ショパン・エチュード(練習曲)Op.10, Op.25 CD聴き比べ

   おすすめ度・第1位:マウリツィオ・ポリーニ(p), DG盤, 1972年録音
   おすすめ度・第2位:ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1971年録音

1.所有音源

2.短評/感想

ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1971,72年録音<<おすすめ度No.2>>
アシュケナージ盤
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※繊細な音色でショパンがエチュードに盛り込んだ細やかな詩情を丹念に汲み上げた名盤。「ポリーニ盤と双璧」というのが 一般的評価。
中学生時代、ピアノの先生の薦めで模範演奏として聴いたのが実はこのアシュケナージでした。そのため 僕にとってのショパン・エチュードのデフォルトはこの演奏です。 決定盤ポリーニとの比較でいつも引き合いに出されますが、ポリーニとは攻め方、切り込み方が 全く違います。アシュケナージという人はその優れた演奏技巧を、表現のきめの細かさに活かすタイプの ピアニストで、ショパンがこの作品群に盛り込んだ詩情、ファンタジーを楽想毎に細かく描き分けて 聴かせてくれます。特に作品25の各作品は、そのような表現を必要とする作品が多く、作品25の方が 成功していると感じています。ゆったりしたテンポの中にあふれ出るような上質のロマンが漂うOp.25-1, いかにも涼しげに弾いている3度の超難曲Op.25-6, 極上のリリシズムを盛り込みながらピアニズムの極致を 堪能させてくれるOp.25-11等、彼の持ち味 が如何なく発揮された名演奏です。しかし、他の作品の演奏についても言えるのですが、アシュケナージ という人の演奏からは、どうしても技術的に完璧に弾くために無理をしているとしか思えない部分もあり、 聴いているうちに疲れてきてしまうことが多いです。特にOp.10-1, Op.10-4, Op.10-10, Op.25-8など そのような彼の苦労の跡が残っているように感じています。レガートがプツプツ切れてるんです。本当に弾きにくそうで…。 それと余談ですが、Op.25-11「木枯らし」の冒頭の単音を、鍵盤を叩きつけるような完全なフォルテで弾いていることも いかにも唐突で理解に苦しみます。

マウリツィオ・ポリーニ(p), DG盤, 1972年録音<<おすすめ度No.1>>
ポリーニ盤
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※正確無比、強靭な恐るべきテクニック。一音一音がただならぬ存在感と圧力で聴き手を圧倒。ポリーニのたぐい稀な 演奏能力で音楽界を震撼させた究極の名盤。これを聴かずしてショパンのエチュードは語れない?
大理石を思わせる硬質で磨きぬかれた音色、サイボーグ並の強靭さと運動性を合わせ持った彼の 超絶技巧で弾き切られる一曲一曲は驚異的な技術的完成度をもつばかりでなく凄まじいほどの緊迫感がみなぎり、 そのデモーニッシュな表現には鬼気迫るものを感じます。 各曲の表現については基本的には超イン・テンポなのですが、その中に過不足なく実に凛とした厳しくも 若々しく爽やかな詩情に満ち溢れていて、聴くものの心を捉えます。それにしても、これを聴いてしまうと 他のピアニストの演奏が聴けなくなるなあ。この路線で攻めるなら、これ以上の演奏は絶対にあり得ない でしょう。新譜発売当初(72年)、LPレコードのジャケットのタスキに「これ以上何をお望み ですか」と印刷されていたと言われていますが、いくらでも反論はできるものの、やはりこれは ショパンのエチュード演奏の一つの頂点といえます。演奏技術の完璧さも、ここまでくれば狂気の沙汰 です。これを聴いて自分の演奏能力に対する自信を失った ピアニストは1人や2人ではないと思います。塗り替え不可能なオリンピック記録を 樹立してしまったような常人では不可能な超絶的名演です。僕らはポリーニというピアニストの 演奏技巧を知った上でこれを聞きましたが、何も知らずに(予備知識ゼロで)これを聴いたら、 泡を吹いて倒れるかもしれません(僕はその人のその後の命さえ保証できない…というのはもちろん 冗談ですが)。この録音を、後のピアニストがどれだけうざい存在と思ったかは察するに余りあります。 これを聴いていない方、これを聴かなければ一生の損です。さあ、今すぐCDショップへLET'S GO!!

