでは皆総崩れの状況でしたが、 この人の演奏は最後の最後まで完璧でした(若干のミスタッチはありましたが、技術的には完璧でした)。 この人の音楽の懐の深さと音色の深さ、技術的なコントロール力は抜群で隙というものが全くなく、僕が聴く限り全出場者中、 群を抜いてレベルの高い演奏をしています。これで優勝できなかったらこれ以上何を求めるのか、という議論にもなりそうです。 この隙のなさ、コントロール力は完成度の高さは、現役のピアニストの中ではツィメルマン以外、思い浮かばないほどです。 以前、僕はEric Luの優勝を推していましたが、現時点でこの人が優勝に最も近い位置にいるという認識に変わりました。 最終的には本選の演奏を聴くまで分かりませんし、審査員の先生方の判断にはなりますが、この人が優勝する可能性が最も高いと踏んでいます。

Dmitry Shishkin (Russia)
即興曲Op.29, Op.36, Op.51, Op.66, マズルカOp.59-1〜3、ピアノソナタOp.35
即興曲全曲を弾くというユニークなプログラムがまず聴く人を惹きつけます。 この即興曲とマズルカは残念ながらリアルタイムで聴くことができませんでしたし、3次予選結果発表前に聴くことはできませんでした。 10月17日午後に帰宅した後にゆっくり聴いて、ここに追加記載したいと思います。 ピアノソナタOp.35はシャープで硬質な音色で鋭敏な感性とダイナミクスが混然一体となった、完成度の高い素晴らしい名演奏でした。 この人は鋭敏で凍てつくような音色、音楽が魅力で、1985年ショパンコンクールに出場した鬼才ケマル・ゲキチを彷彿とさせるピアニストです。 このユニークな個性はピアニストとして大きな魅力で、最後の本選でもコンチェルトを聴きたいと強く思う1人です。 この人は本選進出の可能性が高いと思います。

Alexei Tartakovsky (United States)
ピアノソナタOp.35、マズルカOp.30-1〜4、スケルツォOp.20、バラードOp.52
スケルツォOp.20は冷静な音運びでパッセージ1つ1つを丁寧に処理した緻密で歯切れがよく完成度の高い演奏でした。 マズルカOp.30-1〜4は標準的でけれん味のない演奏で好感が持てましたが、今一つ特徴に乏しいように聴こえました。 バラードOp.52も一応は不満の少ない演奏でしたが、気になるミスタッチもあり、今一つ決め手に乏しい演奏でした。 ピアノソナタOp.35もその印象を払拭できませんでした。この人であれば、もっとシャープな音色で完成度の高い演奏ができたはずですが、 今回は不調だったのでしょうか。2次予選の時の方が良い演奏をしていたと思います(ワルツ2番の冒頭の大事故はありますが)。

Zi Xu (China)
24の前奏曲Op.28〜第14番〜24番、マズルカOp.41-1〜4、ピアノソナタOp.58
24の前奏曲は十分に表情豊かでしたが時に音楽の流れが停滞し技術的に完成度が甘い部分も散見され、今一つの演奏に聴こえました。 マズルカOp.41は標準的で十分に美しい演奏でしたが、躍動感にやや欠けているようでした。 ピアノソナタOp.58は急速部は標準的な演奏でしたが、技巧的な部分になるとやや粗さが出てしまうのが残念でした。 第3楽章はやや間延びしてしまい退屈に聴こえてしまいました。 この人は2次予選でノクターンOp.62-1や幻想ポロネーズで極端にテンポの遅い演奏をしていたのが強く印象に残っていて、 急速部と緩徐部のテンポのバランスがもう少し良ければ、と思っていて、今回もその悪い癖が出てしまったようでした。

10月16日後半
B Yike (Tony) Yang (Canada)
C Luigi Carroccia (Italy)

Yike (Tony) Yang (Canada)
バラードOp.52、ボレロOp.19、マズルカOp.59-1〜3、ピアノソナタOp.35
伸びやかで潤いのある真っ直ぐな美音はこの人の天性の資質で、聴く人を一瞬にして惹きつける強い力を持っています。 バラードOp.52はそんな彼の最大の持ち味である美音にまず惹きつけられますが、センスの良さと音楽性、見事なテクニックで、 この作品の魅力を存分に引き出した素晴らしい演奏でした。 ボレロOp.19は一般的には名曲としては認識されていませんが、この人の手にかかると光り輝く素晴らしい作品に生まれ変わるようでした。 これは天才ピアニストにして初めて可能となるものです。 マズルカOp.59-1は哀愁漂う美しい詩情が自然な音楽性とともに聴く人の胸を打つ素晴らしい音楽となって耳に届きました。 Op.59-2は遅めのテンポで夢想を音で描くような得難い演奏でした。Op.59-3は表現力豊かな演奏でこの作品の素晴らしさを自然な形で 聴く人に伝える演奏でした。 ピアノソナタOp.35はこの人の持ち味である美音と自然な音楽性、高度なテクニックでこの作品のあるべき姿を描いた素晴らしい演奏でした。 しかしこの作品だけを取れば、もっと優れた演奏をした人が何人か思い浮かびますし、最後は集中力がやや散漫になってしまった印象があるため、 積極的に満点を付けることはできませんが、十分に素晴らしい演奏でした。 この人は水の滴るような伸びやかで真っ直ぐに鳴る美音と自然で高度な音楽性、技術など、 既にピアニストとしてかなり高い水準にあります。ショパンの音楽に対する深い理解も演奏の端々から感じられます。 本選進出はほぼ確実、入賞を狙えるレベルと考えています。

Luigi Carroccia (Italy)
即興曲Op.36、マズルカOp.30-1〜4、24の前奏曲Op.28
この人は本来は3次予選のトップバッターだったのですが、手の怪我のためこうして最後に回ったという経緯があります。 即興曲Op.36は美しい音色、響きで感興豊かに演奏しており、素晴らしい演奏でした。僕は2次予選でこの人を問題外の落選と判断したのですが、 この1曲を聴いてこの人の演奏にはこんな素敵な魅力があったのか、と驚きました。 マズルカOp.30はかなり自由で伸びやかに弾いているようで、ショパンの音楽の語法にはかなり忠実でもあり、素晴らしい演奏でした。 Op.30-4の最後の音で他の余計な音を押して、弾き直してしまったのは残念ですが、総じて良い演奏でした。 ここで一旦立ち上がって楽屋裏に消えましたが、すぐに舞台に戻ってきました。手の怪我に関係があったのでしょうか。 24の前奏曲:1番ハ長調はリズムの取り方に癖があるようでした。しかしその後はなんと美しい・・・ビックリでした。 技術的には弱い部分が散見されリズムが乱れる箇所があり安定性には欠けますが、 例えば4番ホ短調、6番ロ短調、11番ロ長調、13番嬰ヘ長調、15番変ニ長調、17番変イ長調、23番ヘ長調などポエティックな作品は 明るい究極の美音で、とてもこの世のものとは思えない超絶的な美の世界を繰り広げており、これがこの人のユニークな個性であることが分かりました。 2次予選が不調だったのか僕にはこの人の魅力が理解できていませんでしたが、 2次予選の演奏を聴いてこの人を通過させた審査員の先生方の慧眼には感嘆せざるを得ません。 技術的には弱い部分があり、ミスタッチが多いため(これは手の怪我のせいもあると思いますが)、本選進出を積極的に推すことはできませんが、 もしこの人が本選に進出することがあったなら、この人の究極の美音と詩情で、是非ピアノ協奏曲2番(特に第2楽章は 世紀に残る名演奏となる可能性が期待できそうです)が聴きたいと思いました。

本選進出者の個人的予想

第3次予選を聴き終えての感想は10月17日午後に書きたいと思います。
ここでは、本選出場者10人が発表される前に、その予想したいと思います。
まず僕自身の考える当選確実組は、Seong-Jin Cho (South Korea)、Charles Richard-Hamelin (Canada)の2人です。 この2人はこの人を通過させなかったら大勢からの大ブーイング、抗議デモが起こってもおかしくないと思われる、ほぼ100%本選進出と断言できる人たちです。 次いで、8割がた通過するだろうと思われるコンテスタントとしては、Krzysztof Ksiazek (Poland)、Eric Lu (United States)、Dmitry Shishkin (Russia)、Yike (Tony) Yang (Canada)の4人を挙げます。 この6人に関しては異論のある人は少ないのではないかとも思いますが、一部、KsiazekさんとEric Luさんは猛烈な反対派がいることを確認しており、 この意見に反対する人がいることは一応は承知した上でのコメントであることをご理解いただければと思います。 ここまでで6人で、残る椅子は4つです。個人的には7番目にはMarek Kozak (Czech Republic)を強く推したいと思います。知的に洗練されたこの人のピアニズムは 聴く人が聴けば分かるものとはいえ、目立ちにくく、評価されにくいものではありますが、実は最近のピアニストでもこのような逸材はなかなか発掘できないものです。 日本人代表の小林愛実さんもかなりの熱演でしたし、是非本選に進んでほしいという希望的観測を込めて、本選出場者の1人として推したいと思います。 残る2人は、本選進出への気迫を感じさせる演奏を披露した未完の大器、Szymon Nehring (Poland)、女流ピアニストながらアルゲリッチばりの大迫力で 桁違いの表現力を見せつけたDinara Klinton (Ukraine)を挙げたいと思います。 Kate Liu (United States)も考えましたが、後で聴き返してみると3次予選はやや冴えない演奏に感じましたし、この人は惜しくも僕の中での10人には わずかに届かないという結論となります。 またGeorgijs Osokins (Latvia)は3次予選の演奏を聴いていませんが、2次予選で僕の好みとは大きくかけ離れているので、 3次予選の演奏を聴いても積極的に上位10人として選ぶ可能性は皆無と考えています。

もう一度整理します。僕が本選進出者に相応しいと思う10人を挙げると次のようになります。

本選当確(演奏が良いと思った順)
Charles Richard-Hamelin (Canada)
Seong-Jin Cho (South Korea)

8割がた通過か(演奏が良いと思った順)
Eric Lu (United States)
Yike (Tony) Yang (Canada)
Krzysztof Ksiazek (Poland)
Dmitry Shishkin (Russia)

個人的好み・希望的観測を込めて残り椅子4人(演奏が良いと思った順)
Marek Kozak (Czech Republic)
Aimi Kobayashi (Japan)
Szymon Nehring (Poland)
Dinara Klinton (Ukraine)

この予想が当たっているか、全く当たっていないか、明日の結果発表が楽しみです。

帰宅後、結果発表を確認して、コメントを書きたいと思います。

第3次予選審査結果に対する個人的見解

10月17日に本選進出者(第3次予選通過者)が発表されました。以下が発表された通過者です。

◎ Mr Seong-Jin Cho (South Korea)
  Mr Aljosa Jurinic (Croatia)
◎ Ms Aimi Kobayashi (Japan)
  Ms Kate Liu (United States)
◎ Mr Eric Lu (United States)
◎ Mr Szymon Nehring (Poland)
  Mr Georgijs Osokins (Latvia)
◎ Mr Charles Richard-Hamelin (Canada)
◎ Mr Dmitry Shishkin (Russia)
◎ Mr Yike (Tony) Yang (Canada)

僕自身の予想が的中したのは10人中7人でした。僕が予想し本選にも進出した人に◎を付けました。

本選当確と考えた2人、Charles Richard-Hamelin (Canada)とSeong-Jin Cho (South Korea)は順当に本選に進出しました。 この2人については異論がある人は恐らく少ないのではないかと思います。 2人ともピアニストとして備えるべきあらゆる資質を備えた完成度の高いプロフェッショナルで、2人とも最高位の可能性があると見ていますが、 個人的見解では、Charles Richard-Hamelinが優勢ではないかと思います。本選ではCharles Richard-Hamelinはピアノ協奏曲第2番(ヘ短調Op.21)、 その他のコンテスタントは全てピアノ協奏曲第1番(ホ短調Op.11)を演奏するとのことですが、 過去に第2番を弾いて優勝したピアニストはダン・タイ・ソンのみで、他の優勝者は全員、第1番を弾いているという動かしがたい過去の実績があり、 Charles Richard-Hamelinにとって、この選曲がどう出るか、目が離せない状況です。

次に8割がた通過と考えていた4人のうち本選進出を果たしたのは3人で、Eric Lu (United States)、Yike (Tony) Yang (Canada)、 Dmitry Shishkin (Russia)の3人で、Krzysztof Ksiazek (Poland)は残念ながら本選進出はなりませんでした。 Eric Luは3次予選でも、他の出場者と比べるのが難しいような独特の得難い魅力を放った別格の演奏をしていました。 ただ演奏曲目の数が少ない上、ピアノソナタではなく24の前奏曲を選曲しているというシンプルなプログラミングと 華やかさのない地味な(でも美しさは群を抜いている)演奏を審査員がどう評価するかが全く未知数という点で、本選当確グループに 入れることがためらわれたという事情がありました。個人的には才能だけを取れば、この人は本選当確2人よりも明らかに上と思われます。 問題はそれを審査員の先生方が正しく評価してくれるか、です。Osokinsが本選進出したという審査結果を考えると、 同じ審査基準が本選にも適用されると、Eric Luの神がかった美しい演奏が正しく評価されない可能性もありうるのではないかと考え、不安になります。 僕自身の正直な気持ちとしては、ショパンコンクールの存在意義を考えれば、やはりEric Luが優勝には一番相応しいのではないかという思いは強く残っています。 Yike (Tony) Yangは明るく真っ直ぐな美音と純粋で若々しい音楽性が魅力で、いささかのけれんみもない屈託のない非常に魅力的な演奏を 聴かせてくれる正統派の逸材で、当確組に限りなく近いという位置付けでした。コンチェルトの演奏次第では 上位入賞もありうると見ています。Dmitry Shishkinは鋭いタッチから生まれるシャープでクールな美音と幅広いダイナミクス、 群を抜いたテクニックを駆使して鋭敏な感性による独特の演奏を聴かせてくれる逸材で、ショパンらしいかどうかはともかく、 非常に得難い独特の個性が大きな魅力で、この人も他と比べるのが難しい独特の魅力を持った人なので、通過は堅いと踏んでいましたが、 最終的な順位が、ショパンらしさと音楽性で評価されるのだとしたら、この人は若干不利かもしれないと見ています。

個人的好み・希望的観測を込めて残り椅子4人として挙げた中で本選進出を果たしたのは2人で、Aimi Kobayashi (Japan)、Szymon Nehring (Poland)でした。 Marek Kozak (Czech Republic)は非常に好きなタイプのピアニストで本選でコンチェルトを聴きたかった人でしたが、本選進出はなりませんでした。 またDinara Klinton (Ukraine)は荒削りで個人的には決して好みではありませんが、表現のスケールを買われて、 本選進出に滑り込みセーフを予想していたのですが、選外となってしまいました。

審査結果は審査員の先生方の採点結果を集計して機械的に合計点を出して、最終的に審査員同士の協議の結果、選ばれた10人ということだと思います。 当然のことながら、そこには審査員の先生方1人1人の主観が反映されています。 一方、僕たち一般の愛好者1人1人も当然のことながら音楽的嗜好の違いがあるため、審査結果に100%納得できる人は非常に少ないと思います。 僕自身は本選進出者10人のうち予想した7人(◎印を付けたコンテスタント)については異論はありませんが、 逆に言うと、◎印を付けなかった3人には程度の差はあれ異論はありますし、 それは本選に進出するだろう、または進出してほしいと僕が考えた3人と入れ替わっているため、彼ら6人の結果には異論があるということになります。

特にMarek Kozak (Czech Republic)とKrzysztof Ksiazek (Poland)が落選したのは残念という他ありません。 Marek Kozak (Czech Republic)はあまり注目されていなかったようですが、非常にすっきりとした知的に洗練されたピアノソナタ第2番は、 僕が聴いた限り、3次予選コンテスタント中、最高水準の演奏の1つでした。Op.30-4のマズルカの最後の繰り返し音型で 繰り返し回数を間違えたことやスケルツォ4番の最後が大きく崩れたことが落選につながったのではなく、 おそらくこのような目立たないながらも非常に美しく洗練の極みに達した素晴らしい演奏が、 個性や面白味を求める審査員達から「特徴がなく平凡」と評されたのだと僕自身は考えています。残念なことです。 Krzysztof Ksiazek (Poland)も個人的に注目していたコンテスタントの1人で、 保守的で正統派が好きな僕にとっては珍しく、この人のユニークな演奏には惹かれるものがありました。 自分の音楽を持っていて、それを臆することなく僕たちにはっきりと示してくれる稀な存在でしたが、 僕がこの人の音楽に惹かれるのは、そのベースにショパンの音楽を演奏する際の普遍的な基礎があると感じられたからです。 例えば3次予選で聴かせてくれたOp.45のプレリュード、マズルカなどは、まさにショパンの音楽の深い理解に根差したもので、 そのベースがあるからこそ、この人の個性が活きるのだと考えています。 そしてこの人は何か人を惹きつける不思議な雰囲気を持った人でもあり、ムードメーカー的なものもあり、 ピアニストとしては得難いキャラクターの持ち主でもありました。この人が落選してしまったのは残念でした。 落選した人で僕が挙げたもう1人、Dinara Klinton (Ukraine)は1次予選で弾いたOp.10-2のエチュードが忘れられない名演で、 あの1曲でファンになりましたが、その後の演奏は結構雑で粗く、あまり惹かれるものはありませんでした。 荒削りの凄まじい迫力と表現力は「買い」ですが、当選でも落選でもどちらもありうるくらいに考えていました。

次に、僕が選ばなかった10人の中に入り込んだ3人、Aljosa Jurinic (Croatia)、Kate Liu (United States)、Georgijs Osokins (Latvia)についてです。 Aljosa Jurinic (Croatia)は1次予選の時にはエチュードを遅めのテンポではありながらもマルカートでバリッとした演奏をしていて、 好印象で注目していましたが、2次予選ではロマンティックな作品の演奏で音色の魅力に乏しく平坦な印象がありましたし、 3次予選のピアノソナタ第3番では最後の方は集中力が切れてしまったのかミスを連発して印象が悪くなってしまい、 僕の中では落選と考えていました。Kate Liu (United States)は1次予選でOp.10-2のエチュードでかなり大きな失敗をして 取り返すのは不可能と考えていましたが、最後に弾いた幻想曲が何とも素晴らしい名演で、これが良かったのか通過しました。 そして2次予選でアンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズで素晴らしい演奏を披露し、僕の中でこの人の株は一気に急上昇しました。 3次予選でも期待していましたが、ピアノソナタ第3番は音色の変化に乏しく表現がやや一本調子のように聴こえてしまいました。 ただこの人は技術的には非常に筋の良いものを持っていて、この点が評価されたのかもしれません。 僕の中では当落線上ギリギリで、この人は滑り込みセーフもありうるかもしれないとは考えていました。 好みで言えば、Dinara Klinton (Ukraine)の演奏よりもこの人の演奏の方が好きなくらいですから・・・ Georgijs Osokins (Latvia)については、何故本選に進出したのか理解不能です。3次予選の演奏も聴きましたが、 解釈が独り善がりでアクが強くてテクニックのレベルも低く、僕の耳で聴いて惹かれるものは全くありませんでした。 同じ個性派で本選進出者を選ぶのなら、この人を落としてKrzysztof Ksiazek (Poland)を残してほしかったと 思っている方ももしかしたら僕以外にも複数いるかもしれません。 この人の本選進出(2次予選通過も含めて)は、僕の中で「ショパンコンクール七不思議」の1つとなっています。

いずれにしても、こうして本選進出者10人が決定しました。 10人には素晴らしいピアノ協奏曲を期待しています。そして素晴らしい優勝者が生まれることを期待しています。

優勝候補について再び

本選進出者10人はそれぞれ他と異なる特徴を持ったピアニストではありますが、 何を優先するかで結果が大きく変わってくる可能性が高いため、優勝を予測することは極めて困難な状況です。 前回までは優勝者を当てることはそれほど難しくなかったのですが、今回ばかりは正直全く分かりません。

現時点では、ピアニストとしての完成度はCharles Richard-Hamelin (Canada)とSeong-Jin Cho (South Korea)が出場者の中では双璧と思いますが、 この2人は既に完成されていて伸びしろが非常に少ない印象があります。 また演奏そのものがひらめきには乏しくスター性にもやや欠ける印象があり、優勝に相応しくないという個人的イメージがあります。 この2人のいずれかが最高位となる場合、1位なしの2位が妥当な評価というのが個人的イメージです。

個人的な好みと私見では、ダイヤモンドの原石という意味で、将来性が最も楽しみな未完の大器Eric Luに優勝してほしいと願っています。 この人は優勝の資格は十分あると個人的には考えています。ショパンコンクールの存在意義、商業的観点からも、 史上最年少17歳の天才少年の優勝はスター誕生としての話題性やショパンコンクールの華やかなイメージに最も相応しいのではないでしょうか。

