ショパン・即興曲 CD聴き比べ

   おすすめ度・第1位:アルトゥール・ルービンシュタイン(p), RCA盤, 1962年録音
   おすすめ度・第2位:ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1976-84年録音

1.所有音源

ピアニストレーベル録音ランキング
ルービンシュタインRCA1962年★★★★
アシュケナージ英デッカ(ロンドン)1978-85年★★★★
ブーニンドイツ・グラモフォン1987年★★★★
ヴァーシャリドイツ・グラモフォン1965年★★★★
アラウフィリップス1980年★★★
横山幸雄ソニー1996年★★★★
フランソワEMI1954年★★★

2.短評/感想

アルトゥール・ルービンシュタイン(p), RCA盤, 1964年録音
ルービンシュタイン盤
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ショパンの即興曲の第1番から第3番までは、この人の演奏で刷り込んだため、僕の頭の中に 流れる即興曲のデフォルトはこの演奏です。 実に落ち着いた余裕あるテンポ、コクのあるまろやかな音色で歌われる各フレーズは、 語り口はさりげなく自然で饒舌であり、即興的感興にも満ちています。 特別大きな表現振幅はなく、取り立てて変わったことをやっているわけではないのに、心に染みる演奏なのは、 ルービンシュタインのテンポルバートの技術が卓越しているからでしょう。 ここには、この巨匠の到達した渋い芸風が最も自然な形で現れています。 第4番「幻想即興曲」は現在よく知られる改訂版ではなく、自筆楽譜に従って演奏しているため、 我々の耳に馴染んできた「幻想即興曲」とは異質な音楽に聴こえてきますが、資料的価値は高いです。 客観的に聴くと、全体的にやや特徴のない平凡な演奏と思う方もいると思いますが、 個人的に強くお薦めしたい演奏です。

ヴラディーミル・アシュケナージ(p), ロンドン盤, 1978-85年録音
アシュケナージ盤
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ルービンシュタインのもつ自然な音楽性と現代人のもとめるキレ、シャープさを同時に満足させてくれるのが アシュケナージ。その意味でこれは即興曲のベスト盤と言えるかもしれないです(僕はそうではないですが)。 アシュケナージらしい煌びやかな音色で、細部に至るまで丁寧に演奏しています。一つ一つのフレーズを 大切にして、そこから香り立つ豊かなファンタジーを存分に汲み上げて、聞き手である私たちにその 魅力をストレートに伝えてくれます。「万人向け」ということに関しては申し分ないです。それ以上の ものを求める聞き手にはもの足りないかも?

スタニスラフ・ブーニン(p), DG盤, 1987年録音
ブーニン盤
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ショパンコンクール直後のレコード制作の第一弾となった問題の演奏。ブーニンのショパンの魅力は、その軽快な リズムと音色に対する研ぎ澄まされた感覚、正確なテクニック(これはメカニックとも言える)を武器 にした、現代感覚に富んだフレッシュで斬新な表現にあります。即興曲第1番から第4番まで細かいパッセージは 綺麗に粒が揃い、表現も自由自在で闊達です。ピアニストの無限の可能性を感じさせてくれる演奏で 個人的にはかなり気に入っている演奏です。

タマーシュ・ヴァーシャリ(p), DG盤, 1965年録音
ヴァーシャリ盤
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ヴァーシャリは名前こそマイナーですが、知る人ぞ知る名ピアニストです。実に筋のよい演奏技術を身につけており 、その自然な音楽性とフレージングに対するセンスの良さもキラリと光りを放っています。 第3番の的確な表現力は並み居るピアニストの中で最高だと思うし、幻想即興曲も、今まで聴いた演奏 の中ではベストの1つです。 実は正直なところ、ショパンの即興曲全集の中で僕の1番の愛聴盤が実はこれです。そのため、この即興曲 に限っては、ベスト盤を推すことができなかったのです。 この演奏が輸入盤でしか手に入らないのが何とも残念です。