横山幸雄(p), ソニー盤, 1992年録音
横山幸雄盤
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※横山幸雄が自らの尋常でない演奏技巧とピアニストとしての真価を世に問う圧倒的完成度の名演
この演奏は、横山幸雄さんが1990年第12回ショパンコンクールで第3位に入賞してから2年後の演奏で、 ピアニストとしての活動初期の録音になります。 横山幸雄さんは、ショパンコンクール予選でも、特に難易度の高いエチュード作品10-1、作品10-2、作品25-6 を弾いてその正確無比な演奏技術を示し、僕たちショパン音楽愛好者を驚かせてくれました。 そのような彼は、やはり難曲になればなるほど本来の持ち味を発揮するのではないかと思いますよね。 だからこそ、ショパンのエチュード集の録音が彼の活動初期にこうして行われたのでしょうね。 このCDを聴くと、そのあまりの技術的な正確さ、流れのスムーズさに新鮮な驚きと感動を覚えます。 若々しくフレッシュな感覚が全曲に溢れ、ショパンの音楽が一切の曖昧さも残さずに淀みなく流れ出てくるのです。 一点の曇りもない圧倒的に明晰でクリアな演奏…テクスチュアが透けてみてくるほどです。 聴けば聴くほど、彼がこの難しいエチュードを完全に掌中に収めきっていることが分かります。技術的にも全く文句のつけようのない 素晴らしい完成度で、非の打ち所のない完全無欠の演奏という意味では、明らかにポリーニ盤に匹敵します(いや、 むしろこちらの方が上ですかね)。しかも、苦労の跡が全く聴き取れないのは恐るべきことです。 …と、ここまで良いことずくめだったわけですが、技術的に難しくないテンポの遅い緩徐系の作品、例えば、 Op.10-3,Op.10-6,Op.25-7などでは、音色の変化に乏しい感じで、聴いていてやや退屈さを感じてしまったりします。 ただ、これはあまりにも贅沢な注文かもしれません。全体として、ショパンのエチュードの技術的な完成度は ピカイチで、技術的にこれほど見事な演奏は、今度もそう出てこないのではないか、と思います。

アルフレッド・コルトー(p), EMI盤, 1933年録音
コルトー盤
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※やや不備な演奏技術にもかかわらずエチュードの中に秘められた真の音楽的魅力を伝えてくれる演奏。
まず一聴してミスの多さに驚かれる方も多いと思いますが、ずっと聴いているとそんなミスが 気にならなくなってくるほど、コルトーのショパン演奏の魅力に惹きこまれていきます。 ショパンは、これらのエチュードに技術的課題だけでなく、音楽的課題も多く盛り込みましたが、 コルトーの演奏は、不確かな技巧にもかかわらず、ショパンがエチュード各曲に託した真の音楽的味わいを 実に見事に引き出してくれます。一聴して主観的に思えるテンポルバートや節回しは、聴けば聴くほど その必然性を実感することになり、的を射た表現となっているのは、まさしく驚異というべきです。 ショパンの音楽の本質を理解できていた数少ないピアニストとして、コルトーの真価が発揮された 名演奏だと思います。この演奏以上に技術的に正確なエチュード集は数多ありますが、 正確なだけで味気ない演奏とは全く違う、真のショパンの魅力が味わえる演奏ではないか と思います。でも最後に付け加えておくと、やっぱり僕はミスの多さが気になるため、 あまり好きにはなれない演奏です。

タマーシュ・ヴァーシャリ(p), DG盤, 1965年録音
ヴァーシャリ盤
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※エチュードとしてはややおとなしいが、やや遅めのテンポで自然な音楽性を感じさせてくれる素晴らしい演奏。
何故か、ほとんど知名度ゼロののヴァーシャリですが、ショパンの演奏はどれも非常に優秀です。 エチュード集は、さすがに技術的に難しい曲が多いため、テンポも遅めになりがちですが、 1曲1曲丹念に弾き進めていこうとする姿勢が強く感じられ、全体として標準的で好ましい演奏に 仕上がっていると思います。センスのよいテンポルバートとフレージングの感覚は、彼の素晴らしい長所でもあり、 ショパンのエチュードの中に秘められた真の美しさが実に自然な呼吸で再現されていて、不満のない演奏と 言えます。もちろん、必要とあれば、力と技巧で押しまくる演奏も聴かせてくれます。 全体としては、ショパンのエチュードとしてはやや平凡と言えるかもしれませんが、ヴァーシャリの演奏スタイル そのままの、飾らないストレートな魅力に溢れた演奏になっていると思います。