もし演奏内容で1位に該当する人がいないという判断になったのであれば、無理に1位は出さないでほしいと思います。 それはショパンコンクールの権威を保つ上で必要なことだと僕は思っています。

いずれにしても最高位を授賞するのは以上の3人に絞られつつあるのではないかと僕は考えています。
今日からの本選のピアノ協奏曲の演奏内容によって、最終結果は変わりうると見ています。 今回は全体的にレベルが低く混沌としているため、 もしピアノ協奏曲で突出した素晴らしい演奏をすれば、上記3人以外にも最高位を取れるチャンスはまだ残っていそうではあります。

繰り返しますが、これはあくまで一個人の私見ですので、皆さんは軽く聞き流していただければ幸いです。


以下、第2次予選の過去記事(10月9日〜13日)

第2次予選の演奏

第2次予選:10月9日前半
第2次予選:10月9日後半
第2次予選:10月10日前半
第2次予選:10月10日後半
第2次予選:10月11日前半
第2次予選:10月11日後半
第2次予選:10月12日前半
第2次予選:10月12日後半

第2次予選の日程・演奏者

10月9日
前半:10時〜14時(日本時間:10月9日(金)午後5時〜9時)
Lukasz Piotr Byrdy (Poland)
Michelle Candotti (Italy)
Luigi Carroccia (Italy)
Galina Chistiakova (Russia)
Seong-Jin Cho (South Korea)
Ivett Gyongyosi (Hungary)

後半:17時〜21時(日本時間:10月10日(土)午前0時〜4時)
Chi Ho Han (South Korea)
Olof Hansen (France)
Zhi Chao Julian Jia (China)
Aljosa Jurinic (Croatia)
Su Yeon Kim (South Korea)

10月10日
前半:10時〜14時(日本時間:10月10日(土)午後5時〜9時)
Dinara Klinton (Ukraine)
Aimi Kobayashi (Japan)
Qi Kong (China)
Marek Kozak (Czech Republic)
Lukasz Krupinski (Poland)
Krzysztof Ksiazek (Poland)

後半:17時〜21時(日本時間:10月11日(日)午前0時〜4時)
Rachel Naomi Kudo (United States)
Kate Liu (United States)
Eric Lu (United States)
Lukasz Mikolajczyk (Poland)
Alexia Mouza (Greece)

10月11日
前半:10時〜14時(日本時間:10月11日(日)午後5時〜9時)
Mayaka Nakagawa (Japan)
Szymon Nehring (Poland)
Piotr Nowak (Poland)
Arisa Onoda (Japan)
Georgijs Osokins (Latvia)
Jinhyung Park (South Korea)

後半:17時〜21時(日本時間:10月12日(月)午前0時〜4時)
Charles Richard-Hamelin (Canada)
Dmitry Shishkin (Russia)
Rina Sudo (Japan)
Micha? Szymanowski (Poland)
Arseny Tarasevich-Nikolaev (Russia)

10月12日
前半:10時〜14時(日本時間:10月12日(月)午後5時〜9時)
Alexei Tartakovsky (United States)
Alexander Ullman (United Kingdom)
Chao Wang (China)
Andrzej Wierci?ski (Poland)
Zi Xu (China)

後半:17時〜21時(日本時間:10月13日(火)午前0時〜4時)
Yike (Tony) Yang (Canada)
Cheng Zhang (China)
Annie Zhou (Canada)
Soo Jung Ann (South Korea)
Miyako Arishima (Japan)

審査委員長
カタジーナ・ポポヴァ・ズィドロン
審査員(肩書)
マルタ・アルゲリッチ(1965年第7回ショパンコンクール優勝)
ダン・タイ・ソン(1980年第10回ショパンコンクール優勝)
海老彰子(1980年第10回ショパンコンクール第5位)
フィリップ・アントルモン
ネルソン・ゲルネル
アダム・ハラシェヴィッチ(1955年第5回ショパンコンクール優勝)
アンジェイ・ヤシンスキ
ギャリック・オールソン(1970年第8回ショパンコンクール優勝)
ヤヌシュ・オレイニチャク(1970年第8回ショパンコンクール第6位)
ピョートル・パレチニ(1970年第8回ショパンコンクール第3位)
エヴァ・ポブウォツカ(1980年第10回ショパンコンクール第5位)
ユンディ・リ(2000年第14回ショパンコンクール優勝)
ヴォイチェフ・シフィタワ
ディーナ・ヨッフェ(1975年第9回ショパンコンクール第2位)
ドミトリー・アレクセーエフ
ジョン・リンク

第2次予選の個人的感想・評価

自分なりに各出場者を演奏レベルでA〜Eでランク付けしました。
A:非常に素晴らしい・通過確実
B:まあ通過するのではないか
C:当落線上ギリギリ
D:予選落ちか
E:予選落ち確実
?:演奏を聴いていない

10月9日前半
D Lukasz Piotr Byrdy (Poland)
D Michelle Candotti (Italy)
D〜E Luigi Carroccia (Italy)
C Galina Chistiakova (Russia)
B Seong-Jin Cho (South Korea)
D〜E Ivett Gyongyosi (Hungary)

Lukasz Piotr Byrdy (Poland)
バラードOp.52は荒々しくも力強い情熱的な演奏。ワルツOp.42も情熱的で非常に力強く華やかな演奏。 トップバッターだというのに既にピアノの調律が狂い始めています。この人はどれだけのパワーを持っているのでしょうか。 アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22は迫力がある演奏でしたが、音色が鋭く金属的で、耳に刺激的な音でした。 これがこの人の大きな特徴と思いますが、2次予選通過はさすがに難しいのではないでしょうか。
Michelle Candotti (Italy)
バラードOp.47、ワルツOp.34-1、ポロネーズOp.44、スケルツォOp.31
1次予選同様、前の演奏者の直後であり音量の差は歴然としていますが、 この人の方が奏でる音楽ははるかに上質です。バラードOp.47とワルツOp.34-1は惜しいミスがあるのと技術的にはやや粗い部分があり決め手に欠ける印象でしたが、 ポロネーズOp.44は技術・音楽性ともに素晴らしいと思いました。スケルツォOp.31は速いテンポで一本調子で抑揚に乏しいのが惜しまれます。 この人も2次予選通過は難しそうです。
Luigi Carroccia (Italy)
ポロネーズOp.61、バラードOp.38、ポロネーズOp.53、ワルツOp.18
最初から安定しない演奏でハラハラしながら聴いていました。全体的にペダルを踏みすぎて音が濁り、明晰さに欠けており、ミスタッチが多く安定しない演奏でした。 ワルツは3拍子の取り方が不自然でした。残念ながら落選はほぼ確実ではないかと思います。
Galina Chistiakova (Russia)
舟歌Op.60、ワルツOp.42、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
舟歌の冒頭は一体どうしちゃったのかと心配するくらい指が震えていてリズムが不安定でしたが、後半は安定して本来の調子を取り戻したようです。 ワルツOp.42は普通の演奏。アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22は技術的にはやや粗いものの、 力強くたくましく雄渾な演奏で最初の緊張が嘘のように堂々たる王道の演奏でした。 僕はこのような粗い演奏は好きではありませんが、通過はありうると思います。
Seong-Jin Cho (South Korea)
バラードOp.38、ワルツOp.34-3、ピアノソナタOp.35、ポロネーズOp.53
ミスタッチが少なく完成度の高い正統派の演奏でした。ショパンのピアノ曲に必要な柔らかい音色も持ち合わせていますし、 押さえるべき表現のツボも押さえられていると思います。この2次予選にピアノソナタを入れるプログラミングもユニークで、 これでインパクトを与えようとしたのではないかと思えますが、演奏は上質ではあるもののその内容は至って普通であるため、 突出した印象が全くありませんでした。開始早々の登場という演奏順も非常に悪く、この人はこの後、登場する強敵たちとの競争には極めて不利な立場に 立たされていると思います。この演奏の出来であれば、少なくともこの2次予選は間違いなく通過するはずですが、 その先、どのように勝ち上がっていくのか、それとも散ってしまうのか、目が離せない状況が続きそうです。
Ivett Gyongyosi (Hungary)
バラードOp.47、スケルツォOp.39、ワルツOp.34-1、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
1次予選で僕が評価Dを付けた人ですが、何故か通過した人です。美貌で得をしているのでしょうか、それとも何らかのカネやコネなど裏側の事情があるのでしょうか。 しかしやはり今回も何を弾いても技術的には弱くてミスも多くて好きにはなれないです。その割に大きく崩れないのはさすがではありますけど・・・ この人はさすがにここまでではないでしょうか。

10月9日後半
C Chi Ho Han (South Korea)
D〜E Olof Hansen (France)
C Zhi Chao Julian Jia (China)
C Aljosa Jurinic (Croatia)
B〜C Su Yeon Kim (South Korea)

Chi Ho Han (South Korea)
バラードOp.52、ワルツOp.34-1〜3、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
バラードOp.52はセンスの良い音楽性と高い技術で聴かせる本格派の演奏でした。音抜けや惜しいミスがありましたが総じて素晴らしい演奏です。 ワルツOp.34-1〜3も同様ですが、もう少し軽快さと哀愁を出せるともっとよかったと思います。 アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22はテンポが速すぎました。もっと標準的なテンポで落ち着いて弾けば 間違いなくこの予選も突破できそうだったのに残念です。ところどころ残念なミスもありましたし最後のアルペジオは崩れていました。 僕自身はこの人の演奏スタイルは概ね好きですが、音抜けやミスタッチが意外に多いのが何とも惜しく、今回はもしかしたら落選もあるかもしれません。

Olof Hansen (France)
ポロネーズOp.61、ノクターンOp.62-1、ポロネーズOp.44、ワルツOp.42
ポロネーズOp.61は自由な弾き方。ペダリングが悪く音が濁っていてミスや音抜けが目立ち、技術的にもかなり弱いと思います。 ノクターンOp.62-1は柔らかいタッチ(悪く言えば不確実な打鍵)で浮遊感漂う不思議な演奏(僕はこういう演奏は好きではないですが)。 ポロネーズOp.44も非常に個性的な演奏。主部と中間部の間に置かれたユニゾンのポロネーズリズムは一拍目を短く切るのが何とも・・・。 ワルツOp.42も個性的ではありますが安定しないせわしない演奏でした。 一言で言えば「音の心象風景」、「抽象画」といった趣の曖昧模糊とした演奏です。技術的に非常に弱いので個人的には好きになれない演奏です。落選濃厚と見ました。

Zhi Chao Julian Jia (China)
スケルツォOp.31、子守歌Op.57、幻想即興曲Op.66、ワルツOp.34-3、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
スケルツォOp.31は意外に普通の演奏で好感が持てましたが、 最後のコーダで大きく外してしまい、最後が上手く決まらなかったのが惜しまれます。子守歌Op.57も流麗で美しい演奏ですが分散6度の速いパッセージで比較的大きなミスが出てしまったのが 惜しいと思います。幻想即興曲Op.66は速い主部もまずまず完成度は高く、中間部の旋律も素晴らしかったと思います。 ワルツOp.34-3は速めのテンポではありますが、ブーニンの演奏が新時代の標準となった今では、ごく普通の演奏という印象でした。これも最後の方で音を外してしまい、 印象を悪くしてしまいました。 アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22は速めのテンポで意外に普通の演奏でしたが最後が少し崩壊気味だったのが何とも惜しかったです。 今回は調子に乗れないまま終わってしまった印象ですが、これまでのところ他の参加者が総じてレベルが低いので、相対的に浮上してこの2次予選は通過する可能性は残っていると見ています。
Aljosa Jurinic (Croatia)
舟歌Op.60、ワルツOp.64-3、ポロネーズOp.53、ノクターンOp.55-2、ポロネーズOp.61
舟歌Op.60はシャープで硬質な音色でかっちりとした演奏ですが、個人的にはこの曲はもう少し色彩感と深い陰影が欲しいです。 ワルツOp.64-3は遅めのテンポで一転一画きっちりと弾いていましたが、もう少し軽やかさと切なさが欲しかったです。 ポロネーズOp.53は間の取り方や音の出し方がブレハッチの名演を意識して模倣しているように感じる演奏でしたが、 音が刺激的でややうるさく感じました。優雅さと丁寧さはブレハッチの方がはるかに上です。 ノクターンOp.55-2は夢想的な演奏が好きですが、こちらは現実的な演奏でした。この印象はポロネーズOp.61でも変わりませんでした (というよりこの作品こそ、「幻想的」な響きや感覚が求められます)。 1次予選ではエチュードをパリッと弾いていて非常に好印象でしたが、旋律的で哀愁漂う音楽的な作品には残念ながらやや不向きのように感じられました。 何を重視するかで変わってきますが、3次予選以降は正直あまり聴きたいと思わなくなりました。
Su Yeon Kim (South Korea)
幻想曲Op.49、ワルツOp.34-1、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
幻想曲Op.49は情熱的で技術的水準も高い優れた演奏でした。ワルツOp.34-1はもっと軽快な演奏が好きですが、これがこの人の流儀なのでしょうか。 これはこれで十分「あり」だとは思いますが。アンダンテスピアナートは速めのテンポで流麗で爽やかで素敵な演奏でした。 華麗なる大ポロネーズは華やかで技術的にもほぼ問題なく好演奏だったと思いますが、最後のアルペジオが崩れ気味だったのが惜しまれます。 全体としては決め手に欠ける印象ですが、冒頭の幻想曲が成功したため、他の出場者に比べて印象が良く、有利に働きそうです。 この人が3次予選に進めるかどうかは2日目以降の出場者の演奏の出来次第だと思います。

第2次予選1日目は総じてレベルが非常に低くがっかりしてしまいました。
2日目以降に期待します。2日目(10月10日)日本時間午後5時30分過ぎから、期待の小林愛実さんが登場します。皆さんも応援しましょう。

10月10日
前半:10時〜14時(日本時間:10月10日(日)午後5時〜9時)
B Dinara Klinton (Ukraine)
B〜C Aimi Kobayashi (Japan)
C〜D Qi Kong (China)
C Marek Kozak (Czech Republic)
B〜C Lukasz Krupinski (Poland)
B〜C Krzysztof Ksiazek (Poland)

Dinara Klinton (Ukraine)
エチュードOp.25-1〜6、舟歌Op.60、ポロネーズOp.44、ワルツOp.34-3
エチュードOp.25-1は最初、メロディーラインが不明瞭で気になりましたがそれも最初の数十秒程度で、その後はしっかりとメロディーラインが浮き出た見事な演奏でした。 その他のエチュードも完成度の高い演奏で、難曲のOp.25-6も多少怪しい部分はあるものの地味に素晴らしい演奏でした。 舟歌Op.60はオーソドックスで振幅の大きく完成度の高い演奏。ポロネーズOp.44は情熱的で迫力があり胸に迫る素晴らしい演奏でした。 ワルツOp.34-3は軽妙さはあまりありませんでしたがテンポの速い(でも標準的な)演奏でしたが、最後のオクターブの前で少し間が空いたのが惜しまれました。 最後の音を外さないようにと慎重になったためでしょうか。 極上とは言えませんが、十分に質の高い素晴らしい演奏だったと思います。
Aimi Kobayashi (Japan)
舟歌Op.60、プレリュードOp.45、バラードOp.23、ワルツOp.34-3、ポロネーズOp.53
舟歌は美しい音色で標準的な演奏ですが色彩感や哀愁、陰影には乏しく難所になるとミスタッチが目立ち始め、ちょっと惜しい出来でした。 プレリュードOp.45は美しく自然で素晴らしい演奏。この曲の中で「言いたいこと」を言える日本人参加者はこの人だけだと思います。 バラードOp.23は総じて普通の演奏でしたがミスが目立ったのがこの人らしくないところでした。 ワルツOp.34-3は速いテンポで粒がきれいにそろった演奏ですがもう少し華やかな演奏が僕は好きです。 ポロネーズOp.53は標準的な演奏ですが、もう少し歯切れが良い演奏が個人的には好きです。 今回は不調だったのかミスタッチが目立ちましたが、それでも2次予選の平均以上の演奏ではあると思います。希望的観測で、ここも通過すると思いたいですが、 その後の出場者の出来次第では危ないかもしれません。
Qi Kong (China)
ノクターンOp.15-1、幻想曲Op.49、子守歌Op.57、ワルツOp.34-3、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
ノクターンOp.15-1は美音で高貴に歌い上げられた素晴らしい演奏で中間部はあっさり目で品が漂っていました。 幻想曲Op.49は華やかさよりも美しさを優先したような演奏ですが、ややミスが目立ったのがもったいないと思います。 子守歌Op.57は細かいパッセージが不揃いで残念な演奏でした。ワルツOp.34-3は標準的で無難な演奏ですが、この曲にはもっとはじけるような陽気さが欲しいです。 アンダンテスピアナートは美音で奏でられる爽やかな詩情が美しい演奏でした。 華麗なる大ポロネーズはミスタッチが多かったですがまずまずの演奏でした。 この人の演奏は美しいのですが地味なので、予選通過の条件として完成度が求められますが、今日は不調のようでした。 通過は難しそうです。
Marek Kozak (Czech Republic)
ノクターンOp.55-2、ワルツOp.18、舟歌Op.60、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
ノクターンOp.55-2は高貴で自然な節回しが耳に心地よい演奏でした。ワルツOp.18は華やかかつオーソドックスな演奏でした。 舟歌Op.60は陰影にはやや乏しい印象ですが標準的で十分聴ける演奏でした。アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズは 可もなく不可もないごく普通の演奏でした。他のピアニストと比較するとミスタッチは少ない方だと思いますが、 これといった特徴があまりないため、印象に残りにくいような気がします。審査員がどのような評価を下すかですが、 完成度が高くても特徴がない人は1次予選でも結構落ちているので、この人もここで終わりかもしれません。
Lukasz Krupinski (Poland)
ポロネーズOp.26-1&2、3つの新練習曲〜ヘ短調、ワルツOp.18、舟歌Op.60
ポロネーズOp.26というショパンコンクールでは他の誰も選ばないであろう作品を選んだのがこの人の戦術かと思います。 テンポがやや速くデフォルメし、聴く人をぐいぐい引っ張っていく演奏で、聴いている方はやや疲れましたが、 演奏自体は悪くなかったと思います。3つの新練習曲〜ヘ短調という選曲も渋く、この素晴らしく音楽的な作品を陰影をつけて演奏していました。 ワルツOp.18は速いテンポで聴く人を強くドライブするかのようなやや強引な演奏ですが、生き生きとした演奏でした。 舟歌Op.60は最初のC#のオクターブを弱音で始め、初めの3小節で惹きつけられました。 テンポルバートや間の取り方や「ため」の作り方が少しわざとらしく鼻につくところが気になりましたが、 この曲に深い陰影をつけようという意図と工夫が感じられ好感が持てました。 その工夫は必ずしも実ったとは言えないのが少々残念ですが、他の舟歌よりも十分に興味深い演奏でした。 僕はもっとストレートでスタイリッシュな演奏が好きですが、これはこれで1つの流儀です。 とりわけ突出した存在ではないですが、この人は通過するのではないかと思います。
Krzysztof Ksiazek (Poland)
幻想曲Op.49、マズルカOp.7-1〜4、ワルツOp.42、ポロネーズOp.44
第1次予選の時からこの人の演奏は興味深いと思っていましたが、好き嫌いが分かれる演奏スタイルであるだけに、 通過するかどうかは蓋をあけて見なければわからないという状況でした。しかし結果的にはこうして2次予選でもこの人の演奏が聴けることになりました。 幻想曲Op.49は振幅は大きいものの、速いテンポで華やかに演奏するようになった今の時代のピアニストの平均的なテンポと同じくらいの、割と普通の演奏でしたが、 ややミスタッチが目立ち、せっかくの良い演奏が減点になってしまいます。 しかし次のマズルカはリズミカルで楽しい演奏で、Op.7-1とOp.7-2では一部音を加えて編曲していました。これもこの人らしいですが 減点対象になってしまうのでしょうか。ワルツOp.42は速いパッセージ部分とその間に登場する旋律部の対比が素晴らしく、 しかも非常に軽快でリズミカルで楽しくなる演奏でした。ポロネーズOp.44も情熱的で迫力がありリズムのキレもよく、十分に説得力のある演奏でした。 幻想曲のミスタッチとマズルカの自己流の編曲がどの程度許容されるかにもよりますが、やはりこの人の演奏はユニークで 捨てがたい魅力があると僕は思いますし、非常に興味深いです。次に進めるかどうかは全く分かりませんが、個人的には進んでほしいです。 キャラクター的にも面白そうな人ですしね(ポーランドのお笑い芸人?)。