クライディオ・アラウ(p), フィリップス盤, 1980年録音
アラウ盤
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録音当時、アラウは既に77歳と高齢で、この即興曲集においても指廻りが苦しいところが散見(散聴?)されますが、 技術的難題を何とかクリアして音楽的課題に迫ろうという強い姿勢が伺えます。全体的に非常に遅いテンポの演奏で、 時折、音楽の持つ自然な流れが損なわれ、停滞する箇所があるのは、高齢のため仕方ないものと思います。 他のピアニストが普通に軽く流してしまう中で、特定の音に対して強いアクセントをつけて強調し、一つ一つの音を 噛み締めるように弾き進めていきますが、その音楽的根拠、感覚は、明らかにショパンの従来の伝統的演奏スタイルとは 性質を異にするものです。これらが「即興曲」であることを考えた場合、流れの自然さが損なわれてしまうこの演奏は、 決して「正統的な演奏」ではありえないと思えてきますが、他のピアニストの演奏からは求められないユニークさが あることだけは確かです。なお、第4番「幻想即興曲」は、ルービンシュタイン同様、自筆譜に従った演奏です。

横山幸雄(p), ソニー盤, 1996年録音
横山幸雄盤
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名演奏のバラード集とともに収められている即興曲集。シャープで輝かしく粒立ちの揃った音色で、即興曲各曲を ひたすら美しく軽快に 弾き進めていきます。これらの曲集では、技術的にはバラードほど高度なものが求められないため、ここでの聴きどころは、必然的に、 彼の並外れて正確で俊敏な指さばきというより、むしろ、近年目覚しい彼の音楽的表現力の成長ぶりとなると思います。 アゴーギク、ルバートは、ショパンコンクールデビュー当時から振幅が大きくなり、表現が自在になりつつも、音楽的な流れの 自然さは少しも損なわれていないように感じ、これらの即興曲の「即興性」も十分に生かされながら、彼本来の持ち味である 完成度の高さも十分に保った演奏となっています。欲を言えば、ここにルービンシュタインのような音色の芯の太さやコクが 備わると、問答無用の説得力を持ちうる演奏になったように思えます。なお、第4番「幻想即興曲」は、自筆譜と通常の改訂版が 折衷されているようです。

サンソン・フランソワ(p), EMI盤, 1954年録音
フランソワ盤
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非常に勢いのある個性的な演奏です。 フランソワの感興の趣くままの一回性の強い即興的演奏は、まさしく「即興曲」の「即興曲」たる所以を感じさせます。 細かいことは一切気にせずに疾風の如く一気呵成に弾きすすめていく演奏のため、細部はやや粗く、技術的完成度は高く ありませんが、フランソワが独自の信念を貫き通したように思えるこの演奏には、独特の気迫とエネルギーを感じます。 その気迫は逞しい推進力を生み、聴く人の心をぐいぐいと引っ張っていく強烈なパワーを感じさせます。 本当に常識では考えられないくらい速いテンポ…。しかしこのテンポでなければ発揮されないフランソワの個性…。 ここまで強烈に「我」を押し出した演奏も珍しいのではないでしょうか? ショパンがこれらの曲に託した抒情性や旋律美はすべてフランソワ自身の中で独自の表現に置き換えられて、 彼自身の個性を出すための手段に変わってしまったかのような錯覚を呼び覚ます演奏です。 好みが分かれる演奏だと思いますが、ファーストチョイスとしては、かなり厳しい演奏ではないかと思います。

3.演奏時間比較

ピアニストレーベル録音第1番第2番第3番第4番
ルービンシュタインRCA1962年4'16''6'03''4'51''5'16''
アシュケナージ英デッカ(ロンドン)1978-85年3'58''5'56''4'30''4'49''
ブーニンドイツ・グラモフォン1987年4'42''6'38''6'12''4'55''
ヴァーシャリドイツ・グラモフォン1965年3'54''5'51''4'42''4'51''
アラウフィリップス1980年4'43''6'05''6'22''5'44''
横山幸雄ソニー1996年3'48''5'30''5'28''4'28''
フランソワEMI1954年3'06''5'35''4'18''4'19''

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