スタニスラフ・ブーニン(p), EMI盤, 1998年録音
ブーニン盤
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※遅いテンポで細部を吟味した上で再構築した感のある演奏。音色の格別な美しさも特筆。
ブーニンというピアニストは我が国で一時的に異常な人気沸騰があったため、派手なパフォーマンスをする スターピアニストと思われがちですが、 作品解釈は実に真摯で真面目であり、時に見せる(聴かせる)「ブーニン節」も決して大向こうを唸らせるハッタリ などではなく、己の信念に基づいた素直な感興の現れととるべきでしょう。ブーニンはショパン没後150年の 1999年から6回に渡ってショパン ツィクルスを行いましたが、その演奏会のプログラムで、この「24の練習曲」の曲目解説を1曲ごとに 行ったそうです。一曲一曲を咀嚼、吟味した跡が伺える味わい深い演奏で、ブーニンの深遠なショパン観 を垣間見ることができます。しかし、表現そのものは幾分地味であり、ショパン・エチュードの超絶技巧性、 演奏効果よりも 深い内面性に重きを置いた演奏を行っています。そのため、テンポは各曲非常に遅く設定されており、 スポーティーな魅力には若干物足りなさを感じます。もし、その路線で行くのであればポリーニをも 越えなければならないが、それは不可能と悟ったのかもしれません。もちろんブーニンならではの切れ味鋭い技巧、磨きぬかれた美しい音色による官能的な 魅力も十分備わっており、その意味でも不満のない演奏といえます。

マレイ・ペライア(p), ソニー盤, 2001年録音
ペライア盤
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※ペライアのリリシストとしての天分がいかんなく発揮された詩情豊かな名演。曲によってはポリーニ、アシュケナージの 名演を凌ぐ曲も。
ペライアは、一般的には非常に恵まれた詩的感覚を生かした繊細で叙情性溢れる演奏を聴かせてくれるリリシスト として認識されていますが、そのペライアが近年、一皮むけて、より大柄でスケールの大きいヴィルトゥオーゾタイプのピアニスト として生まれ変わったとも言われます。このエチュード集は、そのような彼の「変化」が如実に現れた1枚ではないかと 思います。 演奏は、美しく繊細な弱音美から、ずっしりとした厚みのある低音の迫力までのダイナミックレンジが実に広く取られており、 その振幅の中で、彼本来の持ち味である繊細な抒情表現が最大限に発揮された演奏となっています。 ショパンのエチュードの華やかさ、外面的魅力(ヴィルトゥオジティ)と内面的魅力(叙情性)の両方を同時に 味わえる優れた演奏だと思いました。 曲によって、演奏の出来にムラがありますが、例えば、作品10-1,5,11,作品25-1などでは、あるいはポリーニやアシュケナージ の名演奏を凌ぐと思われる方も多いのではないかと思います。近年のショパン・エチュード集の中では、 指折りの名演奏ではないかと思います。ショパン・エチュードの新スタンダードとなりうる可能性を秘めた1枚です。

ニコライ・ルガンスキー(p), エラート盤, 1999年録音
ルガンスキー盤
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※切れ味鋭い演奏技巧と鉄壁のコントロールが生み出すクールな名演。特に難易度の高い技巧系の曲で真価を発揮
1994年第10回チャイコフスキーコンクール・ピアノ部門で最高位(1位なしの2位)を受賞した、ロシア出身の若き俊英 ルガンスキーのエチュード全曲盤です。世にエチュード全集は数多く出回っていますが、その中でも、この演奏は、完成度の 高い部類に位置する名盤といえると思います。とくに、技巧系のOp.10-1,Op.10-2,Op.10-4,Op.10-8,Op.25-6,Op.25-11などは、 情熱的な表現意欲をみなぎらせながらも、粒立ちの整った完璧な演奏を聴かせてくれて、 その逸材ぶりを示すに十分な名演奏となっています。一方で、緩徐系の作品として代表的な、Op.10-6, Op.25-7などでも、 ショパン独特の詩情を、深い部分で敏感に感じ取りながら、ツボを押さえた絶妙のテンポルバートで聴かせてくれて、 高度な音楽性を示すに十分な演奏内容と言えます。しかし、技巧系と緩徐系の中間的作品では、どっちつかずの中途半端な演奏に なってしまっているものがあり、更なる細部の磨き上げが必要と感じる作品もありました。また、音色にもう少し魅力が出てくれば、 「音」だけを武器に問答無用の説得力を持ちうる演奏になっていく、と感じました。 今後の課題は多いですが、若き俊英の才能を示すに十分な名演奏と思います。