10月10日後半
B Rachel Naomi Kudo (United States)
A Kate Liu (United States)
A Eric Lu (United States)
D〜E Lukasz Mikolajczyk (Poland)
E Alexia Mouza (Greece)

Rachel Naomi Kudo (United States)
幻想曲Op.49、ワルツOp.34-1、スケルツォOp.39、ワルツOp.18、ポロネーズOp.53
幻想曲Op.49は緩徐部を抜けて、急速部の最初の方は妙なミスタッチが散発していましたが、 その後、調子を取戻し、ミスタッチは減りました。この曲は十分に情熱的で完成度の高い演奏。ワルツOp.34-1はやや重いが標準的でミスの少ない模範的な演奏でした。 スケルツォOp.39はショパンコンクールでは速いテンポで崩して弾く人が多かったのですが、この人はきちんとした打鍵で一点一画きっちりと音に出していく 正確無比で完成度の高い素晴らしい演奏でした。ワルツOp.18もよくコントロールされた打鍵で几帳面な演奏でした。 ポロネーズOp.53も非常にミスタッチが少なく純度の高い、技術的に完璧な演奏でした。 音楽的なオリジナリティーには乏しいですが、このミスタッチの少なさ、完成度と几帳面さと抜群のコントロール力は今回のショパンコンクール参加者のトップクラスです。 その点を買って、通過させてあげてよいのではないでしょうか。個人的には「通過」に1票です。
Kate Liu (United States)
バラードOp.52、ワルツOp.34-3、スケルツォOp.39、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
バラードOp.52は美しい音色で詩情豊かで振幅の大きい名演奏でした。 ワルツOp.34-3は軽快でリズミカルな演奏でしたが他の奏者と大きく変わらない内容でした。 スケルツォOp.39は細い身体から想像もつかない強く深い打鍵でオクターブを1音1音明確に刻印していく パワフルで情熱的な演奏で、緩徐部の高音から駆け下りてくる分散アルペジオもキラキラとした素敵な音色でした。 コーダもダイナミックかつ情熱的で技術的にも素晴らしくまさに圧巻でした。 アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22は詩情豊かで華やかでもあり技術的にも今回のショパンコンクールで最も優れた超つきの名演奏でした。 この人は1次予選でOp.10-2のエチュードでちょっと失敗してしまい、落選してもおかしくないと思っていたのですが、 最後に弾いた幻想曲Op.49が忘れられない素晴らしい演奏で、この演奏だけでも1次予選通過に十分値すると思っていました。 1次予選でこの人をしっかり拾い上げた審査員たちの慧眼には、当然と言うか感服せざるを得ません。 それにしても、2次予選でまさかこんなに素晴らしい演奏を聴かせてくれるとは思っていませんでした。この人はよほどのことがない限り通過確実と見ました。 今までこの人は全くノーマークだったのですが、この演奏を聴いて、ひょっとすると優勝もあり得るかもしれないと思い始めたところです。 もちろん評価Aです。
Eric Lu (United States)
マズルカOp.17-4、舟歌Op.60、ワルツOp.42、ノクターンOp.62-1、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
マズルカOp.17-4は美しい音色で哀愁と気品が漂う絶品の演奏でした。舟歌Op.60はとても17歳の少年の演奏と思えないほど深い陰影と情感と内面性をたたえた 音楽性豊かな演奏でした。ワルツOp.42は速いパッセージの音1つ1つが軽やかで明らかに他の参加者と一線を画する音色と音の質感を持っていて、 楽しませてくれました。ノクターンOp.62-1はこのコンクールで聴き飽きるほど聴きましたが、この演奏は特に変わったことは何もやっていなくても、 音色の美しさとたゆたう情感が他のピアニストと全く違って、極上のひとときを過ごせるノクターンでした。 アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22は比較的落ち着いたテンポでショパンの音楽に対して正面から向き合った誠実極まりない演奏で、 作品そのものの美しさが自然に音に流れ出てくるような趣でした。技術的にも大変素晴らしく、このような音楽が弱冠17歳の少年によって奏でられること自体、 奇跡と言わざるを得ません。アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22の最優秀演奏は早くもKate LiuからEric Luの手に渡ってしまった感があります。 今回のプログラムは総じて内面性で勝負した趣がありますが、それを17歳の少年が大成功させてしまうことそのものがまさに驚異的です。 この人も通過確実で、一瞬のためらいもなく「評価A」です。個人的には今まで聴いてきた今回の参加者の中でこの人の演奏が一番好きです。
Lukasz Mikolajczyk (Poland)
幻想曲Op.49、ワルツOp.34-1〜3、ポロネーズOp.53
幻想曲Op.49は技術的には全般的にやや粗いですがまずまずの演奏でした。 ワルツOp.34-1、3はややきめが粗く重い感じの演奏でした。ワルツOp.34-2は哀愁が漂う比較的良い演奏でした。 英雄ポロネーズは力強い普通の演奏ですが、やはり粗さが気になりました。 この人はさすがに通過は難しそうです。
Alexia Mouza (Greece)
バラードOp.23、ポロネーズOp.53、即興曲Op.29、ポロネーズOp.44、ワルツOp.34-3
バラードOp.23は音の色彩感に乏しい印象で、難所ではミスを連発しコーダは崩壊し暴走していました。 ワルツOp.34-3は何でもないところで音をちょくちょく外すのが気になり今一つの演奏でした。 ポロネーズOp.44は技術的に粗くミスタッチも多く打鍵の仕方も鍵盤を叩くような弾き方で好きではありませんでした。 即興曲Op.29は疾走系の演奏ですが、技術的には易しい曲だからか、全曲中最もまともでした。 中間部の自由な弾き方など光る点は確かにあり、この人にもっと高い技巧があればと惜しまれます。 ポロネーズOp.53は、Op.44に比べればまだ少しまともでした。これは曲の難易度の違いによるものと思われます。 この人は1次予選の演奏を聴いていないのですが、今回のような演奏では1次予選さえ通過できないと思いました。 今日は調子が悪かったのでしょうか。ミスタッチが多く技術的にも及第点に及ばないちょっと残念な演奏でした。
訂正:この人の1次予選は聴いていて「評価B」を付けていました。やはり今回の2次予選が絶不調で実力を発揮できなかったか、 1次予選を通過するのが想定外で2次予選の準備が間に合わなかったというのが結論です。

第2次予選2日目は、1日目と打って変わって素晴らしい演奏が多く、楽しめました。特にKate Liuという素晴らしい実力と才能を持ったピアニストを 発掘できたことが今日の最大の収穫でした。この人は必ず本選まで勝ち残ると思いますしそれを期待しています。 また次のEric Luも1次予選で僕がトップと見込んだだけのことはあり、やはり期待を裏切らない、いや期待以上の素晴らしい演奏を聴かせてくれました。 小林愛実さんは2次予選では普段の実力を発揮できなかったようで、ミスタッチが多く、トップ層に2歩も3歩も譲っています。 今日の出場者の中ではEric LuとKate Liuが双璧で最上位、それに次ぐのがDinala KlintonとRachel Naomi Kudoというのが個人的な位置づけです。 明日、3日目は一体どんな素晴らしい演奏が出現するか、楽しみです。

10月11日前半
C Mayaka Nakagawa (Japan)
D〜E Szymon Nehring (Poland)
D Piotr Nowak (Poland)
D Arisa Onoda (Japan)
D〜E Georgijs Osokins (Latvia)
B Jinhyung Park (South Korea)

Mayaka Nakagawa (Japan)
ロンドOp.16、ポロネーズOp.26-1&2、ワルツOp.42、バラードOp.52
ロンドOp.16はリズミカルで音色やニュアンスの出し方がよく計算されていてすっきりとまとめ上げられた素晴らしい演奏でした。 ポロネーズOp.26-1&2という地味な選曲ですが、これらの作品の持つ美しさが自然な形で聴く人に届くなかなかの佳演。 ワルツOp.42も高い技術で安心して聴ける素晴らしい演奏・・・と言いたいところですが、最後に向かうパッセージで少し乱れ、 ミスタッチの連鎖が起こって左手のバスの音にまで影響が出てしまったのが残念でした。 バラードOp.52は技術も音楽性も十分だったのですが、ところどころ惜しいミスタッチがあり結構目立ってしまいました。 最後のコーダはこの人のテクニックがあれば完璧に弾ききれるはずでしたが、音抜けやミスタッチがあり、 終わりに良い印象を残すことができませんでした。最初のロンドとポロネーズが良かっただけに何とも惜しいですが、 全く期待できないわけではないと思います。個人的な感覚では当落線上という印象です。どちらに転ぶかは運次第でしょうか。 あとは通過することを祈って結果を待ちたいと思います。
Szymon Nehring (Poland)
バラードOp.23、ワルツOp.34-1、ノクターンOp.37-2、舟歌Op.60、ポロネーズOp.44
バラードOp.23は第1主題と第2主題の間のパッセージで目立ちにくい弾き直しがあり、小事故の部類です。 技術的に粗いのが難ですが、ダイナミックでありなかなか表現力に富んだ演奏でした。 ワルツOp.34-1はやや重いですが即興的な趣がユニークな演奏でワルツにしてはダイナミックでした。中間部最後の右手の速い2本の上昇音階は1オクターブ追加して弾くなど、 ちょっとした編曲をしているのが気になりました。 ノクターンOp.37-2は右手の3度と6度の交錯するパッセージが不明瞭なのが減点になりそうで、技術的には今一つでした。 舟歌Op.60はもう少し澄んだ響きが欲しいと感じました。 この人は全体的にペダルを踏みすぎのように感じます。もう少しペダリングを控えた方が純度の高い響きが得られると思うのですが・・・。 ポロネーズOp.44は力強い情熱的な演奏でしたが、中間部のマズルカ部の前半最後で左手のバスで違う音を弾き、 頭の中が真っ白になってしまったのか、一瞬右手だけになって危うく止まりかけました。ピアノ弾きとしては大事故の部類です。 中間部から主部の再現部のつなぎの2つのユニゾンのスケールも1本目で2本目のスケールを弾いてしまうなど、ちょっとした事故もありました。 バラードとポロネーズで複数の目立った事故があったのが残念でした。 技術的に粗い上にこれが大減点となるとさすがに通過は難しいでしょう。
Piotr Nowak (Poland)
幻想曲Op.49、ワルツOp.34-1〜3、ポロネーズOp.53
この人も前のポーランド人と同様、技術的に粗いのが気になります。ワルツOp.34-1の中間部最後の2本の上昇音階は 前のポーランド人同様、1オクターブ追加して弾いていました。そういう版があるのでしょうか?偶然にしては変です。 ワルツOp.34-1,Op.34-3はいずれも軽妙さが足りず重い印象です。これは単にペダリングの問題だけでなく、 音の質感の問題も大きいと思います。幻想曲Op.49はダイナミックで情熱的な演奏ですが、やはり技術的な粗さが気になりました。 ポロネーズOp.53は多少粗いものの、このプログラムの中では最も「聴ける」演奏でした。 ポーランド人の強みでしょうか。しかし全体的には粗く大味な演奏のため、予選通過は難しいと思います。
Arisa Onoda (Japan)
スケルツォOp.20、バラードOp.52、ワルツOp.34-3、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
スケルツォOp.20はパッセージの明瞭さに欠けているのが惜しい演奏でした。バラードOp.52も概ね弾けてはいるのですが、 細かい音の粒の不揃いが気になる点で、全体として決め手に欠ける演奏になってしまいました。 ワルツOp.34-3はもう少し粒立ちの良い音で溌刺とした演奏の方が好みです。 アンダンテスピアナートは爽やかで詩情豊かな演奏でこの人の才能が感じられる素晴らしい演奏でした。 しかし華麗なる大ポロネーズは速いパッセージが崩れたりミスタッチを頻発するなど、完成度に問題が残りました。 予選通過は難しそうですが、音楽性はありそうなので、練習を積んで技術を上げて、5年後再挑戦してほしいと思います。
Georgijs Osokins (Latvia)
舟歌Op.60、マズルカ風ロンドOp.5、パガニーニの思い出、マズルカOp.41-4、マズルカOp.50-3、ワルツOp.34-3、ポロネーズOp.53
舟歌Op.60はデフォルメされた個性的な演奏で個人的にはあまり好きな演奏ではありませんでした。 マズルカ風ロンドOp.5とパガニーニの思い出と、演奏される機会の少ない作品で勝負する辺り、「試合巧者」という印象ですが、 マズルカ風ロンドは細かいパッセージやトリルがやや精彩に欠けているようですが、あまり聴いたことがない曲なので、 耳に新鮮に響きます。これはパガニーニの思い出についても同様です。それがこの人の戦略なのでしょうか。 マズルカOp.41-4、Op.50-3、いずれも大きくデフォルメし、強弱・メリハリをはっきりつけ、動的要素に重きを置いた(ある意味やや雑な)演奏で、 僕自身は好きなタイプの演奏ではありませんが、なかなかユニークで興味深い演奏です。 ワルツOp.34-3は、主部は軽快ですが中間部をデフォルメしすぎているように感じますが、これがこの人の流儀なのだと思います。 ポロネーズOp.53は、アクセントの付け方や間の取り方、ペダリングが独特ですが、これはホロヴィッツの演奏にまさにそっくりです。 絶対100%ホロヴィッツの演奏を意識した弾き方です。でも完全に似せきれていないのが少し残念ですが(僕自身も似せて弾いたことがあるのでよく分かります)。 全体的にここまでデフォルメしてしまうと、もはやショパンとは言えないのではないかとも思います。 この人はさすがに通過はしないでしょう。
Jinhyung Park (South Korea)
舟歌Op.60、ポロネーズOp.53、ワルツOp.18、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
舟歌はやや薄めの美しい音色を基本として和音のバランスをきれいに整えた、清潔感溢れる素晴らしい演奏。 ポロネーズOp.53も音量を控えめにして和音のバランスを整えて、技術的にもきちんとコントロールされた優れた演奏でした。 ワルツOp.18はもう少し軽快で粒が揃うとなお良かったと思いますが、なかなかの演奏でした。 アンダンテスピアナートは、やはり美しい響きで清潔な詩情が漂う優れた演奏でした。 華麗なる大ポロネーズも技術的完成度が高く几帳面な演奏で好感が持てました。多少の傷はありますが概ね良い演奏です。 この人は通過すると思います。

後半
A Charles Richard-Hamelin (Canada)
B Dmitry Shishkin (Russia)
C〜D Rina Sudo (Japan)
D Michal Szymanowski (Poland)
D〜E Arseny Tarasevich-Nikolaev (Russia)

Charles Richard-Hamelin (Canada)
ポロネーズOp.61、ワルツOp.64-3、ポロネーズOp.44、ロンドOp.16
ポロネーズOp.61は分裂気味の各構成要素を巧みにつなぎ合わせ1つの立派な作品として聴かせる手腕の確かさと卓越した構成力が光る素晴らしい演奏。 ワルツOp.64-3は適度なテンポで優雅さと気品が溢れる演奏。 ポロネーズOp.44はこのコンクールで聴いたこの曲の中で飛び抜けて素晴らしい演奏。強い打鍵でも決して濁らない美しいフォルティッシモで、 全ての音がコントロールされ、和音のバランスも完璧。十分に雄渾で情熱的でしたし、中間部のマズルカも素朴さの中にそこはかとない哀愁が漂い目頭が熱くなりました。 その昔、この曲をルービンシュタインのレコードで初めて聴いた時の感動を蘇らせてくれる演奏でした。 1曲聴き終わった後の確かな手応えがある、構成力のある絶品のポロネーズでした。 ロンドOp.16はその昔、この曲をホロヴィッツの演奏で聴いて感激した時の感動を思い出させてくれました。 ホロヴィッツよりもソノリティのコントロール、細部への配慮、詩情ともにこの人の演奏の方がはるかに僕の好みです。 何気ない「間」や流れも細部に至るまで緻密にコントロールされながらも、音楽が自然に流れてこちらの耳に素直に届いてきて、心の底から感動できる演奏でした。 既にショパンコンクールであることをしばし忘れて聴き入ってしまいましたし、逆にこの人から音楽の在り方を教えてもらっているような不思議な感覚になりました。 ミスタッチも少なくテクニックも優勝レベルです。 僕の中で優勝はこの人とEric Luに絞られつつありますが、この2人は異なる魅力があり、甲乙つけがたいです。本当に難しいです。 伸びしろ、神々しい美しさはEric Luの方が上で、僕の中では強いて言えばEric Luに軍配が上がりますが、それもわずかな差で、これも3次予選以降の演奏次第といえます。 ※優勝候補についての僕自身の持論は後に詳しく述べる予定です。

Dmitry Shishkin (Russia)
ロンドOp.1、ノクターンOp.9-2、ワルツOp.34-3、ポロネーズOp.53、スケルツォOp.31
ロンドOp.1はよくコントロールされた繊細なタッチ、神々しい音色で、各楽想が豊かな感興に乗ってこちらの耳に届いてくる演奏でした。 この曲、こんなに良い曲だったっけ?と思うくらい素晴らしい演奏で、感動しました。 ノクターンOp.9-2・・・こんな陳腐な曲をショパンコンクールで?と思いましたが、この曲は至って普通の演奏で特に面白味はありませんでした。 ワルツOp.34-3はこのコンクールで多くの出場者が弾きましたが、この人は最もテクニックのレベルが高く、 音の粒立ちが良いからか、僕の中ではこの人の演奏が最も秀逸です。 ポロネーズOp.53は強力な打鍵から生み出されるシャープで純度の高い音色を基調とした力強く雄渾な名演奏でした。 スケルツォOp.31は美しい旋律部と中間部、コーダの圧倒的な迫力と、振幅の大きくスケールの大きい演奏でした。 全体的にこの人の演奏も素晴らしかったと思いますが、この人の音はやや攻撃的なのが少し気になります。 難所になればなるほど演奏が冴えるのがこの人の特徴であり、得難いユニークな個性です。この人は通過しそうです。

Rina Sudo (Japan)
ポロネーズOp.53、舟歌Op.60、ボレロOp.19、幻想曲Op.49、ワルツOp.34-3
ポロネーズOp.53は力感溢れる演奏ですがペダルの踏みすぎに聴こえました。もう少し純度の高い音色で優雅な英雄ポロネーズが聴きたかったです。 次の舟歌Op.60は速いテンポで前へ前へと進んでいく推進力が特徴的ですが、何か焦っているような一本調子の演奏に聴こえてしまいました。 僕の好みから言えば、もう少し遅いテンポで「間」やタメを作って音色も変化させて彫の深い立体的な表現をこの曲には期待してしまいます。 ボレロOp.19も速いテンポの演奏で陰影に乏しい印象でした。幻想曲Op.49は力強く雄渾な演奏で好感が持てましたが、 やはり一本調子という印象はここでも続いていました。ワルツOp.34-3は軽快に弾いていましたが、流れは変わりませんでした。 何となくどの曲も同じような表情付けで強めの音を基調にして演奏しているようで、彫りや陰影に乏しく2次元的な演奏に聴こえてしまいました。 盛りだくさんのプログラムだったので、演奏時間オーバーにならないようにと焦っていたのでしょうか。そうだとすれば本末転倒です。 1次予選で聴いたこの人の演奏はもっと素晴らしかったです。この人の演奏はこんなものではないと信じたいです。 技術的にはある程度きちんと弾けていましたし、これだけの大曲を並べて大きく崩れずに弾き通した力量を買って、 ここを通過させてあげてほしいですが、これと同じような演奏であれば、正直3次予選はもう聴きたくないという気持ちもあります。 残念ですが、通過は難しいでしょうか。

Michal Szymanowski (Poland)
ポロネーズOp.44、即興曲Op.29、ワルツOp.42、幻想曲Op.49
ポロネーズOp.44はごく標準的な演奏ですが、若干技術的な粗さがあるからか、決め手に欠ける印象です。 即興曲Op.29は特にこれと言った特徴のない普通の演奏に聴こえましたが、3連符の粒の不揃いやミスがやや目立ち残念な演奏でした。 ワルツOp.42は部分的には惹かれる箇所は多いのですが、ところどころ音の不揃いやミスがあり、全体として散漫な印象が残ってしまうのが惜しかったです。 幻想曲Op.49は前曲のワルツ同様、部分的には良いところもあるんですけど、技術的に粗いからか、通して聴き終わった時に「今一つ」という印象しか残りませんでした。 今回出場のポーランド勢にはこういうタイプの「決め手に欠ける粗い演奏」が非常に多かったと思います。 一応指は回っているのだから、あとは精度の問題で、これは練習量で改善させることができると思うのですが・・・。 残念ですが、この演奏では通過は難しそうです。