2003/08/04 ルガンスキー追加

3.演奏比較
3-1.演奏時間
作品10

ピアニスト No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10 No.11 No.12
アシュケナージ 1:58 1:19 4:20 2:03 1:39 4:03 1:28 2:19 2:21 2:15 2:26 2:42
ポリーニ   1:55 1:25 3:41 2:01 1:38 3:08 1:29 2:20 2:05 2:03 2:14 2:37
横山幸雄    2:01 1:17 4:25 2:02 1:39 3:41 1:27 2:28 2:10 2:07 2:29 2:32
コルトー    1:57 1:21 3:58 2:01 1:33 3:05 1:31 2:22 2:17 1:53 1:48 2:36
ヴァーシャリ  2:16 1:25 4:04 2:09 1:43 3:16 1:33 2:44 2:18 2:21 2:16 2:53
ブーニン    2:14 1:33 4:53 2:12 1:51 4:04 1:47 2:30 2:28 2:38 2:37 2:49
ペライア   1:59 1:24 3:51 2:01 1:40 2:25 1:28 2:21 2:09 2:12 2:15 2:32
ルガンスキー 2:00 1:16 4:06 1:57 1:39 3:56 1:31 2:07 2:01 2:07 2:59 2:42
作品25
ピアニスト No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10 No.11 No.12
アシュケナージ 2:54 1:50 1:50 1:33 3:35 2:06 5:44 1:07 0:56 4:44 3:46 2:45
ポリーニ   2:11 1:27 1:51 1:40 2:54 2:02 4:50 1:04 0:57 3:56 3:32 2:30
横山幸雄    2:22 1:52 1:56 1:40 3:23 1:55 5:43 1:08 1:01 4:16 3:39 2:42
コルトー    2:06 1:23 1:44 1:37 2:45 1:53 4:47 1:06 1:00 3:06 3:31 2:40
ヴァーシャリ  2:52 1:33 1:44 1:29 3:19 1:58 5:13 1:07 1:03 4:05 3:36 2:49
ブーニン    2:31 1:47 1:47 1:39 3:34 2:23 5:44 1:06 1:11 4:17 4:04 2:46
ペライア   2:15 1:34 1:41 1:42 2:53 1:54 5:08 1:08 1:00 3:51 3:29 2:38
ルガンスキー 2:32 1:32 1:45 1:33 3:28 1:49 5:23 1:03 1:00 4:11 3:30 2:31


ショパン・エチュード・聴き比べのポイント

ショパンのエチュードは非常に高度な演奏技巧を必要とされるため、ショパンの他の作品に比べて 若干敬遠される傾向があるようです。世界のショパン弾きとして君臨したルービンシュタインをして 「ショパンのエチュードは恐ろしくて弾けない」とまで言わしめたほどの超絶技巧を必要とする作品も あります。従って、この24の練習曲集を録音して世に問う、という行為そのものが、ピアニストたるものの 一つの「誇り」だと言ってよいと思います。そのためか、僕が今まで聴いてきたエチュードの演奏からは そのピアニストの意気込み、気合、張り詰めた空気といったものがビンビン伝わってきて、聴いている こちらまで緊張してしまうものがかなりありました。必然的に周到に準備してきた跡を感じさせる演奏が 多く、割合的に名盤が多いと僕は感じました。聴き比べが実に面白いです。


聴き比べ後記

ショパンのエチュードという作品群は、他の作品と比べ、ピアニストの演奏技巧の演奏の優劣に占める 割合が高いのが特徴でしょう。演奏困難なため、録音を残さなかったピアニストは多いですし、 ショパン弾きとして名を成したピアニストの中にも、その技術の高く厚い壁に阻まれて、思うような音楽表現を 実現するに至らず、凡庸な演奏に成り下がってしまっているものがかなりあるようです。 戦前は、そもそも人間の運動神経では技術的に完全な再現は不可能ということがまことしやかに言われた 難曲もあったほどです。 特に、Op.10-1,2,Op.25-6,8,11は私自身弾いてみて大変な難曲でした。いくら技術的に高度なものを持つ 一流ピアニストといえども、これらをさらりと演奏することは容易ではないはずです。