Arseny Tarasevich-Nikolaev (Russia)
ポロネーズOp.26-1&2、ワルツOp.34-1〜2、スケルツォOp.39
ポロネーズは2曲とも標準より少し遅めのテンポで1音1音をマルカートで弾いてインパクトを与えようという方針のように聴こえましたが、 和音の響きのバランスが今一つで粗っぽく、これと言って評価するものがない演奏になってしまったのが残念でした。 ワルツOp.34-1は演奏が一気に雑になり、中間部の緩徐部は流れが停滞して全体としてのバランスが悪く、残念な出来となってしまいました。 ワルツOp.34-2はテンポや音量を目まぐるしく変化させてかなり自由に弾いていましたが、僕自身はこの曲にはもっと静謐でそこはかとなく漂う哀愁を期待してしまうため、 期待外れの演奏でした。スケルツォOp.39は荒削りの迫力が特徴の演奏で、やはり今一つです。 この人も予選落ちは確実に近いのではないかと思います。

第2次予選3日目は、比較的興味深く聴けました。2次予選でも上位から下位までのレベルの差がかなり大きいのが驚きでした。 今日のトップはダントツでCharles Richard-Hamelinで、この人の演奏の質は異次元のレベルでした。 そして次点は、Dmitry Shishkinで、この人は別の意味で 別格の演奏をしていました。終わってみれば、今日出場した3人の日本人の中で最も良い演奏をしたのは、トップバッターの中川真耶加さんでした。 僕の中では今日の出場者の中で、中川さんは11人中4番目くらいと考えていますので、単純計算すれば通過ラインは超えそうです。 これも明日の出場者の演奏内容次第ですが、はっきりと予選落ちと分かる下位出場者も多いので、小林愛実さんも中川真耶加さんも通過するのではないかと見ています。
明日の演奏も聴かなければ最終的な判断はできませんが、僕の中で優勝候補も徐々に絞られつつありますし、序列もできつつあります。 これについては明日詳しく書きたいと思います。以上、第2次予選3日目のレポートでした。

優勝候補について〜ダイヤモンドの原石の発掘〜
10月12日午後2時現在、2次予選はまだ最終日が残っていますが、ほとんど1次予選で演奏を聴いているので、ある程度は把握しています。 今回の優勝者は一体誰なのか?これは皆さんがこのコンクールをライブで聴いている時に一番強い興味を持っていることだと思います。 前述したように、1次予選を聴き終えた時点での僕の中での優勝候補は以下の3人に絞られていました。

10. Mr Seong-Jin Cho (South Korea):完成度の高い正統派のピアニスト
33. Mr Eric Lu (United States):澄んだ美音と繊細な抒情表現を持つ上に高い技術を持つ天才肌の少年
56. Mr Charles Richard-Hamelin (Canada):安定した高い技術、音楽性を持った完成されたプロフェッショナル

この3人は1次予選の時点では序列はまだ見えない部分が多かったのですが、 僕の耳が確かならば、2次予選3日目までのところ、やはりこの3人が上位3位を占めていました。 しかもそこに序列のようなものも出始めてきました。

Seong-Jin Choはピアノソナタ2番をプログラムに入れて抜群の安定感と実力の違いを見せつけましたが、音楽的なひらめきという点では正直物足りなさを感じざるを得ない 演奏内容で今一つ決め手に欠け、僕の中で評価Aには未達の演奏内容でした。

Charles Richard-Hamelinは言葉の最高の意味でプロフェッショナルです。ピアノという楽器の鳴らし方、音色の出し方、和音のバランス、コントロールなど、 全てに渡ってこれ以上望めないほどの高みに達していて、音楽性も抜群で、テクニックも優勝レベルで、2次予選で聴いた演奏は そのまま永久保存版としてCD化を期待したいくらいの素晴らしい名演奏でした。 既に彼はピアニストとして完成されていて、しかも現役の一流ピアニストと比較しても全く遜色ない、いや彼はその中でもトップに位置する 素晴らしいピアニストでありアーティストです。

Eric Luはまだ17歳と若いですが、ピアノから若々しく瑞々しく、しかも神々しい美音を出す特殊な才能と感覚に恵まれていて、 舟歌Op.60、ノクターンOp.62-1、マズルカOp.17-4などでその素晴らしい音色を存分に生かして、しかも陰影にも富んだ音楽性豊かな演奏で、 聴いている人がそのあまりの美しさに我を忘れて、至福のひとときを過ごすことができる演奏という印象でした。 いささかの虚飾や誇張もない誠実極まりない演奏で、素直な音楽性が聴く人にそのまま気持ちよく伝わってくる若々しくフレッシュな感覚が 魅力的な演奏です。彼の演奏を聴くと、彼はきっと誠実な人柄で性格もよく、真っ直ぐに育ってきたのではないかと想像できるほどです。 こうした魅力は他のどのピアニストからも得ることができない 我々人類の「宝物」と言ってよいと思います。言ってみれば、今回のショパンコンクールの大勢の参加者の中に、僕はEric Luというたった1つの ダイヤモンドの原石を発見したと言ってもよい状況です。 例えば、ノクターンOp.62-1をそのまま素直に弾くだけで、むしろその神々しい美しさで聴く人の心を奪ってしまう(他の多くの出場者の場合、 この曲を普通に弾いた演奏は例外なく退屈で、何か奇をてらったようなことをしなければ聴く人の注意を惹きつけることはできない)ということだけをとっても、 この人の才能がいかに並外れているかが分かるはずです。このような参加者は今回のコンクールにおいて僕の知る限り彼をおいて他にはいませんでした。 彼はまだ若いですし、演奏そのものが成熟していない部分もありますが、彼の素晴らしい演奏に対しては、あら捜しをしようという気にならなくなるから不思議です。 こうしたダイヤモンドの原石を磨けば、やがてそこには 他のピアニストが容易に到達できない神の領域に到達できる可能性が、彼の前途には無限に広がっているのを感じますし、 僕もそれを大いに期待して応援したいと思うわけです。 かつて40年前、クリスティアン・ツィメルマン(ツィマーマン)がショパンコンクールで優勝したばかりの頃の演奏を聴くと、 若々しいフレッシュな、青年ならでは喜びに溢れた初々しいショパン演奏が一面に広がり、目頭が熱くなるのですが、 それと似たようなものをEric Luの演奏からは感じることができます。ツィメルマンが後に、より鋭敏な感覚と巨匠の風格を備えて一回りも二回りも大きい 世界一のピアニストに登りつめることができたのは、こうした無限の可能性を秘めたダイヤモンドの原石であったがためだと思いますし、 優勝当時のツィメルマン反対派が間違っていたことは、何より彼の演奏の軌跡がそのまま証明しています。 もしあの時、ツィメルマンを優勝させていなければ、僕たちは大事な宝物を1つ失っていたかもしれないと思うわけです。 Eric Luは才能だけをとれば、ツィメルマンに匹敵するほどの逸材と思います。 この人に優勝以外の評価を与えることは、彼の無限の伸びしろを摘み取ってしまうことにもなりかねないという危険があります。 Charles Richard-Hamelinも究極の逸材ですし、彼に2位以下を与えるのもためらわれてしまいますが、 僕の耳と感覚が間違っていなければ、Eric Luは多くのピアニストとは次元の違う特異な才能を持った若者です。 こうした人に「先物買い」として優勝を与え、天才を世界に羽ばたかせるのが、ショパンコンクールの最も大きな存在意義だと思うわけです。

・・・と長々と語ってしまってすみませんでした。そういうわけで、僕は今のところEric Luの優勝を期待していますし、 そうでなければならないとも思っています。

まだ第2次予選最終日も残っていますし、3次予選、本選も聴いてから、自分なりに最終的な判断をしたいと思います。

10月12日
前半:10時〜14時(日本時間:10月12日(月)午後5時〜9時)
B Alexei Tartakovsky (United States)
B Alexander Ullman (United Kingdom)
B Chao Wang (China)
C Andrzej Wiercinski (Poland)
C〜D Zi Xu (China)

Alexei Tartakovsky (United States)
ポロネーズOp.61、ノクターンOp.62-2、スケルツォOp.39、ポロネーズOp.53、ワルツOp.34-1
この人は1次予選の演奏を聴けなかったので、今回が初めてですが、全体として素晴らしい演奏です。 ポロネーズOp.61は純度の高い音色で緩徐部で遅めのテンポを取りながらも間延びすることのない素晴らしいバランス感覚で 全体の統一感を出すことに成功した演奏でした。多少のミスタッチはあるものの技術的にもほぼ申し分のない演奏でした。 ノクターンOp.62-2も静謐な雰囲気と中間部のコントラストが見事で完成度の高い優れた演奏。 スケルツォOp.39はオクターブのパッセージも巧みなペダリングで濁らず攻撃的にならず、しかもダイナミックさも十分で、 その間のバランス感覚が優れていましたし、中間部のキラキラとした音色、技術的にコントロールされたコーダと、 全てに渡り純度の高い完成度の高い素晴らしい演奏でした。 ポロネーズOp.53はペダルを控えめにして遅めのテンポで高らかに主題を歌わせており、鍵盤を叩かずに十分ダイナミックで美しいフォルティッシモを出しており、 今回のショパンコンクールの英雄ポロネーズの中でも屈指の名演奏です。 しかし!!ワルツOp.34-1でもったいない大事故が・・・冒頭の右手のパッセージの後の和音の連続、2回目に出てくる和音群を最初に弾いてしまいました。 それ以外は歯切れもよく素晴らしい演奏なのですが、これで動揺したのかこの曲はミスタッチが非常に多かったのが惜しまれます。 最後のワルツで印象を非常に悪くしてしまいましたが、個人的にはこの人は3次予選以降も聴きたいです。 大事故とミスタッチの減点はどの程度のものなのでしょうか。心配です。

Alexander Ullman (United Kingdom)
ワルツOp.34-3、ノクターンOp.27-1、ノクターンOp.55-1、バラードOp.52、ポロネーズOp.53
ワルツOp.34-3はソフトなタッチで優雅さを出した演奏で、これはこれで十分ありです。 ノクターンOp.27-1はコントロールのよく効いたタッチで完成度の高い演奏でした。 ノクターンOp.55-1は今回のショパンコンクールで初めて聴く曲ですが、静謐で音楽性満点の演奏でした。あえてこの易しい曲で勝負に出たのは 彼にとってこの曲はよほど自信があるからではないでしょうか。 バラードOp.52は清潔な詩情が溢れる技術的にも完成度の高い演奏でした。多少のミスタッチはありますが、この程度であれば減点対象にはならなさそうです。 ポロネーズOp.53はペダルを控えめにした力強くも優雅で美しく完成度の高い優れた演奏でした。 ひらめきには乏しい模範演奏タイプですが、個人的には結構好きです。 この人は3次予選以降も聴きたいと思いますし、2次予選のレベルの全体的な低さを考えると、おそらく通過すると思います。

Chao Wang (China)
ノクターンOp.27-1、ノクターンOp.27-2、バラードOp.38、ワルツOp.34-3、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
この人は1次予選でOp.25-6が技術的に弾けていない演奏で、他も技術的な安定性に欠けており、通過しないと思っていた人でした。 ノクターンOp.27-1、Op.27-2ともに音楽的にも技術的にも十分に完成度の高い演奏。 バラードOp.38も抑制の効いた音色で緩徐部はよく歌っており、技術的に正確に弾けており標準的な演奏。 ワルツOp.34-3は軽快さも十分出ており申し分のない演奏です。 アンダンテスピアナートは美しく詩情豊かな演奏、華麗なる大ポロネーズは十分に華やかで技術的にも完成度が高い演奏でした。 全体として個性はあまりありませんが音楽的に十分練れていて、質の高い演奏でした。 ところどころ目立つミスタッチがあり、もったいない減点がありそうですが、この人は通過すると思います。

Andrzej Wiercinski (Poland)
バラードOp.38、スケルツォOp.39、ワルツOp.34-1〜3、ポロネーズOp.53
ポーランドの期待の新星という噂がどこからともなく立っているヴェアチンスキの登場です。 冒頭にバラード、スケルツォという難曲を持ってくるというチャレンジングなプログラミングですが、 バラードOp.38の冒頭から平凡な音色で惹きつけられるものがあまりなかったです。技術的なレベルはポーランド勢の中では 精度は高い方ですが、それでもミスタッチが結構気になってしまい、この人の音楽に集中することがなかなかできませんでした。 スケルツォOp.39は音が濁っているようで、高音の輝きも今一つでした。技術的にはまずまずのレベルに達しているのに残念でした。 ワルツOp.34-1〜3も、特にOp.34-3は悪くなかったのですが、全体としては何とも言えない演奏だったと思います。 ポロネーズOp.53は力強く雄渾な演奏でしたが、強奏で音色が汚く攻撃的になるのとペダルの踏みすぎで音が濁るのがどうしても気になってしまい、 肝心の演奏に集中することができませんでした。 ポーランドの期待の新星だそうですが、どう聴いてもそこまでの逸材とは思えないです。それとも僕の耳がおかしいのでしょうか。 ポーランド勢の中では技術的には優れている方ですが、この先、また聴きたいとは思えませんでした。 会場の受けは良さそうなので自信はありませんが、ひいき目に見ても2次通過のボーダーギリギリくらいでしょうか。

Zi Xu (China)
プレリュードOp.45、ポロネーズOp.44、ワルツOp.42、ポロネーズOp.61
この人は1次予選で間延びしたような遅いテンポが気になって、どうしても好きになれなかった人でした。 プレリュードOp.45は冷たい美音、遅めのテンポで静謐で神秘的な雰囲気が出たなかなかの演奏でしたが、1次予選のOp.62-1と同様、退屈さと紙一重です。 ポロネーズOp.44は主部の主題は強奏でも和音のバランスがしっかりと保たれていますが十分に迫力がある大柄の演奏で、静謐で美しい中間部との対比も見事でした。 ワルツOp.42は十分に華やかで良い演奏ですが、ミスタッチと音の不揃いが気になってしまう演奏で完成度は今一つでした。 ポロネーズOp.61は、緩徐部でのこの人の体内テンポの遅さが如実に表れてしまい間延びしてしまった印象です。緩徐部と急速部の強弱、テンポの対比を際立たせることで、 表現力があるという印象(錯覚?)を与えるという意図がありそうですが、専門的な耳を持った人はそんな陳腐な作戦にはだまされるはずがないのに、 とも思ってしまいます。個人的には、やはり好きにはなれない演奏です。この人はここまでで終わりではないでしょうか。

10月12日後半
A Yike (Tony) Yang (Canada)
C Cheng Zhang (China)
C Annie Zhou (Canada)
Soo Jung Ann (South Korea)
Miyako Arishima (Japan)

Yike (Tony) Yang (Canada)
舟歌Op.60、ワルツOp.18、スケルツォOp.39、即興曲Op.36、ポロネーズOp.53
この人はピアノから出す音色が非常に伸びやかで美しく、そこにまず惹かれます。 舟歌Op.60は柔らかく美しい音色で陰影に富んだ音楽性満点の素晴らしい演奏。16歳の少年とは思えない超絶的に美しい演奏でした。 ワルツOp.18は潤いのある美しい音色で優雅で華麗な、まさに理想的な円舞曲です。多少気になるミスはありましたが、 そんなものは全く気にならなくなるほどの素晴らしい演奏でした。最後は華やかに盛り上げて華麗に締めくくる辺り、全く心憎い限りで、 この曲の聴かせどころをよく心得ています。 スケルツォOp.39も美しい音色をベースに力強く若々しい演奏をしていて、とても輝かしく華やかで素晴らしい演奏でした。 即興曲Op.36も素直な音楽性がストレートに打ち出された、この曲の本来あるべき姿で伝わってくる美しい演奏でした。 ポロネーズOp.53は美しく華麗で力強く若々しい、胸のすくような素晴らしい演奏でした。 16歳の少年の演奏としては、という保留なしに素晴らしすぎる演奏です。 美しい音色と若々しい音楽性が、僕たち聴き手にストレートに伝わってきて、感動を誘います。 3次予選を通り越して本選進出まで見えてくる演奏で、紛れもない天才と 僕自身は感じたため、評価Aを付けます。日本人にもこういう若い天才、逸材がいると頼もしいんですけどね。

Cheng Zhang (China)
ポロネーズOp.61、即興曲Op.51、スケルツォOp.39、ワルツOp.42、ポロネーズOp.53
直前のYike Yangと比べると、やや曇って鋭い音色に聴こえます。 ポロネーズOp.61は1つ1つのモチーフにデュナーミク・アゴーギクの工夫を凝らしていて、マンネリ化しない演奏になるようにという意図が感じられました。 この曲は散漫になりがちな作品ですが、上手くまとめ上げていました。漫然と聴いている人には分からないような細かい弾き直しが2箇所あったのが、どう出るかでしょうけど、 これは減点対象にはしないでほしいです。 即興曲Op.51は今回のショパンコンクールで初めて聴く曲ですが、即興曲であることを意識してかなり自由にテンポを動かして、 この人ならではの表現の工夫が感じられる演奏でしたが、個人的にはこの曲の場合、もっと控えめで上品な演奏が好きです。 スケルツォOp.39は力強く大柄でスケールの大きい演奏でしたが、技術的にやや粗いのが惜しいと思いました。 ワルツOp.42は音楽性は素晴らしいのですが、技術的にやや粗く繊細さに欠けていたのが惜しいです。 ポロネーズOp.53は力強く華麗な演奏でしたが、今日聴いた他の出場者たちの英雄ポロネーズと比べるとやや粗いように感じました。 当落線上で、どちらに転んでもおかしくないのではないかと思います。

Annie Zhou (Canada)
ワルツOp.34-1、エチュードOp.25-7、バラードOp.52、アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22
この人は1次予選で技術的に粗いため、あまり好きではない演奏という印象がありました。 ワルツOp.34-1はごくオーソドックスな演奏でした。 エチュードOp.25-7は、かなり強弱やテンポを動かしていましたが、もっとしっとりとした落ち着きと哀愁が漂う繊細で憂鬱な演奏が僕は好きです。 バラードOp.52は最初の方の右手に出てくるトリルが短すぎたり、途中で音をひっかけたりするなど、惜しい傷がありましたが、 情熱的でかなり熱い演奏でした。 アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズはかなり情熱的で動きを重視した演奏ですが、僕は端正で細かいニュアンスを重視した上品かつ軽妙な演奏が好きで、 まさにそういう演奏がこの作品には相応しいと感じているので、この演奏は少しせわしなく、またうるさく感じて、好みには合いませんでした。 一応かなり上手い人ではあるので、ここは通過するかもしれません。当然ですが、あとは審査員の採点結果次第でしょう。

※今日はここまでで更新は終了です。明日帰宅したら更新を再開します。

Soo Jung Ann (South Korea)
ワルツOp.18、ポロネーズOp.61、ポロネーズOp.44

Miyako Arishima (Japan)
ノクターンOp.15-2、バラードOp.23、ワルツOp.42、ポロネーズOp.26-1&2、マズルカ イ短調(エミール・ガイヤール)

※10月13日からは通常通り仕事が始まるので、全ての演奏を聴くことは基本的にできなくなります。 明日、帰宅した時には既に2次予選通過者は発表されていると思いますので、その前に今の時点で2次予選を振り返っての感想を先に書きたいと思います。

第2次予選を聴き終えて
10月9日から12日まで4日間に渡り2次予選が行われましたが、2次予選結果発表前までに、最終日の残り2人を除いて計41人の演奏を聴くことができました。 日本ではちょうど週末で、12日も体育の日で休日であったため、ほとんどの演奏を聴くことができたのは幸運でした。 その中で僕自身が特に素晴らしいと感じた、評価A、評価B、評価Cを付けた演奏者は次の通りです。

評価:A:4名
A Kate Liu (United States)
A Eric Lu (United States)
A Charles Richard-Hamelin (Canada)
A Yike (Tony) Yang (Canada)

評価:B:8名
B Seong-Jin Cho (South Korea)
B Dinara Klinton (Ukraine)
B Rachel Naomi Kudo (United States)
B Jinhyung Park (South Korea)
B Dmitry Shishkin (Russia)
B Alexei Tartakovsky (United States)
B Alexander Ullman (United Kingdom)
B Chao Wang (China)

評価:B〜C or C:13名
C Galina Chistiakova (Russia)
C Chi Ho Han (South Korea)
C Zhi Chao Julian Jia (China)
C Aljosa Jurinic (Croatia)
B〜C Su Yeon Kim (South Korea)
B〜C Aimi Kobayashi (Japan)
C Marek Kozak (Czech Republic)
B〜C Lukasz Krupinski (Poland)
B〜C Krzysztof Ksiazek (Poland)
C Mayaka Nakagawa (Japan)
C Andrzej Wiercinski (Poland)
C Cheng Zhang (China)
C Annie Zhou (Canada)

Aは当確、Bもおそらく当確、Cは当落線上スレスレ、と一応このように分けられますが、 これは僕1人の評価なので、あくまで一例にすぎないと考えて下さい。 評価Aで落選する人はいないと思いますが、評価Bの中には落選する人もいるかもしれません。 本選まで見据えると、この中の評価Aと評価Bの人たちを中心に、本選のコンチェルトが繰り広げられるのではないかと予想しています。

第2次予選の結果
10月13日に第2次予選の審査結果が発表されました。通過した人の前に○、落選した人の前に×を付けました。

10月9日
前半:10時〜14時(日本時間:10月9日(金)午後5時〜9時)
× Lukasz Piotr Byrdy (Poland)
× Michelle Candotti (Italy)
○ Luigi Carroccia (Italy)
○ Galina Chistiakova (Russia)
○ Seong-Jin Cho (South Korea)
× Ivett Gyongyosi (Hungary)

後半:17時〜21時(日本時間:10月10日(土)午前0時〜4時)
○ Chi Ho Han (South Korea)
× Olof Hansen (France)
× Zhi Chao Julian Jia (China)
○ Aljosa Jurinic (Croatia)
○ Su Yeon Kim (South Korea)

10月10日
前半:10時〜14時(日本時間:10月10日(土)午後5時〜9時)
○ Dinara Klinton (Ukraine)
○ Aimi Kobayashi (Japan)
× Qi Kong (China)
○ Marek Kozak (Czech Republic)
○ Lukasz Krupinski (Poland)
○ Krzysztof Ksiazek (Poland)

後半:17時〜21時(日本時間:10月11日(日)午前0時〜4時)
× Rachel Naomi Kudo (United States)
○ Kate Liu (United States)
○ Eric Lu (United States)
× Lukasz Mikolajczyk (Poland)
× Alexia Mouza (Greece)

10月11日
前半:10時〜14時(日本時間:10月11日(日)午後5時〜9時)
Mayaka Nakagawa (Japan)
○ Szymon Nehring (Poland)
× Piotr Nowak (Poland)
× Arisa Onoda (Japan)
○ Georgijs Osokins (Latvia)
× Jinhyung Park (South Korea)

後半:17時〜21時(日本時間:10月12日(月)午前0時〜4時)
○ Charles Richard-Hamelin (Canada)
○ Dmitry Shishkin (Russia)
× Rina Sudo (Japan)
× Michal Szymanowski (Poland)
× Arseny Tarasevich-Nikolaev (Russia)

10月12日
前半:10時〜14時(日本時間:10月12日(月)午後5時〜9時)
○ Alexei Tartakovsky (United States)
× Alexander Ullman (United Kingdom)
× Chao Wang (China)
× Andrzej Wiercinski (Poland)
○ Zi Xu (China)

後半:17時〜21時(日本時間:10月13日(火)午前0時〜4時)
○ Yike (Tony) Yang (Canada)
× Cheng Zhang (China)
× Annie Zhou (Canada)
× Soo Jung Ann (South Korea)
× Miyako Arishima (Japan)

第2次予選の審査結果に対するコメント
今回のショパンコンクールの第2次予選の審査結果は上記の通りですが、皆さんはこの結果についてどのように思われたでしょうか? ご自分のお気に入りの出場者は無事通過したでしょうか。 自分の予想と当たっていることもあれば、中には「なんでこの人が?」というような人が通過していたり、またその逆もあるかと思います。 これは「ショパンコンクールの七不思議」と言って、多かれ少なかれ毎回起こる現象のようです。

それでは、今回の審査結果について、ショパン愛好家の1人として僕自身の正直な意見を述べたいと思います。

2次予選は43人中、最後の2人を除く41人の演奏をリアルタイムで聴くことができ、それぞれについて、A〜Eにランク付けし、 僕自身のコメントを付記しました。特に自分が聴いて相対的に突出していると感じた出場者には「評価A」を付けることとし、 最終的には4人に「評価A」がつきました。 評価Aの4人のピアニストはそれぞれ全く違ったタイプのピアニストではありますが、 彼らをカテゴライズすると、いずれも正統派の部類に入ります。正統派でありながらも、 そこには究極の美音と彫の深さ、若々しい詩情、そのままコンサートピアニストとして通用する完成度の高いプロフェッショナルなど、 様々な個性があり、各々を特徴づける無二の魅力がある素晴らしいピアニストたちで、 彼ら4人が無事3次予選進出を果たしたことは、当然のこととはいえ、やはりほっとしました。

しかし問題はその他の出場者です。僕が「評価B」を付けたコンテスタント、つまり比較的高評価でこの人は通過するだろうと判断した8人のうち、 実際に通過したのはわずかに4人という恐るべき結果でした。 そして逆にほぼ最低評価「評価D〜E」を付けたの出場者が複数通過していました。 評価B以下で僕自身の付けた評価は、審査結果とあまり相関していないということになります。 つまりコンクール最上位を狙える突出した才能については正しく判断できていそうですが、 その下位に位置する第2グループ以降のコンテスタントについては、審査員の評価と僕の評価はあまり合致していないということになります。 これは音楽的な嗜好の問題と言ってしまえば簡単ですが、意外に難しく根が深い問題です。

僕は熱烈なショパンマニアでショパンの曲を聴く耳にはそれなりの自信を持っているつもりですが、 それとて一介の素人に過ぎず、この審査結果は謙虚に受け止めるべきであることは承知しています。 しかしそれでもなお、どうしても納得できない部分があまりに多いです。 これをお読みの皆さんはもうとっくにご存知のことと思いますが、僕自身の音楽的嗜好の傾向は極めて保守的です。 僕の評価基準の中で、技術的要素の占める割合は結構高いですが、その理由として、技術のないピアニストの演奏は安心して聴けないため、 感動を得る以前の段階から先に進めないことが圧倒的に多いからということと、基礎技術がしっかりしていないピアニストは 自分の音楽を表現する可能性を狭めてしまいますし、ピアニストとしての将来性があまり期待できないという理由によります。 そして僕は当然のことながら音楽的な個性を求めますが、従来のショパン演奏の伝統的スタイルを破るような破天荒で独りよがりな解釈には 人並み以上の嫌悪感を抱くタイプです。「個性」というものを、コンクールで審査員や聴衆の注意を自分に惹きつけるための「手段」として考えているのが はっきりと分かってしまうような、言ってみれば目立ちたがり屋の演奏は僕が最も嫌うものです。 テンポや強弱の振幅を大きくすることが表現力を大きくすることに直結すると勘違いしているピアニストの演奏はあまり受け入れられないです。 「個性」というのは「手段」であってはならず、自分の内側から自然と湧き出る音楽の発露の結果でなければならず、 そうではない、作為を感じる演奏はその時点で大きなマイナスポイントになります。 もちろん、「個性」やオリジナリティの全くない、他のピアニストのコピーのような演奏が評価に値しないのは当然ですが、 今回の参加者の演奏を聴く限り、標準的な演奏をしている人たちも、皆それぞれが作品の各部分に対して深い共感を抱きながら演奏し、 その当然の結果としてその人ならではの音楽が滲み出てくるような演奏をするコンテスタントは多かったです。 地味な演奏でもそういうものが感じられる、比較的美しく整った演奏に対して、今回、僕は高い評価を付けました。 その結果が上記の通り、最終的な審査結果にあまり相関しなかったということです。

ショパンコンクールはショパンらしい繊細でニュアンスに富んだ美しい演奏に高い評価を与えると一般には言われていますが、 今回の2次予選の審査結果を見て、必ずしもそうはなっていないということを痛感しました。 僕の音楽的嗜好が保守的であることは認めるとしても、中身がなく作為やハッタリで通過してしまったコンテスタントがいる一方で、 地味ではありながらもショパンの音楽をこよなく愛しているのが分かる繊細で素敵な演奏をした得難いピアニストが落ちてしまったのは 残念というほかありません。ショパンコンクールの存在意義を考えると理解に苦しむ審査結果ですが、 ショパンを愛する一人の人間として、許しがたい誤審が決して起こることがないよう、慎重な審査を切に願います。

日本人コンテスタントについて
日本人の2次予選出場者は小林愛実さん、中川真耶加さん、須藤梨菜さん、小野田有紗さん、有島京さんの5人で、3次予選に進出したのは、 小林愛実さんただ1人となってしまいました。残念ながら有島京さんの演奏は聴いていませんが、演奏を聴いた4人の日本人のうち 演奏内容では小林愛実さんがトップ、中川真耶加さんが2番手という認識で、この2人は通過すると思っていました。 前述したように何故通過したのか全く理解できない謎のコンテスタントが複数いたためか、日本人はそのあおりを受けてしまったのだと思います。 今後は小林愛実さんが日本人のファンの期待を一身に背負うことになってしまいましたが、 プレッシャーに負けず、3次予選以降も本来の実力を発揮して素晴らしい演奏を聴かせてほしいと願っています。

10月14日、日本時間午後5時から3次予選が開催されます。この2次予選の記事は過去記事として残し、 またページの一番上に3次予選のコーナーを作りたいと思います。


以下、第1次予選の過去記事(〜10月8日)

現在、2015年第17回ショパン国際ピアノコンクール第1次予選開催中です。

第17回ショパン国際ピアノコンクールの日程は以下の通りです。

予備予選:4月13日〜24日
第1次予選:10月3日〜7日
第2次予選:10月9日〜12日
第3次予選:10月14日〜16日
本選:10月18日〜20日

2015年第17回ショパンコンクール開会式:2015年10月2日午前2時30分スタート(ポーランド現地時間10月1日午後7時30分)

ショパンコンクール第1次予選は、10月3日午後5時(ポーランド現地時間10月3日午前10時)から開催されています。

第1次予選:10月3日前半の前半
第1次予選:10月3日後半
第1次予選:10月4日前半
第1次予選:10月4日後半
第1次予選:10月5日前半
第1次予選:10月5日後半
第1次予選:10月6日前半
第1次予選:10月6日後半
第1次予選:10月7日前半
第1次予選:10月7日後半

実況中継のアドレスはその都度、変更されています。ホームページの更新が追い付かない場合もあると思いますが、 その場合には、下のリンクをクリックしてYOU TUBEのchopin instituteに行ってみてください。

chopin institute(YOU TUBE)

個人的には、このchopin instituteのトップに出てくる54秒の動画で聴けるエチュードOp.25-11が今まで聴いたどの演奏よりも気に入っています。 一体誰が弾いているのでしょうか?お分かりの方がいらっしゃったら、教えていただけるとありがたいです。

今回のショパンコンクールに関して入手した最新情報及びそれに対する管理人のコメントはこのページ上で随時公開していく予定です。

参加者について:

今回の2015年第17回ショパン国際ピアノコンクールの予備予選通過者と予備予選免除者は84名でしたが、 辞退者が6名出て、最終的に出場者は以下の78名となりました。

また、ショパンコンクールの出場者の演奏はファミリーネームのアルファベット順に行われますが、その先頭は抽選(透明性はあるのでしょうか?)で決まります。 今回は、”B”でした。従って、下の参加者一覧ではエントリー番号3→78の順に演奏し、1に戻って2で終了となります。 この順は最後の本選まで反映されます。過去のショパンコンクールでは、本選では最後に弾いたピアニストの優勝率が高いようで、 抽選の結果にも作為が感じられなくもないですが、今回はどうでしょうか。

ちなみに予備予選免除の基準は、ポーランドのショパン・インスティチュート(Chopin Institute)が指定した主要な国際コンクール第2位以内と、 ポーランドの国内選抜第2位までの入賞者とのことです。

出場者の皆さんが、一体どんな演奏を繰り広げてくれるのか、楽しみですね。

出場者一覧

10月3日
前半:10時〜14時(日本時間:10月3日(土)午後5時〜9時)
3. Mr Tymoteusz Bies (Poland)
4. Mr Rafal Blaszczyk (Poland)
5. Mr Lukasz Piotr Byrdy (Poland)
6. Ms Michelle Candotti (Italy)
7. Mr Luigi Carroccia (Italy)
8. Ms Galina Chistiakova (Russia)
9. Ms Irina Chistiakova (Russia)
10. Mr Seong-Jin Cho (South Korea)

後半:17時〜21時(日本時間:10月4日(日)午前0時〜4時)
11. Mr Ashley Fripp (United Kingdom)
12. Ms Yasuko Furumi (Japan)
13. Ms Saskia Giorgini (Italy)
14. Mr Adam Mikolaj Gozdziewski (Poland)
15. Ms Ivett Gyongyosi (Hungary)
16. Mr Chi Ho Han (South Korea)
17. Mr Olof Hansen (France)
18. Mr Zhi Chao Julian Jia (China)

10月4日
前半:10時〜14時(日本時間:10月4日(日)午後5時〜9時)
19. Mr Aljosa Jurinic (Croatia)
20. Ms Joo Yeon Ka (South Korea)
21. Mr Honggi Kim (South Korea)
22. Ms Su Yeon Kim (South Korea)
23. Ms Yedam Kim (South Korea)
24. Ms Yurika Kimura (Japan)
25. Ms Dinara Klinton (Ukraine):予備予選免除
26. Ms Aimi Kobayashi (Japan)

後半:17時〜21時(日本時間:10月5日(月)午前0時〜4時)
27. Mr Qi Kong (China)
28. Mr Marek Kozak (Czech Republic)
29. Mr Lukasz Krupinski (Poland):予備予選免除
30. Mr Krzysztof Ksiazek (Poland):予備予選免除
31. Ms Rachel Naomi Kudo (United States):予備予選免除
32. Ms Kate Liu (United States)
33. Mr Eric Lu (United States):予備予選免除
34. Ms Tian Lu (China)

10月5日
前半:10時〜14時(日本時間:10月5日(月)午後5時〜9時)
35. Mr Xin Luo (China)
36. Mr Roman Martynov (Russia)
37. Ms Nagino Maruyama (Japan)
38. Ms Nao Mieno (Japan)
39. Mr Lukasz Mikolajczyk (Poland)
40. Mr Pawel Motyczynski (Poland)
41. Ms Alexia Mouza (Greece)
42. Ms Mayaka Nakagawa (Japan)

後半:17時〜21時(日本時間:10月6日(火)午前0時〜4時)
43. Ms Nozomi Nakagiri (Japan):予備予選免除
44. Mr Szymon Nehring (Poland)
45. Ms Anastasiia Nesterova (Russia)
46. Mr Ronald Noerjadi (Indonesia)
47. Ms Mariko Nogami (Japan)
48. Mr Piotr Nowak (Poland)
49. Ms Arisa Onoda (Japan)
50. Mr Georgijs Osokins (Latvia)

10月6日
前半:10時〜14時(日本時間:10月6日(火)午後5時〜9時)
51. Mr Jinhyung Park (South Korea)
52. Mr Piotr Ryszard Pawlak (Poland)
53. Ms Zuzanna Pietrzak (Poland)
54. Ms Tiffany Poon (China)
55. Mr Kausikan Rajeshkumar (United Kingdom)
56. Mr Charles Richard-Hamelin (Canada)
57. Ms Tamila Salimdjanova (Uzbekistan)
58. Mr Cristian Ioan Sandrin (Romania)

後半:17時〜21時(日本時間:10月7日(水)午前0時〜4時)
59. Ms Natalie Schwamova (Czech Republic)
60. Ms Boyang Shi (China)
61. Mr Dmitry Shishkin (Russia)
62. Ms Rina Sudo (Japan)
63. Mr Micha? Szymanowski (Poland)
64. Ms Rikono Takeda (Japan)
65. Mr Arseny Tarasevich-Nikolaev (Russia)
66. Mr Alexei Tartakovsky (United States)

10月7日
前半:10時〜14時(日本時間:10月7日(水)午後5時〜9時)
67. Mr Hin-Yat Tsang (China)
68. Mr Alexander Ullman (United Kingdom)
69. Mr Chao Wang (China)
70. Mr ZhuWang (China)
71. Mr Andrzej Wiercinski (Poland):予備予選免除
72. Mr Yuchong Wu (China)
73. Mr Zi Xu (China)
74. Mr Yike (Tony) Yang (Canada)

後半:17時〜21時(日本時間:10月8日(木)午前0時〜4時)
75. Ms Yuliya Yermalayeva (Belarus)
76. Mr Cheng Zhang (China)
77. Ms Chuhan Zhang (China)
78. Ms Annie Zhou (Canada)
1. Ms Soo Jung Ann (South Korea)
2. Ms Miyako Arishima (Japan)

演奏予定・個人的感想

自分なりに各出場者を演奏レベルでA〜Dでランク付けしました。
A:非常に素晴らしい・通過確実
B:まあ通過するのではないか
C:当落線上ギリギリ
D:予選落ちか
?:演奏を聴いていない

1日目(10月3日)
前半:10時〜14時(日本時間:10月3日(土)午後5時〜9時)
C 3. Mr Tymoteusz Bies (Poland)
D 4. Mr Rafal Blaszczyk (Poland)
C 5. Mr Lukasz Piotr Byrdy (Poland)
B 6. Ms Michelle Candotti (Italy)
? 7. Mr Luigi Carroccia (Italy)
? 8. Ms Galina Chistiakova (Russia)
? 9. Ms Irina Chistiakova (Russia)
A 10. Mr Seong-Jin Cho (South Korea)

後半:17時〜21時(日本時間:10月4日(日)午前0時〜4時)
D 11. Mr Ashley Fripp (United Kingdom)
C 12. Ms Yasuko Furumi (Japan)
13. Ms Saskia Giorgini (Italy)
D 14. Mr Adam Mikolaj Gozdziewski (Poland)
D 15. Ms Ivett Gyongyosi (Hungary)
A 16. Mr Chi Ho Han (South Korea)
D 17. Mr Olof Hansen (France)
A 18. Mr Zhi Chao Julian Jia (China)

一部、演奏を聴けなかった人もいますが、聴いた中で第1日目の奏者の中で特に優れていたと思うのは、前半最後の10. Mr Seong-Jin Cho (South Korea)でした。 ノクターンOp.48-1, エチュードOp.10-1, 10-10, 幻想曲Op.49、 いずれも技術的に素晴らしく音楽的にも奇をてらったところのない正統派の演奏でした。 その他、注目に値すると思うのは18. Mr Zhi Chao Julian Jia (China、性別は男性)です。 選曲や節回し、デュナーミクはやや個性的ですが、高い技術に支えられ、聴く人を惹きつける不思議な力を持ったピアニストだと思います。 16. Mr Chi Ho Han (South Korea)も、演奏順の運が良かったからか、初日後半冴えない演奏が続く中、突出して素晴らしい演奏に聴こえました。 この3人は1次予選通過は間違いないのではないかと思います。 日本人の古海行子さんはこの緊張した中で普段通りの力を発揮できたのではないかと思います。 教科書通りの基本に忠実な演奏でミスも少なく安定した演奏で、1次予選は通過する可能性は期待できるとは思いますが、 正直に言えばそこに自分なりの主張がなければ、その先勝ち残っていくのは難しいのではないかと思います。

その他一言ずつコメントすると、3. Mr Tymoteusz Bies(Poland)は、エチュードでところどころテンポが急に速くなるなど、癖が残るような演奏ですが、 平均的なレベルには達していて、1次予選通過はありうると聴きました。 4. Mr Rafal Blaszczyk (Poland)はエチュードOp.10-1, スケルツォOp.39と雑に弾き飛ばすところが多かったようでやや残念な演奏と思いました。 5. Mr Lukasz Piotr Byrdy (Poland)は迫力は十分でテクニックもありそうでしたが、強奏で音が濁るところが多く、あまり好きな演奏ではありませんでした。 6. Ms Michelle Candotti (Italy)は、男性が3人続いた後であったため、音量的にはやや聴き劣りしてしまいますが、音色も美しくよくまとめられていて、 1次予選は通過で良いのではないかと思います。 11. Mr Ashley Fripp (United Kingdom)は、音色は美しかったのですが、エチュードで崩れてから立て直しができずに終わってしまいました。 14. Mr Adam Mikolaj Gozdziewski (Poland)は、テンポの設定が極端で音も濁っていて今一つでした。 15. Ms Ivett Gyongyosi (Hungary)は技術的に今一つで、エチュードを安定して弾ききる力がないようでした。 17. Mr Olof Hansen (France)は技術的に弱くちょっと残念な演奏でした。

10月4日
前半:10時〜14時(日本時間:10月4日(日)午後5時〜9時)
A 19. Mr Aljosa Jurinic (Croatia)
C 20. Ms Joo Yeon Ka (South Korea)
B 21. Mr Honggi Kim (South Korea)
? 22. Ms Su Yeon Kim (South Korea)
? 23. Ms Yedam Kim (South Korea)
B 24. Ms Yurika Kimura (Japan)
A 25. Ms Dinara Klinton (Ukraine):予備予選免除
A 26. Ms Aimi Kobayashi (Japan)