まずこのエチュードという作品群で昭和初期大ヒットを飛ばしたのは、コルトーの弾く24曲収録盤 だったようです。技術的に正確な現在のピアニストの演奏に慣れてしまっている我々には信じられないくらい 音を外していますが、そのテンポルバートのセンスの良さは、彼のもって生まれた天性の素質でしょう。 しかし人々に大きな衝撃を与えたのは、言うまでもなくポリーニのDGデビューの第2作となった、24曲盤でしょう。 人間の技も極めればここまで到達できるのか、という新鮮な驚きと衝撃を与える見事な演奏で、 それまでの我々の想像を超えるあまりの完璧さに言葉を失った人も 多かったようです。まるで人間の限界技をも超えてしまったような演奏で、これは塗り替え不可能なオリンピック 記録を打ち立ててしまったような、体育会系的ピアニズムの極致とも言えるでしょう。これ以来、各ピアニストは この演奏に追いつき追い越せとばかり躍起になって24曲全曲録音に 取り組んでいるようですが、各曲については、これを凌駕する演奏は度々耳にしますが、全曲通して、これほど ムラがなく完全再現された演奏は存在しないようです。 大体において、ショパンのエチュードというのは、ピアノ演奏の最高度の演奏技巧を網羅するべく書かれたもので、 誰もが、それぞれ苦手とする演奏技術の種類が異なります。私がポリーニのOp.25-6を聴く限り、 テンポもやや遅めで切れ味が悪くややあやしいところがあり、彼は3度のテクニックは若干苦手なのかな、という 感想を持ちましたが、それでも、それはピアノを聴くための耳の肥えた人でなければ分からないほどの僅かな キズなわけで、欠点というほどの大きなものではありません。他の演奏については、もう全く文句のつけようがないでしょう。 「これ以上何をお望みですか?」との問いかけに対して、「いいえ、何も望みませんよ」とは言わないまでも、 もっとも不満が少ないのがポリーニ盤であることに異論を唱える人は少ないと思います。

技術的に最も完成度が高いのは実は横山幸雄盤かもしれません。彼は非常にシャープでシュアーな演奏技巧の 持ち主で、これらのエチュードを実にくっきりと弾き切っています。ショパンコンクールの予選で、Op.10-1,2, Op.25-6といった超難曲を選曲して圧倒的な名演奏を聴かせた彼のことだから、「横山さん、このエチュードは 神がかった演奏ですね。すごすぎですよ。」と言ったとしても、「僕としては当たり前のことを当たり前にやった だけのことで、そう言われても…」と返されてしまいそうですが、それにしても、これは、ポリーニよりも 欠点の少ない演奏かもしれないです。少なくとも私は、技術的にはこれが最高到達点という認識です。

そういった技術偏重盤(あ、もちろん音楽的内容も優れていますが、技術の完璧さが目立つという意味で使っています) に対抗して、音楽的充実度を売りに勝負しようと姿勢で取り組まれた録音の筆頭に挙げるべきものが、やはりアシュケナージ盤でしょう。 彼は、レガートや和音の速い連打の技術に若干欠点がありますが、3度のエチュードは並外れて涼しげで完璧な 演奏ですし、全体的に、よりファンタジー豊かなOp.25の方の12曲に聴くべきものが多く、彼の演奏の大きな特徴と なっているきめの細かい表情付け、抒情性がいかんなく発揮された稀有の名演と呼べると思います。

最近の録音で言うと、ペライア盤が注目に値します。ずっしりとした底力のある充実した低音の迫力、粒立ちの揃った 美しい高音、と非常にバランスがよく、ダイナミックで彫りの深い見事な演奏です。曲によって水準に若干のバラツキはありますが、 とくにOp.10-1,5,11,Op.25-1,7,12あたりが白眉の名演奏だと思います。ショパンの作品独特の節回し、語法といった ものを知り尽くしていると感じました。そのアゴーギクもデュナーミクも全く狂いがないのは驚きです。 リリシストとしての天分は紛れもなく天下一品でしょう。

今後録音に期待したいピアニスト

個人的な嗜好が入ってしまいますが、私が現在最も高度な技術を持つと考えているクリスティアン・ツィマーマン に是非とも24曲いや27曲全曲録音して欲しいと切に願います。また、成長著しいエフゲニー・キーシンにも 期待です。

 

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