感想:
19. Mr Aljosa Jurinic (Croatia)
くっきりとした輪郭を持つ凛とした音色が魅力で、ノクターンOp.27-2から惹きつけられました。 エチュードはOp.25-6とOp.10-8を選曲していました。いずれも遅めのテンポで、ややもすると「安全運転」に聴こえてしまいますが、 地に足がついた確実極まりない音運びと音の粒立ちと完成度は素晴らしく、この方向性で差別化を図っていることが分かりました。 最後のバラードOp.52は最後ややあやしいところもありましたが、総じて素晴らしい演奏でした。 個人的な好みから言えば、このような演奏は好きです。ランクA、1次通過は確実、可能であれば3次予選ぐらいまでは進んでほしい人です。
20. Ms Joo Yeon Ka (South Korea)
最初のエチュードOp.10-10のアゴーギクとデュナーミクが非常に的確で素晴らしいと思ったのですが、 次のOp.25-11では音の粒立ちが今一つで惜しいミスが所々で目立ってしまい、何とも言えない出来になっていました。 その後、ノクターン、バラードと流れが散漫になって印象が薄くなってしまったのが残念でしたが、最初のOp.10-10のエチュードの出来を買って、 1次予選を通してあげてもよいかもしれません。個人的にはあまり・・・という感じですが。
21. Mr Honggi Kim (South Korea)
高音の美音が魅力的で、けれんみのない素直な演奏で好感が持てました。このような正統派の演奏は個人的には好きです。 この人は通過するのではないでしょうか。
24. Ms Yurika Kimura (Japan)
日本人のトップバッター・木村 友梨香さんは十八番と思われるスケルツォOp.31を冒頭に持ってきて成功したかに見えましたが、 続くノクターンOp.62-1が非常に落ち着いている反面、印象が薄くポイントを下げているように感じました。 エチュードOp.10-5は軽妙な演奏で素晴らしかったと思いますが続くOp.25-10では音色がやや汚くなる部分が多かったように思います。 しかし明らかな「事故」はなく普段通りの実力が発揮できたのではないかと思います。この人は1次予選は通過するのではないかと見ています。
25. Ms Dinara Klinton (Ukraine)
ノクターンOp.48-2という渋い選曲ですが、的確に抑揚をつけてこの曲から存分に表情を引き出していました。 続くエチュードOp.10-1は力強い左手のオクターブと右手の素晴らしいテクニックが冴える見事な演奏で、アルゲリッチを彷彿とさせる演奏でした。 そしてOp.10-2はショパンのエチュードの中でも飛び抜けた難曲であるにもかかわらず、非常に速いテンポで軽妙に弾いていて、 素晴らしいテクニックの冴えが光る演奏でした。最後のスケルツォOp.39ではダイナミックな主部、高音から駆け下りてくるキラキラとした音色の素晴らしさ、 そして圧巻のコーダと、他を圧倒する見事な演奏でした。本選まで残るかどうかはともかく次も聴きたくなる素晴らしい演奏でした。
26. Ms Aimi Kobayashi (Japan)
日本人の最有力候補の筆頭です。満を持して登場・・・のはずが、どうも椅子の高さが違うようで、 自分で椅子の高さを調節していました。ノクターンOp.27-1はやや固いかなという印象はありましたが、 次のエチュードOp.10-4は誤魔化しが全くない非常にレベルの高い演奏で、Op.25-5の方も十分に歌えていました。 最後のスケルツォOp.39は直前のディナーラ・クリントンの後で、パワー負けしていたり、高音からのキラキラとした下降音型では 音色の輝きでやや負けているなど、演奏順でやや損をしているとは思いましたが、絶対的な評価で言えば、 十分素晴らしいトップレベルの演奏でした。この人は場馴れしているというか経験値が違うようで、 いかなる状況でも本来の自分の実力が発揮できるように鍛えられていると感じました。 本選まで進めるかどうかと聞かれると、個人的には疑問ですが、3次予選くらいまでは進んでもらいたいです。

後半:17時〜21時(日本時間:10月5日(月)午前0時〜4時)
A 27. Mr Qi Kong (China)
B〜C 28. Mr Marek Kozak (Czech Republic)
B〜C 29. Mr Lukasz Krupinski (Poland):予備予選免除
A〜B 30. Mr Krzysztof Ksiazek (Poland):予備予選免除
B 31. Ms Rachel Naomi Kudo (United States):予備予選免除
B〜C 32. Ms Kate Liu (United States)
A 33. Mr Eric Lu (United States):予備予選免除
C 34. Ms Tian Lu (China)

感想:
27. Mr Qi Kong (China)
ノクターンOp.55-2は美しい音色で自然で高貴な演奏。エチュードOp.10-10, Op.25-11いずれも完成度の高い素晴らしい演奏。 バラード4番は非常に落ち着いた詩情豊かで自然で純粋な演奏。弱気そうな表情が何となく前回のクルティシェフを彷彿とさせるような・・・。 こういう人は理屈抜きで応援したくなります。
28. Mr Marek Kozak (Czech Republic)
ノクターンOp.27-2は、これまた自然で高貴で美しい演奏。 エチュードOp.10-2は今日、25. Ms Dinara Klinton (Ukraine)の超絶的に素晴らしい演奏を聴いてしまった後だけに 聴き劣りしてしまいますが、それでもここまで弾けていれば及第点です。Op.10-5はショパンコンクールにしてはやや遅めの演奏ですが、まずまずです。 スケルツォOp.39は迫力はやや欠けていましたが軽妙さが売りの演奏で上手くまとめているという印象でした。
29. Mr Lukasz Krupinski (Poland)
ノクターンOp.48-1は美しさと最後の迫力が心に迫る熱演。エチュードOp.10-11は アルペジオの分散和音の中から旋律を浮かび上がらせ、つなげて歌わせた非常に音楽的で素晴らしい演奏でしたが、エチュード Op.25-11は ごまかし箇所が散見され中途半端な印象となってしまいました。バラードOp.52は詩情と情熱が渾然一体となった演奏ですが、やや安定度に欠けていました。 よい部分を拾い上げるか、失点を重く見るかで、評価が大きく変わってしまうため、審査結果は蓋を開けてみないと分からないという、未知数の要素が大きいと思います。
30. Mr Krzysztof Ksiazek (Poland)
登場した瞬間、なんか役者のような不思議なオーラが。 ノクターンOp.48-2という渋い選曲ですが、表現のバリエーションが豊富で結構楽しめる演奏でした。エチュードOp.25-5は主部のスケルツァンドが 軽妙でしたがやや不自然な部分が散見されました。エチュードOp.10-8は粒立ちの良い比較的オーソドックスな秀演。 スケルツォOp.20は速いテンポで猪突猛進の主部としっとりと歌う中間部の対比がはっきりしていて主張の強い演奏でした。 こうしたユニークな演奏は好き嫌いが分かれると思いますが、自分の言いたいことを持っていて、それをピアノではっきりと主張できる貴重な存在ではあると思います。 この主張の強さが吉と出るか凶と出るか、蓋をあけてみなければ分からない未知数の要素がありすぎますし、 音色の魅力にはやや乏しい感じもしますが、次も聴いてみたいと強く思わせるものはあります。 今回のショパンコンクールの台風の目となる可能性大ありでしょうか。 こういう正統派から外れたタイプは特にショパンコンクールでは本選進出は難しいため(ブーニン、スルタノフ、ボジャノフなど前例はいくらでも探すことはできますが)、 Aランクを付けることには躊躇しますが、個人的にはAを付けたいくらいです。中庸をとって、A〜Bランクとしました。
31. Ms Rachel Naomi Kudo (United States)
ノクターンOp.62-1は落ち着いたテンポでしっとりと歌った演奏。エチュードOp.25-10,Op.10-5、いずれも 技術的には完成度の高い素晴らしい演奏。バラードOp.52も美しく完成度の高い演奏でした。個性はあまりありませんが、 完成度の高さは素晴らしいです。10年前同様、本選進出なるでしょうか、楽しみです。
32. Ms Kate Liu (United States)
ノクターンOp.62-1は遅めのテンポで自分の音楽に陶酔するような内省的な演奏でした。 エチュードOp.10-2は細く長い指で軽く弾いているように見えましたが途中、破綻しかかり、全体的に今一つとなってしまいました。 エチュードOp.10-5は軽妙でオーソドックスな演奏でした。幻想曲Op.49は細い身体からは想像できない力強く情熱的で見事な演奏でした。 エチュードOp.10-2の失点とノクターンOp.62-1の静謐な演奏が吉と出るか凶と出るか採点結果次第とも言えますが、今日のレベルの高さを考えると、 こうしたわずかなところが命取りとなってしまう可能性がありそうです。
33. Mr Eric Lu (United States)
ノクターンOp.27-2は美音と高貴な節回しが光る素晴らしい演奏。エチュードOp.10-8は速めのテンポであるにもかかわらず、 音の粒立ちがはっきりしていて完成度の高い演奏。エチュードOp.25-6も技術的に非の打ちどころのない見事な演奏。 バラードOp.52は、やはり粒立ちのはっきりした美しい音と高い技術に裏打ちされた高貴で自然で完成度の高い演奏。 ちなみにこの曲、彼はエキエル版ではなく従来のパデレフスキ版の音で弾いていましたが、パデレフスキ版の方が聴き慣れているので、この方が個人的には好きです。 パデレフスキ版で弾いた音が減点対象にならないことを祈ります(審査員の先生方はそんな心の狭い方はいないと思いますが)。 彼は17歳と若いですが、今日の参加者の中では頭一つ抜け出しています。優勝候補の一角と個人的には思います。
34. Ms Tian Lu (China)
スケルツォOp.20から弾き始めましたが、素晴らしい演奏の直後となってしまったのがこの人の不運で、演奏順で損をしてしまいました。 演奏は悪くはないのですが、やや堅く曇った音色でミスが多く何とも言えない出来になってしまいました。 ノクターンOp.62-1は、しっとりと歌ってはいるのですが、音色の魅力に乏しい感じで、僕には退屈な音楽に聴こえてしまいました。 エチュードOp.10-2は一応弾けてはいましたが精度は今一つで精彩に欠けている印象です。この演奏では予選通過は厳しいでしょうか。

2日目は1日目と比べて全体的にレベルが高いと思いました。目下のところ、トップは、 10. Mr Seong-Jin Cho (South Korea)、33. Mr Eric Lu (United States)のどちらかという印象ですが、個人的には33. Mr Eric Lu (United States)の方が好きです。
3日目は聴く時間が取れそうにないのが残念ですが、4日目以降、 聴いた演奏に対して感想を書き進めていこうと思います。

2015/10/5 AM 4:20

10月5日
前半:10時〜14時(日本時間:10月5日(月)午後5時〜9時)
D 35. Mr Xin Luo (China)
B 36. Mr Roman Martynov (Russia)
B〜C 37. Ms Nagino Maruyama (Japan)
C 38. Ms Nao Mieno (Japan)
C 39. Mr Lukasz Mikolajczyk (Poland)
C 40. Mr Pawel Motyczynski (Poland)
B 41. Ms Alexia Mouza (Greece)
B〜C 42. Ms Mayaka Nakagawa (Japan)

35. Mr Xin Luo (China)
エチュードOp.10-12は軟派の演奏で物足りない印象。エチュードOp.25-10も迫力不足でミスも目立ちました。結構良い体格をしているのに、 もったいないと感じました。ノクターンOp.27-2は振幅が小さく平板で物足りない印象。バラードOp.23はミスが目立ちました。 何とか弾ききりお辞儀をしている彼に「お疲れ様」と心の中で労っていると、何ともう1人の人が舞台に現れて、彼を支えて連れて行くではありませんか。 ああ、そうだったんだ、この人は盲目の人だったんだ・・・僕はそんな事前情報を何も知らなかったので、 「何でこんな人が予備予選を通過してしまうんだ?」と心の中で非難していた自分を責めました。体格の割に迫力不足だったりミスを連発したりしていたのは、 盲目という絶対的なハンデのせいであることは明らかです。 盲目のピアニストはただそれだけで存在価値がある、と僕は思います。梯さん、辻井さんにも本当にいくら敬意を払っても足りないくらいです。 この人は予選通過は不可能でしょうけど、ショパンコンクール出場を良い思い出にして一生、ピアノを弾き続けてほしいです。 本当にお疲れ様でした。
36. Mr Roman Martynov (Russia)
スーパーマリオ?というのはともかく、音色が美しく、最初のノクターンOp.27-2から惹きつけられました。 エチュードOp.25-10も良いですし、Op.10-5は一部音の不揃いはありましたが、いずれも美音を武器に聴かせどころを押さえていました。 バラードOp.52も振幅が大きく情熱的な演奏で素晴らしかったです。最終的に勝ち残るのは難しいと思いますが、1次予選は突破するのではないでしょうか。
37. Ms Nagino Maruyama (Japan)
エチュードOp.10-8は落ち着いた出だしで好感が持てましたが、もう少し左手の和音をはっきりと出してメリハリを付けた方が 聴こえが良いと思います。そこが少し惜しかったです。Op.25-6は遅めのテンポでやや歯切れが悪い印象ですが、この曲をここまで弾けていればまずは十分です。 ノクターンOp.48-1はやや暗めで落ち着いた出だしがこの曲にマッチしていましたし、再現部の情熱的な和音の連続も聞かせどころを押さえた演奏でしたが、 やや迫力不足の感が否めませんでした。スケルツォOp.39も、このコンクールでは速めの豪快な爆演が多い中、遅めのテンポで確実に前進していく落ち着いた演奏でした。 16歳になったばかりという年齢を考えると素晴らしいとは思いますが、客観的に考えれば当落線上スレスレではないかとは思います。 ただ、今日のこのグループの全体的なレベルは低いので、このグループの中では上位半数の中には余裕で入る出来ではあります。 個人的には1次予選は通過してほしいですが・・・。
38. Ms Nao Mieno (Japan)
ノクターンOp.27-2は堅い印象がありましたが無難な出来。エチュードOp.10-8はよく弾けていたと思います。 Op.10-2はやや速めのテンポで思わず「おお!」と声を上げてしまいましたが、事故クラスのミス(というか音が一群抜け)がありましたが、 、スケルツォOp.54は上手くまとめられていて好感が持てました。パッセージもきれいに粒が揃っていましたが、例の主部の複合リズムの部分のロ長調の右手の旋律 (F#-G#-E-F#-D#−E−C#−D#−C#−H)の最後のC#とHがくっつきすぎるという恐らく本人も指導者も気づいていないと思われる癖があります。 これは僕自身、予備予選の時から気になっていたことですが、修正されていなかったのが残念でした。 全体的にこの曲の場合はもう少しペダルを控えめにした方が歯切れがよく聴こえると思います。 ステージ上ではすごく緊張していたように見えました。Op.10-2の大きなミスの連続がどの程度の失点になるかどうかですが、 予選通過はやや難しそうです。個人的には通過させてあげたいですが・・・
39. Mr Lukasz Mikolajczyk (Poland)
ノクターンOp.62-2はしっとりと歌った良い演奏でしたが、中間部がやや粗かったのが惜しまれます。エチュードOp.10-4はハイテンポで自己の限界に挑戦するかのような演奏ですが、 中間部で音を連続して外した箇所があり、そもそも精度は今一つでした。エチュードOp.25-10は一転して明晰さ、クリアさを求めているように聴こえましたが、 それでも音が濁る部分が多く雑な部分が散見されました。主部最後の方で小事故もありました。スケルツォOp.54は例の難しいパッセージがあまり弾けていませんでしたし、 散漫な印象が残る演奏でした。この人も当落線上ギリギリ、いや通過は難しいという印象です。
40. Mr Pawel Motyczynski (Poland)
ノクターンOp.27-2、エチュードOp.10-12、エチュードOp.25-10、スケルツォOp.39
41. Ms Alexia Mouza (Greece)
エチュードOp.10-4、エチュードOp.25-4、エチュードOp.25-7、スケルツォOp.20
42. Ms Mayaka Nakagawa (Japan)
ノクターンOp.27-2は音楽的に中庸で標準的な演奏でした。エチュードOp.25-11は一応弾けてはいましたが、音の粒立ちが今一つで 決め手に欠けるように感じました。エチュードOp.25-6は速めのテンポで技術的にもまずまず弾けていました。舟歌Op.60は技術的にもよく消化できていて、 標準的で十分美しい演奏だったと思います。エチュードOp.25-6, Op.25-11という難曲を選曲したことからも、この人は技術には自信を持っていそうなので、 その技術を、もう少し表現の幅を広げることに利用できれば、一回り大きなピアノ弾きに成長できるのではないかと思います。 音楽的には光るものを感じませんが、演奏が安定しているのが強みです。おそらく1次は通過できるのではないでしょうか。

後半:17時〜21時(日本時間:10月6日(火)午前0時〜4時)
B 43. Ms Nozomi Nakagiri (Japan):予備予選免除
B 44. Mr Szymon Nehring (Poland)
C 45. Ms Anastasiia Nesterova (Russia)
A〜B 46. Mr Ronald Noerjadi (Indonesia)
B 47. Ms Mariko Nogami (Japan)
48. Mr Piotr Nowak (Poland)
49. Ms Arisa Onoda (Japan)
50. Mr Georgijs Osokins (Latvia)

43. Ms Nozomi Nakagiri (Japan)
浜松国際ピアノコンクール第2位のため予備予選免除。ノクターンOp.37-2という珍しい選曲で、Op.27-2やOp.62-1が食傷気味だった僕の耳に新鮮に響きました。音楽的にも奇をてらったところのない 洗練された素晴らしい演奏でした。しかし次のエチュードOp.25-6がミスタッチ以前に技術的に弾けていない演奏で残念な出来になってしまいました。 エチュードOp.10-5は粒揃いは今一つですが技術的には及第点に達していると思います。スケルツォOp.31は非常に美しく安定していて好ましい演奏でした。 エチュードOp.25-6の失点がどの程度かにもよりますが、中桐さんが何故あえてこの曲を選んだのかが謎すぎます。 ともかくノクターン、スケルツォは素晴らしかったので、1次予選は通過するのではないかとみています。
44. Mr Szymon Nehring (Poland)
エチュードOp.25-7はややもってまわったような粘っこい節回しが独特で、僕はもっとスマートでひたすら暗い演奏が好きですが、 好き嫌いはともかく表現力はありました。 幻想曲Op.49は緩急自在、迫力と情熱あふれる素晴らしい演奏だと思いましたが、もったいないミスタッチが多すぎるのが気になりました。 エチュードOp.25-4はバスを外すところでテンポが乱れるなど、もったいない箇所が多かったのですが、表現力は素晴らしいと思います。 エチュードOp.25-11は非常に速いテンポで、技術的なコントロールよりも勢いを重視した演奏でした。主部に入る直前の両手が接近してくる部分の2回目の部分で ミスタッチではない音違いがあり、ミスタッチも多く粗っぽくなったのが惜しまれました。 しかし素晴らしい表現意欲と荒削りの迫力はユニークで、このテンポでここまで弾けるのであれば、技術的な鍛錬でそこに正確さが加われば 他のピアニストから得られないユニークな感動が得られるピアニストに成長できるポテンシャルを秘めていると感じました。 未完の大器の可能性は十分ではないでしょうか。今回の1次予選突破のレベルに達しているかは微妙ですが、完成度の高い面白くないピアニストを1人落としてでも、 この人を通過させて2次予選でももう一度聴いてみたいと思わせるものを持った人だと思います。個人的には評価「B」ですが、 ミスタッチを正確に拾って機械的に減点していくとこの人は間違いなく落選してしまいます。落選しないことを切に祈ります。
45. Ms Anastasiia Nesterova (Russia)
エチュードOp.25-4、エチュードOp.25-11、ノクターンOp.48-1、スケルツォOp.54:最初のエチュードはある程度正確かつ確実に 弾いていてノクターンも情熱的でなかなかの演奏でしたが、最後のスケルツォOp.54は、集中力が切れてしまったのか、音の粒立ちが悪く荒削りの演奏となってしまいました。 全体としては何とも言えない出来と思います。当落線上ギリギリと見ました。
46. Mr Ronald Noerjadi (Indonesia)
インドネシア国籍ですが、見た目は黄色人種でアジア系のようです。日本人にもこういう感じの人はいますね。 ノクターンOp.27-2は美しい音色で表現力の豊かな演奏で好感が持てました。エチュードOp.10-11はアルペジオにムラがありますが、 音楽性は十分で聴かせる演奏でした。エチュードOp.10-12は迫力満点ですが左手の粒立ちがやや粗いのが気になりました。最後のスケルツォOp.31は 美しい旋律に的確なルバートと表情を付けて感動的な節回しで弾いていました。中間部、コーダの迫力と情熱も圧巻でした。この人も技術的にはやや荒削りではありますが、 音色が美しいのと音楽性が素晴らしく表現のバリエーションも豊富で、もっと聴きたいと思った人の1人です。
47. Ms Mariko Nogami (Japan)
ノクターンOp.27-2は旋律を丁寧に歌わせたなかなかの佳演。エチュードOp.10-10はデュナーミク、アゴーギクが的確で、 音楽性豊かな演奏で好感が持てました。エチュードOp.25-11も大きなミスはなくそれなりに素晴らしい演奏ではあったと思いますが、やはりこの曲は音の粒立ちがはっきりしないと なかなか突出した印象を聴く人に与えられないようです。スケルツォOp.39は一点一画をきちんと音にしていて迫力も十分でしたし高音から駆け下りてくる分散アルペジオも キラキラと輝いた音色で素晴らしい演奏だったと思います。これはという決定的な魅力には欠けますが、日本人の中では上位に入ると思います。 この人も1次予選は通過するのではないでしょうか。

10月6日
前半:10時〜14時(日本時間:10月6日(火)午後5時〜9時)
? 51. Mr Jinhyung Park (South Korea)
? 52. Mr Piotr Ryszard Pawlak (Poland)
C 53. Ms Zuzanna Pietrzak (Poland)
B〜C 54. Ms Tiffany Poon (China)
C〜D 55. Mr Kausikan Rajeshkumar (United Kingdom)
A 56. Mr Charles Richard-Hamelin (Canada)
B 57. Ms Tamila Salimdjanova (Uzbekistan)
C 58. Mr Cristian Ioan Sandrin (Romania)

51. Mr Jinhyung Park (South Korea)
ノクターンOp.48-1、エチュードOp.10-1、エチュードOp.10-10、バラードOp.23
52. Mr Piotr Ryszard Pawlak (Poland)
バラードOp.23、ノクターンOp.62-2、エチュードOp.10-2、エチュードOp.10-4
53. Ms Zuzanna Pietrzak (Poland)
エチュードOp.25-7、エチュードOp.25-10はやはり音の濁りと粗さが惜しい、 エチュードOp.25-11は一応は弾けていますが粒揃いが悪く何とも言えない演奏に聴こえました。スケルツォOp.54も同様で 音の粒が粗く今ひとつ決め手に欠け、散漫な印象が残りました。
54. Ms Tiffany Poon (China)
ノクターンOp.48-1は力強くダイナミックで情熱的で良い演奏。エチュードOp.10-4は標準的なテンポで、多少ミスや音の不揃いはあるものの及第点。 エチュードOp.10-11は1つ1つのアルペジオの粒は粗いですがよく歌えていたと思います。 舟歌Op.60は静と動の対比が素晴らしく情熱的でした。1次は何とか通過するのではないでしょうか。
55. Mr Kausikan Rajeshkumar (United Kingdom)
舟歌Op.60は非常に美しい音色で独特の感性に支配された個性豊かな演奏ですが、何でもないところで音抜けが結構あって、 そこを重く見るかで結果が大きく変わってくると思います。ノクターンOp.62-1はソノリティの美しさを活かして、 神秘的で夢見心地の素晴らしい演奏でした。エチュードOp.10-11はミスタッチが多かったですが、美しい音色、緩急自在の演奏でした。 エチュードOp.10-5は軽妙な演奏でしたが音の粒が揃っていないのとミスタッチが多いのが惜しまれました。このテクニックとミスの多さでは通過は難しいでしょうか。
56. Mr Charles Richard-Hamelin (Canada)
髭と眼鏡、立派すぎる体格、この貫録の風貌がまず注意を惹きつけます。 ノクターンOp.62-1はよく練られた深い音色と的確なルバート、アゴーギクとデュナーミクで本格的な演奏をしていて惹きつけられました。 エチュードOp.25-5は技術的にも音楽的にも隙のない演奏でした。エチュードOp.10-12では左手の音の粒にわずかな不揃いがありましたが、 全体的に素晴らしい演奏でした。バラードOp.47は弾き慣れているのでしょうか、不自然な部分がなく自然に流れていくようで、それでいて十分に表情豊かで、 技術的にもプロフェッショナルで、まるで経験豊富な一流ピアニストのソロ・コンサートを聴いているような感覚になりました。 この人は本選に行く可能性が高いのではないでしょうか。
57. Ms Tamila Salimdjanova (Uzbekistan)
ノクターンOp.48-1は出だしの音が強すぎてデュナーミクが不十分に感じられましたが、 やや強めの硬質の音を基調に、主部の再現部では迫力満点で素晴らしいと思いました。エチュードOp.10-4はやや音の不揃いはありましたが、総じて完成度の高い 演奏でした。エチュードOp.10-2は速いテンポでしたが右手1指・2指で抑える拍の冒頭の和音の鳴りが今一つで、もったいないミスもありました。 バラードOp.52は情熱的で迫力も十分で素晴らしい演奏でしたが、最後のコーダでもったいないミスがあり、最後の印象が悪くなってしまったのが惜しまれました。 全体としては出来は悪くはないので、1次は通過するのではないかと思います。
58. Mr Cristian Ioan Sandrin (Romania)
ノクターンOp.55-2は強めの音で朗々と鳴らしていました。最後の和音も完全なフォルテ (楽譜にはそう書いてありますが、僕にとってはやや強めの弱音というのが最も自然に聴こえます)。 バラードOp.47は良い部分もあるのですが、やはり技術的に粗いところが多く、何とも言えない出来になってしまいました。 エチュードOp.10-8も粗く一部極端にテンポが速くなる部分があり安定しない演奏でした。エチュードOp.25-10はやはり音が濁り粗っぽくなるという この曲にありがちな演奏になってしまいました。慣れないピアノとホールでペダリングを調整してこの曲を弾くのは不可能に限りなく近いと思います。 この曲はショパンコンクールでは何故か人気があるようですが、避ける方が賢明ではないかと個人的には思うのですが。

後半:17時〜21時(日本時間:10月7日(水)午前0時〜4時)
C 59. Ms Natalie Schwamova (Czech Republic)
C〜D 60. Ms Boyang Shi (China)
B 61. Mr Dmitry Shishkin (Russia)
A〜B 62. Ms Rina Sudo (Japan)
? 63. Mr Micha? Szymanowski (Poland)
? 64. Ms Rikono Takeda (Japan)
? 65. Mr Arseny Tarasevich-Nikolaev (Russia)
? 66. Mr Alexei Tartakovsky (United States)

59. Ms Natalie Schwamova (Czech Republic)
ノクターンOp.62-1:標準的、エチュードOp.10-1を選ぶとは勇猛果敢ですが、ミスが散発していて、 何とも言えない出来になってしまいました。エチュードOp.10-10は音楽的でまずまずの演奏でした。スケルツォOp.31はやや荒っぽく、 集中力が持続していない印象でした。好意的に見れば当落線上ですが、恐らく通過は難しいと思います。
60. Ms Boyang Shi (China)
ノクターンOp.27-1はやや残念なミスが散発していましたが、総じて標準的で美しい演奏でした。 エチュードOp.25-6は滑ったり転んだり、安定していませんでした。やはりこの曲はそう簡単には選んではいけない曲です。 エチュードOp.10-8は粒が揃わずあまり弾けていないのが残念でした。バラードOp.23は情熱的な演奏でしたがミスが多くコーダはやや崩壊していました。 この人も通過は難しいと思います。
61. Mr Dmitry Shishkin (Russia)
エチュードOp.10-1はずしりとした左手のオクターブの支え、右手のテクニックの冴えが光る見事な演奏。 左手のオクターブ、何故2回弾く?という弾き直しがありました。これはどの程度減点されるのか気になります。 エチュードOp.10-2は弾き始めた瞬間、心の中で「えっ?」と耳を疑うようなテンポで弾き始めましたが、そのテンポを維持して弾き終えてしまいました。 残念な細かい傷がありますが、この曲をこのテンポで弾くとはいささか狂気じみています。この人は自分と闘っているのでしょうか。ピアノはスポーツ競技ではないんですけど・・・。 エチュードOp.10-3はどっちつかずの印象でした。バラードOp.38は急速部とコーダの圧倒的なパワーとテクニックが聴きどころの演奏でしたが、 緩徐部に魅力がないのが何とも惜しいです。 しかし凄まじいまでの圧倒的なテクニックとピアノの弦が切れるほどのパワーは 他の追随を許さない圧倒的なスケールと迫力を生んでいて、これはこれで素晴らしい個性ではありますが、ショパンらしさという点では確かに方向性が違いますし、 保守的な審査員は低い点を付けることが容易に予想されます。エチュードOp.10-1の弾き直しがどの程度の減点になるのか分かりませんが、 正直に言えばもう一度聴いてみたいと思うため、ひいき目で「B」としました。
62. Ms Rina Sudo (Japan)
ノクターンOp.9-3は伸びやかでなかなか表現力が豊かでした。エチュードOp.25-5は主部の付点リズムの音価の比が途中で変わって しまいました。これは緊張しすぎて何を弾いているのか分からないという状況に陥った時に起こりがちな現象ですが、経験豊富な須藤さんが そのような状況になるとは考えにくいのですが・・・これは減点対象にはなってしまうと思いますが、内容的には素晴らしかったと思います。 エチュードOp.25-11は軽妙さはありませんが、どっしりとした音運びで目立った事故もなく、良い演奏でした。 スケルツォOp.39は迫力十分でスケールの大きい見事な演奏でした。目下のところ、日本人では小林愛実さんに次ぐ好演奏だと思います。
63. Mr Micha? Szymanowski (Poland)
ノクターンOp.27-2、バラードOp.38、エチュードOp.25-11、エチュードOp.25-10
64. Ms Rikono Takeda (Japan)
ノクターンOp.27-2、エチュードOp.10-4、エチュードOp.25-5、スケルツォOp.54
65. Mr Arseny Tarasevich-Nikolaev (Russia)
ノクターンOp.27-1、エチュードOp.10-1、エチュードOp.25-5、バラードOp.38
66. Mr Alexei Tartakovsky (United States)
ノクターンOp.48-1、エチュードOp.10-1、エチュードOp.25-6、バラードOp.23

10月7日
前半:10時〜14時(日本時間:10月7日(水)午後5時〜9時)
C〜D 67. Mr Hin-Yat Tsang (China)
A 68. Mr Alexander Ullman (United Kingdom)
C 69. Mr Chao Wang (China)
C〜D 70. Mr Zhu Wang (China)
B 71. Mr Andrzej Wiercinski (Poland):予備予選免除
C〜D72. Mr Yuchong Wu (China)
D 73. Mr Zi Xu (China)
A 74. Mr Yike (Tony) Yang (Canada)

67. Mr Hin-Yat Tsang (China)
ノクターンOp.37-2は珍しい選曲で期待していましたが、3度、6度のパッセージでひっかけるようなミスが目立ち、 今一つの出来でした。エチュードOp.10-8はやや弱めの音で軽やかさを重視した演奏に聴こえましたが、残念なミスがあり、やはり今一つという印象が残りました。 エチュードOp.25-5は標準的で合格点に達した演奏だと思いますが、バラードOp.23はミスが多くてやや粗く、決め手に欠ける演奏でした。予選通過は難しいでしょうか。
68. Mr Alexander Ullman (United Kingdom)
エチュードOp.10-5はメリハリに富んだ目の覚めるような演奏。 エチュードOp.25-5は普遍的で十分に美しく模範的な演奏。ノクターンOp.55-2は芯のしっかりしたシャープな美音を1音1音よくコントロールされ磨き上げられた演奏でした。 スケルツォOp.31は流麗でありながらも1音1音がシャープで磨き抜かれたような音色で、強奏部分でも抑制が効いた洗練された素晴らしい演奏でした。 冷静に考えると、この人は僕の中で評価Bの上あたりですが、評価Aを付けたくなる人がなかなか現れないので、しびれを切らしつつあります。 この人にはオマケで評価Aを付けてしまいます。
69. Mr Chao Wang (China)
ノクターンOp.55-2はこの曲の特徴をよく把握した普遍的な演奏、エチュードOp.10-5はややペダルが多い気がしますが、 音の粒立ちが素晴らしい演奏、エチュードOp.25-6は残念なミスタッチが多いのですがそれ以前に弾けていない部分もあり今一つ。バラードOp.47も普通の演奏ですが、 ところどころに惜しいミスがあり最後も大きく外してしまったのが印象を悪くしてしまいました。Op.25-6の失点が大きそうで、予選通過は難しそうです。
70. Mr Zhu Wang (China)
ノクターンOp.62-1は可もなく不可もない普通の演奏。エチュードOp.10-5は速いテンポですが左手のミスタッチが散発しやや集中力に欠ける印象、 エチュードOp.25-4は一転して歯切れがよくミスタッチの少ないまずまずの演奏、舟歌Op.60は普遍的な演奏で好感が持てました。全体として決め手に欠ける印象で、 このような演奏スタイルでミスが多く完成度が今一つでは、予選通過は難しそうです。
71. Mr Andrzej Wiercinski (Poland)
ノクターンOp.9-3は奇をてらったところのない自然な演奏で好感が持てました。 エチュードOp.10-10は今回のコンクールでも素晴らしい演奏が多いですが、この人の演奏はミスタッチが多く出来としては平々凡々でした。 エチュードOp.25-11は軽妙さもあり出だしは好印象でしたが、ミスタッチが多く中間部後半はミスを連発してこの人の株は僕の中で大暴落でした。 スケルツォOp.31は音楽的には好ましい演奏でしたが、いくら寛容になっても看過できないミスタッチが多数ありました。 ポーランドの期待の星なのかもしれませんが、これでは1次予選通過が精一杯ではないでしょうか。何とも残念な演奏でした。
72. Mr Yuchong Wu (China)
ノクターンOp.62-2は普通の演奏。エチュードOp.25-6は技術的に弾けていない部分が多く、残念な出来となってしまいました。 エチュードOp.10-8は粒が粗く完成度が甘いのが惜しまれました。スケルツォOp.39も同様の印象です。予選通過は難しそうです。
73. Mr Zi Xu (China)
ノクターンOp.62-1は非常に遅いテンポで流れが停滞して今にも止まってしまいそうで退屈な演奏でした。 エチュードOp.10-1は一転して素晴らしいテクニック・・・いやでもその割にはミスが目立ちました。エチュードOp.10-2は速めのテンポでしたが、 技術的には怪しい演奏でした。舟歌Op.60も流れが淀んでいて、聴く人にも強いストレスを与えるような演奏でした。 テクニックはある程度ありそうですが、荒削りですし、緩徐部に至っては止まりそう、もうこれ以上聴かなくても、というのが正直な感想でした。
74. Mr Yike (Tony) Yang (Canada)
ノクターンOp.27-1、エチュードOp.10-10、エチュードOp.25-11、幻想曲Op.49: 最初のノクターンOp.27-1はほの暗い詩情と情熱をたたえた見事な演奏でした。続くエチュードOp.10-10も期待できると思い始めた矢先、 彼が弾き始めたのは、何とエチュードOp.10-7!!その瞬間は心臓が止まりそうになりました(もちろん僕の)。 しかしこのOp.10-7が何とも軽やかで爽やかな名演奏・・・エントリーされた曲とは違いますが、途中で曲目変更の申し出をしていたのでしょうか? 詳しい事情は分かりませんが、素晴らしい演奏なのでそんな固いことは言わず減点しないでほしいです。エチュードOp.25-11は荒さのある演奏ですが、 若いのだからこのくらいは仕方ないと思える魅力をたたえた演奏でした。そして幻想曲Op.49はとても16歳とは思えない素晴らしい演奏で感動しました。 エントリーされた曲目と違うのは許してあげて、どうかこの人を通過させてあげてほしいです。2次予選でも彼の演奏を聴きたいです。
追記:後から巻き戻して映像を見てみると、最初の曲目アナウンスでエチュードハ長調Op.10-7と放送されているので、 エントリー変更されたということのようです。従って心配する必要はありません。

後半:17時〜21時(日本時間:10月8日(木)午前0時〜4時)
D 75. Ms Yuliya Yermalayeva (Belarus)
B 76. Mr Cheng Zhang (China)
A〜B 77. Ms Chuhan Zhang (China)
B〜C 78. Ms Annie Zhou (Canada)
? 1. Ms Soo Jung Ann (South Korea)
? 2. Ms Miyako Arishima (Japan)

75. Ms Yuliya Yermalayeva (Belarus)
ノクターンOp.62-1は標準的で美しい演奏。エチュードOp.10-7は右手の外声部が埋もれていてこの曲にしては重い演奏なのが 印象を悪くしてしまいました。エチュードOp.25-11は迫力はあるものの荒削りの演奏で途中事故があり積極的に評価できる部分が少ない演奏でした。 スケルツォOp.54はリズムやタッチ、音価のコントロールが甘いようで今一つでした。予選通過は難しそうです。
76. Mr Cheng Zhang (China)
何らかの異変のため、演奏順が回ってきたときに出られず、一旦パスとなり、 次の77番の奏者が弾いた後に出番となりました。ノクターンOp.62-1は本当に人気が高い曲で僕の耳も麻痺寸前という状況で正しく判断する能力が一時的に落ちてきていますが、 音楽的に優れた演奏だったと思います。幻想曲Op.49は凄まじい迫力と情熱にあふれた演奏ではありますが、悪く言えば多分に荒削りでした。 エチュードOp.10-10は音楽的には素晴らしいと思いましたが、技術的にはやや粗さが残る演奏でした。エチュードOp.10-1は力強く迫力のある熱演でしたが、 技術的なコントロールは今一つでした。情熱と表現意欲に溢れる熱血的な演奏で、好みが分かれそうですが、未完の大器の可能性は期待できると思います。 もっと聴いてみたいと思わせるものを持った人でした。少なくとも1次予選は通過するのではないでしょうか。
77. Ms Chuhan Zhang (China)
直前の76番の奏者に何らかの異変があったようで、75番の奏者の演奏が終了した後、しばらく進行がストップしましたが、 76番の奏者はしばらく出られないようで、76番をパスしていきなりこの人に順番が回ってきてしまいました。 意表を突かれたと思いますし、心の準備は不十分だったと思います。この流れは本人には厳しかったのではないかと思います。 ノクターンOp.62-1は標準的で十分に音楽的で美しい演奏でした。エチュードOp.10-8は軽やかで粒が揃い、 久しぶりにこの曲の良い演奏に出会えたというのが正直な感想です。エチュードOp.10-2は多少傷はありますが技術的には十分に消化された素晴らしい演奏でした。 スケルツォOp.54は冒頭で「重いかな」という第一印象がありましたが曲が進むにつれて徐々に調子を取り戻してきたようで、 パッセージはきれいに粒が揃い上質なスケルツォ4番を聴かせてくれました。女性にしては指も長そうでテクニックもありますが、 その優れたテクニックをひけらかさずに上質の音楽を作ることに活かしていて、音楽の造りがとても丁寧で好感が持てました。 僕は個人的にはこういう演奏は好きです。もっと聴きたいと思いました。1次予選は通過すると思います。
78. Ms Annie Zhou (Canada)
ノクターンOp.27-2は素直な音楽性、伸びやかな表現が好印象。エチュードOp.10-8は速いテンポで生き生きとした演奏ですが、 中間部で不自然なテンポの変動がある他、技術的にもやや荒削りですが、こんなものでしょうか。 エチュードOp.10-10は伸びやかな音楽性と詩情で聴かせる魅力的な演奏。バラードOp.23は力強く情熱的な演奏で聴く人を惹きつけます。 荒削りな点をどこまで減点するかで結果は変わってきてしまいますが、個人的にはあまり好きではありません。 それでも公平に見て、1次予選は通過するのではないかと見ています。
1. Ms Soo Jung Ann (South Korea)
ノクターンOp.27-2、エチュードOp.10-4、エチュードOp.10-10、バラードOp.23
2. Ms Miyako Arishima (Japan)
ノクターンOp.37-2、エチュードOp.10-5、エチュードOp.25-6、舟歌Op.60


第1次予選の演奏を聴き終えて
以上、第1次予選出場者の演奏を可能な限り聴き続けて、個人的な感想と評価をつけてきましたが、 本業をしながらであったため、残念ながら全員の演奏を聴くことができませんでした。 5日間に渡って行われた第1次予選の結果は、ポーランド時間の10月7日午後9時〜10時(日本時間10月8日午前4時〜5時)に発表されました。 その結果は下記の通りです。ショパン国際ピアノコンクールの公式サイトに1次予選通過者一覧が掲載されていますが、 ここでは以下に全出場者を演奏順に並べ、通過者の前に○、落選者の前に×を付けました。

純粋にAを付けた人は全て通過していたのは嬉しかったですが、A〜Bを付けた人が落選していたり、逆にDを付けた人が通過していたりして、 どうしても納得できず理解に苦しむ点が残ります。このような例外はあるにせよ、だいたいにおいて、通過してほしい人、通過するだろうと思う人は通過し、 技術的に問題外とか2度と聴きたくないと思った人は落選しているので、ある程度は受け入れられる結果ではありました。

日本人12人のうち通過したのは5人でした。前述した短評でも述べた通り、リアルタイムで聴いた中では、やはり大本命の小林愛実さんが突出していて、 その次が須藤梨菜さん、その次が第3集団という認識で、予想通り、小林愛実さんと須藤梨菜さんが 順当に通過していました。その他に通過した日本人は中川真耶加さん、小野田有紗、有島京さんの3人でしたが、小野田さんと有島さんの演奏は 残念ながら聴くことができませんでした。中川真耶加さんはエチュードOp.25-6やOp.25-11のような難曲を選曲して通過したことに大きな意義があると思いますが、 単にテクニックだけでなく、ノクターンOp.27-2や舟歌Op.60でも控えめな美しさがある演奏でした。こうした演奏は大味な聴き方しかできない多くの人の耳には 平凡に聴こえるかもしれませんが、専門的な審査員や一部の専門的な耳を持った人にはその良さははっきりと分かります。テクニックがあり安定しているのも大きな強みなので、 この人は何かやってくれるかもしれないと密かに期待しています。日本人は結構聴いていない人が多かったですが、中桐望さんと木村友梨香さんは 通過すると思っていただけに残念でした。中桐さんは、やはりOp.25-6の失点が大きすぎたのではないかと思います。このような標準的な演奏スタイルの人の場合、 1曲で大きな失点をするとそれを挽回するのが極めて難しいのだということを痛感しました。木村友梨香さんは1次予選は通過すると見ていたのですが何が足りなかったのか、 よく分かりません。Op.62-1の評価が低かったのかOp.25-10の音の濁りが減点対象になったのか、Op.31を冒頭に持ってくるという曲順がまずかったのか、 はたまた、その後にディナーラ・クリントン、小林愛実と立て続けに別格の演奏者が現れて霞んでしまったのか、いずれにしても不運だったと思います。

2次予選に残った5人の日本人には、日本人代表として頑張ってもらいたいところです。

優勝候補について
優勝候補とは気が早いと言う方もいるかもしれませんが、やはり誰が優勝するのかは、 皆さんが最も気になっていると思います。 結論から先に言うと、僕が聴いた範囲内では、「これは」と言うような突出した存在はいませんでした。 ですから、今回のショパンコンクールでは優勝者が出ない可能性は大いにありうるとは思いますが、 2000年以降はトップの人に必ず優勝を与えるという決まりに変わったのでしょうか。 そうだとすれば、「優勝候補は誰か」という問いは、「出場者の中でトップは誰か」という問いに置き換えてよいと思います。

僕がリアルタイムで演奏を聴いた中で「評価A」を付けたのは、上記の通り、

10. Mr Seong-Jin Cho (South Korea)
18. Mr Zhi Chao Julian Jia (China)
19. Mr Aljosa Jurinic (Croatia)
25. Ms Dinara Klinton (Ukraine)
26. Ms Aimi Kobayashi (Japan)
27. Mr Qi Kong (China)
33. Mr Eric Lu (United States)
56. Mr Charles Richard-Hamelin (Canada)
68. Mr Alexander Ullman (United Kingdom)
74. Mr Yike (Tony) Yang (Canada)

の10人で、いずれも1次予選を通過していました。これはちょうど本選進出の人数と一致していますが、 1次予選で僕が聴けなかった出場者の中に非常に素晴らしい演奏をした人もいるかもしれませんし、 この10人が本選進出の可能性が高いなどとは、とても言えないと思います。1次予選で演奏を聴けなかった出場者も含めて、 この後は2次予選の演奏内容次第だと思います。

この10人の中で僕が突出していると思うのは、

10. Mr Seong-Jin Cho (South Korea):完成度の高い正統派のピアニスト
33. Mr Eric Lu (United States):澄んだ美音と繊細な抒情表現を持つ上に高い技術を持つ天才肌の少年
56. Mr Charles Richard-Hamelin (Canada):安定した高い技術、音楽性を持った完成されたプロフェッショナル

の3人です。この3人は2次予選以降大きな事故がなければ本選進出の可能性が高いと見ています。

今回、優勝者が出るとすれば、目下のところ、この3人のいずれかではないかというのが個人的な見立てです。

その次のグループは、

25. Ms Dinara Klinton (Ukraine):素晴らしいテクニックと剛腕を持つ女流ピアニスト
26. Ms Aimi Kobayashi (Japan):非常に精度の高いテクニックと高い経験値を持つ万能タイプ

の2人が注目されると思います。ここまでは2次予選以降の演奏次第ではいずれも優勝の可能性はあると見ています。 その他は、

18. Mr Zhi Chao Julian Jia (China):高い技術に支えられ自由自在な表現が持ち味のピアニスト

がダークホース的存在ではないかと思います。性同一性障害なのかもしれませんが、年齢、性別、国籍、人種、宗教にかかわらず人類は皆平等で、差別は禁物で、 これは音楽の世界でも同様です。

いずれにしても、10月9日から始まる第2次予選が楽しみです。また1次予選とは様相が変わってきますし、 演奏の内容次第ではこの序列も大きく変わってくる可能性もあり、またしばらく目が離せない状況が続きそうです。

第1次予選通過者40名:参考:公式サイトのページ

1次予選全出場者の結果(○:通過、×:落選)

10月3日
前半:10時〜14時(日本時間:10月3日(土)午後5時〜9時)
× 3. Mr Tymoteusz Bies (Poland)
× 4. Mr Rafal Blaszczyk (Poland)
○ 5. Mr Lukasz Piotr Byrdy (Poland)
○ 6. Ms Michelle Candotti (Italy)
○ 7. Mr Luigi Carroccia (Italy)
○ 8. Ms Galina Chistiakova (Russia)
× 9. Ms Irina Chistiakova (Russia)
○ 10. Mr Seong-Jin Cho (South Korea)

後半:17時〜21時(日本時間:10月4日(日)午前0時〜4時)
× 11. Mr Ashley Fripp (United Kingdom)
× 12. Ms Yasuko Furumi (Japan)
× 13. Ms Saskia Giorgini (Italy)
× 14. Mr Adam Mikolaj Gozdziewski (Poland)
○ 15. Ms Ivett Gyongyosi (Hungary)
○ 16. Mr Chi Ho Han (South Korea)
○ 17. Mr Olof Hansen (France)
○ 18. Mr Zhi Chao Julian Jia (China)

10月4日
前半:10時〜14時(日本時間:10月4日(日)午後5時〜9時)
○ 19. Mr Aljosa Jurinic (Croatia)
× 20. Ms Joo Yeon Ka (South Korea)
× 21. Mr Honggi Kim (South Korea)
○ 22. Ms Su Yeon Kim (South Korea)
× 23. Ms Yedam Kim (South Korea)
× 24. Ms Yurika Kimura (Japan)
○ 25. Ms Dinara Klinton (Ukraine):予備予選免除
○ 26. Ms Aimi Kobayashi (Japan)

後半:17時〜21時(日本時間:10月5日(月)午前0時〜4時)
○ 27. Mr Qi Kong (China)
○ 28. Mr Marek Kozak (Czech Republic)
○ 29. Mr Lukasz Krupinski (Poland):予備予選免除
○ 30. Mr Krzysztof Ksiazek (Poland):予備予選免除
○ 31. Ms Rachel Naomi Kudo (United States):予備予選免除
○ 32. Ms Kate Liu (United States)
○ 33. Mr Eric Lu (United States):予備予選免除
× 34. Ms Tian Lu (China)

10月5日
前半:10時〜14時(日本時間:10月5日(月)午後5時〜9時)
× 35. Mr Xin Luo (China)
× 36. Mr Roman Martynov (Russia)
× 37. Ms Nagino Maruyama (Japan)
× 38. Ms Nao Mieno (Japan)
○ 39. Mr Lukasz Mikolajczyk (Poland)
× 40. Mr Pawel Motyczynski (Poland)
○ 41. Ms Alexia Mouza (Greece)
○ 42. Ms Mayaka Nakagawa (Japan)

後半:17時〜21時(日本時間:10月6日(火)午前0時〜4時)
× 43. Ms Nozomi Nakagiri (Japan):予備予選免除
○ 44. Mr Szymon Nehring (Poland)
× 45. Ms Anastasiia Nesterova (Russia)
× 46. Mr Ronald Noerjadi (Indonesia)
× 47. Ms Mariko Nogami (Japan)
○ 48. Mr Piotr Nowak (Poland)
○ 49. Ms Arisa Onoda (Japan)
○ 50. Mr Georgijs Osokins (Latvia)

10月6日
前半:10時〜14時(日本時間:10月6日(火)午後5時〜9時)
○ 51. Mr Jinhyung Park (South Korea)
× 52. Mr Piotr Ryszard Pawlak (Poland)
× 53. Ms Zuzanna Pietrzak (Poland)
× 54. Ms Tiffany Poon (China)
× 55. Mr Kausikan Rajeshkumar (United Kingdom)
○ 56. Mr Charles Richard-Hamelin (Canada)
× 57. Ms Tamila Salimdjanova (Uzbekistan)
× 58. Mr Cristian Ioan Sandrin (Romania)

後半:17時〜21時(日本時間:10月7日(水)午前0時〜4時)
× 59. Ms Natalie Schwamova (Czech Republic)
× 60. Ms Boyang Shi (China)
○ 61. Mr Dmitry Shishkin (Russia)
○ 62. Ms Rina Sudo (Japan)
○ 63. Mr Micha? Szymanowski (Poland)
× 64. Ms Rikono Takeda (Japan)
○ 65. Mr Arseny Tarasevich-Nikolaev (Russia)
○ 66. Mr Alexei Tartakovsky (United States)

10月7日
前半:10時〜14時(日本時間:10月7日(水)午後5時〜9時)
× 67. Mr Hin-Yat Tsang (China)
○ 68. Mr Alexander Ullman (United Kingdom)
○ 69. Mr Chao Wang (China)
× 70. Mr ZhuWang (China)
○ 71. Mr Andrzej Wiercinski (Poland):予備予選免除
× 72. Mr Yuchong Wu (China)
○ 73. Mr Zi Xu (China)
○ 74. Mr Yike (Tony) Yang (Canada)

後半:17時〜21時(日本時間:10月8日(木)午前0時〜4時)
× 75. Ms Yuliya Yermalayeva (Belarus)
○ 76. Mr Cheng Zhang (China)
× 77. Ms Chuhan Zhang (China)
○ 78. Ms Annie Zhou (Canada)
○ 1. Ms Soo Jung Ann (South Korea)
○ 2. Ms Miyako Arishima (Japan)

参考リンク集:
東京国際芸術協会・第17回フレデリック・ショパン国際ピアノコンクール

The 17th International FRYDERYK CHOPIN Piano Competition(公式サイト)

2015年第17回ショパン国際ピアノコンクール実況生中継

今回の2015年第17回ショパンコンクールの優勝者の演奏録音を収録したCDが、名門ドイツ・グラモフォンから11月18日に発売されることが既に決定しています。 一体、優勝者は誰なのでしょうか?そしてどんな演奏を聴かせてくれるのでしょうか? 下にCDのリンクがあります。予約可能です。

ショパン・コンクール2015(ショパンコンクール優勝者のCD)

参考:
課題曲
推奨楽譜:エキエル編・ナショナルエディション
※予備予選を通して、また第1次予選以降、それぞれ重複しないように選曲。

【予備予選】:全6曲:4月13日〜24日

@下記より任意の1曲
エチュード イ短調 Op.10-2
エチュード 嬰ト短調 Op.25-6
エチュード イ短調 Op.25-11

A下記より任意の1曲
エチュード ハ長調 Op.10-1
エチュード 嬰ハ短調 Op.10-4
エチュード 変ト長調 Op.10-5
エチュード ヘ長調 Op.10-8
エチュード ハ短調 Op.10-12

B下記より任意の1曲
エチュード ハ長調 Op.10-7
エチュード 変イ長調 Op.10-10
エチュード 変ホ長調 Op.10-11
エチュード イ短調 Op.25-4
エチュード ホ短調 Op.25-5
エチュード ロ短調 Op.25-10

C下記より任意の1曲
ノクターン 第3番 ロ長調 Op.9-3
ノクターン 第7番 嬰ハ短調 Op.27-1
ノクターン 第8番 変ニ長調 Op.27-2
ノクターン 第13番 ハ短調 Op.48-1
ノクターン 第14番 嬰ヘ短調 Op.48-2
ノクターン 第16番 変ホ長調 Op.55-2
ノクターン 第17番 ロ長調 Op.62-1
ノクターン 第18番 ホ長調 Op.62-2
エチュード ホ長調 Op.10-3
エチュード 変ホ短調 Op.10-6
エチュード 嬰ハ短調 Op.25-7

D下記より任意の1曲
バラード 第1番 ト短調 Op.23
バラード 第2番 ヘ長調 Op.38
バラード 第3番 変イ長調 Op.47
バラード 第4番 ヘ短調 Op.52
スケルツォ 第1番 ロ短調 Op.20
スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 Op.39
スケルツォ 第4番 ホ長調 Op.54
舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
幻想曲 ヘ短調 Op.49

E下記より任意の1曲
マズルカOp.17, Op.24, Op.30, Op.33, Op.41, Op.50, Op.56, Op.59

【第1次予選】:全4曲:10月3日〜7日

@下記より任意の1曲
エチュード ハ長調 Op.10-1
エチュード 嬰ハ短調 Op.10-4
エチュード 変ト長調 Op.10-5
エチュード ヘ長調 Op.10-8
エチュード ハ短調 Op.10-12
エチュード イ短調 Op.25-11

A下記より任意の1曲
エチュード イ短調 Op.10-2
エチュード ハ長調 Op.10-7
エチュード 変イ長調 Op.10-10
エチュード 変ホ長調 Op.10-11
エチュード イ短調 Op.25-4
エチュード ホ短調 Op.25-5
エチュード 嬰ト短調 Op.25-6
エチュード ロ短調 Op.25-10

B下記より任意の1曲
ノクターン 第3番 ロ長調 Op.9-3
ノクターン 第7番 嬰ハ短調 Op.27-1
ノクターン 第8番 変ニ長調 Op.27-2
ノクターン 第12番 ト長調 Op.37-2
ノクターン 第13番 ハ短調 Op.48-1
ノクターン 第14番 嬰ヘ短調 Op.48-2
ノクターン 第16番 変ホ長調 Op.55-2
ノクターン 第17番 ロ長調 Op.62-1
ノクターン 第18番 ホ長調 Op.62-2
エチュード ホ長調 Op.10-3
エチュード 変ホ短調 Op.10-6
エチュード 嬰ハ短調 Op.25-7

C下記より任意の1曲
バラード 第1番 ト短調 Op.23
バラード 第2番 ヘ長調 Op.38
バラード 第3番 変イ長調 Op.47
バラード 第4番 ヘ短調 Op.52
スケルツォ 第1番 ロ短調 Op.20
スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 Op.39
スケルツォ 第4番 ホ長調 Op.54
舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
幻想曲 ヘ短調 Op.49

【第2次予選】:全4曲(合計30〜40分):10月9日〜12日

@下記より任意の1曲
バラード 第1番 ト短調 Op.23
バラード 第2番 ヘ長調 Op.38
バラード 第3番 変イ長調 Op.47
バラード 第4番 ヘ短調 Op.52
スケルツォ 第1番 ロ短調 Op.20
スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31
スケルツォ 第3番 嬰ハ短調 Op.39
スケルツォ 第4番 ホ長調 Op.54
舟歌 嬰ヘ長調 Op.60
幻想曲 ヘ短調 Op.49

A下記より任意の1曲
ワルツ 第1番 変ホ長調 Op.18
ワルツ 第2番 変イ長調 Op.34-1
ワルツ 第4番 ヘ長調 Op.34-3
ワルツ 第5番 変イ長調 Op.42
ワルツ 第8番 変イ長調 Op.64-3

B下記より任意の1曲
ポロネーズ第1番嬰ハ短調Op.26-1&第2番変ホ短調Op.26-2
ポロネーズ 第5番 嬰ヘ短調 Op.44
ポロネーズ 第6番 変イ長調 Op.53
アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22

C参加者が選択する任意のショパンの作品
(合計分数が30分に満たない場合)

【第3次予選】:全3曲(合計50〜60分):10月14日〜16日

@下記から任意の作品を1つ.
ピアノソナタ 第2番 変ロ短調 Op.35
ピアノソナタ 第3番 ロ短調 Op.58
24の前奏曲Op.28全曲

A下記より任意の作品群を1つ.
マズルカ Op.17-1〜4
マズルカ Op.24-1〜4
マズルカ Op.30-1〜4
マズルカ Op.33-1〜4
マズルカ Op.41-1〜4
マズルカ Op.50-1〜3
マズルカ Op.56-1〜3
マズルカ Op.59-1〜3

B参加者が選択する任意のショパンの作品
(合計分数が50分に満たない場合)

【本選】下記より任意の作品を選曲:10月18日〜20日
ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 Op.21
※ワルシャワフィルハーモニー交響楽団、指揮ヤツェク・カスプチェック

以下、コンクール開催前の過去記事。

2015年10月に、第17回ショパン国際ピアノコンクールが予定通り、ショパンの祖国ポーランドの首都ワルシャワにある、 ワルシャワ国立フィルハーモニーホールで開催されます。

開催に先立ち、多数の応募者の中から書類審査を通過した応募者160人に対して、 2015年4月13日から24日までにポーランドで予備予選が行われました。 その結果、84人の応募者が通過し、10月3日から始まるショパンコンクールに出場することが決定しました。

日本人は予備予選に25人が出場し、以下の12人が見事通過しました(アルファベット順、敬称略、年齢は2015年10月時点でのもの)。

Arishima Miyako, 有島 京(23歳) 予備予選演奏(You Tube)
Furumi Yasuko, 古海 行子(17歳) 予備予選演奏(You Tube)
Kimura Yurika, 木村 友梨香(22歳) 予備予選演奏(You Tube)
Kobayashi Aimi, 小林 愛実(20歳) 予備予選演奏(You Tube)
Maruyama Nagino, 丸山 凪乃(16歳) 予備予選演奏(You Tube)
Mieno Nao, 三重野 奈緒(20歳) 予備予選演奏(You Tube)
Nakagawa Mayaka, 中川 真耶加(21歳) 予備予選演奏(You Tube)
Nakagiri Nozomi, 中桐 望(28歳):浜松国際ピアノコンクール第2位のため予備予選免除
Nogami Mariko, 野上 真梨子(24歳) 予備予選演奏(You Tube)
Onoda Arisa, 小野田 有紗(19歳) 予備予選演奏(You Tube)
Sudo Rina, 須藤 梨菜(27歳) 予備予選演奏(You Tube)
Takeda Rikono, 竹田 理琴乃(21歳) 予備予選演奏(You Tube)

日本人通過者は全員女性で、女性陣の健闘は素晴らしいと思いましたが、 個人的には男性陣にもっと頑張ってほしかったです。 全員の演奏はYou tubeにアップされていて、僕も全員聴きましたが、 それぞれ素直な音楽性を持った良いピアニストだと思います。

前回は日本人は第2次予選で全員敗退という残念な結果でしたし、 10月からのショパンコンクールでは日本人の健闘に期待します。

ちなみに、予備予選ではエチュードではOp.10-8, Op.25-5, Op.25-11が非常に人気が高かったようです。 これは下記に示したような課題曲グループを見ると、分かるような気がします。 まずグループ@ではOp.10-2, Op.25-6, Op.25-11、これは当サイトで付している僕自身の体感難易度でもいずれも最難曲群に分類しているように、 ショパンコンクールでも公式に「最も難しい」という認定を受けた作品なのだと思います。 この中ではOp.25-11「木枯らし」が難易度的には一番マシと僕自身は思っていますが、 おそらくこれを選ぶ出場者が多かったのも、同様の理由によるのではないかと思います。 Op.10-2はエチュード全曲中最難曲に上げる人も多いですし、Op.25-6の3度のエチュードを非常に得意にしているピアニストも少数存在していて、 少しでも苦手意識があるのであれば、彼らと勝負しても勝ち目がないという認識も一般に広がっています。 それに比べれば、Op.25-11は練習量に比例して完成度が上がる、努力が報われやすい曲と僕は思います。 これがOp.25-11が好まれる理由ではないかと僕は考えています。

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